かわいい? それともディストピア? バズる子どもスキンケア、医師がNGを出す理由 ― SNS時代の親の新常識

かわいい? それともディストピア? バズる子どもスキンケア、医師がNGを出す理由 ― SNS時代の親の新常識

「“セフォラ・キッズ”の先にあるもの――子ども向けスキンケアをめぐる光と影」

11月19日に英紙 The Independent が公開した記事は、今世界中で議論を呼んでいる「子ども向けスキンケア」ブームに、専門家の“ストップ”をかける内容だった。The Independent


俳優シェイ・ミッチェルが立ち上げた子ども用スキンケアブランド「Rini(リニ)」、そしてTikTokでバズる“Sephora Kids(セフォラ・キッズ)”現象。小学生が百貨店のコスメカウンターで高級美容液をねだり、7歳児が「Get Ready With Me(メイク準備動画)」を投稿する――そんな光景が当たり前になりつつある今、親たちの不安とSNS上の賛否はどこへ向かうのか。


この記事では、Independentの記事内容をベースに、最新の研究とSNSの声を交えながら「子どもの肌」と「自己肯定感」をどう守るかを考えていく。The Independent



1. 何が起きているのか――Riniと“Sephora Kids”現象

The Independentによると、ここ数年、ビューティーブランドが新たなフロンティアとして狙っているのが「子ども市場」だ。シェイ・ミッチェルが立ち上げたRiniは、動物のイラストが描かれたフェイスマスクなど、見た目にも「かわいい」スキンケアを子ども向けに展開する。The Independent


彼女はインスタグラムで、「楽しくて、やさしくて、安全なセルフケアを子どもたちに」と語るが、SNSでは「4歳にフェイスマスクは必要?」「子どもに美容不安を植え付けている」と批判が殺到。あるユーザーは「ただの子ども向け消費主義」と辛辣にコメントしているという。EW.com


この炎上が起きた背景には、“Sephora Kids”の存在がある。TikTokやYouTubeには、10歳前後の子どもがセフォラで購入した高級コスメを大量に並べ、「朝の15ステップ・スキンケアルーティン」を披露する動画が溢れている。ザ・ガーディアン+1

・フォロワーからは「可愛すぎ」「私もこの頃から美容やりたかった」と好意的なコメントも多い
・一方で、店員や大人の客からは「テスターを荒らす」「スタッフに暴言を吐く」といった苦情が大量に寄せられているという。Bored Panda


こうした現象は、日本のドラッグストアやバラエティショップでも他人事ではない。SNSでは「小学生がレチノールどこにありますか?と聞いてきた」「テスターで全顔パックをしている子を見た」といった体験談がじわじわ増えている。



2. 専門家が本当に心配しているのは“肌”と“時間”

Independentの記事で取材に応じた皮膚科医たちのメッセージはとてもシンプルだ。

子どもに必要なのは、やさしい洗浄料・香料のないシンプルな保湿剤・十分な日焼け止め、それだけ。The Independent

理由は主に二つある。


(1) まだ未完成の「肌バリア」

・子どもの角層は大人より薄く、成分が深く浸透しやすい
・その分、刺激・アレルギー・炎症を起こしやすい

米国やカナダの皮膚科医たちは、ティーンやプレティーンが大人向けのレチノール、美白成分、AHA/BHA(フルーツ酸など)を使うことで、皮膚炎や一生続くアレルギーにつながるリスクを指摘している。uhhospitals.org


(2) 「遊ぶ時間」が美容ルーティンに置き換わる

Independentの記事では、「子どもがプレイタイムより先に、スキンケアを気にするようになること」への懸念も語られている。The Independent


本来なら友達と外で遊んだり、絵を描いたり、本を読んだりする時間が、鏡の前で毛穴やシミを探す時間に変わってしまう。
その結果、

  • 「自分の顔は直さないといけない場所だらけだ」

  • 「完璧な肌じゃないと投稿できない」

といった感覚を、あまりにも早い段階で身につけてしまう危険がある。



3. 子どもが避けるべきアイテムとは?

Independentでは、皮膚科医たちが「子どもにはNG」としたアイテムを具体的に挙げている。ここでは要点だけをかみ砕いて紹介する。The Independent

  1. ペプチド入り美容液・“ハリ・弾力アップ”系セラム

    • コラーゲン生成をうたう成分は、もともとコラーゲン豊富な子どもには不要。

    • 過剰な刺激で乾燥・バリア破綻を招くおそれ。

  2. レチノールや強力な“エイジングケア”クリーム

    • シワ対策が目的の成分は、シワがない年齢にはオーバースペック。

    • 赤みや皮むけ、色素沈着につながるケースも報告されている。

  3. アルコール度の高い収れん化粧水や拭き取りトナー

    • “サラサラ肌”“毛穴レス”をうたうが、子どもの肌には脱脂・乾燥が強すぎる。

  4. 酸で角質を溶かすピーリング・スクラブ

    • AHA/BHA・高濃度ビタミンCなど、大人でも使用に注意が必要な成分は特に危険。

  5. 殺菌成分トリクロサン入りのボディソープ

    • 皮膚の常在菌バランスを崩し、アレルギーや湿疹と関連する可能性があると報告されている。

  6. フタル酸エステルを含む香水・ボディスプレー・ラメ入りボディ商品

    • ホルモン分泌への影響が懸念され、環境ホルモンとして監視対象になっている。

  7. エッセンシャルオイル(特にラベンダー・ティーツリー・柑橘系)

    • 「オーガニックで安全」と誤解されがちだが、子どもの接触皮膚炎の原因として頻繁に報告される。

リストを見るとわかるように、いわゆる「映える」アイテムの多くが、子どもの日常ケアにはまったく必要がないどころか、マイナスになりうるということだ。



4. 研究が示す“TikTokスキンケア”のリアル

Independentが紹介した小児科学誌 Pediatrics の研究では、18歳以下の女の子が投稿したスキンケア動画100本を分析した結果、1つのルーティンに平均11種類の“刺激性のあるアクティブ成分”が含まれていたという。The Independent


別の研究や解説では、こうした動画で紹介される製品の合計金額が月約200ドル(約3万円)以上に達するケースもあり、その割に日焼け止めが登場する割合は25%程度に過ぎないと報告されている。ScienceDaily


つまり、

  • 高価で

  • 成分数が多く

  • 肌トラブルリスクは高いのに

  • 肝心のUVケアは置き去り

という、医師から見れば「コスパも安全性も悪い」ルーティンが、アルゴリズムによって大量拡散されているのだ。



5. SNSの反応――炎上だけではない“揺れる声”

RiniやSephora KidsをめぐるSNSの反応は、大きく三つに分かれているように見える。

(1) 強い批判派

Entertainment Weeklyや各種ニュースサイトがまとめたところによると、X(旧Twitter)やInstagramでは、次のようなトーンの投稿が目立ったという。EW.com

  • 「これは子ども向けの新しい不安ビジネスだ」

  • 「子ども時代まで“アンチエイジング”に支配されてほしくない」

  • 「セフォラはテーマパークじゃない。テスターを破壊するキッズは出禁にしてほしい」

TikTokでは、Riniのトドラーマスクを批判する動画に数百万回再生がつき、「dystopian(ディストピア的)」という言葉がトレンド入りしたという報道もある。ザ・ガーディアン


(2) 積極賛成派

一方で、Riniを擁護する声や、Sephora Kidsの存在を「かわいい」と受け止める人も少なくない。Marie Claireの論評は、「問題は子ども用スキンケアそのものではなく、美容を軽視しがちな社会のまなざしにある」と指摘する。Marie Claire


「親子で一緒にパックをする時間が、1日の振り返りと会話のきっかけになっている」「スキンケアは自己肯定感やセルフケアを学ぶ場になりうる」というポジティブな体験談もSNS上には多く投稿されている。


(3) 中立・葛藤派

そして最大多数は、おそらく「かわいいけれど、正直ちょっと不安」「どこまでOKなの?」という揺れる親たちだ。

  • 「うちの子もTikTokを見て高級美容液を欲しがる。でも成分を見ると怖い」

  • 「ニキビが気になり始めた中学生に、どこまで大人と同じケアをさせていいのかわからない」

といった投稿が、Redditや育児コミュニティ、Xのスレッドで連日上がっている。Reddit



6. なぜ子どもたちは“完璧な肌”を目指すのか

National Geographicは、この現象の背景にあるのは「大人社会全体の“老い”への恐怖」だと分析する。National Geographic

・スムーズスキンフィルターで加工された顔
・「毛穴レス」「ガラス肌」といった言葉
・毎日の“ビフォーアフター”動画

こうしたコンテンツに幼いころからさらされているGeneration Alphaにとって、「エイジングケア」は将来の話ではなく、“今すぐ始めないと置いていかれること”になりつつある。


さらに、

  • 勉強・習い事・スポーツで忙しく、“ありのまま”でいられる時間が少ない

  • コロナ禍でオンライン生活が長く、「他人の視線=カメラのレンズ」になりやすい

といった環境も、「常に画面映えする自分でいたい」というプレッシャーを強めている。



7. 親はどう向き合えばいい? 具体的なガイドライン

では、実際に子どもから「この美容液買って」「みんなやってる」とせがまれたとき、親はどう対応すればよいのだろうか。各国の皮膚科や公的機関の情報をもとに、現実的なガイドラインをまとめてみる。The Independent


① 年齢別の“基本セット”を決める

小学生まで

  • 低刺激の石けんやボディソープ(香料・着色料少なめ)

  • 乾燥する季節だけ、シンプルな保湿剤

  • 長時間外遊びをする日は、子ども向けの日焼け止め


中学生〜高校生

  • ニキビなど明確な悩みがある場合のみ、皮膚科で相談のうえ治療用アイテムを追加

  • 市販品を使う場合も、「敏感肌用・低刺激」「ドラッグストアの基本ライン」を基準に選ぶ


② 「成分オタク」になりすぎないが、ラベルは一緒に確認

トリクロサンや高濃度レチノール、強い酸など、「子どもには不向き」とされる成分はいくつか共通している。The Independent


親子でラベルを読みながら、

  • これは大人向け

  • これは今のあなたの肌に合う / 合わない

と話し合うことで、「禁止」ではなく「一緒に選ぶ」というスタンスを取ることができる。


③ SNSの“美容ロールモデル”を一緒に選ぶ

ただ「TikTok見るな」では現実的ではない。
代わりに、

  • 医師や専門家とコラボしているクリエイター

  • 日焼け止めや保湿の大切さを語るアカウント

  • 見た目だけでなくメンタルヘルスや勉強とのバランスも話す人

など、「健康的な美容観」を発信しているロールモデルを一緒に探すのも一案だ。

UCLAの専門家は、子どもがスキンケアに興味を持ち始めたときこそ、「なぜその商品がほしいのか」「その人はどんな人か」を対話するチャンスだと強調している。UCLA Health


④ “見た目”以外の自己肯定感のタネを増やす

  • スポーツや音楽、読書など「できた」「楽しい」と思える活動

  • 家の手伝いやボランティアなど、自分が誰かの役に立てる経験

  • テストの点だけでない「がんばり」を認める会話

こうした経験は、「肌がキレイだから価値がある」という単一の評価軸から、子どもを解放してくれる。



8. これからの“子どもスキンケア”をどうデザインする?

Independentの記事の最後は、「結局、子どもに必要なのはシンプルなケアと、大人の冷静な判断だ」というメッセージで締めくくられていた。The Independent


RiniやSephora Kidsをめぐる炎上は、

  • 美容業界のマーケティング

  • SNSアルゴリズム

  • 親の不安と期待

  • 子どもの好奇心

といったさまざまな力が交差した“時代の象徴”でもある。


子ども用スキンケアを完全に悪者にするのではなく、

  1. 肌への安全性

  2. お金と時間の使い方

  3. 心の健康と自己肯定感

という三つの軸で、大人がまず立ち止まることが大切だ。


そのうえで、

「今日はどんな一日だった?」
「このクリームを塗ると、どんな気持ちになる?」

と、スキンケアを“完璧な見た目のための儀式”ではなく、“自分の体と心の声を聞く小さな習慣”として位置づけることができたなら――。

子どもたちは、鏡の中の自分に厳しい目を向けるのではなく、少しやさしいまなざしを向けられるようになるかもしれない。



参考記事

専門家によると、子供に絶対に買ってはいけないスキンケア製品
出典: https://www.the-independent.com/life-style/children-skincare-products-parenting-experts-b2868328.html