なぜ男性は心血管疾患とがんの“ダブルリスク”を抱えやすいのか

なぜ男性は心血管疾患とがんの“ダブルリスク”を抱えやすいのか

心血管疾患の男性は「がん」にも注意? 25年以上の追跡研究が示した“3つの共通リスク”

心筋梗塞や狭心症、脳卒中などにつながる心血管疾患と、がん。一見すると別々の病気に思えるが、この二つには想像以上に深い関係があるのかもしれない。

英国のアバディーン大学とキール大学などの研究チームが発表した大規模な追跡研究で、心血管疾患(CVD)を持つ男性は、心血管疾患のない男性や女性と比較して、がんを発症する割合や、がんで死亡するリスクが高い傾向にあることが明らかになった。

さらに研究チームは、その背景にある重要な要因として、喫煙、肥満、過度の飲酒を挙げている。

いずれもこれまで「心臓や血管に悪い」「がんのリスクを高める」と個別に語られることが多かったものだ。しかし今回の研究は、一つの生活習慣が複数の重大な病気につながる可能性を改めて浮き彫りにした。


2万2534人を25年以上追跡

今回の研究は、英国で実施されている大規模疫学研究「EPIC-Norfolk」の参加者を対象に行われた。

解析対象となったのは、研究開始時点でがんと診断されていなかった2万2534人。平均年齢は男女ともおよそ59歳で、中央値で26年以上にわたり健康状態が追跡された。

参加者のうち1万889人は、研究開始時点ですでに心血管疾患を抱えていたか、追跡期間中に新たに心血管疾患を発症していた。

研究者は参加者を男女、さらに心血管疾患の有無によって分類し、がんの発症率やがんによる死亡率を比較した。

その結果、最も注目されたのが男性だった。

心血管疾患のある人のがん生涯リスクは、

男性 17.3%
女性 12.8%

だった。

一方、心血管疾患のない人では、

男性 10.2%
女性 8.2%

だった。

つまり今回の集団では、男女とも心血管疾患を持つ人の方ががんリスクが高く、その差は特に男性で大きく表れていたことになる。

ただし、この数字を「心血管疾患になれば17.3%の確率で必ずがんになる」と単純に解釈するのは適切ではない。

これは特定の英国集団を長期間追跡した疫学研究から得られた推計値であり、年齢や生活環境、人種、医療制度などが異なる別の集団にそのまま当てはまるとは限らない。


肺、食道、胃、大腸などで目立った違い

さらに研究チームががんの種類を詳しく調べたところ、心血管疾患を抱える人では、胃がん、食道がん、肺がん、大腸がん、非黒色腫皮膚がんなどが多い傾向が確認された。

こうした傾向も男性でより顕著だった。

特に男性では、心血管疾患がない人と比べて、心血管疾患がある人で胃がん、食道がん、肺がんによる死亡リスクが高い傾向が見られた。

研究に参加したアバディーン大学の研究者らは、男性ではがんの発症だけでなく、がんによる死亡についても高い傾向が確認され、とりわけ肺がんと食道がんで違いが目立ったとしている。

ここで重要になるのが、「なぜ心血管疾患のある男性で、がんが増えるのか」という疑問だ。


共通して浮かび上がった「喫煙・肥満・飲酒」

研究チームがリスク要因を分析した結果、心血管疾患のある男性で、がん発症やがん死亡と強く関連していた要因として浮かび上がったのが、

喫煙
肥満、とりわけ高度な肥満
過度の飲酒

だった。

これはある意味では当然の結果ともいえる。

タバコは肺がんをはじめ、多数のがんのリスク要因であると同時に、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めることが知られている。

肥満も同様だ。高血圧、脂質異常、糖尿病などを通じて心血管疾患のリスクを上昇させる一方、慢性的な炎症やホルモン、代謝の変化などを通じて、複数のがんと関連する。

アルコールについても、過剰摂取は血圧や心血管系への負担を増やすだけでなく、口腔、咽頭、食道、肝臓、大腸など複数の部位のがんとの関連が知られている。

つまり、

「心臓病だからがんになる」

という単純な構図ではなく、

心血管疾患とがんの両方を生み出しやすい共通の背景が存在している

と考える方が、今回の研究結果を理解しやすい。


「心血管疾患そのもの」ががんを起こすとは限らない

この点は非常に重要だ。

今回の研究は長期間にわたる大規模な観察研究ではあるものの、心血管疾患が直接がんを引き起こすことを証明したものではない。

たとえば長期間喫煙してきた人の場合、タバコによって血管が傷つき心血管疾患を発症すると同時に、肺や食道などでも発がんにつながる変化が進んでいる可能性がある。

その場合、

心血管疾患 → がん

という一方向の因果関係ではなく、

喫煙 → 心血管疾患
喫煙 → がん

という二つの経路が存在する。

肥満や飲酒についても似た構造が考えられる。

また、社会経済的な環境、食生活、運動不足、高血圧、糖尿病など、研究だけでは完全に取り除くことのできない要因が関係している可能性もある。

Cancer Research UKの専門家も、心血管疾患とがんには多くの原因が共通しており、それが両者の関連を説明している可能性があると指摘している。

また、男性の方ががんになりやすい傾向には喫煙率などの違いも影響すると考えられる一方、「心血管疾患とがんの関連が女性より男性で本質的に強い」と結論付けるには、さらなる研究が必要だとしている。


別の大規模研究では異なる結果も

実は、心血管疾患とがんの関連については、すべての研究がまったく同じ結論に達しているわけではない。

2026年に発表された別の欧州の大規模研究では、約56万9000人を対象に心血管疾患発症後のがんリスクを調査した。

その研究では、心血管疾患と診断されてから最初の1年間にはがん診断が増加していたものの、男性では1年以上経過した後に明確なリスク増加が確認されなかった。

研究者は、心血管疾患の診断をきっかけに医療機関で詳しい検査を受けるようになり、それまで発見されていなかったがんが見つかる、いわゆる「検出バイアス」が一部影響している可能性も指摘している。

これは今回のEPIC-Norfolk研究を否定するものではない。

むしろ重要なのは、心血管疾患とがんの関係は単純ではなく、生活習慣、代謝、炎症、医療機関での検査頻度など複数の要素が絡んでいるということだ。

「心臓病になるとがんになる」という刺激的な見出しだけで捉えるのではなく、複数の研究を見ながら慎重に解釈する必要がある。


「がん治療から心臓を守る」だけではなくなる?

今回の研究で特に興味深いのが、「cardio-oncology(腫瘍循環器学)」と呼ばれる医療分野への影響だ。

これまで腫瘍循環器学では、抗がん剤や放射線治療などによって心臓や血管がダメージを受けることを防ぎ、

「がん患者の心臓をどう守るか」

という方向が大きなテーマだった。

しかし今回の研究を踏まえると、逆方向の考え方も必要になる。

つまり、

「心血管疾患を持つ患者の中から、がんリスクの高い人をどう見つけるか」

という視点だ。

European Heart Journalに掲載された同研究に関する論説でも、今後の課題として、性別を考慮した予防、がんリスク予測の改善、バイオマーカーを利用した評価、多領域の医療チームによる対応などが挙げられている。

心血管疾患の治療を行う医師が、血圧やコレステロールだけでなく、患者の喫煙歴、飲酒量、体重、がん検診歴まで含めて評価する。

そんな診療が今後さらに重要になる可能性がある。


SNSでは「自己責任だけでいいのか」という声も

今回の研究は発表から日が浅く、公開検索で確認できる範囲では、研究そのものを直接取り上げたSNS上の大規模な議論はまだ限定的だ。

 

一方、がん予防や心血管リスクを巡る最近のSNS・オンラインコミュニティを見ると、この研究と重なる二つの反応が目立つ。

一つは、

「生活習慣を変える重要性は理解できる」

という受け止めだ。

Redditの科学系コミュニティでは、腹部脂肪と心血管リスクについて扱った別の研究が話題になった際、BMIの数字だけではなく、内臓脂肪や脂肪がどこに蓄積しているかを見ることが重要なのではないか、といった議論が交わされた。

単に「太っている・痩せている」で判断するのではなく、代謝や血圧、睡眠、運動なども含めて健康状態を見る必要があるという問題意識だ。

今回の研究でも高度な肥満が重要なリスク要因として浮かび上がっており、こうした議論と重なる部分がある。

一方で、別のがん関連コミュニティでは、

「がん予防を個人の生活習慣だけの問題にしてよいのか」

という疑問も出ている。

喫煙、飲酒、体重管理など個人が変えられる要因が重要なのは事実だが、所得、職業、住環境、食品へのアクセス、大気汚染など、個人だけでは簡単に変えられない要素も健康に影響する。

元研究でも社会経済的な困窮度が一部のグループでリスク要因となっていた。

「タバコをやめればいい」「痩せればいい」とだけ伝えてしまうと、健康格差を生み出す社会的な背景を見落とす恐れがある。

SNS上のこうした反応は科学的エビデンスそのものではないが、研究結果を社会でどう活用するべきかという意味では無視できない視点だ。


「3つ全部やめなければ意味がない」わけではない

喫煙、肥満、過度の飲酒という言葉が並ぶと、

「全部改善できなければ意味がない」

と感じる人もいるかもしれない。

しかし、今回の研究からそのような結論を導く必要はない。

たとえば喫煙しているなら禁煙について医師に相談する。飲酒量が多ければ、まず飲む日や量を減らす。体重だけでなく血圧、血糖値、コレステロールなどを定期的に確認する。

一つずつリスク要因を減らしていくことが重要だ。

特に心血管疾患ですでに治療を受けている人の場合、自己判断で極端な食事制限や運動を始めるのではなく、主治医と相談しながら進める必要がある。

重要なのは「完璧な生活」を目指すことではなく、自分が変更できるリスクを把握することだ。


男性の健康管理を見直すきっかけに

今回の研究で最も重要なのは、男性を必要以上に怖がらせることではない。

心血管疾患を持つ男性のがんリスクが高かったという結果を、

「心臓病になったら次はがんになる」

と受け止めるのは間違いだ。

むしろ研究が示しているのは、心血管疾患とがんを完全に別々の病気として扱うのではなく、共通するリスクをまとめて管理する必要性だろう。

タバコ、肥満、過度の飲酒、高血圧、糖尿病、運動不足。

こうした要素は、一つの臓器だけを傷つけるわけではない。

心臓や血管に影響し、その一方で長い時間をかけて、がんの発症にも関係する可能性がある。

だからこそ、心血管疾患と診断されたことは、心臓の治療だけを始める合図ではなく、これまでの生活習慣やがん検診を含め、健康管理全体を見直す機会と考えることもできる。

研究者らは今後、心血管疾患をがんのリスク予測に組み込み、特にリスクの高い人に適切なスクリーニングを行う仕組みについて、さらなる研究が必要だとしている。

「心臓」と「がん」を別々に考える時代から、共通するリスクを一体として管理する時代へ。

今回の研究は、そんな医療の方向転換を促す一つの材料になりそうだ。



出典URL

The Independent:EPIC-Norfolk研究の概要、男女別のがんリスク、研究者やCancer Research UKのコメントを掲載。
https://www.independent.co.uk/news/health/heart-disease-cancer-risk-men-b3036556.html

European Heart Journal:今回の中心となる原著論文「Sex differences in cancer incidence and mortality in patients with cardiovascular disease」。2万2534人を中央値26.2年間追跡した分析。
https://academic.oup.com/eurheartj/advance-article/doi/10.1093/eurheartj/ehag515/8752601

European Heart Journal:今回の研究を受けた論説。心血管疾患患者のがん予防まで含めたcardio-oncologyの拡張について論じている。
https://academic.oup.com/eurheartj/advance-article-abstract/doi/10.1093/eurheartj/ehag628/8758982

International Journal of Cancer/PMC:心血管疾患発症後のがんリスクを別の欧州大規模コホートで検討した研究。CVD診断直後の検出バイアスなど、関連を慎重に解釈するための比較資料。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13340971/

Reddit r/science:腹部脂肪と心血管リスクに関する研究を巡る公開コメント。体重・BMIだけでなく内臓脂肪などを考えるべきだという関連議論の参考。
https://www.reddit.com/r/science/comments/1vomehl/abdominal_fat_predicts_heart_disease_risk_better/

Reddit r/breastcancer:がん予防を個人の生活習慣だけに帰すことへの疑問や、環境要因・社会的要因について議論された公開投稿。SNS上の関連反応として参照。
https://www.reddit.com/r/breastcancer/comments/1vj25vn/venting_about_causation_prevention_and_risk/