「米国より中国」へ傾いたカナダ世論 ― 同盟国の失望が日本に突きつけるもの

「米国より中国」へ傾いたカナダ世論 ― 同盟国の失望が日本に突きつけるもの

2026年7月16日、カナダのGlobal Newsが報じた世論調査は、北米の国際関係が従来の常識では説明しにくい段階に入ったことを示した。

調査によると、中国に対して好意的な見方を持つカナダ人は44%だったのに対し、米国に好意的な見方を示した人は33%にとどまった。2023年には米国への好意的評価が57%、中国が14%だったことを考えれば、わずか数年間で両国の位置がほぼ完全に入れ替わったことになる。

カナダは米国と世界最長級の国境を共有し、経済、安全保障、文化、人の移動に至るまで、他国では例を見ないほど深く結びついてきた。そのカナダで、最大の戦略的競争相手である中国が米国を上回った意味は小さくない。

しかし、この結果を「カナダ人が民主主義を捨て、中国共産党を信頼するようになった」と読むのは正確ではない。

今回の変化の本質は、中国への無条件の信頼というより、米国への急激な失望にある。


「信頼」ではなく、まずは「好意的評価」の調査

最初に注意すべきなのは、見出しに使われる「信頼」という言葉と、実際の調査内容には微妙な違いがあることだ。

Pew Research Centerが尋ねた主要な質問は、それぞれの国に対して「好意的な意見を持っているか」というものだった。習近平国家主席とドナルド・トランプ大統領については、「世界の問題に関して正しいことを行うとどの程度信頼しているか」が別に問われている。

つまり、44%のカナダ人が中国の政治制度、安全保障政策、人権状況を全面的に信頼しているという意味ではない。中国を以前より肯定的に見る人が増えた一方、それ以上に米国を否定的に見る人が増えたと理解する方が実態に近い。

Pewの比較によれば、2026年には調査対象36カ国のうち25カ国で、中国への好意的評価が米国を上回った。世界全体で中国が突然歓迎されるようになったというより、米国の国際的なイメージが大きく低下し、中国が相対的に有利になった側面が強い。

カナダは、その変化が最も象徴的に表れた国の一つである。


最大の原因は「中国の魅力」より「米国への反発」

カナダ人の対米感情を悪化させた要因として、まず挙げられるのがトランプ政権の通商政策である。

カナダ経済は長年、米国市場への輸出に強く依存してきた。部品が国境を何度も行き来する自動車産業をはじめ、エネルギー、農業、林業、製造業など、多くの産業が北米の一体化した供給網を前提としている。

その関係に関税や投資圧力が持ち込まれれば、カナダ側は単なる経済摩擦ではなく、隣国から生活基盤を揺さぶられていると感じる。

さらに、カナダを米国の「51番目の州」のように扱う発言や、カナダの指導者を一国の首相ではなく州知事のように呼ぶ態度は、主権国家としての尊厳を傷つけるものとして受け止められた。

米国側では冗談や交渉上の威圧と考えられていたとしても、受け手にとっては、自国の独立性を軽視する言葉である。友好国であるはずの米国から繰り返し圧力を受ければ、「価値観を共有する同盟国だから信頼できる」という従来の前提は崩れていく。

この環境では、中国が特別に魅力的な国にならなくても、米国より予測可能に見えるだけで評価が上がる。

中国は権威主義体制であり、カナダとの間にも深刻な問題を抱えてきた。それでも、中国政府がカナダを併合するかのような言葉を公然と使っているわけではない。少なくとも日常の経済関係では、農産物、資源、エネルギー、電気自動車などをめぐり、取引可能な相手として振る舞っているように見える。

米国が「最も近い友人」から「最も強い圧力をかけてくる相手」に変われば、かつて危険視されていた中国が、相対的に現実的な選択肢として浮上するのである。


中国への警戒が消えたわけではない

もっとも、カナダ人が過去の対立を忘れたわけではない。

カナダと中国の関係は、ファーウェイ幹部の拘束を契機に悪化し、中国当局がカナダ人のマイケル・コブリグ氏とマイケル・スペーバー氏を約3年間拘束したことで深刻な危機に陥った。

新疆ウイグル自治区の人権問題、カナダ国内の政治や選挙に対する外国干渉の疑い、海外警察拠点をめぐる問題、在中カナダ人の安全などについても、懸念は残っている。

2025年に行われた別のカナダ世論調査では、中国への好意的評価が回復する一方、依然として過半数が中国を否定的に見ていた。また、中国との貿易拡大より、日本、韓国、台湾などとの経済関係を好ましいと考える傾向も確認されている。

したがって、今回の44%は中国への白紙委任ではない。

カナダ人が求めているのは「米国を捨てて中国陣営に入ること」ではなく、米国だけに依存している状態から抜け出すための選択肢だと考えられる。

中国との関係改善も、その選択肢の一つにすぎない。


カーニー政権が進める「責任ある関与」

カナダ政府も、こうした世論の変化と無関係ではない。

マーク・カーニー政権は中国との経済関係を立て直し、農産物やエネルギーなどの輸出機会を広げようとしている。中国側との協議では、一部の農産品や中国製電気自動車に対する関税を含む通商問題が焦点となってきた。

カナダ側が強調しているのは、無条件の接近ではなく、安全保障や国内産業への配慮を伴う「責任ある関与」である。

これは、価値観外交と経済的現実の間で揺れる中規模国家の典型的な行動でもある。

米国市場を完全に代替できる国は存在しない。中国市場への依存を深めすぎれば、新たな政治的リスクを抱える。だからこそ、欧州、アジア、中南米などとの関係も含め、輸出先と投資先を分散する必要がある。

カナダで中国への評価が上がった背景には、中国を唯一の新しいパートナーとして選ぶ発想より、「米国以外にも交渉できる相手が必要だ」という切迫感がある。


SNSとオンラインコメントに表れた四つの反応

この調査をめぐるオンライン上の反応は、世論調査の数字以上に激しく分裂している。

Global Newsの記事には公開直後から多数のコメントが寄せられた。ただし、記事コメント欄やSNSの投稿者は自発的に参加しているため、カナダ国民全体を代表するものではない。特に政治ニュースのコメント欄では、強い意見を持つ人が集まりやすいことに注意が必要だ。

 

それを踏まえて見ると、主な反応は四つに分けられる。


1.「中国を信じることはできない」という強い反発

最も目立つのは、中国の政治体制、人権問題、外国干渉への警戒である。

投稿者からは、トランプ政権が嫌いだからといって中国との関係を深めるのは危険だ、中国製電気自動車の輸入拡大が国内産業を弱体化させる、中国は軍事侵攻ではなく経済依存を通じて影響力を強める、といった意見が出ている。

この層にとって、米国には問題があっても、民主主義国としての基本的な価値観は共有できる。一方、中国は体制そのものが異なり、長期的にはより大きな危険をもたらす存在である。

こうした反応は、調査結果を「中国への支持」と表現する見出しに対する反発でもある。

2.「米国が自ら信頼を壊した」という見方

反対側では、現在の結果を招いた責任は米国自身にあるという声が上がっている。

米国はカナダを侮辱し、関税で産業を揺さぶり、対等な主権国家として扱わなくなった。中国が民主国家ではないことは承知しているが、少なくともカナダを併合すると脅してはいない、という論理である。

この層は必ずしも親中国ではない。むしろ、米国が従来守ってきたはずの民主主義、同盟、自由貿易、国際協調といった原則を、自ら壊していることに失望している。

「世界は米国なしでも動いていく」という趣旨の投稿もあり、米国中心の国際秩序そのものに対する疑問が表れている。

3.世論調査と報道への不信

三つ目は、調査の質問方法やメディアの見出しに対する疑念である。

中国か米国かという二者択一を迫るような報道は政治的だ、好意的評価を「信頼」と言い換えるのは誇張だ、調査対象が偏っているのではないか、といった反応が見られた。

実際にはPewの調査は各国の成人を対象とする全国調査として設計され、電話、対面、オンラインなどを組み合わせて実施されている。ただし、世論調査の数字が質問文、調査時期、国内政治の状況によって変動するのも事実である。

特に今回の数字は、恒久的な親中化というより、トランプ政権下での対米感情を強く反映した一時点の評価として読む必要がある。

4.「どちらにも依存すべきではない」という現実論

派手な対立の陰で重要なのが、米国と中国のどちらか一方に依存すること自体が危険だという意見である。

関連するRedditの議論でも、中国との貿易を増やす必要性を認めながら、台湾情勢や経済制裁の可能性を考えれば、中国依存を深めすぎるべきではないという警戒が見られる。

一方、米国との緊張を扱った別の議論では、米国旅行を取りやめた、米国製品を避けるようになったといった、感情が実際の消費行動に結びついた投稿もあった。

カナダ世論は単純な親米派と親中派に分かれているのではない。米国への依存を減らしたいが、中国にも依存したくないという、出口の見つけにくい不安を抱えているのである。


日本では中国11%、米国50%

今回の結果を日本から見ると、カナダとの温度差は大きい。

同じPewの2026年調査で、中国に好意的な見方を持つ日本人は11%だった。これに対して米国への好意的評価は50%で、中国を39ポイント上回っている。

また、自国民の個人的自由を政府が尊重しているかという質問では、日本人の61%が米国について「尊重している」と答えたのに対し、中国について同じ回答をした人は6%だった。

日本では、米国への評価が以前より厳しくなったとしても、中国との評価が逆転するまでには至っていない。

この違いは地理と安全保障環境から説明できる。

カナダにとって中国は遠隔地の大国であり、主に経済、外交、外国干渉、人権を通じて認識される。日本にとって中国は東シナ海を挟んだ隣国であり、領土問題、海警船や軍事活動、台湾海峡、サプライチェーン、経済安全保障などが直接的な問題になる。

中国との衝突や緊張が日常的な安全保障問題に結びつきやすい日本では、経済関係の重要性だけで対中評価が大きく改善する可能性は低い。

同時に、日本の安全保障は米国との同盟を中心に構築されている。カナダにとっての米国は巨大な市場であると同時に、圧力をかけてくる隣国でもある。日本にとっては、米国は日本防衛の抑止力を支える中心的存在でもある。

両国で米中に対する評価が異なるのは、国民性の違いではなく、置かれている戦略環境の違いなのである。


それでも日本が無視できない理由

カナダの変化を「日本とは条件が違う」と片付けるべきではない。

今回の調査が示す最大の問題は、中国が世界中で強く信頼されるようになったことより、米国が同盟国から当然のように支持される時代が終わりつつあることだ。

軍事力や経済力が大きくても、相手国の主権や利益を軽視すれば、ソフトパワーは失われる。関税や威圧を用いて短期的な譲歩を引き出せても、長期的には相手国に代替市場と新たな外交関係を探させることになる。

中国は、そこに生まれた空白を利用している。

中国が自由や人権の面で高く評価された結果ではない。米国が自らの強みだった予測可能性、同盟への配慮、民主主義の模範というイメージを損なうことで、中国が比較対象として有利になっているのだ。

日本も、米国との同盟を維持するだけで外交的な立場が自動的に安定するわけではない。

米国の政権交代によって通商政策や同盟への姿勢が大きく変化する可能性を前提に、欧州、カナダ、オーストラリア、インド、東南アジアなどとの関係を重層化する必要がある。

エネルギー、食料、重要鉱物、半導体、デジタル技術といった分野でも、一国への過度な依存を避けなければならない。それは中国依存を減らすだけでなく、米国依存についても冷静に検証することを意味する。


日本が取るべきは「米国か中国か」ではない

カナダの事例から日本が学ぶべきことは、中国へ接近せよというメッセージではない。

重要なのは、同盟国であっても信頼は自動的に維持されるものではなく、相互尊重と利益の調整によって支えられているという点だ。

日本は米国との同盟を安全保障の基軸としながら、中国とは経済、気候変動、人的交流、地域の安定など、協力可能な分野で対話を続ける必要がある。同時に、人権、安全保障、経済的威圧、領土をめぐる問題では明確な原則を維持しなければならない。

米国にすべてを委ねることも、中国市場の大きさを理由に警戒を解くことも、どちらも現実的ではない。

必要なのは、国際環境が変化しても選択肢を失わない国になることである。


カナダ人が選んだのは中国ではなく「選択肢」

「中国44%、米国33%」という数字は、世界の陣営が一夜にして入れ替わったことを意味しない。

それは、米国の最も近い隣国でさえ、自国の尊厳や利益が軽視されたと感じれば距離を置き始めることを示す警告である。

カナダ人は、中国の権威主義を忘れたわけではない。中国を無条件に信頼しているわけでもない。それでも、米国だけに依存し続けることに以前ほど安心できなくなっている。

中国の評価上昇は、中国の勝利である以上に、米国が積み重ねた信頼を失った結果だ。

日本に求められるのは、この変化を親米か親中かという単純な対立で見ることではない。同盟を守りながら自立性を高め、経済と外交の相手を分散し、どの大国から圧力を受けても国益を守れる体制をつくることだ。

カナダ世論の逆転が日本に突きつけているのは、「どちらの大国を信じるか」ではない。

「大国の態度が変わったとき、自国にはどれだけの選択肢が残されているか」という問いなのである。


出典URL

Global News:カナダにおける中国44%、米国33%という評価や、米加・加中関係の背景、記事公開コメントを参照。
https://globalnews.ca/news/11968298/canadians-now-trust-china-us-poll/

Pew Research Center:米国と中国への評価を36カ国で比較した一次調査。カナダと日本の数値、調査時期、両国首脳への信頼、個人的自由に関する評価を参照。
https://www.pewresearch.org/global/2026/07/15/people-in-many-countries-now-view-china-more-positively-than-the-u-s/

Pew Research Center:中国と習近平国家主席に対する国際評価の詳細。日本で中国への好意的評価が11%であることや、富裕国で中国への警戒が強い傾向を参照。
https://www.pewresearch.org/global/2026/07/15/views-of-china-and-xi-are-improving-globally/

Pew Research Center調査方法:電話、対面、オンラインを組み合わせた各国調査の設計と実施方法を確認。
https://www.pewresearch.org/global/2026/07/15/methodology-global-views-china-2026/

Asia Pacific Foundation of Canada/Angus Reid Institute:2025年時点のカナダ人の対中感情、貿易相手としての日本・韓国・台湾への高い評価を参照。
https://www.asiapacific.ca/publication/opinion-poll-canadian-views-on-china-2025

Abacus Data:米国への信頼低下と、欧州や中国を含む関係多角化に対するカナダ世論を参照。
https://abacusdata.ca/canadas-strategic-alignment-europe-gains-ground-as-u-s-confidence-slips/

Redditの関連議論:米国への渡航回避など、米加関係悪化が市民の行動に及ぼした反応を参照。記事そのものへの直接反応ではなく、周辺的な世論を示す資料として使用。
https://www.reddit.com/r/canada/comments/1j5u75f/62_of_canadians_plan_to_avoid_the_us_for_at_least/

Redditの関連議論:中国との貿易拡大に対し、経済依存や台湾情勢を懸念する意見を参照。記事そのものへの直接反応ではなく、対中関係をめぐるオンライン世論の例として使用。
https://www.reddit.com/r/canada/comments/1olbl3j/chinese_ambassador_suggests_canada_china_triple/