コカ・コーラの甘味料転換が引き起こす世界的な波紋 ― トランプ発言で再燃する“甘味料戦争”の真実

1. はじめに――「甘さ」の政治学

「コカ・コーラが米国でも“リアル”なサトウキビ由来の砂糖を使うらしい」――そんなニュースが駆け巡ったのは7月中旬のことだった。きっかけはドナルド・トランプ大統領のSNS投稿だ。「@CocaCola と話し合い、米国でもREAL Cane Sugarを使うことで合意した」。この一文が、健康志向派の喝采と農業・食品業界の動揺を同時に呼び起こした。ガーディアンajc

2. 背景――HFCS vs. 砂糖

コカ・コーラは1980年代に高果糖コーンシロップ（HFCS）へ切り替えた。理由はコストと安定供給だ。米国ではトウモロコシが豊富で、価格も低い。ところが健康志向の高まりと「メキシコ版コークは美味しい」という口コミが、ここ数年「砂糖回帰」論を後押ししてきた。CBSニュースマーケットウォッチ

3. 政府の介入――MAHAとケネディ長官の圧力

トランプ政権下で設置された社会運動 Make America Healthy Again（MAHA） の旗振り役はロバート・F・ケネディ Jr. 保健長官だ。彼は「HFCS全廃」を公言し、食品・飲料各社にレシピ変更を促してきた。今回の“合意”もその延長線上にある。InfoMoney

4. コスト試算――1年で10億ドル超!?

業界アナリストのヘザー・ジョーンズ氏によれば、コカ・コーラが米国市場向け全量をHF55（55％HFCS）からサトウキビ糖へ切り替えた場合、「差額と物流再構築費を合算すると初年度だけで10億ドルを超える」という。加えて、HFCSを供給するADMとIngredionの年間利益の6〜7％が吹き飛ぶ可能性が指摘された。InfoMoney

5. 農家への衝撃――5.1 billion ドルの損失試算

HFCS全廃で最も打撃を受けるのは中西部コーンベルトの農家だ。Corn Refiners Association の試算では、トウモロコシ価格が1ブッシェルあたり34セント下落し、年間50億ドル超の農家所得が消える恐れがある。州経済に依存度の高いアイオワやネブラスカでは「農村部の雇用流出」を懸念する声が強い。weareiowa.com

6. 供給ギャップ――米国の砂糖は足りない

米国のサトウキビ糖生産量は年間約360万トン。一方、HFCS由来で代替される糖量は730万トン相当だ。差分を輸入で賄うとなれば、最大の供給国ブラジルが浮上する。しかしトランプ政権はブラジル産砂糖に50％の追加関税を課したばかりで、貿易摩擦が再燃する可能性も指摘される。InfoMoney

7. 健康面のリアリティチェック

「砂糖はHFCSより健康的」というイメージは根強い。しかし栄養学者メアリー・ケカトス氏は「GI値もカロリーもほぼ同じ。量を減らさなければ健康効果は限定的」と語る。結局は摂取量の問題であり、処方箋は「飲み過ぎない」ことに尽きる。ABC News

8. SNS の温度差――ハッシュタグ #RealCoke を追う

• 支持派：「メキシココークの味が全米で飲めるなんて最高！」

• 懐疑派：「健康へのメリットは幻想。値段だけ上がる」

• 農家・業界関係者：「#CornJobs を守れ」「政策が農村を壊す」
  MarketWatch は「アメリカ人の大半は現行レシピに満足しており、味覚テストではHFCS版が優勢だった」と報じた。ジャーナリストのA.ロドリゲス氏は「政治的ショーに過ぎない」と皮肉交じりのポストを拡散。世論は“味”より“政治”へと焦点を移しつつある。マーケットウォッチX (formerly Twitter)

9. 市場の反応――株価は“砂糖高”“トウモロコシ安”

発表翌日、ADMとIngredionの株価は前日比3〜4％下落。一方、コカ・コーラとペプシコは「健康イメージ向上」を先取りする形で1〜2％上昇した。投資家は「実現性」より「ブランド評価」の変化を織り込んだ格好だ。フォーチュン

10. ロビイング戦線――「砂糖支持」 vs. 「コーン陣営」

米国議会では既にSugar Caucus と呼ばれる議連が存在し、フロリダのサトウキビ農家を支援している。一方、コーンベルト選出議員によるCorn Caucus はHFCSの防衛に躍起だ。コカ・コーラが最終判断を下すまで、ロビイストたちの“水面下の戦争”は続くだろう。InfoMoney

11. グローバルサプライチェーン――ブラジル・タイ・豪州の商機

世界最大のサトウキビ輸出国ブラジルでは「米国が輸入を拡大すればエタノール用原料の不足を招く」との指摘もある。タイやオーストラリアの糖業界は「チャンスが来た」と期待感を示すが、輸送コストと為替の壁は小さくない。InfoMoney

12. まとめ――“甘い”決断の先に

コカ・コーラは正式な配合変更をまだ認めていない。「革新的な新商品については追って共有する」という曖昧な声明にとどまる。それでも一度投下された「砂糖 vs HFCS」論争は、健康、農業、通商、ロビイング、そしてブランド戦略を巻き込む巨大な渦となった。最終的にどの甘味料が選ばれるにせよ、私たちが問うべきは――“甘さ”の背景にある社会コストを誰が負担するのか――というシンプルな命題なのかもしれない。