危機対応の新常識:謝ったのに、なぜ炎上する? 新研究が示す「誠実な説明」の六つの原則

危機対応の新常識:謝ったのに、なぜ炎上する? 新研究が示す「誠実な説明」の六つの原則

「嘘はついていません」では信頼は戻らない――企業の危機対応に必要な“正直さ”とは

サービスが突然使えなくなる。注文した商品が届かない。登録した個人情報が流出したかもしれない。

そんなとき、企業から「現在、詳細を調査しております」というお知らせが届く。書かれていることに嘘はないのだろう。それでも、不安が消えるとは限らない。

自分は被害の対象なのか。今すぐ何かする必要があるのか。次の説明はいつになるのか。

利用者が知りたいことは、企業が公表した事実のさらに先にある。

2026年11月6日にPhys.orgが紹介した研究は、危機の際の「正直さ」を、単に虚偽を述べないことよりも広い視点で捉えている。事実を伝えることは不可欠だが、伝えるタイミング、相手への向き合い方、問題を解決する行動まで含めて考える必要があるという。

これは謝罪文を上手に書くためだけの話ではない。トラブルに巻き込まれた人を、企業がどう扱うかという問題だ。


研究が示した、誠実な説明を支える六つの原則

研究を行ったのは、ポーツマス大学などのGuido Dal Pozzo氏、Jason Sit氏、Ilke Cicekli氏。論文は学術誌「Cogent Business & Management」に掲載された。

研究チームは、小売分野のマーケティング実務者20人へのインタビューから、危機時の誠実なコミュニケーションに関わる六つの原則を整理した。日本語で要点を示すと、次のようになる。

  • 開かれた姿勢で、主体的に伝える
  • 根拠に基づいて説明する
  • 一貫性を保ち、取り繕わずに向き合う
  • 説明責任を果たし、相手の声に応答する
  • 敬意と思いやりを持って接する
  • 解決に焦点を当てる

とりわけ研究が注目するのは、主体的な働きかけ、敬意、解決に向けた説明だ。企業の評判を守ることだけに集中せず、影響を受けた人と関わり、懸念を聞き、建設的な解決を目指す。その関係づくりが重要だと位置づけている。

以下では、この枠組みを手がかりに、日本のサービス利用場面にも置き換えて考えてみたい。具体的な文例や実務上の提案は、研究結果そのものではなく、本稿による応用例である。


「調査中」という事実にも、伝え方がある

危機対応では、速さと正確さがぶつかる。

情報がそろう前に説明すれば、後から訂正が必要になるかもしれない。一方、すべてが確定するまで待てば、その間、利用者は判断材料を持てないままになる。

ここで必要なのは、未確認のことまで断言することではない。分かっていることと、まだ分からないことを分けて伝えることだ。

例えば、同じシステム障害でも、次の二つの案内では利用者が受け取れる情報量が違う。

「現在、障害について調査しております」

「現在、購入手続きが完了しない障害を確認しています。原因と影響範囲は調査中です。重複決済の有無も確認しています。次回のお知らせは本日18時に掲載します」

後者にも、原因についての確定情報はない。それでも、どこで問題が起きていて、何を調べていて、いつ続きを確認できるかが分かる。

もちろん、示した更新時刻を守る必要はある。調査が進んでいなければ、その状況を説明する。利用者にとっては、「新しい結論が出ていない」と分かることにも意味がある。

沈黙の時間を、置き去りにされた時間にしない。そのための情報提供である。


「被害は確認されていない」と「被害はない」は違う

企業の説明では、慎重な表現が重要になる。

「現時点で確認していない」という言葉は、調査の到達点を示すものだ。しかし、読む側が「問題は起きていない」と受け取れば、伝え手と受け手の理解にずれが生まれる。

例えば、「不正利用は確認されていません」と説明する場合、どこまで調べた結果なのかによって意味は変わる。

調査が完了したのか。調査の途中なのか。確認できる記録に限界があるのか。

専門的な調査内容をすべて公開する必要はないとしても、安心を促す表現には、その根拠と限界を添える余地がある。

「安全です」と言い切ることが、いつも誠実とは限らない。逆に、不確実さを伝えることが、ただちに無責任になるわけでもない。

説明を受けた人が、自分の状況を判断できるか。その視点で文章を読み直すことが大切だ。


SNSで見えた不信と理解――M&Sの事例

この問題を考える具体例として、英国の小売大手Marks & Spencer(M&S)のサイバー被害をめぐる議論がある。

 

ここで紹介するのは、今回の論文に対する直接の反応ではない。2025年5月にRedditへ投稿された、関連する企業危機についての意見だ。匿名の投稿であり、投稿者の属性や体験は独立に確認されていない。また、利用者全体の意見を代表するものでもない。

議論の一つは、「顧客が何かする必要はない」という趣旨の説明を、どう受け止めるかだった。

ある投稿者は、その表現から「すべて問題なく、情報も安全だ」という含みを感じたとして、不満を示していた。一方、別の投稿者は、企業が実際にどこまで述べたのかを確認すべきだとして、顧客情報への影響を否定していたという見方に根拠を求めていた。

これは、「何もしなくてよい」という案内と、「何も起きていない」という認識が、受け手の中で近づいてしまう可能性を示している。

調査に時間がかかることへの理解もあった。情報を公表する必要がある一方、内容は正確でなければならず、説明が何度も反転すれば信頼を損なうという指摘だ。

さらに、今後の対応こそが試金石だとする意見や、顧客に詐欺への備えを説明してほしいという提案も見られた。

怒りだけでも、企業擁護だけでもない。早く知りたいという要求と、誤った説明は避けてほしいという要求が、同じ議論の中に存在していた。


企業の公式説明と、受け手の印象を分けて読む

SNSの反応を扱う際には、投稿者の解釈をそのまま被害の事実として広めないことも欠かせない。

M&Sの公式案内では、顧客の個人データの一部が持ち出されたことを認め、含まれ得る情報として連絡先、生年月日、オンライン注文履歴などを挙げている。一方、利用可能なカード・決済情報やアカウントのパスワードは含まれないと説明した。

また、同社を装ったメール、電話、SMSへの注意を促し、ウェブサイトやアプリへの次回ログイン時などにパスワードの再設定を求めることも案内している。

この例から見えてくるのは、「何が起きたか」「自分にどう関係するか」「何に注意すべきか」をつなぐ説明の必要性だ。

企業の発表は、全文を精読されるとは限らない。メールの冒頭だけ、SNSで切り取られた一文だけが読まれることも想定したい。

本文には注意点が書かれていても、目立つ位置の安心を促す言葉だけが記憶に残る可能性はある。だからこそ、文章の正確さに加え、重要な情報の並べ方も問われる。


日本の謝罪文に足したい「生活への影響」

日本の企業対応に置き換えるなら、定型的な謝罪の後に、何が続くかを考えると分かりやすい。

「多大なるご迷惑とご心配をおかけしております」

この一文は謝意を示す。しかし、それだけでは、利用者が実際に困っていることは見えてこない。

例えば、チケット販売サービスの障害なら、購入できない人だけでなく、決済済みなのにチケットが表示されない人もいるかもしれない。オンラインレッスンなら、接続できない間にも予約時間が過ぎていく。通販なら、特定の日に必要な商品を待っている人がいる。

企業側では一つの「障害」であっても、利用者側では異なる困りごとになる。

そのため、案内は利用者の状況ごとに整理した方が役立つ。

  • 決済済みの人は、どこを確認すればよいか。
  • 利用予定時刻が迫っている人は、どこへ連絡すればよいか。
  • 再操作すると重複注文などの可能性があるのか。
  • 代替手段や返金について、決まっていることは何か。

未決定の事項があっても、決まっていないと明示できる。大切なのは、困りごとを認識していることと、対応の見通しをできる範囲で示すことだ。

敬意や思いやりは、丁寧な言葉遣いだけでなく、相手の時間や負担をどう扱うかにも表れる。


「一貫した説明」は、訂正しないことではない

危機が進行している最中には、新しい事実が判明する。初報を修正しなければならない場合もある。

そこで一貫性を守ろうとして、古い説明に固執すれば、かえって誠実さを失いかねない。

必要なのは、事実の変化を隠さず、説明が変わった理由をつなぐことだ。

例えば、「当初は影響を確認できていませんでしたが、その後の調査で対象となるデータが判明しました」と、判断の経過を示す。以前の告知を見た人にも変更が届くようにし、何が更新されたのかを分かる形で残す。

一貫させるべきなのは、最初の結論ではない。分かっていることを正確に示し、分かったことを更新する姿勢である。

その姿勢が見えれば、利用者は「説明が変わった」という事実だけでなく、「なぜ変わったか」も評価できる。


ただし、「この六つで必ず信頼回復」ではない

今回の研究を、万能な危機対応マニュアルとして受け取ることには注意が必要だ。

調査は、小売分野の実務者20人への聞き取りを基にした質的研究である。顧客を大規模に調査し、六つの原則によって信頼が何%回復するかを検証した実験ではない。

研究者自身も、対象者の規模や範囲を踏まえ、追加の検証が必要だとしている。業種や危機の種類が違えば、求められる説明も変わる。

さらに、言葉が適切でも、実際の救済や改善が進まなければ、信頼回復にはつながりにくいだろう。

問い合わせ窓口を案内しても、そこに連絡がつかない。対応すると約束しても、進捗が分からない。利用者に同じ説明を何度も求める。

こうした経験が重なれば、丁寧な発表文との落差が、別の不信を生む可能性がある。

六つの原則は、信頼回復を保証する公式というより、自社の説明と行動に何が足りないかを点検するための視点と捉えたい。


誠実さは、発表した後にも問われる

危機対応を「正しい声明を出す仕事」と考えると、発表した瞬間が一つの終点になる。

しかし、利用者にとっては、その後に長い時間が残る。商品の到着を待つ時間、サービスの復旧を待つ時間、自分の情報が悪用されないか気にする時間だ。

その間に何を知らせ、どの声に応え、どこまで問題を解決したのか。企業の誠実さは、そこで確かめられる。

嘘をつかないことは出発点である。そのうえで、不明な点を明らかにし、相手の困りごとに目を向け、次の行動を具体的に示す。

危機のときに問われるのは、説明の巧みさだけではない。影響を受けた人が判断し、行動できるよう、企業が情報と支援を届け続けられるかどうかだ。


出典

  1. Phys.org:2026年11月6日掲載。危機対応における正直さを、情報提供、敬意、解決への行動まで含めて説明している。
    https://phys.org/news/2026-11-redefining-honesty-crisis-truth.html
    ※本稿では、依頼時に提供された記事全文も参照した。phys.org

  2. ポーツマス大学の研究情報:六つの原則、研究方法、研究の限界。
    実務者20人へのインタビューに基づくこと、六つの原則の正式な構成、追加検証が必要であることを確認した。
    https://researchportal.port.ac.uk/en/publications/honest-brand-messaging-during-crises-communication-principles-fro/
    論文DOI:
    https://doi.org/10.1080/23311975.2026.2747479University of Portsmouth

  3. Marks & Spencer公式「Cyber Update」:企業による被害説明と顧客への案内。
    持ち出された情報の説明、なりすましへの注意喚起、パスワード再設定の案内を参照した。
    https://corporate.marksandspencer.com/cyber-updateMarks & Spencer

  4. Reddit「Cyber attack」:関連事例に対するSNS上の反応。
    2025年5月の公開スレッド。企業の説明への不信、正確な調査には時間が必要だという意見、今後の対応を重視する意見を要約した。研究への直接の反応ではなく、投稿内の技術的な推測は事実として採用していない。
    https://www.reddit.com/r/MarksAndSpencer/comments/1kliqr9/