署名8万・ブランド離反・公的金融撤退 — パリのデパート従業員がShein契約に抗議する理由

署名8万・ブランド離反・公的金融撤退 — パリのデパート従業員がShein契約に抗議する理由

10月10日(金)、パリ中心部マレ地区の老舗百貨店BHV(Bazar de l’Hôtel de Ville)前に、労働者と労組旗、そして「NO SHEIN」と書かれたプラカードが並びました。きっかけは、BHVの運営会社Société des Grands Magasins(SGM)が、中国発の超高速ファッション大手シーイン(Shein)に7階の常設スペースを提供するという合意を発表したこと。労働者は「店舗の将来と働く場の尊厳が脅かされる」として抗議に立ち上がりました。現地では午後3時30分(現地時間)から市役所関係者や労組代表がスピーチを行い、数十人規模のデモが確認されています。Reuters



何が起きているのか:BHV×Sheinの常設展開

SGMは「若年層の来店動機を高め、BHVの近代化を進める一環」としてシーインの常設導入を正当化。シーイン側も「来店者数を押し上げ、他ブランドの集客にも資する」としています。一方で、パリ市のイダルゴ市長を含む政界や市民からは強い反発が広がり、BHVの“顔”である選り抜きの多ブランド編集というイメージが揺らいでいます。Reuters


常設化はBHVだけに留まりません。SGMが運営する各地のギャラリー・ラファイエットでも、シーインの売り場を開く構想が伝えられており、デジタル特化だった同社がフランスで常設の実店舗網を持つ転換点となります。Le Monde.fr



現場の声:労働者が危惧する「働く場」と「店の価値」

抗議の現場では、BHVの労働者で労組代表のフロリーヌ・ビエ氏が「お客様はすでに離れ始めている。求める商品が見つからないうえ、シーイン導入を良しとしない」と指摘。BHVではブランドへの支払い遅延や品薄が続き、販売が落ち込み雇用不安も広がっていたという労組声明も読み上げられました。SGMは2023年11月のBHV買収後の決済システム移行が遅延の原因で、数週間で解決すると説明しています。Reuters



取引先と金融の反応:ブランド離反と“資本の警告”

BHVのサプライヤーや入居ブランドの間でも反発が連鎖。OdajeFigaret Parisなどが撤退を表明し、A.P.C.PVH(Calvin Klein、Tommy Hilfiger)も同様の判断を検討。老舗のArmor-Lux未払い約40万ユーロの問題と倫理面の懸念を挙げて離脱を宣言しています。Le Monde.fr


さらに追い打ちをかけたのが公的金融の動きです。仏Caisse des Dépôts(バンク・デ・テリトワール)は、SGMとのBHV不動産取得に関する交渉打ち切りを通告。決定理由に**「シーイン提携は我々の価値観に反する」**と明記しました。BHVの将来計画に直結する“資本の警告”であり、運営側は「政治的圧力だ」と反論しています。Le Monde.fr



規制と評判:加速する「超高速ファッション」包囲網

シーインは2012年創業後、世界最大級のファストファッション企業に急伸しましたが、労働環境・炭素排出・情報開示の不透明さをめぐる批判が各国で強まっています。欧州でも広告規制や課徴金を含む制度的な締め付けが検討・進展。7月以降、仏伊当局からの罰金累計は1.91億ユーロに達したと報じられ、企業側は内部統制の強化を明言しています。Reuters



SNSの反応:市民・ブランド・政治の三者が拡散装置に

1)市民の可視化された怒り

パリの市民サイトは、「BHVにシーインを入れないで」と訴える市民オンライン署名の動きを紹介。公開から間もなく8万件近い賛同を集めるなど、抗議の急速な可視化に寄与しました。ソリティラパリ


2)ブランド側の発信

撤退・再考を表明したブランドや経営者のメッセージが、メディアの引用や投稿を通じて波及。「われわれの価値観と相容れない」とする趣旨の発言がX(旧Twitter)や業界誌で拡散され、百貨店編集の“文脈”と超廉価・大量生産モデルの“断絶”が強調されました。Le Monde.fr


3)政治のメッセージ

アンヌ・イダルゴ・パリ市長は「パリの持続可能な商業戦略と相いれない」として、シーインのBHV進出に異議を表明——この立場はテレビ・ネットメディアやX経由で広く流通しました。パリ中心区長アリエル・ウェイル氏など地方政治家も関連情報を共有し、公的金融の交渉離脱がニュース化する過程で、SNSが“拡声器”の役を果たしました。X (formerly Twitter)+1

4)ボリュームの跳ね上がり

SNS分析企業のデータでは、9月末〜10月初旬にかけてシーインに関するネット言及が前週比27%増と報告され、議論の熱量上昇が数字でも確認されます。Brand24



何が問われたのか:百貨店の「編集力」と都市の価値

BHVは、ハイ&ローを巧みに編集して**“発見の場”を作ってきた名門百貨店です。ところが「最安×超大量×超速」という超高速ファッションのロジックが、キュレーション(選択)とストーリーを核とする百貨店の価値提案と根源的に衝突する——その葛藤が、今回は労働・取引先・行政**という多層の反発として噴出しました。


SGMの若年層集客という命題は理解できる一方、ブランド離反公的金融の背信は短期集客以上のコストを生むリスクがあります。BHVが生き残るための「近代化」とは、価格軸の単純化ではなく、サステナブルで透明性の高い編集へ踏み込むことではないか。今回の抗議は、“持続可能な都市ブランド”としてのパリが百貨店に求める社会的ライセンスのハードルを改めて示しました。FashionNetwork



シーインにとっての試金石:オンライン王者の“リアル”適応

オンラインで圧倒的なSKU回転低コストを武器にしてきたシーインにとって、常設のリアル運営はコスト構造も評判管理も桁違いです。物流・在庫・返品の実務、そして労働・環境・データをめぐる規制・世論リスクはオンライン以上に可視化されやすい。フランス市場での“第2フェーズ”は、同社の統治・透明性・地域適応力を測る試金石になります。The Verge



今後の論点(まとめ)

  1. 労働:決済遅延問題の解消と、現場の不安の緩和。Reuters

  2. 取引先:ブランド離反の連鎖を止め、BHVの編集価値を再構築。Le Monde.fr

  3. 資本・不動産:公的金融の離脱で揺れるBHVの将来計画と資本関係の再設計。Le Monde.fr

  4. 規制:罰金・広告規制・越境ECの扱いなど、制度対応の持続可能性。Reuters