メインコンテンツにスキップ
ukiyo journal - 日本と世界をつなぐ新しいニュースメディア ロゴ
  • 記事一覧
  • 🗒️ 新規登録
  • 🔑 ログイン
    • English
    • 中文
    • Español
    • Français
    • 한국어
    • Deutsch
    • ภาษาไทย
    • हिंदी
クッキーの使用について

当サイトでは、サービスの向上とユーザー体験の最適化のためにクッキーを使用しています。 プライバシーポリシー および クッキーポリシー をご確認ください。

クッキー設定

クッキーの使用について詳細な設定を行うことができます。

必須クッキー

サイトの基本機能に必要なクッキーです。これらは無効にできません。

分析クッキー

サイトの使用状況を分析し、サービス向上に役立てるためのクッキーです。

マーケティングクッキー

パーソナライズされた広告を表示するためのクッキーです。

機能クッキー

ユーザー設定や言語選択などの機能を提供するクッキーです。

「猛暑」より怖いもの ─ インドの女性をむしばむ“終わらない暑さ”という暴力

「猛暑」より怖いもの ─ インドの女性をむしばむ“終わらない暑さ”という暴力

2025年11月18日 23:46

1. 「熱波」よりも厄介なものの正体

2025年のインドは、またしても「観測史上最悪クラス」の暑さに見舞われた。だが問題は、ニュースで報じられる数日の**ヒートウェーブ(熱波)**だけではない。


より静かで、より長く、じわじわと人を追い詰めるもの――それが、NYTimesの見出しが指摘した “Heat Stress(暑熱ストレス)” だ。


最近の研究では、インドの57%の行政区がおおむね高い〜非常に高い熱波リスクにさらされており、人口の約4分の3がその中に暮らしているとされる。特に湿度の高い夜間の気温上昇は、体が熱を逃がせない「命に関わる暑さ」を常態化させている。Reuters


それでも、公的な統計が把握する熱関連死亡者数は、実際よりはるかに少ない可能性が高い。医師が「熱中症」と診断したケースだけがカウントされ、心疾患や腎不全、脳卒中など、暑さが引き金になったかもしれない死は見逃されていると指摘されている。dtnext

つまり、インドでは「熱波が終わったからもう安全」という日など、ほとんど存在しないのだ。



2. なぜ“女性”に集中してしまうのか

暑熱ストレスの矢面に立たされているのは、インド社会の中でも最も声を上げにくい人々だ。その中核にいるのが女性である。

インドでは、農業労働者の約6割強を女性が占め、非農業分野の女性労働者の6割以上がインフォーマル(非公式・非正規)セクターで働いているという。Mongabay-India


それは、次のような日常を意味する。

  • 暑さが増す前の早朝から畑で働き、昼前には40度近い日差しの下で収穫や草抜きを続ける。

  • 都市部では、廃品回収や露店での軽食販売、縫製やビーズ細工といった家内工業を、風通しの悪い路地やトタン屋根の小部屋でこなす。

  • 仕事が終わっても休めない。水汲み、調理、洗濯、子どもの世話、病人や高齢者の介護といった家事・ケア労働のほとんどは女性の肩に乗っている。


政府や国際機関は、熱波対策として「日中は屋外活動を控える」「屋内にとどまる」といったメッセージを発する。しかし、家の中こそが最も暑く、最も危険な職場になっていることは、しばしば見落とされる。



3. 「家の中」がサウナになるとき

インドの多くの都市スラムや低所得地域の住宅は、トタン屋根やコンクリートで造られ、断熱材や換気設備はほとんどない。ある調査では、屋外より屋内の方が高温になるケースが多数見られ、夜になっても壁と屋根が熱を放ち続けることが示されている。ザ・ガーディアン


扇風機はあるが、熱い空気をかき回すだけ。電力料金の高騰や停電で、クーラーどころか扇風機さえ止まることもある。

この空間で、女性たちは日がな一日、火を使って調理し、沸かした湯で洗濯し、汗だくの子どもたちをシャワーに入れる。もし家族の誰かが熱で倒れれば、看病も担う。


気候変動と都市化によって、「屋内の暑さ」という新しい公衆衛生上のリスクが生まれているにもかかわらず、多くのヒートアクションプランは屋外の暑さ対策に偏り、家の中で働き続ける女性に特化した視点はほとんど盛り込まれていない。ザ・ガーディアン



4. 体の中で起きている“静かな異変”

暑熱ストレスは、単に「つらい」「眠れない」で終わる話ではない。女性の体の中では、じわじわと深刻な変化が起きている。

  • ホルモンバランスの乱れ
    高温環境は内分泌系に影響を与え、月経周期の乱れや生理痛の悪化、PMSの重症化を引き起こす可能性があるとする研究が増えている。Mongabay-India

  • 妊娠・出産への影響
    南アジアの研究では、妊娠期の高温暴露が、低体重出生や早産、死産のリスク増加と関連づけられている。インド南部タミル・ナドゥ州の調査でも、作業中の暑さが妊娠経過を悪化させる傾向が示されている。Mongabay-India

  • 更年期症状の増幅
    もともとホットフラッシュや不眠に悩まされやすい更年期の女性にとって、40度近い環境は症状を何倍にも増幅させる。汗が出すぎて脱水になりやすく、心血管疾患のリスクも高まる。Mongabay-India

  • 貧血と腎臓病
    BMJに掲載された論考は、頻発する熱波がインド女性の貧血を悪化させていると警告する。暑さによる食欲不振や栄養不足、脱水と過労が重なり、すでに深刻な貧血問題に追い打ちをかけているという。BMJ

  • 水汲みとトイレの問題
    水不足で遠くまで水を汲みに行かなければならない地域では、炎天下を何往復もするのは主に女性だ。しかも公共トイレが少なく不衛生なため、水分を控える女性も多く、尿路感染症や腎臓病のリスクを押し上げている。Mahila Housing Trust

これらはすべて、統計上は「熱中症」とは別の病名で処理される。だからこそ、暑熱ストレスの健康影響は過小評価され続けている。



5. 路上と工場で働く女性たちの一日

NYTimes の記事タイトルに合わせ、ここではインドの女性労働者の1日を追ってみよう。

例えば、グジャラート州の都市で揚げスナックを売る女性露天商や、路上で廃品を集めて回る女性清掃労働者たち。経済紙の短い紹介によれば、こうした女性たちは早朝から人通りの多い道路沿いに立ち、昼のピーク時には路面からの照り返しと車の排気熱に挟まれながら働き続けている。The Economic Times


日中の気温が45度近くまで上がる日でも、売上を確保するためには店を畳むわけにはいかない。熱で頭がくらくらしても、「今日休めば明日の米が買えない」。


工場でも事情は似ている。インド南部の縫製工場や繊維工場では、女性労働者がほとんど冷房のない広いホールでミシンを踏み続ける。ファッション業界のサプライチェーンを取材した報道によれば、室温が50度近くに達することもあり、脱水や疲労、腎障害が問題になっている。Reuters


このように、屋外と屋内、フォーマルとインフォーマルを問わず、女性の働く場は暑さに対して最も脆弱な条件がそろっている。



6. SNSが映し出した「共感」と「苛立ち」

NYTimesの記事が配信されると、X(旧Twitter)やLinkedInなどのSNSには、瞬く間にリンクがシェアされた。X (formerly Twitter)

 


反応は大きく分けて三つのトーンに分かれている。

  1. 共感と感謝の声
    気候変動やジェンダーを専門とする研究者・ジャーナリストからは、「南アジアの女性が抱える暑さの現実を正面から描いた貴重な記事だ」と評価するポストが目立った。ヒートストレスという専門用語が一般読者向けのニュースで取り上げられたこと自体が重要だ、という指摘もある。

  2. 「やっと注目された」という安堵と怒り
    インド在住のユーザーの中には、「私たちは何年もこの暑さと闘ってきたのに、世界が気づくのは今になってからか」という複雑な感情を吐露する書き込みもあった。
    彼女たちにとって記事は、日常の苦しみが国際メディアで“翻訳”された喜びであると同時に、国内メディアや政府が十分に取り上げてこなかったことへの怒りの表明でもある。

  3. 政策への苛立ちと提案
    一部のアクティビストやNGO関係者は、ヒートアクションプランの多くが「男性の屋外労働者」を前提に設計されており、家事労働やケア労働、ホームベースワーカーなど女性の現実を反映していないと批判。
    「熱さを我慢するのは個人の責任ではなく、インフラと労働条件の問題だ」という主張とともに、性別別の健康データの整備や、女性主体のコミュニティ組織を政策決定に組み込む提案が共有されている。csf-asia.org

SNSのタイムラインは、インドの暑さを「遠い国の異常気象」として眺める視点から、「ジェンダーと階級が交差する構造的な問題」として理解し直そうとする試みで埋め尽くされた。



7. 何を変えればいいのか──“涼しさ”より“公正さ”を

では、暑熱ストレスから女性を守るために、何ができるのか。各地の調査や現場の実践から見えてくるキーワードは、「涼しさ」そのものよりも、むしろ**「公正さ(フェアネス)」**だ。

  • インフラの公正さ
    バス停や市場、路上の屋台エリアに無料の給水ポイントと日陰スペースを設置する。屋台や家屋のトタン屋根に安価なクールルーフ(白塗装や断熱シート)を導入する。csf-asia.org

  • 労働条件の公正さ
    1日の中で最も暑い時間帯を避けるシフトや休憩時間の義務化、熱指数に応じた作業中止ラインを設定する。非公式な雇用であっても、最低限の「暑さの安全基準」を設ける必要がある。PMC

  • データと政策の公正さ
    熱関連の死亡・疾病データを男女別に収集し、妊娠中や更年期などライフステージごとのリスクを把握する。国や州のヒートアクションプランに、女性の健康とケア負担を正面から位置づける。Mongabay-India

  • 声を届ける仕組みの公正さ
    自助グループや女性組合、地域のコミュニティ組織を政策立案のプロセスに参加させる。彼女たちこそ、どの時間帯にどの場所が最も危険なのか、どんな支援が本当に役立つのかを知っている。csf-asia.org


8. 「インドの話」で終わらせないために

NYTimesの記事が伝えようとしたのは、おそらく単に「インドは大変だ」という話ではない。

地球の平均気温が1.5度、2度と上がっていく中で、日本を含む世界中の都市で同じ構図が再現される可能性がある。高齢の女性がエアコンのない団地で夏を乗り切ろうとしている光景は、すでに日本でも見慣れたものだ。


暑熱ストレスは、一瞬で人を倒す派手な災害ではなく、**じわじわと生活と健康を奪う「スローバイオレンス(ゆっくり進行する暴力)」**だ。その矛先がどこに向かいやすいのかを直視したとき、気候危機への適応策は、必然的にジェンダーや貧困の問題と結びついていく。


インドの路上や台所で汗を流す女性たちの姿は、未来のどこかで自分たちの社会が直面するかもしれない現実の、少しだけ先取りされた鏡なのかもしれない。



参考記事

インドの頻繁な熱波よりも危険なものは?熱ストレスです。
出典: https://www.nytimes.com/2025/11/16/world/asia/heat-stress-women-india.html

← 記事一覧に戻る

お問い合わせ |  利用規約 |  プライバシーポリシー |  クッキーポリシー |  クッキー設定

© Copyright ukiyo journal - 日本と世界をつなぐ新しいニュースメディア All rights reserved.