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マグロの未来は中層にある — 深海採掘と食物網の相関図 : 海洋生態系と私たちの食卓に迫る脅威

マグロの未来は中層にある — 深海採掘と食物網の相関図 : 海洋生態系と私たちの食卓に迫る脅威

2025年11月11日 07:29

リード — 深海の「ミッドウォーター(中層)」で、採掘由来の濁った粒子が本来の“えさ”を薄め、プランクトンや小型魚類を静かに飢えさせる――。そんな連鎖が起きれば、最終的にはマグロやシイラといった商業魚種、さらには人間の食卓にも影響が及ぶ可能性がある。新たな研究は、実際の試験採掘から得られた排水・堆積物サンプルと粒径分布を解析し、そのリスクを具体的に描き出した。本稿では、最新知見、政策の現在地、SNSの反応を整理し、「拙速な深海採掘」にブレーキとガードレールを同時にかけるための論点をまとめる。



1. 何が起きているのか――“海の真ん中”で進む見落とし

深海採掘(ディープシー・マイニング)は、海底に散在する多金属団塊(ポリメタル・ノジュール)から銅・ニッケル・コバルト・マンガン等の重要鉱物を回収する構想だ。海底で吸い上げられた泥水まじりの資材は船上で選鉱され、不要になった海水や微細な堆積物は海へ戻される。この“戻し先”が、これまで想像以上に厄介だと分かってきた。


近年の議論は、しばしば海底生態系(底生生物の破壊、堆積物再懸濁など)に集中してきた。しかし新研究が焦点を当てたのは、水深およそ200〜1,500mのミッドウォーター。ここは、植物プランクトンの生産物が沈降・輸送され、動物プランクトンや小型魚類(マイクロネクトン)が暮らす、膨大な“中層の食堂”である。


2. 新研究の要点――「ジャンクフード効果」と“粒径の罠”

2022年秋に行われた試験採掘の排出水と、実海域で観測された濁水(プルーム)からサンプルが採取され、粒子のサイズ分布、濃度、栄養価(アミノ酸濃度)、さらに化合物特異的安定同位体(アミノ酸CSIA)解析が実施された。結果、自然由来の中〜大粒径(約6〜53μm超)粒子が食物網の土台を支えている一方、採掘由来の粒子は同じ粒径帯を“薄める”が栄養価が著しく低いことが示された。中層の動物プランクトンの約半数強が粒子食者で、その捕食者にあたるマイクロネクトンの約6割が動物プランクトン食であるため、濁水が広域・長期に及ぶと**“下から崩れる”ボトムアップ型の攪乱**が生じうる。


さらに、レーザー粒子測定(LISST)から、プルーム中の小粒子(1〜6μm帯)が背景海水と比べて桁違いに多いこと、そして中〜大粒径帯でも自然粒子に比べてアミノ酸濃度が顕著に低いことが確認された。言い換えると、「腹は膨れるが身にならない」――ジャンクフード効果である。小さなエネルギー赤字は個体の成長・生存に蓄積し、やがて群集組成の変化、上位捕食者の餌不足、夜間の鉛直移動(DVM)パターンの乱れといった形で可視化される可能性がある。



3. なぜ“ミッドウォーター”が決定的なのか

ミッドウォーターは、光が届かない暗い層だが、上層の生産と下層の貯蔵をつなぐ巨大な物流ハブでもある。ここでエネルギーが目減りすれば、沈降有機物のフラックスは痩せ、炭素隔離(生物ポンプ)の効率も低下しかねない。加えて、多くの表層魚類(マグロ・カツオ・シイラなど)は深場へ潜ってマイクロネクトンを捕食する。中層の“食堂”がやせ細れば、表層の漁場も影響を免れない。


酸素極小層(OMZ)や温度躍層など、物理・化学環境の閾値が集まるのもこの帯域だ。そこへ粒径分布の似た“偽物の餌”が濁水として流入すれば、視覚捕食や発光コミュニケーション、嗅覚受容器の目詰まりなど、行動/感覚の多面的な阻害が同時多発的に起こり得る。



4. 産業と政策の現在地――ブレーキとアクセル

深海の公海域を所管する国際海底機構(ISA)は、クラリオン・クリッパートン帯(CCZ)で複数の探査契約を認可し、商業化ルールの審議が続く。主要各国や企業は、脱炭素の電動化や地政学的リスク分散を背景に、供給網の新規源として深海へ目を向ける。一方で環境側面の不確実性は大きく、排出深度・水質・総量に関する基準や監視枠組みは未整備の部分が多い。


米国でも重要鉱物の確保策が前進する一方、海域での活動許可や規制の見直しが議論となっている。「採掘を止める/進める」の二分法ではなく、科学的根拠に基づく段階的ルール形成と、リサイクルや代替素材による“需要側の圧力緩和”**を同時に進める視点が欠かせない。



5. SNSの反応――懸念、拡散、そして問い直し

今回の研究は公開直後から拡散し、海洋NGO、研究者、漁業・養殖関連のメディアアカウントが次々とシェアした。**「海底だけでなく、中層の生命網にも深刻な影響が及ぶ」**というメッセージは、モラトリアム(停止)を求める立場の再主張に踏み込む一方で、産業界や規制当局に“排出の設計条件”を可視化せよという建設的な問いも生んでいる。


日本の海洋研究者からは、論文リンクの共有とともに「中層リスクの定量化が進んだ」とのコメントが見られ、欧州の海洋学コミュニティでも**「ミッドウォーターを無視できない」との反応が多い。水産業界向けメディアは“静かな飢餓”という表現で、食料供給や雇用への波及を強調。批判一色ではなく、「どの深度・粒径・濃度で、どのくらい危ないのか」**という技術的な設計・監視の問いが広がっている点は、今後の対話の土台になりうる。



6. リスクを下げるための実務論点

① 排出ガイダンスの明確化 — 粒径分布・アミノ酸濃度・濁度のしきい値、連続/間欠の運転条件、季節・日周鉛直移動期との重なり回避などを、事前評価→操業→事後評価の各段で数値化。


② 監視(MRV)の高度化 — LISSTや蛍光色素、eDNA、音響計測を組み合わせたプルームの三次元トラッキングと自動警報。中層生物の**行動指標(捕食・遊泳・発光)**のリアルタイム近似も検討。


③ 空間計画と回避 — OMZ縁辺や高生物量帯、移動回廊など“敏感な中層”の時間・空間的回避。操業域のローテーションや休止期間の設定。


④ 代替資源の拡大 — 電池・電子機器のリサイクル、尾鉱・スラグの再資源化、サプライチェーンの材料転換(省コバルト化等)。需要側対策で**“海に行かなくても済む率”**を上げる。


⑤ 透明性 — 試験採掘データ(粒径・濁度・放出量・化学組成・生体影響指標)のオープン化と国際的な試験設計の標準化。異なる海域・季節・流況での再現研究を促進。



7. まとめ——「急がば回れ」の科学

中層は見えないが、海を支える要の層だ。そこで“ジャンクフード”が増えれば、食物網は静かに痩せる。拙速な商業化は、漁業と気候の両面で高くつく保険外しになりかねない。ルールと技術を同時に深くし、資源政策と環境政策を一本化して設計する。いま必要なのは、急がば回れの科学である。



コラム:数字で見るリスクの輪郭

  • 中層(およそ200〜1,500m)は、動物プランクトンとマイクロネクトンが密集する“食堂”。

  • 試験採掘由来の粒子は自然粒子と同程度のサイズだが栄養価が低いため希釈効果が強い。

  • 粒子食の動物プランクトンが約半数強、動物プランクトン食のマイクロネクトンが約6割。この二段の“えさ”が薄まると、上位の大型魚類へ波及する。

  • 観測では小粒子(1〜6μm)が背景比で桁違いに多く、中〜大粒径帯でもアミノ酸濃度が顕著に低い。



参考(議論を広げるための視点)

  • 研究空白:プルームの時空間拡がりと長期的な取り込み、群集変化の臨界点(ティッピング)。

  • 産業設計:排出深度・連続性・粒径制御の最適化、回収・濾過技術の高度化。

  • 政策:ISAルールメイキングの科学的根拠、モラトリアムと段階的実証のハイブリッド設計。


参考記事

深海採掘が海洋の食物網を乱すリスクがあると研究が警告
出典: https://phys.org/news/2025-11-deep-sea-disrupting-marine-food.html

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