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見えない有害物質が蛇口から… フランスの水の92%から“永遠の汚染物質”TFA

見えない有害物質が蛇口から… フランスの水の92%から“永遠の汚染物質”TFA

2025年12月05日 09:13

「永遠の汚染物質」がフランスの水を覆う日

——TFAショックとSNSで広がる“水への不信”

「フランスの水の92%からTFAが検出」。
この数字が公表された瞬間、フランスのSNSはざわめいた。


2025年12月3日、仏食品環境労働安全衛生庁(ANSES)は、全国の水道水や河川、地下水などを対象に実施したPFAS(ペル/ポリフルオロアルキル物質)調査の結果を公表した。結果は衝撃的だった。調査した水の 約9割以上から、TFA(トリフルオロ酢酸)という化学物質が検出 されたのだ。Banque des Territoires


TFAは「永遠の汚染物質(polluant éternel)」と呼ばれるPFASの一種。分解されにくく、一度環境に放出されるとほぼ回収不可能とされる。これまでPFAS問題といえばフッ素加工のフライパンや撥水加工の衣服、消防用の泡消火剤などが取り沙汰されてきたが、今回スポットライトを浴びたのは、その中でも 最小サイズのPFAS だ。ウィキペディア


92%という数字の重さ

ANSESの調査では、2023~2025年にかけてフランス本土と海外県・海外領土を含む全国の水源・水道施設から、600を超える原水と同程度の水道水サンプルが採取された。結果、 原水・水道水ともに92%のサンプルでTFAが検出 されたという。Banque des Territoires


中央値は水道水でおよそ780〜1,000ナノグラム/リットル(0.78〜1マイクログラム/L)前後だが、一部地点では数万ナノグラムに達するケースも報告されている。Le Monde.fr


「ここまで広範囲に、しかも高濃度で検出されたのは初めてだ」。
ANSESの研究者はそうコメントし、従来からNGOや研究者が指摘してきた懸念を裏付ける結果だと強調した。Banque des Territoires


TFAとは何者か

TFAは炭素数2の非常に小さな分子で、PFASの中でも「超短鎖」グループに分類される。分子が小さいため水に溶けやすく、土壌や地下水を移動しやすい。その一方で、自然界でほとんど分解されない。まさに「小さいけれど永遠」という、厄介な性質を併せ持つ。ウィキペディア


主な発生源として指摘されているのは大きく三つだ。

  1. 冷媒などに使われるフッ素系ガスの分解産物
    自動車のエアコンや冷蔵設備に使われる新世代の冷媒が大気中で分解される際、TFAが生成される。Banque des Territoires

  2. 農薬(とくにフルフェナセットなど)の分解産物
    EUで広く使われてきた一部の除草剤・農薬は、土壌中や水系で分解される過程でTFAを生み出す。欧州委員会もTFAを「毒性が懸念される関連代謝物」と位置づけている。Le Monde.fr

  3. 化学工場からの直接排出
    フッ素化学品や農薬原体を製造する工場が、TFAそのものや前駆物質を排出しているケースもある。フランスではBASFやSolvayなど複数の工場がNGOから名指しで批判されている。TF1 INFO


TFAは発がん性が決定的に証明されたわけではないものの、動物実験や一部の疫学研究から 肝臓への影響、生殖毒性、胎児の発達異常リスク などが指摘されており、EUでは「生殖毒性あり」として分類される方向で検討が進んでいる。TF1 INFO


規制の“死角”になった理由

では、なぜこんな物質がここまで広がるまで放置されてきたのか。


EUの飲料水指令では、2026年までに20種類のPFASを監視対象として測定し、合計濃度100ナノグラム/Lという基準を設けることが決まっている。だが このリストにTFAは含まれていない。Banque des Territoires


一方で、農薬が分解してできる「関連代謝物」で毒性が懸念される物質については、飲料水中の基準を100ナノグラム/Lにするという、より厳しいルールがすでに存在する。TFAは複数の農薬の分解産物であり、欧州委員会自身も「関連代謝物」とみなしているが、フランス政府はまだこの枠組みをTFAに適用していない。Le Monde.fr


その結果どうなっているか。
ANSESが今回測定した全ての水道水サンプルは、 もしTFAが農薬由来の「関連代謝物」として扱われれば、既存基準100ナノグラム/Lを平均で10倍超えてしまう 。つまり、法的に「飲用に適さない水」が国中に広がっている、という計算になりかねないのだ。Le Monde.fr


ところがフランス保健当局は2024年末、ドイツを参考にTFAの「暫定的な健康指標値」を 60,000ナノグラム/L に設定。これを下回ればリスクは「無視できる」とみなす方針を取っている。Le Monde.fr


つまり、

  • EUが農薬代謝物として想定した基準:100ナノグラム/L

  • フランスが現時点で運用している暫定指標値:60,000ナノグラム/L

このギャップこそが、TFAをめぐる最大の政治問題になりつつある。


水だけではない:ワインや食べ物にも

TFA汚染は水にとどまらない。2025年春、欧州のNGOネットワーク「PAN Europe」は、EU各国のワイン約50本を分析した結果、 1988年以降のほぼすべてのヴィンテージにTFAが含まれている と報告した。特に慣行農業で作られたワインでは濃度が高く、最大で320マイクログラム/Lという、飲料水をはるかに上回る値も見つかったという。Le Monde.fr


水、ワイン、そして他の食品――TFAは「環境中を巡り続ける小さなPFAS」として、私たちの体内へ静かに入り込んでいる。


「水はもう信じられない」──SNSで噴き出す不安

ANSESの報告が出る前から、PFAS汚染をテーマにしたテレビ報道やNGOの調査結果は、フランスのSNSで繰り返し拡散されてきた。PFASを特集したニュース番組の切り抜き動画には「UFC-Que Choisir(消費者団体)の調査で、蛇口の水から“永遠の汚染物質”TFAが見つかった」と解説するキャプションが添えられ、多くのユーザーがシェアしている。Le Monde.fr


また、環境系インフルエンサーが投稿した短いリール動画では、
「いま私たちの水道水は、基準値を満たさないレベルまで汚染されつつある。原因はTFAという“永遠の汚染物質”だ」
と警告するメッセージが紹介され、コメント欄には次のような声が並ぶ。

  • 「これでも『水道水は安全』と言えるの?」

  • 「子どもにはもう水道水を飲ませたくない」

  • 「汚染のツケを払うのは結局、住民と自治体だ」


こうした反応は必ずしも特定の投稿に限定されたものではなく、PFAS報道が出るたびに繰り返し現れる典型的なコメントだ。怒りの矛先は大きく三つに向かっている。

  1. 政府への不信
    「なぜここまでわかっていて基準を緩く設定したのか」「情報開示が遅すぎる」といった批判が相次ぐ。

  2. 企業への批判
    汚染源と名指しされた化学メーカーに対し、「巨額の利益を上げてきた企業こそ、浄化費用を負担すべきだ」という“ポリューター・ペイ”の主張が強い。Le Monde.fr

  3. ライフスタイルの揺らぎ
    「蛇口の水をそのまま飲む」という、これまで当たり前だった習慣が疑問視され、「浄水器を買うべきか」「ペットボトル水なら安全なのか」といった現実的な悩みがタイムラインを埋めている。


海外県・海外領土でも他人事ではない

ANSESの調査は、本土だけでなく海外県・海外領土の水源も対象としている。Banque des Territoires


カリブ海のグアドループやマルティニークと言えば、かつてバナナ農園で使われた農薬クロルデコンによる長期的な汚染問題で知られる地域だ。そこにさらなる“永遠の汚染物質”が重なる可能性が示されたことで、「また新しい汚染か」と、現地の住民には諦めにも似た空気が広がっているという報道もある。


海に囲まれた島嶼地域では、雨水や地下水への大気沈着の影響が出やすく、TFAのように空気中から降ってくる汚染物質への対策は難しい。浄水処理の高度化には多額の投資が必要だが、人口規模の小さな自治体ほど負担は相対的に重くなる。Le Monde.fr


誰が浄化費用を払うのか

PFASをめぐるもう一つの大きな論点が「お金」の問題だ。


フランスでは2025年2月、PFASを排出する工場に対して 排水中のPFAS量に応じて課金する新たな「環境税」 が導入された。100グラムあたり100ユーロという税率は、当初は年間数百万ユーロ規模の税収を想定していたが、最新データで明らかになったTFAの排出量はそれをはるかに上回る。ある工場では1日あたり100キロ超のTFAを排出していたことが判明し、「年間数千万ユーロの負担になる」と報じられている。Le Monde.fr


一方、TFAを除去するには逆浸透膜などの高度処理が必要で、全国レベルで実施すれば年間数十億ユーロのコストがかかるという試算もある。Le Monde.fr


この莫大な費用を、

  • 税金として国民全体で負担するのか、

  • 汚染源となった企業に請求するのか、

  • あるいは水道料金の値上げという形で利用者に転嫁するのか──

そのバランスをどう取るかが、今後の政治的な争点になりそうだ。


個人にできることは?

こうした話を聞くと、「結局、私たちは何をすればいいの?」という疑問が湧いてくる。TFAは非常に小さく安定した分子で、一般的な浄水器の多くは十分に除去できないとされる。逆浸透膜タイプの高性能浄水器であればある程度の除去が期待できるが、コストやメンテナンスも重くなる。Le Monde.fr


現時点で専門家たちが共通して勧めているのは、次のような「リスクを下げるための現実的な行動」だ。

  • 自治体や水道事業者が公開している水質データをチェックする
    フランスではPFASを含む水質情報の公開が徐々に進んでおり、一部のメディアはインタラクティブな汚染マップも公開している。Le Monde.fr

  • PFASを含む製品の使用を減らす
    撥水加工の衣服やフッ素樹脂コーティングされた調理器具、不要な防汚スプレーなど、日常的に使うPFAS製品を見直すことで、需要そのものを減らすことにつながる。

  • PFAS規制をめぐる政治・行政の動きを注視し、声を上げる
    フランスではPFASの規制強化を目指す法案がすでに議会で審議され、2025年には一部PFASの禁止や排出抑制が法制化された。Le Monde.fr
    どこまで厳しい規制にするかは、世論や有権者の関心に大きく左右される。


もちろん、具体的な健康リスクや対策については、各国の公的機関や医療専門家の情報を確認することが欠かせない。TFAについても、毒性評価はまだ完全ではなく、今後の研究や規制動向によって「安全」とされるレベルが見直される可能性がある。ウィキペディア


「安心して水が飲める」という当たり前を守るために

今回のTFA問題は、「見えない汚染」がどれほど日常に入り込んでいるかを突きつける出来事になった。
フランスのSNSでは、怒りや不安の声と同時に、こんなコメントも少なくない。

「水は生命の象徴のはずなのに、いまは不信の象徴になってしまった。」


しかし同時に、この危機は社会全体で水のあり方を問い直すチャンスでもある。
どのような化学物質をどこまで許容するのか。
汚染のコストを誰が負担するのか。
そして、「安全な水」という当たり前を次の世代に手渡すために、いまどんな選択をするのか。


TFAという小さな分子が投げかけた問いは、フランスだけの問題ではない。
地球の水循環はひとつにつながっている。
コップ一杯の水を口に運ぶとき、私たちはその重さを、これまで以上に意識する必要がありそうだ。



参考記事

フランスの水中に、ほぼ至る所で「永久汚染物質」TFAが存在
出典: https://www.guadeloupe.franceantilles.fr/actualite/economie/dans-leau-en-france-un-polluant-eternel-presque-partout-le-tfa-1060127.php

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