“祝福”の代償 — 南ア『ブレッサー』が若い女性から奪うもの：南アフリカ社会が直面する課題

序章：煌めきの裏側

南アフリカでは、年上で比較的裕福な男性が若い女性に金銭や学費、ブランド品や“映える”生活を与える見返りに、性的関係を含む交際を求める——そんな「ブレッサー（blesser）」関係が一般語化して久しい。最新の研究は、この関係が短期的な利益の影に、HIVリスク、予期せぬ妊娠、暴力の連鎖という重い代償を隠していることを、全国規模のデータで裏づけた。Phys.org

新研究のコア：全国データが示した「一貫した絵柄」

研究は南ア9州中8州で、性的に活動している思春期・若年女性（AGYW）約3,000人超を対象に実施。過去または現在ブレッサーと関係を持った割合は約5.7％、5歳以上年上パートナーとの「年齢格差関係」は全体の25％超に及んだ。両者（ブレッサー×年齢格差）が重なる場合、HIV/STI、親密な関係における暴力（IPV）、10代妊娠のリスクは同年代交際の群より高い。なお同年代の“ブレッサー”は相対的に少なく、報告上はコンドーム使用率がやや高い一方、妊娠に関しては年齢格差の影響が大きく、総じて不利が積みあがる構図が浮き彫りになった。Phys.org

背景にある“構造”

「ブレッサー」が南アで広がる理由は個人の選好に留まらない。世界最悪級の経済的不平等、若年失業の高さ、そして誇示的消費が強い通貨価値を持つ文化的文脈が重なる。上昇移動の手段としての“アクセス”——スマホ、衣服、都市の高級空間——は、若い女性にとって現実的な魅力として立ち現れる。Phys.org

リスクが立ち上がる“5つの経路”

研究はリスクの“通り道”も具体化する。①年齢と権力の非対称：最終決定権が年上側に集中し、避妊交渉が難しくなる。②交渉力の低下：経済的依存は「ノー」と言いづらくする。③パートナー複数交際の同時進行：感染リスクを押し上げる。④経済的ロックイン：学費や家計支援が“抜け出せなさ”を生み、関係継続を強いる。⑤地位の見せびらかし圧力：承認と羨望が同調を促す。——どれもが個人責任論では解けない構造的メカニズムだ。Phys.org

数字が語る不均衡

南アの15–24歳女性におけるHIV有病率は6.9％で、同年代男性の3.5％のほぼ倍。望まぬ妊娠は教育中断や就労機会の喪失につながり、暴力被害と重なることで長期的な健康・所得・ウェルビーイングに傷跡を残す。全国規模の結果は、点在するケーススタディを越えて、この構図が広範に存在することを示した。Phys.org

質的研究が補う“内側の声”

2017–2018年にクワズール・ナタール州で行われた質的研究では、ブレッサー関係がもたらす「高揚」と「空虚」の同居、罪悪感とスティグマ、HIVや予期せぬ妊娠の恐れ、そしてそれでも追い求めてしまう“社会的報酬”の引力が描写されている。最新の量的知見と重ねると、短期の可視的利益と長期の不可視コストのギャップが、女性側の選好を脆弱にすることがわかる。Nature

SNSの反応：肯定も非難も、結局“構造”でつながる

研究報道に対し、SNS上では二極の声が立った。

• 「自己責任」論：都市部の生活水準を“早回し”で手に入れようとする風潮への批判。実際、南アのオンライン掲示板では「マッチングアプリは“ブレッサー探し”の場になっている」との体感談が目立つ。Reddit

• 「構造的圧力」論：失業・学費・家族扶養といった現実が、選択肢を狭めるという指摘。アフリカ地域メディアの再掲記事への反応でも、「“祝福”は不平等の副産物だ」という共感的コメントが並ぶ（The Conversation配信記事の再掲）。allAfrica.com

また、カルチャー系メディアは“ブレッサー文化”を、極端な格差とデジタル時代の見せる消費が結びついた現象として取り上げ、インフルエンサー文化や「ソフトライフ」志向の文脈で語っている。これらは“正当化”というより、選択が生まれる場の空気を可視化している。2oceansvibe.com

「何をすべきか」——当事者の選択肢を増やす4点セット

研究は解決策も提案する。①性の権利・力学・健康に関する実践的教育、②経済的機会の拡充（奨学金、現金移転、雇用訓練）、③メンタリングと安全な居場所（ピア・サポート）、④ジェンダー規範への介入（男性・家族・地域コミュニティの巻き込み）。要は「短期のサバイバル」を「長期の自立」に置き換える選択肢を、現実に手の届くかたちで増やすことだ。Phys.org

現場実装へのヒント：チェックリスト

• 学校現場：SRH（性と生殖の健康）教育に「権力交渉」モジュールを組み込む。ロールプレイで“ノー”を言う練習を可視化。

• 地域NPO：奨学金・食料支援とピア・グループの併走設計。経済支援が単独で“依存の付け替え”にならないように。

• 医療：ユースフレンドリーなHIV予防（PrEP・検査）や避妊アクセスの即日化。

• 政府・自治体：若年女性向けの起業・雇用プログラムをSRH施策と束ねるポリシー・ミックスを。定性的評価で“効いた要素”を可視化。
  実際、AGYWへのグループ型介入は自己効力感や規範挑戦を促し、行動選択を変えうるという現地報告も出ている。MDPI

それでも「個人の選択」なのか

“ブレッサー”は道徳の問題ではなく、選択肢の問題だ。若い女性が短期的な安全のために長期的な健康・教育・自由を差し出さなくてよい社会へ。研究と現場の声、そしてSNSの叫びは、この単純で難しい課題に同じ方向を指し示している。Phys.org

参考（主要ソース）

• Phys.org「Sex for money: Study reveals the harm that 'blessers' can do to young women」（The Conversation再掲, 2025年11月5日）。Phys.org

• Humanities and Social Sciences Communications（Natureポートフォリオ）における質的研究（2024）。Nature

• Reddit r/askSouthAfricaの関連スレッド（2025）。Reddit

• AllAfricaによるThe Conversation配信記事の再掲。allAfrica.com

• Tolerance.caによるThe Conversation記事の再掲。tolerance.ca

• AGYW向けグループ介入の質的評価（2025）。MDPI