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アザラシを音で追い払え:絶滅危機のスコットランドサーモンを救う新兵器

アザラシを音で追い払え:絶滅危機のスコットランドサーモンを救う新兵器

2025年11月24日 06:50

「川底からスピーカー」の時代へ?

イギリスの大衆紙 Daily Mail は2025年11月22日、「It may sound fishy, but loudspeakers could save the future of Scottish salmon(ちょっと“胡散臭く”聞こえるかもしれないが、スピーカーがスコットランドのサケの未来を救うかもしれない)」というタイトルの記事で、奇抜とも言えるアイデアを紹介した。Muck Rack


そのアイデアとは、スコットランドの川底に水中スピーカーを沈め、サケを捕食しに来るアザラシを音で追い払うというものだ。川を遡上する野生サケの近くで、アザラシが嫌がる周波数やパターンの音を発して「ここは居心地が悪い」と感じさせ、物理的な衝突や捕食を減らそうという発想である。


一見するとB級SF映画の装置のようだが、その背景には「このままでは野生サケが本当に消えてしまう」という切迫した危機感がある。



スコットランドの野生サケはどれくらい追い詰められているのか

野生の大西洋サケは、いまや世界的な危機種だ。イギリスの自然保護団体の分析では、英国全体で野生サケは過去40年で約70%減少し、とくにスコットランドでは25年ほどで同程度の落ち込みが確認されている。GWCT


スコットランド政府の最新の評価でも、多くの河川で成魚の回帰数は長期的な減少傾向にあり、以前と比べて戻ってくるサケの数が大きく落ち込んでいることが示されている。スコットランド政府


さらに、スコットランドのサーモン業界団体によると、海での生存率は30年前には約25%だったのが、現在は1〜5%程度にまで低下したという。Salmon Scotland


その理由は一つではない。

  • 気候変動による海水・河川水温の上昇

  • 農業や工業に伴う水質悪化

  • ダムや堰による遡上ルートの分断

  • そして、海面養殖に由来するシラミ(シーライス)や病気の拡大Citizen Space

これらが積み重なり、サケは「気候危機」と「産業構造」の両方に挟まれた象徴的な生き物になっている。



アザラシという“もう一つのプレッシャー”

そこにさらに加わるのが、アザラシによる捕食圧だ。

スコットランド沿岸にはハイイロアザラシやゼニガタアザラシが多数生息しており、サケやトラウトは彼らにとって大切な餌である。野生サケが川に戻る狭い水路や河口は、自然の「ボトルネック」になりやすく、アザラシにとっては格好の狩り場だ。


これまでは、サケ養殖業者や漁業者がアザラシを銃で射殺するケースもあったが、動物福祉の観点から強い批判を浴び、2020年にはスコットランドのサケ養殖場での射殺は大幅に制限される方向となった。ザ・ガーディアン


同時に、アザラシを音で追い払う「音響威嚇装置(Acoustic Deterrent Devices, ADDs)」の使用についても、クジラやイルカなどの海洋哺乳類に悪影響を与えるとの懸念から、規制が強化されている。スコットランド政府


つまり、人道的な理由と生態系保全の両方の観点から、「撃つ」ことも「大音量で追い払う」ことも難しくなっている。その中で登場したのが、今回の「よりターゲットを絞った水中スピーカー」の発想だ。



「スタートル技術」──アザラシだけをピンポイントで驚かす

近年注目されているのが、「ターゲット型音響スタートル技術(Targeted Acoustic Startle Technology, TAST)」と呼ばれるアプローチだ。


これは、アザラシの聴覚特性に合わせた短い音をランダムなタイミングで鳴らし、「びくっ」と驚かせることで、彼らにストレスを与えずにその場から退かせるというコンセプトである。Western CEDAR


従来のADDが「ずっと大きな音を鳴らし続けて近づけない」スタイルだったのに対し、TASTは「たまにピンポイントで驚かす」スタイル。騒音の総量を抑えつつ、アザラシの学習効果(“どうせ害はない”と慣れてしまうこと)も避けようとしている。


スコットランドでは、この種の装置をサケ養殖場の周辺に設置する試みがすでに始まっており、アザラシ被害を減らしつつ、クジラやイルカへの影響を最小限に抑えられるかどうか、フィールドテストが進んでいる。セントアンドリュース研究リポジトリ


今回報じられた「川に沈める水中スピーカー」は、この技術やコンセプトを野生サケの遡上ルートに応用しようとするものだと考えられる。



もう一つの“音のテクノロジー”:サケを襲うシラミと戦うAcuLice

音響技術でサケを守ろうとしているのは、アザラシ対策だけではない。ノルウェー発の「AcuLice」というシステムは、サケに寄生するシラミ(サーモンライス)を音で弱らせる技術として注目されている。NECON


AcuLiceは、低周波を含む複雑な音のパターンを水中で発生させることで、シラミの摂食や繁殖を抑制し、結果として寄生数を40〜60%程度減らせたと報告されている。NECON


さらに、従来の薬剤投与や温水処理と異なり、魚体へのダメージや化学物質の流出がない「ゼロエミッション」のソリューションとして、ノルウェー食品安全局などからも注目されている。NECON


スコットランドでも、シーライスをはじめとする病害対策は野生サケ保全の大きな課題であり、AIと3Dホログラフィーを使ったシラミ早期検知システムなど、さまざまな技術開発が進められている。持続可能な養殖


「音でサケを守る」アプローチは、捕食者対策から寄生虫対策まで、幅広い場面で試され始めているのだ。



音で救うか、音で追い詰めるか――懸念される“海の騒音公害”

しかし、「音」で問題を解決しようとするアプローチにはリスクも多い。

まず、海や川の中での音は、人間の感覚以上に遠くまで届く。クジラやイルカなどの海洋哺乳類は、音に非常に敏感で、餌探しやコミュニケーションを音に頼っている。そのため、音響装置が多用されれば、彼らの行動に深刻な影響を与えかねない。


実際、スコットランドの環境団体や科学者は、従来型の強力なADDがイルカやネズミイルカに聴覚障害やストレスを与える可能性を指摘し、法的な規制を求めてきた。The Ferret


TASTのように「驚かす回数を減らし、音量も抑えた」システムであっても、設置箇所が増えれば、結果として海全体の騒音レベルは上がる。野生サケを守ろうとして別の生き物を追い詰めることになれば、本末転倒だ。


また、人間にとって心地よくない技術は、地元コミュニティとの軋轢も生む。釣り人やカヤック愛好家が「川に近づくと妙な音がする」と感じれば、観光資源としての魅力が損なわれる恐れもある。



SNSの反応:歓迎、懐疑、そして自虐ネタ

この水中スピーカー構想について、英語圏や日本語圏のSNSで見られそうな反応を整理すると、大きく三つのタイプに分かれる。


①「銃よりはマシ」派

「アザラシを撃つより、音で追い払う方がよっぽど人道的」
「動物園みたいな“管理された自然”でも、殺すよりはずっといい選択肢だと思う」

といった声だ。アザラシ射殺に対する嫌悪感は強く、「ノンキリング(殺さない管理)」を評価するスタンスである。


②「また人間が自然をいじっている」派

「問題の根本は気候変動と過剰な養殖なのに、また新しいガジェットでごまかそうとしている」
「海をこれ以上うるさくしてどうする。静かな海を守ることこそサケのためでは?」

といったコメントは、テクノロジーに頼る“対症療法”への違和感をストレートに表している。海の騒音増加や、他の生き物への影響を懸念する意見だ。


③「ブラックユーモアで受け止める」派

「次はサケ用のノイズキャンセリングヘッドフォンかな」
「将来のスコットランド観光ガイド:『こちらが世界初、24時間BGM付きのサケの川です』」

など、シュールな未来像で皮肉る投稿も想像に難くない。技術自体は面白いが、どこか“ディストピア感”が漂う、というニュアンスだ。


こうした賛否とジョークが入り混じるリアクションは、「自然保護にどこまでテクノロジーを持ち込むべきか」という現代的な悩みをよく表している。


「野生サケをどうしたいのか」を問い直す

水中スピーカーによるアザラシ対策は、単なるガジェット以上の意味を持つ。それは、私たちが野生サケを「どのような存在として残したいのか」を問う試金石だからだ。

  • 絶滅さえしなければ、多少“管理された自然”でもよいのか

  • それとも、人間の介入はできるだけ抑え、「自然な淘汰」に任せるべきか

  • あるいは、気候変動や産業活動でサケを追い詰めてきた責任を取る意味で、積極的な人為的介入が必要なのか

スコットランドでは、川沿いの大規模な植林や河川形状の復元といった、より“地味な”生息地改善プロジェクトも進んでいる。たとえば、ディー川流域では水温を下げるために数十年スパンでの植林と河川再生プロジェクトが始まっている。ザ・ガーディアン


水中スピーカーは、それらの取り組みの一つの“補助輪”になりうる一方で、「本来やるべきこと」を覆い隠すリスクもはらんでいる。



日本の読者へのヒント:テクノロジーより先に“川”を見る

日本でも、サケやマス類、アユなど回遊魚の減少は各地で問題になっている。ダムや堰、河川改修、温暖化、外来種など、原因はやはり複合的だ。


スコットランドの水中スピーカー計画のニュースは、「日本も同じ装置を導入すべきだ」という直接的な話ではない。むしろ、

  • 問題の原因が複数あるときに、どこに手を付けるのか

  • テクノロジーを導入する前に、もっと根本的な生息地の改善でできることはないか

  • 新しい技術を導入するとき、誰の声をどこまで聞くのか(漁業者、科学者、動物福祉団体、地域住民など)

といった問いを、あらためて投げかけている。


水中スピーカーが実際にどこまで効果を発揮し、副作用はどれほどかは、今後の実証実験と議論次第だろう。

ただ一つ確かなのは、「何もしなければ、野生サケは静かに消えていく」という現実だ。沈黙のまま見送るのか、多少騒がしくても手を差し伸べるのか――スコットランドの試みは、その悩ましい選択を私たちに見せつけている。



参考記事

怪しい話に聞こえるかもしれませんが、スピーカーがスコットランドのサケの未来を救うかもしれません。
出典: https://www.dailymail.co.uk/news/article-15316811/It-sound-fishy-loudspeakers-save-future-Scottish-salmon.html?ns_mchannel=rss&ns_campaign=1490&ito=1490

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