戦火を超えて未来へ:希望は61%、分断への不安は34% ― ウクライナ世論に映る二つの現実

戦火を超えて未来へ:希望は61%、分断への不安は34% ― ウクライナ世論に映る二つの現実

戦況のニュースだけでは見えない「その後の暮らし」

戦争についてのニュースでは、前線の動き、攻撃の被害、外交交渉の行方が大きく取り上げられる。しかし、そこで暮らす人々が思い描いているのは、明日の安全だけではない。10年後、自分たちの国はどのような場所になっているのかという、もっと遠い未来でもある。

ドイツのニュースサイト「tz」が2026年10月30日に紹介した世論調査は、その未来への視線を伝えている。

キーウ国際社会学研究所(KIIS)の調査によると、回答者の61%が、ウクライナは10年後に「欧州連合(EU)の一員として豊かな国になる」と考えていた。対して、経済が荒廃し、多くの人々が国外へ流出する国になると考えた人は27%。残る12%は判断を示さなかった。

戦争の長期化は、将来を考える余裕まで奪いかねない。それでも、今回の調査では明るい未来を選ぶ回答が過半数を占めた。

ただし、この結果を「国民はもう心配していない」と読むことはできない。数字を詳しく見ると、未来への期待と、いまの社会に対する不安が同時に存在している。


「61%」はEU加盟の確率ではない

最初に押さえたいのは、この調査が測っているのは人々の期待であり、EU加盟の実現確率ではないという点だ。

「61%が豊かなEU加盟国になると答えた」ことと、「61%の確率でそうなる」ことは、まったく違う。まして、10年後の加盟や経済成長が保証されたわけではない。

質問の形式にも注意が必要だ。調査では、豊かなEU加盟国になるという将来像と、経済が荒廃して人口流出が進むという将来像を提示し、回答を求めている。

現実には、その中間にも多くの可能性がある。経済の再建が進んでも加盟手続きに時間がかかる場合や、国全体の復興と地域ごとの回復に差が生じる場合も考えられる。

したがって、61%という数字は、細かな将来予測への賛同というより、提示された二つの方向のうち、明るい側を選んだ人の割合として受け止めたい。

それでも、長い戦争の最中に過半数がその側を選んだ意味は小さくない。現在の困難が、そのまま国の未来すべてを決めるわけではないと考える人が多いことを示している。


希望が急増したというより、「崩れていない」

元記事によれば、未来への見方は2025年12月以降、大きくは変わっていない。直前の7〜8月の調査と比べても、顕著な変化は見られなかったという。

ここで注目したいのは、調査時期の違いだ。

夏の調査時には暖かい気候が続き、大規模な停電も起きていなかった。一方、10月の調査は、ロシアによる攻撃の激化やウクライナへの圧力が強まるなかで行われたと説明されている。

つまり、今回の結果は「急に楽観論が広がった」というニュースではない。状況が厳しくなっても、将来への期待が大きく崩れなかったというニュースである。

もちろん、同じ割合が維持されていても、一人ひとりの気持ちが変化していないとは限らない。ある人の期待が弱まり、別の人が希望を取り戻している可能性もある。世論調査が示すのは、そうした個人の変化を含んだ社会全体の輪郭だ。


社会の結束を信じる59%と、分断を心配する34%

調査では、国の将来だけでなく、現在の社会のまとまりについても尋ねている。

回答者の59%は、ウクライナの人々が内部の対立を徐々に乗り越え、まとまりのある政治的な共同体へ向かっていると考えていた。一方、34%は対立が深まり、分断へ進んでいると答えた。

過半数が結束の方向を見ている。しかし、約3人に1人が分断を懸念していることも見逃せない。

戦争の中では、同じ国を守りたいと考える人同士でも、政策や負担の分担、望ましい戦争の終わらせ方について意見が異なり得る。結束とは、すべての人が同じ意見を持つことではない。

今回の数字からは、多くの人が共同体のまとまりを信じる一方、そのまとまりを当然のものとは考えていない社会が見える。

元記事では、2025年9〜10月と比べ、結束に関する評価がやや悪化したことも紹介されている。未来への希望が維持されていても、現在の社会への評価まで同じように安定しているわけではない。


若者の不安を「希望のなさ」と取り違えない

世代間の違いは、とりわけ印象的だ。

18〜29歳では41%が社会の分断を懸念していたのに対し、60歳以上では24%だった。若い世代のほうが、社会の亀裂を強く意識している。

ただし、ここから「若者は自国の未来を諦めている」と結論づけることはできない。「いま社会が分断へ進んでいるか」と「10年後に国が豊かになるか」は、別の問いだからだ。

社会の問題に厳しい目を向けながら、長期的には改善を信じることはできる。むしろ、自分がこれから長く暮らす国だからこそ、内部の対立に敏感になっている可能性もある。

進学、就職、住む場所、家族形成。若い世代にとって国の将来は、自分の人生設計と重なりやすい。ただし、これらが今回の世代差を生んだ原因だと、調査が証明したわけではない。

性別による違いもあり、元記事では女性のほうが男性より前向きな将来像を選ぶ傾向が紹介されている。こちらも、違いの理由まで数字だけで説明することはできない。結果を性格や気質の違いに置き換えず、その背景をさらに調べる必要がある。


将来への期待は、和平条件の受け止め方とも結び付く

未来への見方は、戦争をどれだけ耐え続けられると考えるかとも関連していた。

将来に楽観的な人のうち、戦争を「必要なだけ」耐える意向を示したのは70%。悲観的な人では46%だった。

また、安全保障上の保証と引き換えに、ウクライナ軍がドネツク州から撤退するという案について、受け入れると答えた割合は楽観層で27%、悲観層で53%だった。

この差は、将来に何を期待できると考えるかが、現在の負担や妥協を評価する際の重要な背景になっていることをうかがわせる。

しかし、「楽観的だから抗戦を支持する」という因果関係まで確定したわけではない。逆に、抵抗を続けることで未来を守れると考える人が、楽観的な将来像を選んでいる可能性もある。ほかの要因が両方に関わっていることも考えられる。

また、この撤退案への回答は、あらゆる和平案への賛否ではない。特定の条件を伴う提案への評価だ。

「撤退案に反対する人は平和を望んでいない」「受け入れる人は国の未来を考えていない」といった読み方では、回答者が抱える判断の難しさを取りこぼしてしまう。


SNSの関連議論には、支援する気持ちと見通しを分ける声

今回の調査に直接反応したSNS投稿については、内容を確認できる十分な資料が得られなかった。そのため、ここでは以前に公開された関連議論を紹介する。いずれも今回の結果への最新の反応ではなく、投稿者の国籍や居住地も確認できない。

 

Redditで2024年12月に交わされた、欧州のウクライナ支援をめぐる議論では、戦争の見通しに悲観的なのはウクライナを支持していないからではなく、西側の指導者への懸念があるからだ、という趣旨のコメントが見られた。

この意見が示すのは、「支援したいか」と「良い結果になると予想するか」が別の問題だということだ。ある国の未来を願っていても、外交や支援の継続性には不安を抱くことがある。

また、2023年5月のウクライナ経済とEU加盟をめぐる別のRedditの議論では、2年という期間でのEU加盟を想定するのは楽観的すぎる、という趣旨のコメントがあった。

これは今回の「10年後」という設問とは条件が違う。それでも、加盟を望む気持ちと、実現に必要な時間の見積もりを分けて考える視点として参考になる。

こうした投稿は、社会全体の意見を示すものではない。SNSでは参加者が自ら集まり、強い意見が目立ちやすい。世論調査の数字をSNSの数件のコメントで否定することも、都合のよい投稿だけを集めて補強することも避けたい。


この調査に含まれていない人々がいる

今回の調査を理解するうえで、対象者の範囲は欠かせない。

KIISは2026年10月8〜16日、ウクライナ政府が統治する地域に住む18歳以上の1,031人を対象に電話調査を行った。国内避難民は対象に含まれる。

一方、占領地域に住む人々と、2022年2月24日以降に国外へ避難した人々は含まれていない。

つまり、この調査を世界各地に暮らすウクライナ人すべての意見とみなすことはできない。国外で暮らす人が帰国をどう考えているか、占領下にいる人が未来をどう見ているかは、今回の結果からは分からない。

統計上の誤差は、回答割合が50%前後の場合で最大約4ポイントとされている。さらに、戦時下では通常の標本誤差とは別の偏りも生じ得ると、研究所自身が説明している。

だからこそ、この調査は貴重であると同時に、これ一つで国の感情をすべて語れるものでもない。数字が届いた場所と、届いていない場所の両方を見る必要がある。


日本から考えたいのは、「希望を持て」と求めることではない

日本からこの結果を読むとき、「これほど大変なのに前向きだ」と驚く人は多いだろう。しかし、その感想だけで終わらせると、希望の背後にある生活の負担を見失う。

未来を信じる人が多いことは、支援が不要になったことを意味しない。また、悲観的な回答をした人を、意志が弱いと評価する根拠にもならない。

安心して眠れる住まい、学び続けられる環境、働く場所、必要な医療。希望を現実につなぐには、日常生活の条件が欠かせない。国の復興を考える際には、建物や道路とともに、人が将来の予定を立てられる状態を取り戻す視点が必要だ。

今回の調査で印象的なのは、人々が戦争の終わりだけでなく、その先の国の姿を考えていることだ。

同時に、その未来を信じられない人も、社会の分断を心配する若者もいる。どちらも、同じ社会を構成する声である。

61%という数字は、明るい未来の約束ではない。それは、厳しい現在の中でも、まだ別の未来を思い描く人々がいるという記録だ。その希望を理解するには、隣にある不安にも耳を傾ける必要がある。


出典

  1. tz:2026年10月30日付の記事。調査結果、年代差、和平条件への態度、調査対象などを参照。
    https://www.tz.de/politik/trotz-krieg-und-krisen-an-dieser-hoffnung-halten-die-ukrainer-fest-zr-94566133.html

  2. キーウ国際社会学研究所(KIIS):2026年10月8〜16日調査の公表資料。将来像や社会の結束に関する設問形式、対象者と調査方法を検索で確認できた公開内容と照合。
    https://www.kiis.com.ua/?cat=reports&id=1647&lang=engkiis.com.ua

  3. Reddit/r/europe:2024年12月の欧州によるウクライナ支援をめぐる議論。支援への賛同と、戦争の見通しへの悲観を区別するコメントを参照。今回の調査への反応ではなく、検索で確認できた過去の投稿内容。
    https://www.reddit.com/r/europe/comments/1hmkeba/reddit.com

  4. Reddit/r/YUROP:2023年5月のウクライナ経済とEU加盟をめぐる議論。短期間での加盟に慎重なコメントを参照。今回の調査への反応ではなく、検索で確認できた過去の投稿内容。
    https://www.reddit.com/r/YUROP/comments/13n201u/