若者は本当に「キス離れ」した? 英国調査とSNSの反応から見えること

若者は本当に「キス離れ」した? 英国調査とSNSの反応から見えること

駅前で別れを惜しむ二人。公園のベンチで肩を寄せる恋人。信号が変わるまでの短い時間に交わされるキス。

そんな場面に出会ったとき、私たちは何を思うだろう。ほほ笑ましいと感じる人もいれば、少し気まずくなって目をそらす人もいる。ところが、ここにスマートフォンが一台加わると、話は変わる。通りすがりの出来事が、名前も知らない大勢の人に評価される動画になり得るからだ。

ドイツの女性誌BRIGITTEは2026年9月14日、若者が公共の場でキスをしなくなったのではないか、と問いかける記事を公開した。筆者の記憶にある学校や街の風景と、現在の風景を重ね、親密さを表に出すことへのためらいを考察している。[1]

ただ、この話題を「いまどきの若者は恋愛に消極的だ」で終わらせるのは早い。キスそのものの頻度、人前での振る舞い、そして撮られることへの不安は、関係していても別の問題だ。まず、その違いから考えてみたい。


「35%が減った」という数字は、何を意味するのか

ARISE NEWSの報道によると、口腔ケアブランドWakenの委託でYouGovが実施した調査は、2026年5月15〜18日に英国の成人2,078人を対象にオンラインで行われた。35%が、5年前より恋愛的なキスの頻度が減ったと回答。18〜24歳では32%が、自信のなさからキスを避けた経験を答えたという。[2]

ここで気をつけたいのは、35%という数字が、そのまま「公共の場でキスをしなくなった人の割合」ではないことだ。BRIGITTEは公共の場のキスに結びつけて紹介しているが、調査を伝えるARISE NEWSの表現は恋愛的なキス全般を指す。[1・2]

また、5年前と現在を比べる自己申告には、その人の生活の変化が含まれる。交際が始まった人と終わった人、生活時間が変わった人、パートナーと会う機会が変わった人では、同じ質問への答えも違ってくる。これらは回答を考えるための可能性であり、今回の数字から確認された原因ではない。

調査の質問票や集計表そのものは今回確認できていないため、設問の細かな定義や各層の回答数までは検証できない。報道された数字を手がかりにすることと、それを社会全体の変化の証明にすることは、区別する必要がある。

「キス不況」という呼び名は印象に残る。しかし、恋人がいない人、キスを望まない人、人前では控える人を同じ箱に入れてしまえば、肝心の違いが見えなくなる。


人前でキスをしないことと、親密さがないことは違う

街で見かけるキスは、二人の関係のほんの一部分だ。

人前では手もつながないけれど、家ではよく話し、互いの気持ちを大切にしているカップルも考えられる。反対に、写真では仲むつまじく見えても、会話がかみ合っているとは限らない。見える愛情表現だけで、見えない関係の質まで測ることはできない。

これは世代の比較にも当てはまる。「昔はもっと見かけた」という記憶には、当時の年齢や行動範囲が影響しているかもしれない。学校に通っていた頃と、仕事と買い物を中心に移動する現在とでは、目にする人々も場所も変わる。

BRIGITTEの記事の面白さは、そうした個人の実感を出発点に、公共空間での親密さを問い直していることにある。[1]ただし、読者としては、その実感を直ちに時系列の統計に置き換えない慎重さも持っておきたい。

英国の調査を日本に当てはめる場合も同様だ。人前でどこまで愛情を表すかには、場所や周囲との関係、その人自身の習慣がかかわる。今回の資料だけで、日本の若者にも同じ変化が起きているとは言えない。


二人の出来事に、見知らぬ観客が入り込む

元記事は、コンサートのキスカメラをきっかけに私的な場面が拡散された騒動にも触れ、他人に撮影される可能性が振る舞いに影響するのではないかと論じている。[1]

ここから考えられるのは、「見られる」と「拡散される」の距離だ。

その場にいる人の視線なら、こちらも相手や状況をある程度把握できる。目が合えば距離を取ることも、場所を移すこともできる。しかし、オンラインで映像を見る人たちは、その場にはいない。前後の会話も、二人の合意も、関係の経緯も知らないまま、画面に映った数秒を受け取ることになる。

例えば、気まずそうに顔を背けるしぐさは、撮影への抵抗かもしれない。それでも、見る側が先に物語を決めてしまえば、別の意味を与えられてしまう。

この不確実さを想像すると、何か特別な事情がなくても、親密な場面を人目から遠ざけたくなる気持ちは理解できる。好きな相手にどう伝わるかに加えて、無関係な誰かにどう切り取られるかまで考えると、行動の前に確認すべきことが増える。

もっとも、撮影への不安が英国の調査結果をどれだけ説明するかは、今回の資料ではわからない。ここで述べているのは、元記事から考えられる一つの仕組みであり、調査で確定した因果関係ではない。


SNSの反応は「人前でやめて」と「撮る側がおかしい」に分かれる

関連する事例として、2026年7月、ニューヨークのセントラルパークでキスする二人を撮影したTikTok動画が話題になった。The Atlanticの報道では、撮影者を支持する反応に加え、映った人物の容姿や服装をからかうコメントもあったという。[3]

一方、New York Postは、撮影者が二人のプライバシーに踏み込んでいると批判する声も紹介している。公共の場での愛情表現を不快に感じるかという論点と、それを撮って拡散する行為を認めるかという論点が交差した形だ。[4]

ここで紹介したのは、関連動画への反応を報道から要約したものである。BRIGITTEの記事への直接のコメントではなく、SNS全体の賛否の割合を示すものでもない。個々の投稿者の年齢も確認していないため、「Z世代の反応」とは扱えない。

それでも、この対立は考える価値がある。

人前でのキスに抵抗を感じることと、当人の顔を大勢の前にさらすことは、同じ行為ではない。混み合った車内で長く抱き合う姿と、広い公園で短く触れ合う姿でも、周囲が受ける印象は違うだろう。公共の場の振る舞いは、場所や程度を含めて考える必要がある。

ところが動画のコメント欄では、そうした具体的な条件よりも、人物への評価が前面に出ることがある。そこで私たちが問えるのは、「自分は好きではない」と感じたとき、どこまで他人の生活に介入するのか、ということだ。

不快に感じたなら目をそらす、必要なら距離を取る。その場の問題に見合った対応を選ぶ余地はある。見知らぬ人の親密さを、オンラインの観客に判定してもらうことだけが選択肢ではない。


「正解のキス」を求めるほど、最初の一歩が重くなる

若い回答者の一部が、自信のなさからキスを避けたという結果は、関心がないことと、行動できないことの違いを考える手がかりになる。[2]

ここから先は考察だが、恋愛には結果を保証できない場面が多い。会話が続くか、誘いを受けてもらえるか、自分と同じ気持ちでいてくれるか。相手が別の意思を持つ人である以上、完全な予測はできない。

キスも同じだ。相手に近づきたい気持ちと、戸惑わせたくない気持ちは両立する。そこに「経験が少ないと思われたくない」「ぎこちなく見られたくない」という自己評価の不安が重なると、何もしないことが最も安全に思える場合もあるだろう。

だからといって、「昔のように大胆になればいい」と促すだけでは十分ではない。相手の意思を確かめることは大切であり、不安をなくすためにその確認を省くべきではないからだ。

むしろ、言葉にする余地があっていい。「手をつないでもいい?」「キスしてもいい?」と尋ねることが、二人にとって自然な形なら、それでよい。断られたら受け止める。迷っている様子なら急がない。恋愛を、相手の気持ちを一発で当てる試験にしなくてもいい。

うまく振る舞うことだけを重視すると、不慣れな人はいつまでも参加できない。ぎこちなさがあっても尊重されることは、親密さを築くための大切な条件ではないだろうか。


「もっとキスを」より、安心して距離を選べること

この話を、キスの回数を増やすための提案で締めくくるつもりはない。

キスが好きな人も、苦手な人もいる。恋人がほしい人も、いまの生活に満足している人もいる。人前では控えたいという選択が、本人にとって心地よいなら、他人が寂しがる必要はない。

気にかけたいのは、自分は近づきたいのに、からかわれることや無断で撮られることを考えて諦めてしまう状況だ。反対に、本当はしたくないのに、恋人なら当然だという期待に押される状況もある。どちらも、本人の希望より外側の評価が優先されている。

その意味で、街角のキスをめぐる問いは、恋人たちだけのものではない。私たちが他人のしぐさを目にしたとき、どこまでを自分の評価の対象にするか、という問いでもある。

二人が周囲に配慮することと、周囲が二人の時間をそっとしておくこと。その両方があって、公共の場所はさまざまな距離感の人が過ごせる空間になる。

人前のキスが実際にどれほど減ったのかを判断するには、条件をそろえたデータが必要だ。しかし、その答えを待たずに考えられることはある。

目の前の人を、投稿するための素材として見ていないか。キスをしない人を、愛情に乏しいと決めつけていないか。自分とは違う親密さの表し方にも、場所を残せているか。

キスがある風景も、キスをしない二人の時間も、本人たちが選べるものであってほしい。街から何が消えたのかを数える前に、その選択を狭めている視線について考えてみたい。


出典

[1]BRIGITTE(2026年9月14日):公共の場でのキスをめぐる筆者の実感、英国調査の紹介、撮影・拡散への不安に関する論考。
https://www.brigitte.de/liebe/beziehung/neue-studie--warum-kuesst-sich-niemand-mehr-in-der-oeffentlichkeit---14102330.html

[2]ARISE NEWS(2026年6月3日):Waken委託のYouGov調査を報じた記事。調査期間、対象人数、恋愛的なキスの頻度と若年層の自信に関する数値の出典。一次調査票そのものではない。
https://www.arise.tv/britain-experiencing-kissing-recession-new-survey-suggests/

[3]The Atlantic(2026年7月28日):セントラルパークのキス動画と、それに寄せられた撮影者支持・容姿や服装への揶揄を報じた記事。本稿のSNS反応は報道を通じた要約。
https://www.theatlantic.com/family/2026/07/make-out-public-display-affection/688087/

[4]New York Post(2026年7月24日):同動画をめぐる賛否を伝えた記事。撮影者によるプライバシー侵害を批判する声の出典。取得できた検索結果の報道要約に基づく。
https://nypost.com/2026/07/24/us-news/rumored-lawyers-caught-making-out-in-central-park-goes-viral-and-divides-the-internet/