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「幸福」のネオンが照らす影──中国ディストピア漫画『中専鼠鼠大冒険』が映し出す最底辺のリアル

「幸福」のネオンが照らす影──中国ディストピア漫画『中専鼠鼠大冒険』が映し出す最底辺のリアル

2025年07月07日 14:12

1 はじめに──「幸福」は誰のものか

2025年3月、調査会社Ipsosが「世界幸福度指数」を発表した。トップは中国本土──幸福度91%。世界経済の不確実性が増す中で「圧倒的幸福」を掲げる大国。その数字に違和感を覚えた人は少なくない。そんな矢先、SNSに突如バズったモノクロ漫画『中専鼠鼠大冒険』は、きらびやかな統計の裏に潜む“底辺の日常”を、擬人化された鼠の目線で容赦なく描き出した。ipsos.com


2 作品概要──“鼠”は中専卒のメタファー

本作の舞台は、中等専門学校(中国の職業高校)を卒業した若者たちの集団宿舎と工場ライン。中国では高校入試(中考)で成績下位20%がこのルートに進み、卒業と同時に都市部の労働現場へ送り込まれる。著者は彼らを“鼠”と名付け、粗悪な作業服と社員番号でしか識別されない存在として登場させる。その視線は、ネズミ捕りに追い立てられるかのような過酷労働、質の悪い食堂飯、そして先輩に使い捨てられる未来へとつながる。note.com


3 教育格差の深淵

「都市と農村の教育格差はもはや“壁”ではなく“峡谷”」と作中で揶揄される。地方出身者は都市部より出生率が高く、家庭の経済基盤も脆弱だ。大学未満の学歴で就ける職は、メイド、ライン工、配達員。いずれも低コスト化の圧力が常態化し、技能が賃金に反映されにくい仕組みが横たわる。この現実を、漫画は厚い陰影と無表情のキャラクターで可視化する。note.com


4 労働者を縛る「工会」という名の党支部

中国の企業には「工会」という労働組合が存在する──と教科書にはある。だが現実には共産党支部が事実上の最高権力を握り、賃上げ交渉やストライキは“和諧(ハーモニー)”の名の下に封じ込められる。漫画の中で鼠たちは、工場長と縁者が食堂を独占し、粗悪な油(地沟油)で調理された食事を「特供」と自嘲する。制度の歪みが胃袋に直結する瞬間だ。note.com


5 数字がつくる“幸福”──Ipsos調査の解剖

Ipsosが2023年に実施した幸福度調査で、中国は32カ国中トップ。だが翌2024年版から中国はリストごと消えた。作品は、この統計マジックをネタに「幸福(xìng fú)と福姓(xìng Fú)の言い間違い」というブラックジョークを挿入。ネオン看板に輝く「幸福」の二文字は、鼠たちにとっては監視カメラの赤いLEDと同じ意味しか持たない。note.comipsos.com


6 ソーシャルメディアの反響

  • Bilibili:初出動画は公開24時間で再生38.7万・投コメ1.1万件。「感触蛮深」「電子ユートピアを夢に見てほしい」など、若年層の“エンパシー・ファティーグ”が表面化。bilibili.com

  • Reddit /r/China_irl:スレッド「今天火了个漫画『中专鼠鼠大冒险』」には「地方の実態をよく捉えている」「哗众取宠(大袈裟)だが無視できない」など賛否両論が並ぶ。reddit.com

  • X(旧Twitter):作者Bringeallのポストは1万リポスト超。「中国語が読めないが絵だけで伝わる」「21世紀版『蟹工船』だ」と翻訳付きの引用が急増した。


反応を貫くキーワードは“relatable”──他国でも低スキル層が直面する搾取構造が共通するという指摘だ。


7 世界に響く「低層ユーモア」

本作のユーモアは、中国ネット語で「底层(ディーセン)」と呼ばれる自己嘲笑文化に根ざす。自らを鼠に見立てるセルフディスリスペクトは、逆説的に“生き延びるための自己肯定”として機能する。それは、英語圏の“dark humor”、日本の“自虐ネタ”とも共振し、国境を越えた受容を可能にしている。


8 「幸福とは何か」を再定義する

  • 物質的満足か、権利の充足か

  • 集団の平均値か、個人の手触りか

  • 宣伝映像か、現場の匂いか

『中専鼠鼠大冒険』は、統計が塗り替える幸福の輪郭を、汗と油の匂いで上書きする。ディストピア的誇張はあるが、誇張ゆえに露わになる本質──“幸福”は測定可能か? を突きつける。


9 海外読者への視点

  1. グローバル・サプライチェーンの矛盾
    あなたがクリック一つで買うスマホ部品は、鼠たちの残業時間の上にある。

  2. 統計リテラシーの重要性
    国家発表の数字をどう読み解くか。幸福度はGDPと同じく“国策”になる。

  3. ディストピア表現の普遍性
    カフカ、オーウェル、萩尾望都──不条理を描く物語は時代と場所を選ばない。

海外の読者は、作品を“異国の悲劇”として消費するだけでなく、自国の労働環境や統計の使われ方に想像力を伸ばすことで、物語をより自分事にできる。


10 おわりに──鼠が見る夢

漫画の最終ページ、鼠は監視カメラに背を向けて歩き出す。行き先は描かれない。だが夜空にはわずかな星が瞬く。作者は読者に“希望”を提示しない。代わりに「夢を見る自由」を返す。現実は容易に変わらない。けれど、物語を媒介に他者のリアルを想像する行為こそが、幸福へ向かう第一歩だと作品は示唆する。


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