その「お得」、ほんとに得? ― ネット通販が“倫理的な買い物”を難しくする理由

その「お得」、ほんとに得? ― ネット通販が“倫理的な買い物”を難しくする理由

ブラックフライデー、サイバーマンデー、そして年末。タイムセールの通知が鳴るたびに、私たちは“買い物モード”に切り替わる。カートに入れるのは簡単で、迷う暇もない。だがそのスピード感こそが、倫理的な選択――たとえば「環境負荷」「公正な労働」「素材や生産背景」――を置き去りにする。


英・バーミンガム大学とブリストル大学が主導した研究は、オンラインショッピングの特徴が、消費者の倫理的意思決定をブロックしやすいと報告した。特に衣料品のオンライン購入に焦点を当て、セール期に顕在化する“お得”と“焦り”が、持続可能性やフェアレイバーへの関心を後景化させる構図を描く。 Phys.org


「意志が弱いから」ではなく、「環境がそうさせる」

この研究が面白いのは、倫理消費を「強い信念を持つ個人の選択」だけで説明しない点だ。論文は、倫理を“文化レベルの一般的理解(general understanding)”として捉え、それが日常の“実践(practice)”に埋め込まれる/阻まれるプロセスを見ている。つまり、倫理的でありたい気持ちがあっても、買い物という行為の「型(テンプレート)」自体が倫理を混ぜ込みにくい設計になっていれば、行動は簡単に崩れる。 DOI Resolver


調査対象は、自己申告で「倫理志向」とする参加者58人。インタビューとフォーカスグループを含む複数フェーズの質的調査で、オンライン上の服選びの“手つき”を細かく追っている。参加者は倫理消費コミュニティ等から募集され、英国中心ながら国際的な活動家層も含まれた。 DOI Resolver


研究が整理した「オンラインが倫理を遠ざける4つの特徴」

Phys.orgや大学の発表では、オンライン環境が倫理判断を妨げる要因が、かなり直球で整理されている。 Phys.org


1)受動的な“習慣スクロール”に最適化されている
ECサイトは、考えるより先に指が動く。「ちょっと見るだけ」のつもりが、気づけば延々とスクロール。論文でも“瞑想的(meditative)なスクロール”の快楽が言及され、購買の衝動や過剰消費に結びつきやすいと示唆される。 LinkedIn


2)前面に出るのは価格と見た目
商品一覧の主役は、値引き率・価格・写真・レビュー。倫理情報は、あっても奥深くに埋もれがちだ。結果として「見た目と価格でまず選ぶ」習慣のレールに乗り、倫理は“後から確認する項目”に追いやられる。 Phys.org


3)倫理・環境の情報が足りない/比較できない
生産背景やサプライチェーン、労働環境、素材の影響――知りたい情報ほど、標準化されていない。論文でも「倫理的な来歴や生産の情報不足」「誤情報や虚偽っぽい主張が多い」ことが、倫理的購買を難しくすると論じられる。 DOI Resolver


4)“今すぐ買え”の圧が強い(限定・カウントダウン)
「残りわずか」「あと○時間」。セール期は特に、急かす仕掛けが増える。発表は、こうした“お得”と“時間制限”が、倫理への配慮を割り引かせると指摘する。 Phys.org


エシカル疲れ:調べるほど、買えなくなる

倫理的に買おうとすると、多くの人は“追加の作業”を背負う。企業サイトの説明を読み、第三者の評価を探し、素材や工場情報を検索し、矛盾が出ればまた調べ直す。論文では、こうした努力が「フラストレーション」「圧倒される感覚」「疲労」を生み、倫理的な反省(ethical reflexivity)を深める一方で、習慣としては定着しにくいと描かれている。 DOI Resolver


そして皮肉なのは、反省が深まるほど“気軽に買う”能力が失われることだ。かつて快楽だったオンラインの服選びが、調査タスクと罪悪感の綱引きに変わる。結果として、倫理的であろうとするほど精神的コストが上がり、「もう無理」となる。


研究は、その帰結が大きく2つに分かれることを示している。

  • 離脱する人:オンラインで買うのをやめ、オフラインやセカンドハンドに移る。 DOI Resolver

  • 苦しみが“習慣化”する人:妥協しつつ、倫理的な葛藤を抱えたままオンライン購買を続ける。 DOI Resolver


ここで重要なのは、「挫折=個人の敗北」ではない点だ。論文は、倫理的消費が“個人の責任だけではない”こと、そしてシステムの矛盾に個人が“自分史的解決”を強いられる苦しさを強調する。 DOI Resolver


“工夫”は可能だが、限界もある

参加者は、ただ流されていたわけではない。


たとえば、評価アプリ(例:Good On You)の参照、素材ルール(天然繊維など)の設定、ブランド選択の制限、Pinterestで“買うためのスクロール”を“創造・スタイリングのスクロール”に置き換える――といった再構成(practice reconfiguration)が語られている。 DOI Resolver


ただし、工夫が増えるほど手間も増える。努力は尊いが、仕組みが変わらない限り、疲労が積み上がる構造は残る。


企業に求められるのは「倫理の見える化」と「責任あるマーケ」

発表は、小売側に“責任あるマーケティング”と、倫理・サステナビリティ基準の組み込みを求めている。透明性と公正さを高め、倫理情報を探し回らなくても比較できる状態に近づけること。これは「倫理的に買いたい人のため」だけではない。“焦って買わせること”の副作用(後悔・返品・不信)を減らす意味でも、長期的に効く。 Phys.org


消費者向け:発表が挙げた「4つの実践ヒント」

大学発表は、個人が今すぐできる工夫も4点に整理している。 University of Birmingham

  1. 買う前に一時停止(スクロールが長いと気づいたら休憩して必要性を確認)

  2. “倫理的選択肢”を指名検索(フェア労働・環境配慮を前提にブランドや商品を探す)

  3. セールでも買いだめしない(ワンクリックの過剰購入を避ける)

  4. リスタイル/古着・セカンドハンド(手持ちの再活用や中古購入を選ぶ)


ポイントは、意思の力に頼らず「スクロールの流れを一度切る」「検索の入り口を変える」など、環境側に対抗する“型”を持つことだ。



SNSの反応(実際の投稿・コメントに基づく+論点整理)

この話題は、研究者本人のLinkedIn投稿を起点に議論が広がっている。投稿では、オンラインファッションの設計や規範、そして“瞑想的スクロール”の快楽が倫理をテンプレートから締め出し、倫理的に買おうとする人ほど疲弊し「捨てる人もいれば、妥協する人もいる」と要約されていた。投稿には複数のリアクションとコメントが付いている。 LinkedIn


コメント欄では、たとえば

  • 「理論的に刺さる、読むのが楽しみ」といった学術的関心 LinkedIn

  • 「消費者が頑張るのでなく、プラットフォーム・文化・実践を再設計して“倫理がデフォルト”になる必要がある」という“構造側”への提案 LinkedIn

  • 共著者からの祝意など、研究の社会的意義への反応 LinkedIn
    が見られる。


一方、Phys.orgの記事ページ自体は現時点でコメント0件・シェア表示も0となっており、一般層では「刺さる人に刺さるが、拡散はこれから」という温度感も読み取れる。 Phys.org


ここから透けるSNSの論点は、だいたい次の3つだ。

  1. 自己責任論の限界:「いい人ほど疲れる」構造にどう手を入れるか(設計・規制・表示の標準化)。 DOI Resolver

  2. 倫理情報の信頼性問題:評価や認証が乱立し、結局“自力調査”になる負担。 DOI Resolver

  3. 快楽と倫理の折り合い:買い物の楽しさをゼロにせず、倫理を日常のルーチンに埋め込めるか。 DOI Resolver


まとめ:倫理を“個人の美徳”から“当たり前の設計”へ

オンラインショッピングは、便利さと引き換えに、私たちの判断の順序を並べ替える。価格・見た目・スピードが先に来て、倫理は後回しになる。その結果、倫理的にありたい人ほど疲れ、離脱か妥協に追い込まれる――研究が示したのは、かなり現実的な“エシカルの壁”だ。 Phys.org


だからこそ必要なのは、「もっと頑張ろう」ではなく、頑張らなくても倫理が選べる環境づくりだ。サイトの設計、情報の出し方、セールの煽り方。そこに手を入れない限り、倫理はいつまでもスクロールの下に沈んでいく。 University of Birmingham


参考記事

研究によると、オンラインショッピングは倫理的な消費選択を難しくしているとのことです。
出典: https://phys.org/news/2025-12-online-harder-ethical-consumption-choices.html