米国で電動トラックが失速した本当の理由

米国で電動トラックが失速した本当の理由

米国で電動トラック、とりわけ電動ピックアップへの期待が大きく高まった時期があった。巨大な荷台、力強い加速、静かな走行、さらに停電時には家や現場に給電できる――そんな“未来の働く車”として注目されてきたからだ。だが現実の販売は、その期待に追いついていない。2025年の米国における電動ピックアップ販売は合計9万19台で、前年から15.6%減った。首位のFord F-150 Lightningでさえ2万7307台、Tesla Cybertruckは2万237台、Rivian R1Tは7416台にとどまり、主力モデルの多くが前年割れとなった。

この失速は、単に「EV人気が終わった」という単純な話ではない。むしろピックアップという車種が、セダンやコンパクトSUV以上に“妥協を嫌う”カテゴリーだという事実が浮き彫りになったと言うべきだろう。米国のピックアップ購入者にとって重要なのは、移動の快適さだけではない。長距離を走れるか、重いものを引っ張れるか、作業車として使えるか、地方でも困らないか、という条件が前提になる。その条件の一つでも曖昧だと、購入判断は一気に慎重になる。販売不振の背景としては、高金利、高い車両価格、税額控除の終了が重なり、米国の新車市場全体でも買い控えが起きている。2026年1〜3月の米新車販売は前年同期比で5.3%減となり、FordのEV販売も大きく落ち込んだ。

とりわけ大きかったのは、価格と政策の逆風だ。米国では新車EV向けの7500ドル税額控除が2025年9月30日に終了し、その反動が販売にのしかかった。Reutersは、税額控除の終了後にEV販売が急減したこと、またトランプ政権がEV購入や生産を後押しする制度を後退させ、ガソリン車を作りやすい方向へ政策を動かしていると伝えている。実際、EV全体の販売比率も直近四半期で大きく落ち込み、メーカー各社はより安価なEVやハイブリッドへ比重を移し始めた。電動ピックアップのような高額モデルは、真っ先に逆風を受けやすい。

ここで重要なのは、米国で電動トラックが伸び悩んでいる一方、世界全体では別の景色が見えていることだ。IEAによると、世界の電動トラック販売は2024年に約80%増え、全トラック販売の約2%まで拡大した。成長の中心は中国で、2024年の世界販売の8割超を占める。Reutersも、中国では2025年上半期の新エネルギートラック販売が前年同期比175%増の7万6100台に達し、新車トラック販売の約4分の1を占めたと報じている。つまり「電動トラックそのものが無理」なのではなく、米国市場では価格、政策、インフラ、使用環境の条件がまだ整っていない、という見方のほうが実態に近い。

SNSや掲示板の反応を見ると、この現実はかなり率直に語られている。目立つのは、まず「高すぎる」という声だ。Cybertruckの価格改定をめぐる議論では、「電動ピックアップは人気がないのではなく、8万ドル級だと売れないだけだ」という見方が出ていた。またGM系の電動トラックに関する議論でも、「航続距離や急速充電は改善してきたが、価格が高すぎて大多数のトラック購入者の予算に合わない」という反応が見られる。市場が未成熟というより、値段が先に限界を作っているという受け止め方だ。

次に多いのが、いわゆる“航続距離不安”より“充電不安”を問題視する声だ。関連スレッドでは「今の不安はレンジではなくチャージングだ」という意見や、「自宅充電があるなら印象は大きく変わるが、公共充電や寒冷地では経済性も安心感も急に落ちる」という指摘が並ぶ。牽引を前提にした利用では、この不安はさらに強くなる。F-150 Lightningの利用者コミュニティでも、近距離の牽引なら成立するが、長距離牽引では充電計画が重荷になるという見方が共有されている。Rivian系の議論でも、寒冷地や牽引時には実航続距離が大きく落ちるという経験談が目立つ。トラックに求められる“どんな条件でも仕事をこなせる安心感”が、まだ完全には満たされていないのだ。

 

ただし、SNSの空気は悲観一色ではない。ガソリン価格の上昇局面では、「内燃機関のF-150を満タンにする金額で、Lightningを1カ月近く走らせられる」といった比較が話題になっていた。Reutersも、足元の燃料高がEV販売に一定の追い風を与える可能性があると報じている。実際、自宅で安価に充電できるユーザーにとっては、日常利用のコストや静粛性、加速性能、給電機能は非常に魅力的だ。電動ピックアップが“完全に失敗した製品”というより、使い方がハマる人には強く刺さるが、その対象がまだ広くない商品だと考えるほうが自然だろう。

メーカー側も、すでに方向転換を始めている。FordはF-150 Lightningの生産を打ち切り、完全EVの大型ピックアップ一本足ではなく、より現実的な価格帯や航続距離不安を和らげる構成へ舵を切った。InsideEVsも、各社がレンジエクステンダー付きEVや、より安価で現実的なモデルへ向かっていると報じている。これは後退ではなく、むしろ市場の使い方に合わせた再設計と言える。理想を売る段階から、条件付きでも選ばれる商品を作る段階へ移ったのだ。

結局のところ、米国の電動ピックアップ市場が直面しているのは、技術の敗北というより“商品設計と市場条件のズレ”である。高額でも売れる、多少不便でも我慢してもらえる、という楽観は崩れた。しかしそれは同時に、何が足りなかったのかがはっきりしたということでもある。価格を下げること、充電を当たり前にすること、牽引や寒冷地でも安心できる性能を示すこと。そこまで到達できれば、電動トラックは再び伸びる可能性がある。今の失速は終わりではない。むしろ、幻想が剥がれたあとに始まる本当の競争の入口なのかもしれない。


出典URL

https://www.nytimes.com/2026/04/07/climate/electric-truck-sales-united-staes.html

2025年の米国電動ピックアップ販売台数の内訳、Ford・Tesla・Rivian・GM系モデルの増減確認
https://insideevs.com/news/784397/best-selling-electric-pickups-america-2025/

米国EV全体の2025年通年・Q4販売データの確認(Cox Automotive / Kelley Blue Book)
https://www.coxautoinc.com/wp-content/uploads/2026/01/Q4-2025-Kelley-Blue-Book-EV-Sales-Report.pdf

米国の新車市場全体が高金利・高価格で鈍化している点の確認
https://www.reuters.com/business/autos-transportation/us-first-quarter-auto-sales-expected-slip-affordability-concerns-2026-04-01/

EV税額控除終了後の販売鈍化、EV市場シェア低下、燃料高がEV需要に与える影響の確認
https://www.reuters.com/business/autos-transportation/kia-sell-lower-priced-electric-vehicle-us-2026-04-01/

米EV税額控除が2025年9月30日に終了したことの確認
https://www.reuters.com/sustainability/us-electric-vehicle-tax-breaks-will-expire-sept-30-2025-07-03/

FordがF-150 Lightningからより現実的なEV戦略へ転換した流れの確認
https://www.reuters.com/business/autos-transportation/ford-retreats-evs-takes-195-billion-charge-trump-policies-take-hold-2025-12-15/

世界の電動トラック販売が2024年に約80%増えたこと、中国が世界販売の8割超を占めることの確認
https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2025/trends-in-heavy-duty-electric-vehicles

中国の電動大型トラック販売が急増していることの確認
https://www.reuters.com/sustainability/climate-energy/soaring-electric-truck-sales-deal-new-blow-diesel-use-china-2025-07-11/

SNS・掲示板上での「自宅充電なら経済性が高い」という反応の参照
https://www.reddit.com/r/F150Lightning/comments/1sc854c/145_to_fill_up_an_ice_f150_142_for_an_entire/

SNS・掲示板上での「航続距離不安より充電不安」という反応の参照
https://www.reddit.com/r/electriccars/comments/1py54ca/is_ev_anxiety_real_or_users_have_the_wrong_ev/

SNS・掲示板上での牽引時の使い勝手に関する反応の参照
https://www.reddit.com/r/F150Lightning/comments/1lhqa3q/f150_in_its_current_form_is_not_going_to_receive/

SNS・掲示板上での寒冷地・牽引時の実航続距離への不安の参照
https://www.reddit.com/r/Rivian/comments/1i3k6z1/abysmal_winter_range_on_r1t/

SNS・掲示板上での「性能は進歩したが価格が高すぎる」という反応の参照
https://www.reddit.com/r/GMCSierraEV/comments/1osa8x3/fate_of_ev_trucks/