“飲まない理由”が増えている ─ 研究とSNSが示すアルコール離れ : 栄養は“足し算”、嗜好は“再定義”へ

“飲まない理由”が増えている ─ 研究とSNSが示すアルコール離れ : 栄養は“足し算”、嗜好は“再定義”へ

9月8日のBloomberg日本版は「世界的に高タンパク食の傾向、強まる健康志向—食品大手対応しきれず」と報じた。高タンパクを掲げる乳製品・食肉系は資本市場でも脚光を浴びる一方、スナック・チョコ・アルコールの“大手”は数量苦戦。想像以上に大きいのが、GLP-1(肥満症治療薬)の普及による“嗜好の鈍化”だ。この記事では、データとSNSの反応を横断しながら、「何が伸び、何が落ち、次に何が起こるのか」を読み解く。 Bloomberg.com



1. 何が起きているのか:高タンパクの台頭、嗜好品の影

Bloombergがまとめた現状は明快だ。欧州の乳・食肉関連(例:クランズウィック、エミー、グランビア)が需要増とカテゴリー成長(年20%超の伸び)に乗る一方、ネスレ、ハイネケン、ディアジオなど“嗜好中心”の複合大手は、価格要因が一服しても数量の戻りが弱い。さらにBI(Bloomberg Intelligence)の調査では、GLP-1ユーザーの少なくとも30%が甘いもの、スナック、アルコールの摂取を抑えると回答。構造的逆風として可視化されつつある。 Bloomberg.com


医療側の知見も整合的だ。セマグルチド(Wegovy等)に関するランダム化試験は、アルコール欲求・摂取の一部指標を有意に低下させたと報告。英ガーディアンも、アルコール摂取が約40%減ったとの研究結果を紹介している。こうした“報酬系の減衰”は嗜好品市場に広く影響し得る。 JAMA Network


数量の鈍さは決算にも反映される。たとえばハイネケンは2025年上期の販売量低下に直面しつつも通期見通しは維持と報じられ、カテゴリーのプレッシャーと企業努力が拮抗する局面にある。 The Economic Times



2. “健康×実用”志向がもたらす市場の再配分

2-1. 「足し算の栄養」へ

消費者は“何かを我慢する”より“必要な栄養を足す”方向へ。高タンパクと食物繊維の両立が2025年の実用ニーズとして定着し、米欧だけでなく日本でも「タンパク質が豊富」な表示は購買意欲を押し上げる要因に。 note(ノート)


2-2. 植物性・乳由来・スポーツ栄養の三層成長

グランビアなどの原料・ソリューション企業は、植物系や乳由来たんぱくの新規用途を提案し、スポーツ栄養はミレニアル/Z世代の“日常パフォーマンス向上”文脈で一般化。カテゴリー拡張の受け皿になっている。 glanbianutritionals.com


2-3. リフォームレーション(再配合)の波

総合食品大手は「栄養密度」を軸に配合を見直す流れを強める。ただし利益面の寄与は限定的という指摘もあり、“健康寄与”と“採算”の両立が課題。 FoodNavigator-Asia.com



3. SNSはどう反応しているか:賛否と学習のダイナミクス

3-1. GLP-1が変える“飲みたい気持ち”

「最初の投与以来、ほぼ断酒状態。社会的には飲む方だったけど、もう不要だと感じる」
といったユーザー体験はRedditで散見され、米大学の研究ニュースも“SNSでの自己報告”を現象理解の一端として参照している。 Reddit


3-2. 高タンパク“推し”も“やり過ぎ警戒”も同居

インスタでは高タンパク食の脂肪燃焼メリットを推す投稿が拡散する一方、有名トレーナーが「動物性主体の高タンパク偏重は害」と強い言葉で批判する記事も話題に。健康目的の“最適ゾーン”探しが議論を生む。 Instagram


3-3. 「誇張表示」への厳しい目

豪州では「プロテインMilo」を巡り、「表面上のタンパク量が牛乳込み表示で紛らわしい」との騒ぎがXで炎上。ブランド側の説明後も不信を残した。日本市場でも“タンパク質○g”主張の根拠や条件表記が、かつてないほど精査されている。 ニュース.com.au


3-4. 著名人の“告白”が会話を加速

米TV司会者アンディ・コーエンはGLP-1を使い「食欲が落ちた」「お酒は節度を」と語り、可視性の高い個人談がSNS議論を一段と押し上げた。 People.com


3-5. 日本の世論の揺れ

国内では「痩せ薬」批判が先行しがちとの論考も。医学的メリットとリスクのバランスをどう伝えるか、メディア・企業双方に発信の作法が問われている。 FSight



4. ビジネスへの含意:いま打つべき手

① ポートフォリオ再設計
“嗜好”中心から“機能×体験”へ。高タンパク・高食物繊維・低糖質の三点セットは、朝食・間食・外食の接点で横展開できる。原料は乳・植物をハイブリッド化し、価格弾力の高い“プレミアム実用品”に寄せる。 glanbianutritionals.com


② 表示と期待値の誠実さ
Milo騒動が示したのは「条件付きの数値」を巡る炎上リスク。タンパク量は“製品単体”と“推奨飲用時”を分けて明記し、第三者検証・栄養密度の開示で信頼を積み上げる。 ニュース.com.au


③ アルコール/砂糖カテゴリーの再定義
GLP-1による“報酬鈍化”が中長期テーマ化する前提で、アルコールは低ABV・機能系(電解質・アミノ酸の付加など)、菓子は摂取文脈の再設計(小容量・たんぱく置換・食物繊維併用)に舵を切る。ハイネケンの最新動向が象徴するように、プレミアム戦略と実需の地合いは引き続き見極めが必要だ。 The Economic Times


④ 需要形成:検索とUGCの“合わせ技”
検索では「プロテインバー」が牽引(2024年後半〜2025年夏にかけて上昇)。TikTok/Instagramで#highproteinに加え、#fibermaxxing等の“複合ハッシュタグ”で教育的UGCを育てる。 Accio


⑤ 日本固有の価値提案
“脂質・糖を抑えつつタンパク質確保”は日本人の栄養課題是正に合致。コンビニ・給食・宅配弁当など、日常導線での高タンパク設計が最短距離だ。 Mintel



5. 投資家の視点:どこを見るか

  • バリューチェーンの上流化:乳清・カゼイン、植物タンパクの抽出・ブレンド・即溶性改良など“見えにくい技術”を持つ企業は、B2Bで価格決定力を維持しやすい。 glanbianutritionals.com

  • 大手の再成長ストーリー:栄養密度×サステナの再配合が、どこで粗利に効き始めるか。足元の限定寄与という見立てを覆せるのは、規模の設計力ブランドの説得力だ。 FoodNavigator-Asia.com

  • アルコールの再構築力:数量鈍化の反面、RGM(収益性管理)と低ABV拡張で利益を確保できるか。 The Economic Times


6. まとめ:プロテインは“栄養OS”、嗜好品は“再定義”の時

  • 現象:高タンパク志向の世界的拡大と、GLP-1普及・若年の節度志向が重なり、甘味・アルコール中心の消費は鈍化。 Bloomberg.com

  • SNS:実体験の共有が意思決定を後押しし、誇張表示には強い牽制が働く。 Reddit

  • 打ち手:高タンパク×高食物繊維×低糖の“実用品”で価値を積み上げ、表示の誠実さと教育的UGCで信頼を醸成する。再配合と小容量戦略で“嗜好の再定義”へ。 FoodNavigator-Asia.com