ニトリ家電が世界で注目される理由――“ちょうどいい”価格とトータルコーディネート戦略の破壊力

1. 序章――家具屋が家電市場で主役に躍り出た

“お、ねだん以上。”のキャッチコピーで知られるニトリは、2000年代から小型家電を細々と扱ってきたが、2023年以降は冷蔵庫・洗濯機・テレビなど大型白物へ一気に舵を切った。

2025年6月には“ドラム式洗濯乾燥機9万9,900円”がニュース番組で特集され、SNSでもコスパの高さが話題に。洗濯機売上は前年比200％に達し、家電事業は同社の新たな成長エンジンとなっている。newsdig.tbs.co.jp

2. 価格破壊の舞台裏――“必要十分”を突き詰める

2-1. 相場より最大４割安

一般的な10 kgクラスのドラム式は17～18万円が相場だが、ニトリは10万円を切る価格を実現した。最大の要因は「機能の絞り込み」。乾燥フィルター自動洗浄や温水洗浄といった“外せない快適機能”は残し、スマホ連携などの付加機能は最小限に抑えることで原価を圧縮した。newsdig.tbs.co.jpnewsdig.tbs.co.jp

2-2. 原価と販管費を削る垂直統合

ニトリは自社グループ内で企画・ODM発注・輸送・店舗販売・ECを統合管理。船便の自社チャーターや国内７拠点の大型物流センター活用により、輸送コストと在庫リスクを抑えている。メーカーから小売までを跨ぐ“多重マージン”を排除できるため、価格競争力が群を抜く。nitorihd.co.jp

3. トータルコーディネート提案がもたらす購買体験

家具・寝具・カーテンを選んだ流れで家電も同じ売場で比較できる――これは外国人にとっても“引っ越し一括購入”を実現する大きなメリットだ。アプリ上ではソファと冷蔵庫を同じ3D AR空間に配置でき、色味・質感が合うか瞬時に確認できる。家具屋出身の強みを、デジタル体験にも落とし込んでいる点が他社と一線を画す。nitorihd.co.jp

4. ５年保証とアフターサポート――コストだけでは終わらない安心

大型家電には標準で５年保証（4万9,900円以上）を無償付帯。さらに有償で10年延長も可能。外国人居住者に多い「日本語での修理依頼が不安」という声に応えるため、LINEの多言語チャットボットを導入し、英語・中国語・ベトナム語ほか７言語に対応。

安さとサポート品質を両立することで、価格訴求だけに留まらないブランドロイヤルティを醸成している。toyokeizai.net

5. 海外店舗での実証――アジアで支持される“日本式合理性”

2025年現在、ニトリはアジア６地域151店舗を展開し、そのうち約３割で家電を正式導入。韓国・ベトナムでは家電売場の坪効率が家具を上回る事例も報告された。地方都市では「日本ブランド」「５年保証」「即日配送」が現地チェーンとの差別化要因となり、観光客の“爆買い”ニーズも吸収。一部店舗では日本円決済→免税発送スキームを導入し、訪日困難な顧客にも対応している。nitori.co.jp

6. 洗濯機売上２倍の内訳――顧客セグメント別分析

• 単身者層（20～30代）：洗浄６ kg・乾燥３ kgモデルを中心に買い替え需要が活発。月額1,500円のサブスク型“Try Nitori Home Appliances”も人気。
  
  

• ファミリー層（子育て世帯）：10–12 kgクラスが主力。温水洗浄と自動ホコリ除去が共働き層に刺さり、平均客単価は＋18%向上。
  
  

• 外国人居住者・留学生：LINE多言語サポートと、英語マニュアル同梱が決定打。短期滞在でも“売却保証”を付けたレンタル延長プランが好評。
  
  

セグメント別に販促を最適化することで、洗濯機カテゴリだけで営業利益率は２桁を維持している。newsdig.tbs.co.jp

7. 競合の追随と市場構造の変化

ヤマダHDやイオン傘下のPB家電が類似価格帯を投入し競争が激化。とはいえ、家具＋家電＋物流の一括オペレーションを持つ競合は稀だ。ECプラットフォーム側も“ニトリモデル”を追うべくPB供給網の短縮に動き、結果として消費者は「高機能＝高価格」という固定観念から解放されつつある。

ニトリはこの潮流を先導し、家電市場の“価格PUA（プライス×ユースフルネス×アフォーダビリティ）”を塗り替えている。toyokeizai.net

8. 課題――技術革新と環境規制への対応

低価格実現の裏で、

①AI制御・IoT連携など先端機能の開発力不足
②欧州RoHSや新冷媒規制などへの海外適応コスト
③家電リサイクル法改正による処理負担増

の３点は今後のリスクだ。ニトリは2026年度に中国・深圳と福岡にR&Dセンターを開設し、自社仕様SoCと省エネアルゴリズムの共同開発を進める計画を公表している。nitorihd.co.jp

9. 今後の展望――家具・家電・住宅の“三位一体”へ

ニトリHDは中期経営計画で2032年の売上３兆円を掲げ、その中核に「住空間ソリューション事業」を据える。IoT家電・家具・住宅リフォームをアプリで一元管理し、サブスクやリセールを織り交ぜた循環型モデルを構想。外国人市場を含むグローバル展開で“Japanese Reasonable Quality”を旗印に、世界100ヵ国1,500店舗体制を目指す。

10. まとめ

ニトリ家電好調の鍵は、「どこよりも安い」だけでなく、家具屋だからこそ可能な“暮らし全体”の視点と、垂直統合によるコスト・サポート最適化にある。価格感度の高い在日外国人や新興国消費者にとって、ニトリは“必要十分で無駄がない”日本的合理性を体現するブランドだ。

家具と家電を一括で揃え、アフターサービスも充実――ニトリのモデルは、今後の世界家電市場に新たな基準を打ち立てる可能性を秘めている。

参考記事一覧

1. TBS NEWS DIG「洗濯機の売り上げが2倍に “ちょうどいい”価格?」(2025-06-26) newsdig.tbs.co.jp

2. TBSテレビ Nスタ動画「大型家電に本格参入、洗濯機の売り上げが2倍」(2025-06-26) newsdig.tbs.co.jp

3. 東洋経済オンライン「家具のニトリがドラム式洗濯乾燥機を販売する深い事情」(2025-06-13) toyokeizai.net

4. Nitori Holdings 統合報告書2024「垂直統合サプライチェーンと家電拡充」 nitorihd.co.jp

5. Nitori Global News「Announcement of 5th Store Opening in Korea」(2025-06-16) nitori.co.jp