TikTokで広がる「日焼け止め不要論」 ― バズる健康情報の落とし穴

TikTokで広がる「日焼け止め不要論」 ― バズる健康情報の落とし穴

TikTokで広がる「日焼け止め不要論」――SNS反応が映す健康情報の危うさ

夏が近づくたびに、日焼け止めはドラッグストアや美容売り場の主役になる。紫外線対策、シミ・しわ予防、皮膚がんリスクの低減。これらは長年、皮膚科医や公的機関が繰り返し伝えてきた基本的な健康情報だ。

ところが近年、TikTokを中心とする短尺動画プラットフォームでは、これとは正反対のメッセージが広がっている。「日焼け止めは体に悪い」「太陽は敵ではない」「化学成分は毒」「牛脂のような自然なもののほうが安全」。こうした主張は、専門的な説明よりも感情に訴える言葉で語られ、短い動画の中で強い印象を残す。

カナダのToronto Sunが報じた記事では、TikTok上で日焼け止めに関する誤情報が広がっていること、そしてそれをめぐって皮膚科医や研究者が懸念を強めていることが紹介された。記事のもとになった研究は、2024年に投稿された日焼け止め関連のTikTok動画約1,000本を分析したものだ。研究者たちは、日焼け止めを推奨する動画、批判する動画、その両方を含む動画を分類し、視聴回数やコメント、いいね、シェアなどの反応を比較した。

興味深いのは、TikTok上の日焼け止め関連動画の大多数は、実は日焼け止めの使用を肯定的に扱っていたという点である。つまり、プラットフォーム全体が反日焼け止め一色になっているわけではない。むしろ、多くの投稿は日焼け止めの使い方、製品レビュー、塗り直しの重要性、紫外線対策の必要性を伝えていた。

それにもかかわらず、問題は一部の批判的な動画が、相対的に高い反応を集めていたことにある。研究では、日焼け止めを否定的に扱う動画が、視聴者からより多くのコメント、いいね、シェアを得る傾向が見られた。これは、正しい情報が存在していても、刺激的な情報のほうが人の注意を奪いやすいという、SNS時代の典型的な現象を示している。


「日焼け止めは毒」という言葉がなぜ響くのか

SNS上で広がる反日焼け止めの主張には、いくつかのパターンがある。代表的なのは、「日焼け止めには発がん性物質が含まれている」「化学成分が体内に吸収される」「日光浴を避けるとビタミンDが不足する」「日焼けは本来健康的なもの」「製薬会社や化粧品会社が不安をあおって商品を売っている」といったものだ。

これらの主張は、一見すると視聴者の疑問に寄り添っているように見える。近年は食品、医薬品、化粧品、ワクチンなどをめぐり、「大企業が隠している真実があるのではないか」と疑う空気が広がりやすい。そこに「自然」「本来の健康」「昔ながらの方法」といった言葉が組み合わさると、科学的根拠が弱くても説得力を帯びてしまう。

特にTikTokのような短尺動画では、複雑な説明よりも、強い断言のほうが拡散されやすい。「これは危険です」「医者は教えてくれません」「私は日焼け止めをやめて肌がきれいになりました」といった語り口は、視聴者の不安や好奇心を一瞬で刺激する。医学的な検証よりも、個人の体験談やビフォーアフターの見せ方が強く印象に残るのだ。

しかし、皮膚科医が懸念するのは、こうした動画が単なる美容トレンドで終わらないことだ。日焼け止めを避ける行動は、紫外線による皮膚ダメージの蓄積につながる。長期的には、しみ、しわ、たるみといった見た目の変化だけでなく、皮膚がんのリスクにも関わる。

日光を浴びること自体が悪いわけではない。体内でビタミンDを作るうえで日光が関係するのは事実だ。しかし、「日光には利点がある」という話と、「日焼け止めを使わなくてよい」という話は別である。専門家が問題視しているのは、日光の利点を理由に、紫外線による害を軽視する投稿が広がっている点だ。


SNSの反応――共感、不信、反論が入り混じる

この問題へのSNS上の反応は、大きく三つに分かれる。

一つ目は、反日焼け止めの主張に共感する層だ。彼らは「肌に塗るものはできるだけ自然なものがいい」「成分表を見ると不安になる」「昔の人は日焼け止めなしで生活していた」といった感覚を共有する。中には、牛脂や植物オイルなどを代替品として紹介する投稿に好意的な反応を示す人もいる。

この層の反応には、単なる無知というより、現代の医療・美容産業への不信が見える。化粧品の成分名は一般の消費者にとってわかりにくく、専門用語が並ぶだけで「危険そう」と感じる人も少なくない。そこにインフルエンサーが「私はこれをやめたら調子がよくなった」と語れば、科学的なデータよりも身近な体験談として受け取られる。

二つ目は、誤情報への不安や怒りを示す層だ。SNS上では、「日焼け止めを塗らないことを健康法のように広めるのは危険」「若い人が信じたらどうするのか」「皮膚がん経験者の家族がいるので軽く扱わないでほしい」といった反応も目立つ。特に医療関係者や科学コミュニケーションに関心のあるユーザーは、短い動画で断定的に健康情報を語ることのリスクを指摘している。

三つ目は、どちらにも完全には同意せず、戸惑いを示す層である。「結局どの日焼け止めなら安全なのか」「化学日焼け止めとミネラル日焼け止めの違いがわからない」「日焼け止めは必要だと思うが、成分への不安もある」といった声だ。この層は、誤情報を積極的に信じているわけではないが、情報量の多さに疲れている。専門家が最も丁寧に向き合うべきなのは、この迷っている層かもしれない。

SNS上の反応を見ていると、問題は「正しい情報がない」ことではなく、「信頼できる情報にたどり着く前に、感情を揺さぶる情報に接触してしまう」ことにある。さらに、アルゴリズムは反応の多い動画を押し上げる。怒り、不安、驚き、陰謀論的な興味を誘う投稿は、コメント欄で論争を生み、それ自体が拡散の燃料になる。


「多数派は正しい情報」でも安心できない理由

研究で重要なのは、日焼け止めを推奨する動画が多数派だったという結果だ。これは明るい材料でもある。TikTokには皮膚科医、美容専門家、科学系クリエイター、一般ユーザーによる有益な情報も多い。塗る量、塗り直し、SPFの選び方、屋外活動での注意点などをわかりやすく伝える投稿は、確かに存在している。

しかし、多数派であることと、影響力が強いことは同じではない。正確な情報は、しばしば地味で、条件付きで、慎重な言い方になる。「日焼け止めは適切に使用すれば紫外線対策の一部として有効です」「SPF30以上、広域スペクトラム、耐水性のものを選びましょう」「衣服や帽子、日陰も組み合わせましょう」。これは信頼できる説明だが、短尺動画の世界では、どうしても刺激に欠ける。

一方で、誤情報は強い。「日焼け止めは毒」「肌に塗ってはいけない」「真実を隠されている」。こうした言葉は、正確さよりも衝撃を優先する。視聴者は「そんなはずはない」と反論するためにコメントするかもしれないし、「本当なら怖い」と感じて保存するかもしれない。いずれにしても、プラットフォーム上では反応が増える。つまり、信じていない人の反論すら、動画の拡散に貢献してしまうことがある。

この構造は、公衆衛生にとって厄介だ。研究者が指摘するように、日焼け止めをめぐる誤情報には、目新しさ、ショック、陰謀論的な要素が含まれやすい。これらは人間の感情を刺激し、共有したくなる心理を生む。正しい情報が地道に積み上げられる一方で、誤情報は一瞬で燃え広がる。


皮膚科医が警告する本当のリスク

日焼け止めは、紫外線を吸収または反射することで肌を守る。もちろん、日焼け止めだけで完璧な防御になるわけではない。帽子、サングラス、長袖、日陰、紫外線の強い時間帯を避けることなど、複数の対策を組み合わせることが望ましい。

それでも、日焼け止めは紫外線対策の重要な柱である。皮膚科医が反日焼け止め動画に警鐘を鳴らすのは、日焼け止めをやめることで、視聴者が不必要なリスクを負う可能性があるからだ。とくに若い世代は、いま受けた紫外線ダメージの結果をすぐには実感しにくい。肌の変化や皮膚がんリスクは、何年もかけて現れる。

また、「日焼け止めは発がん性がある」といった主張は、非常に強い言葉であるにもかかわらず、しばしば根拠が曖昧だ。成分への懸念や環境影響について議論がある場合でも、それは「日焼け止めを使わないほうが安全」という結論に直結しない。リスクを比較する視点が必要だ。紫外線による皮膚ダメージは確立したリスクであり、日焼け止めはそのリスクを下げるために使われる。

もちろん、肌が敏感な人、特定成分で刺激を感じる人、香料や使用感が苦手な人はいる。その場合は、別のタイプの日焼け止めを選ぶ、ミネラル系を試す、皮膚科医に相談するなどの選択肢がある。問題は、不安を理由に紫外線対策そのものを放棄してしまうことだ。


新成分ベモトリジノールと、逆風のタイミング

今回の報道で興味深いのは、米国で日焼け止めの新たな有効成分、ベモトリジノールが認められたタイミングとも重なっていることだ。ベモトリジノールは、UVAとUVBの両方を防ぐ広域スペクトラムの紫外線フィルターとして、すでに他国で使われてきた成分である。米国では長年、新しい日焼け止め成分の承認が進みにくい状況が続いていたため、今回の追加は大きな節目と受け止められている。

本来であれば、日焼け止めの選択肢が増えることは、消費者にとって前向きなニュースだ。白浮きしにくい、使い心地がよい、幅広い紫外線を防ぎやすいといった改良が進めば、日常的に使いやすい製品が増える可能性がある。日焼け止めは、理論上優れているだけでは不十分で、実際に毎日使ってもらえることが重要だからだ。

しかし、ちょうどその時期に「日焼け止めは危険」というメッセージがSNSで注目を集めると、新しい選択肢への理解よりも、不安や疑念が先に広がる可能性がある。成分名が難しいほど、「よくわからないから危なそう」と受け取られやすい。ここでも、専門家やメディアには、単に「安全です」と言い切るだけではなく、何がわかっていて、何が議論されているのかを丁寧に説明する姿勢が求められる。


情報の受け手に必要な三つの視点

では、私たちはSNSで健康情報に接したとき、どう判断すればよいのか。

第一に、「強すぎる断言」を疑うことだ。健康に関する話題で、「絶対に危険」「誰も教えてくれない真実」「これだけで十分」といった表現が使われている場合、注意が必要である。医学や公衆衛生の情報は、多くの場合、条件や個人差を含む。断言が強いほど、根拠を確認したほうがよい。

第二に、個人の体験談と科学的根拠を分けて考えることだ。ある人が「日焼け止めをやめたら肌の調子がよくなった」と感じたとしても、それはすべての人に当てはまる証明にはならない。たまたま使用していた製品が肌に合わなかっただけかもしれないし、別の生活習慣の変化が影響していた可能性もある。体験談は参考にはなるが、医療的な結論にはならない。

第三に、「代替案」が本当に同じ効果を持つのかを確認することだ。牛脂や植物オイルなどを塗る投稿があったとしても、それが日焼け止めと同じように紫外線を防ぐとは限らない。自然由来であることは、安全性や有効性を自動的に保証しない。逆に、人工的に作られたものだから危険というわけでもない。


プラットフォームと専門家の責任

TikTok側は、健康関連の誤情報を禁止し、独立したファクトチェッカーと協力して誤情報の特定や削除に取り組んでいるとしている。ただし、現実には、すべての誤情報を即座に見つけて止めることは難しい。とくに日焼け止めのようなテーマでは、明らかな虚偽と個人の感想、製品レビュー、思想的な健康観が混ざり合う。単純な削除だけでは対応しきれない領域だ。

そのため、プラットフォームだけでなく、専門家側の発信も重要になる。皮膚科医や研究者が、若い世代に届く言葉と形式で情報を発信する必要がある。長い論文や公式声明だけでは、短尺動画のスピードには対抗しにくい。誤情報がバズる場所で、正しい情報も同じように見つけやすくする工夫が求められる。

ただし、専門家の発信も「上から正す」だけでは届かない。視聴者が日焼け止めに不安を抱く背景には、肌荒れの経験、成分への疑問、企業への不信、過去の健康情報への失望がある。そうした感情を無視して「科学的に正しいから信じなさい」と言っても、かえって反発を招くことがある。

大切なのは、不安を否定せず、リスクを比較できるようにすることだ。「成分が心配ならこう選ぶ」「肌に合わないなら別の選択肢がある」「日焼け止めだけに頼らず衣服や日陰も使う」。このような実用的で柔らかい説明こそ、迷っている人に届きやすい。


バズる健康情報とどう付き合うか

日焼け止めをめぐるTikTokの議論は、単なる美容トレンドではない。これは、現代の健康情報がどのように広がり、どのように誤解され、どのように行動を変えるのかを示す事例である。

SNSでは、正しい情報が必ず勝つとは限らない。むしろ、刺激的で、感情を揺さぶり、誰かを悪者にする情報のほうが目立ちやすい。日焼け止めのように身近なテーマであればあるほど、人は自分の経験や価値観を重ねて反応する。だからこそ、誤情報は「知らない誰かの問題」ではなく、誰もが巻き込まれ得る問題だ。

もちろん、日焼け止めを使うかどうかは個人の選択である。しかし、その選択は、できるだけ正確な情報に基づいて行われるべきだ。SNSの短い動画で不安になったなら、そこで結論を出す前に、皮膚科医や公的機関、査読済み研究など、複数の信頼できる情報源を確認したい。

太陽を恐れる必要はない。しかし、紫外線のリスクを軽視する必要もない。自然な暮らしを大切にすることと、科学的に確かめられた予防策を使うことは、対立しなくてよいはずだ。

TikTokで広がる「日焼け止め不要論」は、私たちに一つの問いを投げかけている。私たちは、バズった情報を信じるのか。それとも、少し立ち止まり、根拠を確かめてから行動するのか。

健康を守るために必要なのは、恐怖ではなく、判断力である。そして日焼け止めをめぐる今回の議論は、その判断力がSNS時代にますます試されていることを示している。


出典URL

Toronto Sun記事:TikTokで日焼け止めに関する誤情報が広がっていることを報じた記事
https://torontosun.com/health/sunscreen-misinformation-spreading-on-tiktok-researchers

PLOS Digital Health掲載研究:TikTok上の日焼け止め関連動画971本を分析し、誤情報を含む動画の反応傾向を調べた研究
https://journals.plos.org/digitalhealth/article?id=10.1371/journal.pdig.0001440

Washington Post記事:Toronto Sun記事が参照している報道元。研究者や皮膚科医の見解、TikTok側の説明を紹介
https://www.washingtonpost.com/health/2026/06/20/most-tiktok-sunscreen-content-is-accurate-misinformation-gets-attention/

FDA発表:2026年6月9日にベモトリジノールを米国の日焼け止め有効成分リストへ追加したことに関する公式発表
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-expands-sunscreen-options-first-time-20-years

American Academy of Dermatology:SPF30以上、広域スペクトラム、耐水性の日焼け止めを推奨する皮膚科専門団体の解説
https://www.aad.org/media/stats-sunscreen

The Skin Cancer Foundation:日焼け止めの使用と皮膚がん・皮膚老化予防に関する解説
https://www.skincancer.org/skin-cancer-prevention/sun-protection/sunscreen/