ステルシングの危険性:性的同意を奪う行為、なぜ起きるのか? 豪研究が示した2つの危険信号

ステルシングの危険性:性的同意を奪う行為、なぜ起きるのか? 豪研究が示した2つの危険信号

“同意した”のはコンドームありの性行為だけだった――ステルシング研究が突きつけるもの

性交中に相手の同意なくコンドームを外す行為は、英語圏で「ステルシング」と呼ばれてきた。だが、この言葉の軽さに違和感を覚える人は少なくない。なぜなら、それは単なるマナー違反でも、避妊の失敗でも、性的な駆け引きでもないからだ。相手が「コンドームを使うなら」という条件で同意した性行為を、途中で一方的に別のものへ変えてしまう行為である。

豪サンシャインコースト大学の研究チームは、この行為を「Non-Consensual Condom Removal」、つまり非同意のコンドーム除去として扱い、加害リスクと関係する心理的特徴を調べた。調査対象は100人超の男性。研究は探索的な位置づけではあるが、同意を侵害する行動を「なぜ一部の人が選びうるのか」を考えるうえで、重要な手がかりを示している。

最も目を引くのは、「特権意識」または「誇大性」と呼ばれる認知パターンとの関連だ。研究によれば、自分にはルールが当てはまらない、自分の欲求は他人の境界より優先される、といった感覚が強い男性は、ステルシングに対する興奮や実行意図を示す可能性が3倍以上高かったという。

ここで重要なのは、問題が「避妊に無頓着な人」や「その場の勢いで判断を誤る人」だけに限られない点だ。研究が示しているのは、より根深い認知の問題である。相手の同意を、対等な意思表示としてではなく、自分の欲望を満たすための障害物のように見てしまう。そうした自己中心的な見方が、性暴力のリスクと結びつく可能性がある。

さらに研究チームは、もう一つの特徴として「懲罰性」に注目している。これは、自分の望みに相手が従わないとき、相手を罰したい、思い知らせたいと感じる傾向を指す。研究者は、ステルシングが一部の加害者にとって、単なる快楽追求ではなく、相手への報復や支配の手段として用いられている可能性を示唆している。

この指摘は重い。ステルシングを「避妊具を外しただけ」と捉えると、問題の本質を見誤る。実際には、相手が設定した条件を無視し、身体的リスクと精神的被害を一方的に負わせる行為である。性感染症、望まない妊娠、不安、恐怖、裏切られた感覚。被害は身体だけでなく、信頼や自己決定感にも及ぶ。

SNS上でも、この点に反応が集まっている。Redditの心理学系コミュニティでは、記事の共有後、「これは“ステルシング”という婉曲表現ではなく性暴力として語るべきだ」という趣旨のコメントが複数見られた。ある投稿者は、相手がコンドーム使用を条件に同意したなら、それを外した時点で同意は失われると主張していた。別のユーザーも、単なる「失礼」や「不誠実」ではなく、性的暴力や性的加害として扱うべきだと反応していた。

一方で、議論は被害率の幅にも向かった。研究紹介では、過去のエビデンスとして、女性の8〜32%、男性の5〜19%が経験した可能性があるとされている。この幅の大きさについて、SNSでは「なぜここまで数字に差があるのか」という疑問が出た。調査方法、質問文の違い、被害認識の有無、報告しづらさなどが影響している可能性がある。特にステルシングは、被害者がその場で気づかないこともあり、実態把握が難しい。

また、男性被害をどう扱うかという議論も起きていた。数字だけを見ると、男性にも一定の被害経験が示されている。SNSでは、男性の性被害が軽視されがちだという声がある一方で、男性被害の中には男性同士の性行為におけるケースも含まれるだろうという指摘もあった。いずれにしても、同意のないコンドーム除去は、被害者の性別を問わず深刻な侵害である。

ただし、この研究は「すべての男性が危険だ」と言っているわけではない。むしろ、どのような認知や態度がリスクを高めるのかを明確にすることで、予防や教育に活かすことが目的だ。研究では、コンドーム使用に対する自信が高い男性ほど、非同意のコンドーム除去に関与する可能性が低いことも示された。これは、実践的な性教育やコミュニケーション教育が、単なる知識提供にとどまらず、リスク低減につながる可能性を示している。

同意教育ではしばしば「ノーと言われたら止める」という説明がされる。しかし、ステルシングの問題はそれだけでは足りないことを教えている。同意は一度得たら最後まで有効な白紙委任ではない。条件が変わるなら、改めて確認しなければならない。コンドームを使うことを前提にした同意は、コンドームなしの性行為への同意ではない。

オーストラリアでは近年、ステルシングを明示的に違法化する動きが進んできた。クイーンズランド州でも2024年9月から、コンドームの非同意除去や改変を同意のない性行為として扱う法改正が施行された。英国・ウェールズでは、支援団体がステルシングをレイプとして説明しており、条件付き同意の問題として扱われている。米国でもカリフォルニア州が2021年に、同意なくコンドームを外す行為に対して民事上の責任を問える制度を導入した。

こうした法整備は、被害者保護のためだけではない。社会に対して、「同意の条件を勝手に変えることは許されない」というメッセージを出す役割もある。性行為における同意は、単に「する/しない」の二択ではない。いつ、誰と、どのような条件で行うかという具体的な合意の積み重ねである。その条件の一つを一方的に破ることは、相手の身体への自己決定権を奪うことに等しい。

 

SNSの反応が強かったのも、この点が直感的に理解されているからだろう。「ステルシング」という言葉は一見、隠れて何かをする行為を指す中立的な表現に見える。しかし、その実態は、相手が引いた境界線を意図的に越えることだ。あるユーザーが示したように、言葉が軽いと、被害も軽く見えてしまう危険がある。

もちろん、研究には限界もある。今回の調査は100人超の男性を対象にした探索的研究であり、すべての地域や文化にそのまま一般化できるわけではない。また、ステルシングのような行為は、自己申告で正確に測ることが難しい。加害意図を正直に回答しない人もいれば、自分の行為を加害として認識していない人もいるだろう。だからこそ、さらなる研究が必要になる。

それでも今回の研究は、性暴力の予防を考えるうえで重要な方向性を示している。加害リスクを「衝動」や「性欲」だけで説明するのではなく、特権意識、懲罰性、共感の欠如、相手の自律性への軽視といった認知パターンとして捉えること。これは、治療プログラムや教育現場で取り組むべき具体的な課題を明らかにする。

性教育に必要なのは、避妊具の使い方だけではない。相手の同意をどう確認するか。自分の欲求と相手の境界がぶつかったとき、どう振る舞うべきか。拒否されたときに相手を罰したいと感じる心理を、どう自覚し、止めるか。今回の研究が示す「コンドーム使用への自信」が保護的に働く可能性も、実践的な教育の重要性を裏づけている。

ステルシングは、密室で起きるため見えにくい。被害者が後から気づくこともあり、証明が難しい場合もある。だからこそ、社会全体で「それは同意の範囲を超えている」と明確に言語化する必要がある。SNSでの反応は荒く、時に感情的でもあるが、その中心には「これは軽く扱われるべきではない」という共通した問題意識があった。

今回の研究が投げかける問いは、加害者の特徴にとどまらない。私たちが同意をどれほど具体的に理解しているのか、そして相手の身体と選択をどれほど尊重しているのかを問い直している。コンドームを使うという条件で同意した人は、コンドームなしの性行為に同意したわけではない。この当たり前の線引きを、社会の常識として定着させることが、被害を減らす第一歩になる。



出典URL

Phys.org。研究概要、主要な研究結果、研究者コメントを参照。
https://phys.org/news/2026-05-key-traits-condom-stealthers.html

サンシャインコースト大学の公式ニュースリリース。研究者コメント、調査概要、クイーンズランド州での違法化に関する記述を参照。
https://www.unisc.edu.au/about/unisc-news/news-archive/2026/may/study-finds-key-traits-of-condom-stealthers

EurekAlert!掲載の大学発表。研究手法、DOI、論文タイトル、発表日などの確認に使用。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1128912

Taylor & Francis掲載論文。研究論文「The relationship between early maladaptive schemas and non-consensual condom removal in an Australian sample」のDOIおよび書誌情報。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1068316X.2026.2640594

Reddit r/psychologyの投稿。SNS上の反応として、性暴力として扱うべきという声、被害率の幅への疑問、男性被害をめぐる議論を参照。
https://www.reddit.com/r/psychology/comments/1tikndf/men_with_a_strong_sense_of_entitlement_are_3/

Reddit r/scienceの投稿。SNS上での研究共有状況と、調査方法への疑問を含む反応を参照。
https://www.reddit.com/r/science/comments/1tikn30/men_with_a_strong_sense_of_entitlement_are_3/

クイーンズランド州政府の同意法解説ページ。2024年9月23日施行の同意法改正、ステルシングの明示的犯罪化、条件付き同意の扱いを参照。
https://www.qld.gov.au/community/getting-support-health-social-issue/support-victims-abuse/sexual-abuse-assault/understanding-sexual-consent/consent-laws-in-queensland

Rape Crisis England & Walesの解説ページ。英国・ウェールズでステルシングがレイプとして扱われること、条件付き同意の説明を参照。
https://rapecrisis.org.uk/get-informed/types-of-sexual-violence/what-is-stealthing/

Californiaにおけるステルシング規制に関する報道。米国カリフォルニア州での法制化の文脈を参照。
https://www.ktvu.com/news/california-makes-it-illegal-to-stealth-or-remove-condom-without-consent