学校での性教育改革が思春期の健康問題を救う？専門家の新たな提言に注目

1｜「教えない」ことで生まれる危険

11月1日、ナイジェリアの首都ラゴスで開かれた産婦人科の年次記念講演で、イバダン大学附属病院のアヨデレ・アロウォジョル教授が政府・学校・保護者に向けて「包括的性教育（CSE）を正規カリキュラムに」と訴えた。教授は、10代の妊娠や不安・うつ、薬物使用、性的暴力、そしてSNS経由の誤情報が若者の健康と学業に深刻な影響を及ぼしているとし、正確な知識と相談できる安全な環境の整備を強調した。発言は「知識・サービス・支援環境」の三点セットが不可欠というメッセージに集約される。thisdaylive.com

2｜CSEとは何か—「性交の手ほどき」ではない

CSEは、身体の変化、感情の扱い、同意、関係性、暴力の予防、健康サービスの使い方までを段階別に学ぶ教育プログラムだ。国連機関は「認知・情動・身体・社会の側面を扱う体系的な学習」と定義し、年齢に応じた内容で権利と責任、相互尊重を教えるとしている。言い換えれば、CSEは「行為の促進」ではなく「判断と自尊の技術」を身につける授業である。United Nations Population Fund

3｜なぜ今、カリキュラムに？

背景には、サブサハラ・アフリカの高い若年出生率と、母子保健の厳しい現実がある。ユニセフの最新データでは、15–19歳の出生率は同地域で世界平均を大きく上回る。若年妊娠は教育中断や貧困の固定化と結びつきやすく、母体の健康リスクも跳ね上がる。加えてナイジェリアでは支援縮小が産科医療の現場を圧迫し、予防教育の重要性はむしろ増している。UNICEF DATA

4｜教授が指摘した「複合リスク」

アロウォジョル教授は、誤情報や神話、親や学校のためらいが若者を情報空白にさらし、結果として望まない妊娠、危険な中絶、薬物による判断力低下、退学を招くと分析。対策は医療・教育・家庭・地域が関与する「マルチセクター連携」で進めるべきだと述べた。講演では、進学や職業訓練が早婚と早い初産を遅らせ、ジェンダー平等に資するという教育効果にも触れられた。thisdaylive.com

5｜エビデンスは何を示しているか

ラゴス州の技術校でCSEを受けた生徒は、権利や同意、ジェンダー規範への理解が有意に高まったとする比較研究がある。学校という場で「安全な対話の空間」をつくることは、ジェンダーに関する有害な規範を変える近道でもある、と国際レビューは整理する。SNSが若者の性的行動に与える影響を検証した研究も、情報リテラシー教育の必要性を裏づける。PLOSJOGH

6｜SNSの反応—支持と懸念、その分岐点

今回の提言をめぐるオンラインの言説は、概ね次の二層に分かれる。

• 支持派：
  「沈黙は暴力を助長する。教室に“同意”と“尊重”の語彙を」——専門家や市民団体の投稿では、CSEを権利ベースの教育として評価する声が目立つ。また世論調査でも、学校での性教育導入そのものには多数派の賛成が確認されている。frontlineaids.org

• 慎重・反対派：
  「“早すぎる性教育は行為を教えることになる”」という懸念は根強く、ニュースメディアのSNS投稿にも同様のコメントが寄せられる。宗教・文化的価値を理由に、避妊や性的多様性を含む内容に抵抗感を示す意見も少なくない。facebook.com

• 論点のすり替え：
  一部の政治的文脈では、過去政権の導入姿勢の是非を巡る応酬が続き、教育の中身より攻撃材料として使われる傾向も見られる。facebook.com

要するに、**「教えるか否か」よりも「何をどのように教えるか」**が争点だ。教授が言う「支援環境」とは、ここを合意形成する仕組みを含む。thisdaylive.com

7｜実装の壁と、乗り越え方

宗教・文化の配慮を欠く一律導入は反発を招く。だが、国連の報告が指摘するように、ナイジェリアは既に政策レベルではスケールアップの道筋を議論してきた。必要なのは、地域差と年齢段階に応じた現実的な標準化だ。United Nations Population Fund

現場で効く4つのステップ

1. カリキュラムの段階設計：小学校では身体の変化と尊重、初中等では同意・オンライン安全・相談先、後期には避妊とサービス利用まで。国際ガイダンスに沿いつつ、現地事例を教材化する。United Nations Population Fund

2. 教師の研修と伴走支援：ジェンダー規範や差別に対処するファシリテーション技術を鍛える。学校内に「安全な対話空間」を設ける。JOGH

3. 保護者・宗教者との協働：家庭学習ガイドや地域対話の場を定期化。「価値観と科学」の接点を見える化し、誤情報を共同で修正する。thisdaylive.com

4. 評価と公開：出席/退学、性暴力相談件数、知識・態度・技能（KAS）指標を匿名でトラックし、学校だよりや自治体サイトで共有。成功事例は別地域へ移植する。PLOS

8｜「避妊アクセス」をどう扱うか

世論はカリキュラム導入に賛成でも、年齢にかかわらない避妊提供には慎重だ。ここは、学校教育と医療アクセスの連携設計が鍵になる。学校は「情報と判断」を、医療は「機密性と権利保護」を担う。段階別の情報提供と、信頼できる外部窓口への紹介で橋渡しを図るべきだ。afrobarometer.org

9｜結び—“安全な対話”が社会を強くする

アロウォジョル教授の提言は、単なる授業の追加ではない。「若者が声を上げ、助けを求め、互いを尊重できる社会」をつくるインフラの話だ。母子保健の危機と誤情報の拡散が重なる時代に、教室を安全な対話のハブに変えること。それが、10代の健康と学びを守る最短距離だ。thisdaylive.com

参考（主要出典）

• THISDAY（2025年11月1日）— 講演内容と提言の要旨。thisdaylive.com

• UNICEF（2024/2025）— 若年出生率等の状況。UNICEF DATA

• The Guardian（2025年5月）— ナイジェリアの母子保健を取り巻く資金情勢。ガーディアン

• Afrobarometer（2025年3月）— 性教育導入に対する世論。afrobarometer.org

• 研究レビュー/比較研究（2024–2025）— 学校ベース介入の効果、CSEの学習到達。PLOS

• SNS上の反応例（投稿コメントの傾向）— メディア投稿への批判的コメント、啓発団体の発信。facebook.com