「日本の照り焼き」と「アメリカのTeriyaki」は何が違う? アメリカのBBQに「TERIYAKI」の波 地域差から見える味覚のグローバル化

「日本の照り焼き」と「アメリカのTeriyaki」は何が違う? アメリカのBBQに「TERIYAKI」の波 地域差から見える味覚のグローバル化

地域差から見える味覚のグローバル化

アメリカの庭先で起きている、小さな味覚革命

アメリカの夏を象徴する風景の一つが、庭や公園でグリルを囲むバーベキューだ。

肉が焼ける音、煙の香り、家族や友人が集まる時間。調理法そのものは昔ながらでも、そこで選ばれる味は静かに変わり始めている。

2026年7月に米メディアで紹介されたYouGov調査によると、屋外でグリル調理をする米国人の66%は「慣れた調理法を使いたい」と考えている一方、59%は「異なる味のグリル料理を試したい」、54%は「異なる国や地域の料理・風味を探求したい」と答えた。

一見すると矛盾しているようだが、実際にはそうではない。

火の起こし方や肉の焼き方は変えず、ソースやマリネ液だけを変える。つまり米国の消費者は、得意な技術を捨てるのではなく、慣れたグリルを“味覚の実験台”にしているのである。

調査で最も支持されたのは、当然ながらアメリカンBBQ系の味で74%。しかし、メキシコ・中南米系が57%、地中海系が47%、日本・照り焼き系が44%と続いた。

照り焼きは、もはや一部の日本食好きだけが選ぶエキゾチックな味ではない。定番の肉や野菜に合わせやすい、現実的な選択肢として米国のグリル文化に定着しつつある。


BBQは料理ではなく「集まり方」である

日本ではバーベキューというと、キャンプ場や河川敷、海辺などへ出かけ、焼き肉のように薄切り肉や野菜、魚介類を皆で焼く光景を思い浮かべる人が多い。

一方、米国のグリルは、住宅の庭やポーチに常設された大型グリルを使い、週末や祝日に家族、近隣住民、友人を招く生活文化としての性格が強い。

今回の調査でも、屋外調理を行う場面として「家族の集まり」が43%、「特別な行事や祝日」が40%、「週末」が39%だった。グリルは単なる調理器具ではなく、人が集まる理由をつくる装置になっている。

地域別では中西部の屋外調理参加率が74%と高く、世代別ではZ世代が75%に達した。若い世代ほど屋外調理から離れているという単純な構図ではない。

むしろ、SNSでレシピ動画を見ながら、新しいソースやスパイスを試す世代が、グリル文化の次の担い手になっている可能性がある。

ここで重要なのは、若者が伝統を壊しているのではなく、伝統的な場に新しい味を持ち込んでいることだ。

ハンバーガー、鶏肉、ステーキ、サーモン、野菜といった見慣れた食材に、照り焼き、チポトレ、地中海ハーブ、スパイシーな中南米風ソースを組み合わせる。料理の骨格を維持したまま、風味だけを国際化する動きである。


南部は「漬け込む」、北東部は「塗って仕上げる」

同じアメリカでも、ソースの使い方は地域によって異なる。

調査では、屋外調理をする人の56%が頻繁、または常に食材をマリネし、44%がディップソースを使い、39%が加熱中にソースを塗ってグレーズすると答えた。

特に、日常的にマリネする割合は西部が63%、南部が59%で、中西部の51%、北東部の47%を上回った。

照り焼き利用者に限ると、南部では63%がマリネとして定期的に使い、北東部では46%が加熱中のグレーズとして使う傾向が目立った。

南部の料理文化には、味をしっかり染み込ませ、時間をかけて肉を仕込む発想がなじみやすい。一方、北東部では焼きの最終段階でソースを重ね、表面の香ばしさや照りをつくる使い方が好まれているとみられる。

日本人にとって興味深いのは、後者のグレーズが、日本の「照り焼き」という言葉の本来のイメージに近い点だ。

日本の照り焼きは、しょうゆ、みりん、砂糖などを合わせたたれを魚や肉に絡め、加熱によって表面に照りを出す調理法である。

対して米国のTeriyakiは、肉を長時間漬けるマリネ液や、バーベキューソース、ディップまで含む広いカテゴリーとして発展してきた。

つまり、同じ“teriyaki”でも、地域や家庭によって「下味」「調理中のたれ」「仕上げソース」という役割が変わる。言葉は日本由来でも、使い方は完全に米国化している。


なぜ照り焼きは米国のグリルと相性がいいのか

照り焼きが支持される最大の理由は、複雑な調理技術を必要とせず、食材を選びにくいことだろう。

調査では、照り焼きと組み合わせる食材として鶏肉が85%、牛肉が63%、野菜が50%だった。

鶏もも肉を漬けて焼く、牛肉に薄く塗って香ばしく仕上げる、パプリカやズッキーニ、玉ねぎに絡める。さらに米国では、サーモン、ハンバーガー、ミートボール、串焼き、パイナップルなどへ用途が拡張されている。

しょうゆの塩味、糖分の甘さ、加熱で生まれる香ばしさ、肉の脂と合わさるうま味。これらは、炭火や高温のグリルで分かりやすい満足感を生む。

瓶入りソースなら味が安定し、初心者でも失敗しにくい。新しい国の料理に挑戦する心理的なハードルを下げる点でも強い。

ただし、糖分を多く含むソースは高温で焦げやすい。

SNS上のグリル愛好家の間では、最初から厚く塗るのではなく、下味は薄めにして最後にグレーズする、直火と間接加熱を使い分ける、焦げる前に火の弱い場所へ移すといった実践的な助言が繰り返されている。

照り焼き人気の拡大は、単に商品が売れるだけでなく、使い方をめぐる知識交換も生み出している。


SNSの反応――「万能で便利」と「甘すぎる」が同時に存在

 

今回の記事は公開直後であり、記事そのものに対する大規模なコメントの連鎖は、公開範囲で確認できる限り、まだ限定的だった。

一方、英語圏のRedditやInstagramでは、照り焼きや「Japanese BBQ sauce」を使ったグリル料理が以前から継続的に話題になっている。

そこから見える反応は、大きく四つに分けられる。


手軽さと万能性を評価する声

第一は、手軽さへの評価だ。

市販のジャパニーズBBQソースに、しょうが、にんにく、はちみつ、果汁、酢などを足し、鶏肉を短時間漬けて焼く投稿には、「簡単なのに見栄えがいい」「常備調味料になった」「鶏もも肉との相性がいい」といった反応が集まりやすい。

短い動画で工程を見せられるInstagramでは、材料が少なく、焼き上がりの照りが強い料理ほど拡散に向いている。


漬け込みか、仕上げ塗りか

第二は、使い方をめぐる技術論だ。

漬け込み時間は1時間で十分なのか、一晩置くべきか。焼く前に表面の液を拭うべきか。皮をパリッとさせてから最後に塗るべきか。

甘いソースは焦げやすいため、経験者ほど「終盤に塗る」「間接加熱を使う」と助言する傾向がある。

これは日本の焼き鳥で、たれを何度も重ねながら焦がしすぎないよう焼く感覚にも通じる。


「甘すぎる」「日本の味と違う」という疑問

第三は、甘さと“本物らしさ”への疑問である。

市販の照り焼きソースについて、「甘すぎる」「塩分が強い」「日本食店の味と違う」「自作した方がよい」という声は少なくない。

日本料理に詳しい利用者からは、本来の照り焼きはしょうゆ、酒またはみりん、砂糖を基礎にした比較的シンプルな調理法であり、にんにく、しょうが、増粘剤を多く使う米国のボトルソースとは別物だという指摘も出ている。


「正しいBBQソースは一つではない」

第四は、そもそも「正しいBBQソースは一つではない」という地域意識だ。

米国のSNSでBBQソースの味を尋ねると、トマト系、酢系、マスタード系、甘口、辛口、燻製香の強いものなど、地域ごとに全く違うという反応が相次ぐ。

照り焼きが入ってきても、既存のBBQ文化が一色に塗り替えられるわけではない。各地域が自分たちの肉、火入れ、甘さ、酸味の好みに合わせて取り込むため、同じ照り焼きでも別の料理になる。

こうしたSNSの反応は、調査結果を補足している。

消費者は新しい味を求めているが、無条件に受け入れているわけではない。便利さを評価しながら、甘さを調整し、酸味を足し、辛味を加え、塗るタイミングを変える。

受け入れるというより、自分の台所のルールに合わせて再編集しているのである。


日本から見ると、TERIYAKIは「輸出された和食」ではない

日本の視点で最も面白いのは、米国で人気のTeriyakiを、そのまま日本料理の世界的成功と捉えると実態を見誤ることだ。

日本の照り焼きは、ブリやサワラなどの魚、鶏肉を、甘辛いたれでつやよく仕上げる調理法として発展した。

ところが米国では、戦後の日本文化への関心と、家庭で肉を焼くバーベキュー習慣が結びつき、しょうゆベースの肉用ソースとしてTeriyakiが成長した。

キッコーマンは1961年、北米向けにワインや香辛料などを組み合わせたテリヤキ・バーベキュー・マリネードを発売している。

この歴史が示すのは、Teriyakiが「日本で完成した料理を海外へ運んだもの」ではなく、日本のしょうゆ文化と米国の肉・グリル文化が共同で作ったハイブリッドだということだ。

アメリカ人が使いやすい形へ変えたからこそ、家庭の庭先に入り込めた。

日本では「本場と違う」という評価が否定的に使われがちだが、食文化の海外展開では、違いこそ普及の条件になる場合がある。

カリフォルニアロール、ラーメン、カレー、テリヤキバーガーも、土地ごとの食材や嗜好によって変化してきた。原型を守る料理と、現地化して広がる料理は競争関係ではなく、別の役割を持つ。


日本のBBQにも応用できる三つのヒント

食材を変えるより、たれを変える

第一は、「食材を変えるより、たれを変える」という発想である。

日本のバーベキューでは牛肉、豚肉、ソーセージ、焼きそばが定番化しやすいが、同じ食材でも調味料を数種類用意すれば、体験は大きく変わる。

照り焼きに柚子こしょうを足す、みそとしょうゆを合わせる、コチュジャンで辛味を加える、すだちや酢で甘さを切る。

一本の万能だれではなく、食べる人が仕上げを選べる設計が向いている。


魚介と野菜を主役にする

第二は、肉だけでなく魚介と野菜を主役にすることだ。

米国調査でも、照り焼きを野菜に合わせる人は半数に達した。

日本なら、しいたけ、長ねぎ、なす、れんこん、とうもろこし、厚揚げ、ホタテ、イカ、ブリ、サーモンなど、しょうゆ系の甘辛味と相性のよい食材が多い。

アメリカ式の大型肉料理をまねるより、日本の食材の多様さを生かした方が独自性を出せる。


SNSで伝わる「仕上がり」を意識する

第三は、SNSで共有しやすい仕上がりを意識することだ。

照り焼きの強みは、味だけではなく、光沢と焼き色が写真や動画で伝わりやすい点にある。

たれを塗る瞬間、炭火で泡立つ表面、切ったときの肉汁といった視覚情報は、短尺動画との相性がよい。

飲食店や食品メーカーにとっては、レシピだけでなく、失敗しにくい塗り方や焦がさない火加減までセットで発信することが重要になる。


調査結果を読む際の注意点

今回の調査は、2026年5月21日から22日にかけて、米国の成人1196人を対象にオンラインで実施され、そのうち屋外調理をする840人の回答が分析に使われた。誤差は約3ポイントとされる。

一方で、この調査はキッコーマン米国法人の依頼で行われ、記事自体も同社が制作し、Stackerが審査・配信したブランドコンテンツである。

数値は米国人の味覚変化を考える有用な材料だが、照り焼きの魅力を伝える企業側の目的があることは踏まえる必要がある。

また、「関心がある」と「実際に頻繁に購入・調理している」は同じではない。SNSで照り焼き料理が目立つからといって、米国全体の食卓が急速に日本化しているわけでもない。

むしろ注目すべきなのは、アメリカンBBQの強固な伝統が残ったまま、その周囲に国際的な味が追加されている点だ。


世界の味は、まずソースから家庭に入る

食文化の変化は、必ずしも高級レストランや専門店から始まるとは限らない。

スーパーで買える一本のソースが、家庭の定番料理に新しい入口をつくることがある。

米国のグリル文化における照り焼きの広がりは、その典型だ。焼く食材も、集まる場所も、家族の習慣も大きくは変わらない。

変わるのは、肉を漬ける液体、最後に塗るたれ、皿の横に置くディップである。その小さな変化が、いつもの週末をメキシコ風、地中海風、日本風へと移動させる。

そして、その「日本風」は日本人が想像する照り焼きと同じではない。

甘さが強く、にんにくやしょうがが効き、肉を長く漬け込み、時にはハンバーガーやパイナップルにも使われる。しかし、その違いこそ、しょうゆが米国の生活文化の中で生きた証拠でもある。

伝統を守ることと、新しい味を受け入れることは両立する。

アメリカの庭先で起きている変化は、日本の食品企業や飲食店、そして家庭のバーベキューにも示唆を与える。

新しい食文化は、古いものを置き換えるのではなく、慣れた料理に一本のたれを足すところから始まるのかもしれない。


出典URL

・YouGov調査の主要数値、地域別・世代別傾向、調査方法、キッコーマン米国法人による制作であることを参照。
https://localnews8.com/stacker-food-drink/2026/07/14/regional-grilling-differences-reveal-americas-appetite-for-new-flavors/

・キッコーマン「Teriyaki Sauce Museum」。北米向けテリヤキソースの開発・輸出の歴史、1961年の発売背景を参照。
https://www.kikkoman.com/en/culture/teriyakisaucemuseum/

・キッコーマン国際食文化研究センター。日本の照り焼きと、米国で発展したTeriyakiの違いを参照。
https://www.kikkoman.co.jp/kiifc/tenji/tenji14/america03.html

・キッコーマン英語版用語集。日本式照り焼きにおける、焼きの終盤でたれを塗る調理法を参照。
https://www.kikkoman.com/en/cookbook/glossary/teriyaki.html

・Reddit「Teriyaki chicken」。漬け込み時間、塩分、焦げを避けるための仕上げ塗りなど、グリル愛好家の技術的反応を参照。
https://www.reddit.com/r/grilling/comments/15g92v4/teriyaki_chicken/

・Reddit「Craved teriyaki chicken」。市販のジャパニーズBBQソースに、しょうが、玉ねぎ、はちみつ、酢などを加えて調整する利用者の反応を参照。
https://www.reddit.com/r/grilling/comments/1muzjlu/craved_teriyaki_chicken_when_i_got_up_today_ran/

・Reddit「Bachan's BBQ Sauce & Marinade」。市販ソースを甘さを抑えた照り焼き系と評価する声や、一般的な照り焼きとの違いをめぐる議論を参照。
https://www.reddit.com/r/Costco/comments/1euxgpx/bachans_bbq_sauce_marinade/

・Reddit「Why does store bought teriyaki sauce never taste as good at Japanese restaurants?」。市販品の苦味、甘さ、本格感への疑問と自作志向を参照。
https://www.reddit.com/r/Cooking/comments/1b9bwqk/why_does_store_bought_teriyaki_sauce_never_taste/

・Reddit「3-ingredient Teriyaki Sauce」。日本式照り焼きの材料や、米国式ボトルソースとの違いをめぐる議論を参照。
https://www.reddit.com/r/JapaneseFood/comments/wo95hk/3ingredient_teriyaki_sauce/

・Reddit「What does American barbecue sauce taste like?」。米国のBBQソースが地域により大きく異なるという利用者の反応を参照。
https://www.reddit.com/r/ask/comments/1j5c391/what_does_american_barbecue_sauce_taste_like/

・Instagramの照り焼きグリル投稿。少ない材料、短い漬け込み、焼き上がりの照りを強調する短尺レシピの傾向を参照。
https://www.instagram.com/reel/DYdM3a1RNXd/
https://www.instagram.com/reel/DDsm6bjyfvr/

・元記事のFacebook配信例。公開直後のため、記事自体への可視的な反応が限定的であることの確認に使用。
https://www.facebook.com/kentuckycom/posts/regional-grilling-differences-reveal-americas-appetite-for-new-flavors/1485365283627556/