折りたたみiPhoneだけではない ― 新CEOジョン・ターナスが背負う「Apple再起動」の大舞台

折りたたみiPhoneだけではない ― 新CEOジョン・ターナスが背負う「Apple再起動」の大舞台

世界最大級のテクノロジー企業が、新しいリーダーの下で最初の一歩を踏み出す。

Appleは2026年9月9日午前10時、米カリフォルニア州クパチーノで特別イベントを開催する。日本時間では9月10日午前2時の開始となる。イベントのテーマは「Surprise and shine」。例年であれば次世代iPhoneやApple Watchが主役になる季節だが、今回はいつもの秋とは事情が異なる。

舞台の中心に立つのは、9月1日に最高経営責任者へ就任したばかりのジョン・ターナス氏だ。ティム・クック氏から経営のバトンを受け取ってから、わずか約1週間。CEOとして初めて臨む大型製品発表である。

そこで披露される可能性が高いと報じられているのが、Apple初の折りたたみiPhoneだ。

しかし、この夜に問われるのは、端末が本当に折りたためるかどうかだけではない。約15年にわたるクック体制の後、Appleが再び製品そのものの驚きで市場を動かせるのか。そして生成AIで先行する競合各社に、独自の答えを提示できるのか。イベントは、新製品発表会であると同時に「ターナス時代のApple」に対する最初の信任投票になる。


Apple一筋25年、ハードウェアを知り尽くした新CEO

ターナス氏は機械工学を学び、2001年にAppleの製品設計部門へ加わった。2013年にハードウェアエンジニアリング担当のバイスプレジデントとなり、2021年からは同部門の上級副社長として経営陣に参加した。

Appleでの在籍期間は約25年。Mac、iPad、iPhone、AirPodsなど、同社の主要製品群に関わるハードウェア開発を幅広く監督してきた人物だ。近年ではAppleシリコンへの移行、製品の薄型化、再生アルミニウムや3Dプリント部品の採用、修理しやすさの改善などにも関与したとされる。

創業者型のカリスマでも、営業や調達畑の経営者でもない。製品の構造、素材、製造工程を理解する技術者がトップに立ったことは、それ自体がAppleから市場へのメッセージと受け取れる。

クック氏の時代、Appleはサプライチェーンを高度に管理し、サービス事業を拡大し、企業価値を大きく伸ばした。一方で、新しい製品カテゴリーを生み出す力や生成AIへの対応速度については、たびたび厳しい視線を向けられてきた。

ターナス氏に託されたのは、クック氏が築いた巨大な収益基盤を守りながら、Appleを再び「次の製品を期待される会社」にする仕事だ。しかもクック氏は会社を完全に去るのではなく、取締役会のエグゼクティブチェアマンとして残る。経営の継続性は確保される反面、新CEOがどこまで独自色を打ち出せるのかも注目される。


最大の注目は「パスポート型」の折りたたみiPhone

今回のイベントで最も大きな関心を集めているのが、左右に開くブック型の折りたたみ端末だ。一部では「iPhone Ultra」や「iPhone Fold」といった仮称で呼ばれているが、正式名称を含め、Appleは発表前の段階で詳細を明らかにしていない。

予測されているのは、閉じた状態では比較的コンパクトなスマートフォンとして使い、開くと小型タブレットに近い画面になる設計だ。画面サイズについては、外側が約5.5インチ、内側が約7.8インチとの情報も出ている。ただし、これらは流出情報やモックアップを基にした数値であり、正式仕様ではない。

折りたたみスマートフォンは、Appleが最初に開拓する市場ではない。Samsung、Huawei、Google、Motorolaなどはすでに複数世代の製品を投入し、薄さ、重量、耐久性、画面の折り目、アプリの表示方法といった課題を改善してきた。

それでもAppleの参入が特別視されるのは、同社が新技術へ早期参入するよりも、先行製品の問題点を見極めてから市場そのものを拡大する戦略を繰り返してきたためだ。

スマートフォンも、腕時計型端末も、ワイヤレスイヤホンも、Appleが世界で最初に発明したわけではない。それでもハードウェア、ソフトウェア、販売網、ブランドを一体化し、大衆市場へ普及させた実績がある。折りたたみ端末についても「最後に参入した有力企業が、カテゴリーの基準を作り直す」という展開が期待されている。


成否を左右するのは、折り目とヒンジ

折りたたみ端末の弱点として長年指摘されてきたのが、中央部分に残る折り目、可動部の耐久性、端末の厚さ、内側画面の傷つきやすさだ。

通常のスマートフォンなら一枚の板として設計できるが、折りたたみ端末には画面を保護しながら何万回もの開閉へ耐える構造が必要になる。ヒンジを頑丈にすれば重量や厚さが増え、薄くすれば耐久性への不安が強まる。画面を柔らかくすれば曲げやすくなる一方、傷やへこみへの対策が難しくなる。

市場関係者は、Appleが参入する以上、強固なヒンジと目立ちにくい折り目を主要な差別化要素にすると予想している。これらを解決できなければ、「数年間待った末に既存製品と似たものを出した」という評価になりかねない。

反対に、閉じた状態で片手操作がしやすく、開けば電子書籍、写真編集、動画、文書、複数アプリの同時利用に適した画面を提供できれば、iPhoneとiPad miniの間に新しい利用場面を作れる。

重要なのは「折れること」ではなく、「折れるから何が便利になるのか」を説明できるかどうかだ。


2500ドルを超える可能性、スマートフォンはぜいたく品になるのか

価格も大きな焦点である。

報道や市場予測では、Appleの折りたたみ端末が2500ドルを超える可能性も指摘されている。単純な為替換算だけでも高額であり、税金や各地域の価格設定を加味すれば、日本では一般的なノートパソコンを大きく上回る価格帯に入る可能性がある。

高価格の背景には、複雑なヒンジ、2枚のディスプレイ、高価な柔軟性素材、歩留まりの低い製造工程などがある。さらに2026年のスマートフォン市場では、AI処理に必要なメモリー需要の増加や部品不足が製造コストを押し上げている。

IDCは2026年の世界スマートフォン出荷台数が前年比16.7%減少する一方、平均販売価格は27.6%上昇して581ドルに達するとの見通しを示した。市場全体が台数では縮小しながら、金額では高価格製品へ偏る構造になっている。

そのなかで折りたたみ端末は、数少ない成長分野とみられている。同社は2026年の折りたたみ端末出荷が前年比12.6%増の2290万台、2027年には約2700万台へ拡大すると予測する。Appleの折りたたみiPhoneについては、2027年までに1700万台以上を出荷し、同市場の約40%を占める可能性も示している。

もっとも、これは正式発表前の市場予測であり、販売実績ではない。2500ドルを超える端末が本当に大規模な需要を生むかどうかは、製品の完成度、供給量、通信会社の分割払い、下取り制度によって大きく変わる。

最初の世代は大衆向けというより、最新技術を求める利用者や、高額でも新しい体験を優先する層に向けた象徴的な製品になる可能性が高い。


SNSでは「待っていた」と「必要ない」が真っ二つ

発表を前に、YouTube、Reddit、Xなどでは折りたたみiPhoneをめぐる議論が活発になっている。ただし、これらは無作為抽出された世論調査ではなく、テクノロジーへの関心が高い利用者による公開投稿だ。そのため、市場全体の評価を表す数字ではなく、期待と懸念の論点を知る材料として見る必要がある。

 

肯定的な意見で目立つのは、「iOSを使い続けながら折りたたみ端末へ移行したかった」「スマートフォンと小型iPadを一台にまとめられる」「読書やマルチタスクに向いていそう」といった声だ。

Redditでは、開いたときの縦横比が電子書籍や漫画、ウェブ閲覧、二つのアプリの並列表示に適しているのではないかと期待する投稿が確認できる。Apple Pencilに対応すればiPadの代わりとして検討したいという意見や、現在Samsungの折りたたみ端末を使いながら、Apple版の登場を待っているという利用者もいる。

一方、懐疑的な意見も少なくない。

YouTubeで公開された非公式モックアップの紹介動画では、画面中央の折り目、閉じた際の寸法、端末の厚さ、2000ドルを超えるとみられる価格に否定的な反応が寄せられた。折りたたみ機能そのものについて「解決すべき利用者の問題が見えない」「普通のスマートフォンで十分」「初代製品は様子を見たい」とする意見もある。

Redditでは、中央の折り目を指でなぞる感触、柔らかい内側画面の傷つきやすさ、砂やほこりがヒンジへ入る可能性を心配する声が上がる。また、開いた状態で動画を再生すると上下に大きな余白ができるのではないか、既存アプリが特殊な縦横比へ正しく対応できるのかといった、実用面の疑問も出ている。

Xでは、2500ドル前後という予想価格を前提に「購入しない」と表明する投稿がある一方、Appleの新体制を象徴する製品として注目する意見も見られる。

つまりSNSの反応は、単純な歓迎一色でも、拒絶一色でもない。「欲しい」と感じる人は明確な利用場面を思い描き、「必要ない」と考える人は価格と耐久性に見合う価値が見つからない。この隔たりを埋められるかどうかは、Appleが発表の中でどれほど具体的な利用体験を示せるかにかかっている。


iPhone以上に重要な「Siriの再出発」

ターナス氏にとって、もう一つの難題がAIである。

生成AIの急速な普及に対し、Appleはプライバシーや端末内処理を重視する姿勢を打ち出してきた。しかし利用者が日常的に触れる音声アシスタントでは、GoogleのGeminiやOpenAIのサービスなどと比べ、進化の速度が遅いとの批判が続いている。

Appleは2026年の世界開発者会議で、Apple Intelligenceを基盤とする新しいSiriを発表した。報道では、背後の一部機能にGoogleのAI技術を活用する大幅な刷新も進められている。

新しいSiriが、画面の内容や個人の予定、メッセージ、アプリ間の操作を理解し、実際の作業を安全に完了できるようになれば、iPhoneの価値は単なる性能向上とは違う形で伸びる。折りたたみ端末の広い画面とAIが結びつけば、情報収集、翻訳、編集、複数アプリをまたぐ操作など、新しい利用方法を提示できるかもしれない。

しかし、AI機能は発表すれば終わりではない。対応言語、提供地域、処理速度、誤回答への対策、個人情報の扱い、外部アプリとの連携がそろって初めて実用的になる。

欧州では規制上の問題から一部機能の提供が遅れる可能性があり、中国でも承認に時間を要するとの見方がある。世界同時展開が難しければ、米国の発表で示された体験と、各国の利用者が実際に使える機能との間に差が生じる。

ハードウェア出身のターナス氏が、AIを単なる付加機能として語るのか。それとも端末、OS、サービスを一体化する次の基盤として示すのか。ここに新CEOの戦略が表れる。


「発表」と「発売」を分けて考える必要

今回のイベントを評価する際には、発表された製品がすぐ店頭に並ぶとは限らない点にも注意が必要だ。

SNS上でも、発表予定の製品と実際に出荷できる製品が混同されているとの指摘がある。折りたたみ端末は製造が難しく、初期生産数が限られる可能性がある。発表、予約開始、出荷の間に数週間、場合によっては数カ月の差が生まれることも考えられる。

また、標準モデルのiPhone 18や廉価モデル、後継iPhone Airについては、更新が2027年春へ移るとの予測も報じられている。事実なら、Appleは秋にProモデルと超高価格の折りたたみ端末、春に大衆向けモデルを投入する二段構えへ移行することになる。

この変更は、新製品への注目を年間で分散させると同時に、部品不足のなかで利益率の高いモデルを優先する合理的な判断でもある。ただし、秋に通常モデルを待っていた利用者を混乱させる恐れもあり、明確な発売計画の説明が欠かせない。


ターナス氏に求められる三つの答え

今回の初舞台で、新CEOが答えるべき問いは三つある。

第一は、折りたたみ端末が単なる高価な話題作ではなく、毎日の使い方を変える製品になっているか。

第二は、AppleがAI競争で遅れを取り戻し、プライバシーと利便性を両立できるか。

第三は、ティム・クック氏の成功を受け継ぐだけでなく、ターナス氏自身がどのような会社を作ろうとしているのかである。

折りたたみiPhoneが正式に発表されれば、Appleにとって久しぶりの大型フォームファクター変更になる。しかし、製品が折れること自体に価値があるわけではない。閉じれば使いやすいスマートフォンとなり、開けば仕事や創作の可能性が広がり、その体験をAIが自然に支える。そこまでを一つの物語として提示できて、初めてAppleらしい製品になる。

新CEOの初イベントは、華やかな製品発表で終わるのか。それとも、停滞が指摘されてきたAI戦略とスマートフォンの未来を同時に動かす転換点になるのか。

世界が見ようとしているのは、新しいiPhoneだけではない。ジョン・ターナス氏が、Appleの次の時代をどのように設計する人物なのか。その最初の答えである。


【出典・参照URL】

・ジョン・ターナスCEOが就任後初の製品発表を行い、折りたたみiPhoneが予想されていることを報じた記事
https://business-panorama.de/news.php?newsid=6710717

・Apple公式発表。ティム・クック氏のエグゼクティブチェアマン就任、ターナス氏のCEO就任日、経歴など
https://www.apple.com/newsroom/2026/04/tim-cook-to-become-apple-executive-chairman-john-ternus-to-become-apple-ceo/

・Apple公式イベントページ。2026年9月9日の開催日時とイベントテーマ
https://www.apple.com/apple-events/

・Reuters。予想価格、折りたたみ端末の構造、Siri刷新、新CEOが直面する課題に関する報道
https://www.reuters.com/business/retail-consumer/apples-ternus-faces-ai-test-foldable-iphone-takes-center-stage-2026-09-08/

・AP通信。Appleの後発参入戦略、折りたたみ市場、新CEOの役割に関する分析
https://apnews.com/article/apple-foldable-iphone-ternus-fd35312e6d894d5f3b055b3d62f22cd2

・IDC。2026年のスマートフォン市場、平均販売価格、折りたたみ端末の成長率、Apple製品に関する予測
https://www.idc.com/resource-center/blog/smartphone-shipments-set-for-record-16-7-drop-in-2026-as-the-memory-crisis-hits-full-force/

・YouTube「Unbox Therapy」。非公式モックアップを使った折りたたみ端末の紹介と視聴者反応の確認に使用
https://www.youtube.com/watch?v=S19NVJNr3Xk

・Reddit。折りたたみiPhoneの寸法、画面比率、用途、折り目、価格、耐久性などに対する賛否の確認に使用
https://www.reddit.com/r/iphone/comments/1sh2mox/iphone_folds_size_is_interesting/

・Reddit。折りたたみiPhoneの仕様や必要性に対する利用者の意見の確認に使用
https://www.reddit.com/r/iphone/comments/1quz23v/new_iphone_fold_specs_revealed_including_design/

・Reddit。9月イベントで予想される製品と、発表時期・発売時期を区別すべきだとする議論の確認に使用
https://www.reddit.com/r/apple/comments/1vnsjiz/whats_coming_in_september_new_iphones_apple/

・Reddit。ターナス氏の初舞台とCEO交代に対するApple利用者の反応の確認に使用
https://www.reddit.com/r/apple/comments/1u0g6up/wwdc_2026_postevent_megathread/

・X。予想される高価格を理由に折りたたみモデルを購入しないとする公開投稿の参照
https://x.com/twid/status/2097390013847888050