「優しいチャット」が子どもを追い詰める ― サイバーグルーミングから守るために

「優しいチャット」が子どもを追い詰める ― サイバーグルーミングから守るために

夜、スマートフォンに届くメッセージ。自分を褒め、話を聞いてくれる相手との会話が、いつしか断りにくい要求へと変わっていく。

ドイツ公共放送SWRが2026年10月27日に報じたのは、そんな15歳の少女のケースだった。男性と夜間にやり取りを重ね、当初は注目されることをうれしく感じていたという。ところが相手は次第に圧力を強め、下着姿や水着姿の写真を求めるようになった。少女は最終的に、マインツの子ども保護団体に相談した。

入り口は、露骨な脅しとは限らない。親切そうな言葉や、気の合う友人としての接近から始まることがある。それが、オンラインで子どもに近づき、信頼や親しさを利用して性的な搾取につなげる「サイバーグルーミング」の見えにくさだ。


警察が把握した81件は、被害の全体像ではない

SWRによると、ラインラント・プファルツ州で警察が2025年に把握した関連事案は81件。州刑事局は、表面化していない被害が相当数あるとみている。

報道が示す内訳には、身体的接触を伴わない48件のほか、子どもに自身への性的な行為をさせた23件などが含まれていた。直接会っていなくても、画面越しに重大な被害が起こり得ることを示している。

ここで注意したいのは、81件という数字を、その地域で起きた被害の総数と受け取らないことだ。また、件数と被害者数は別の指標であり、異なる統計をそのまま比較して増減を判断することもできない。

「会っていないから大丈夫」「写真を求められただけだから」と考えてしまうと、助けを求めるタイミングを逃しかねない。相談の必要性は、身体的な接触の有無だけでは決まらない。


ゲームのチャットも、子どもに近づく入り口になる

SWRが取材した州刑事局の予防担当者は、SNS、メッセンジャー、ゲームのプラットフォーム、掲示板など、デジタルな会話ができる場所ではどこでも被害が起こり得ると説明している。子ども保護団体も、ゲーム内のチャットを接触の入り口として挙げた。

日本の警察庁も、オンラインゲームで知り合った相手から誘い出され、犯罪に巻き込まれる危険について注意を促している。

保護者に必要なのは、アプリの名前や利用時間だけでなく、その中で誰と、どのような会話ができるのかを知ることだ。遊んでいるように見える時間が、知らない相手との個別の会話になっている可能性もある。

ネット上の友人関係をすべて疑う必要はない。ただし、同年代を名乗っていることや、趣味が合うことだけでは、相手の身元や安全性は確認できない。

判断の軸にしたいのは、相手がこちらの意思を尊重するかどうかだ。嫌だと伝えても写真を求め続ける、断ると怒る、秘密を守るよう圧力をかける。そうした行動があれば、親しい相手であっても距離を置き、大人に相談してよい。


日本でも被害は起きている――2025年は1,566人

警察庁の「令和7年の犯罪情勢」によると、2025年にSNSに起因する事犯で被害に遭った児童は1,566人。前年の1,486人から5.4%増加した。

これはサイバーグルーミングだけを数えた統計ではない。児童買春や児童ポルノ事犯などを含む日本の統計区分であり、ドイツの81件と直接比較することはできない。それでも、オンラインで知り合った相手との関係が、子どもの犯罪被害につながっている現実は共通する。

東京都の相談窓口「こたエール」が公開する事例には、写真を送った後に、拡散されたくなければさらに写真を送るよう脅された相談がある。別の事例では、画像の拡散を恐れて電子マネーを支払っても、要求が続いていた。

こうした事例から分かるのは、要求に一度応じたからといって、相手が約束どおりに引き下がるとは限らないということだ。

すでに画像を送ってしまっていても、助けを求めてよい。東京都の相談案内も、子どもは被害者であり、警察への相談をためらわないでほしいと伝えている。


AIの偽画像が、脅しの材料になる懸念

SWRの報道では、子ども保護団体の関係者が、AIで作成・加工された画像や動画、いわゆるディープフェイクの悪用にも警鐘を鳴らしている。

この問題では、画像が本物かどうかだけに目を向けると、本人が置かれている状況を見失う。偽物であっても、それを拡散すると告げられれば、本人には恐怖や不安が生じ得る。

だからこそ、大人が最初から「そんな写真を撮ったのか」と問い詰めるのは避けたい。必要なのは、どんな連絡が来ているのか、何を要求されているのか、今安全な場所にいるのかを落ち着いて確認することだ。

画像の真偽を子ども一人で証明させたり、相手との交渉を任せたりしてはいけない。偽画像であっても、相談をためらう理由にはならない。


SNSで交わされる「利用を制限する」という声と、親の関わり方

オンライン上の子どもの安全をめぐっては、海外のSNSでも保護者らによる議論が続いている。

 

掲示板型SNSのRedditでは、ゲームプラットフォームRobloxをめぐる子育てコミュニティーの投稿に、知らない相手とのチャットを制限しているだけで安心してよいのか、という問題提起があった。

返信には、家庭でRobloxの利用を認めていないという声や、オンラインの対戦・協力プレーを制限し、相手が分かる環境で遊ばせているという声が寄せられていた。保護者が一緒に参加する場合に限り、現実の知人とオンラインで遊ぶことを認めている例もあった。

これらはSWRの記事に対する直接の反応ではなく、同じテーマに関する別の公開スレッドでの発言だ。匿名の投稿であり、書かれた体験の事実関係が独立に確認されたわけではない。また、保護者全体の意見を代表するものでもない。

それでも、個々の発言からは、利用をどこまで認めるか、誰とつながることを許容するかを、家庭ごとに模索している様子がうかがえる。

日本の家庭でも、単に「ゲームは一日何時間」と決めるだけでは足りないだろう。知らない人から連絡が来たとき、別のアプリに誘われたとき、不快な要求を受けたときにどうするかまで、一緒に考えておく必要がある。


子どもが話したとき、最初に伝えたいこと

SWRに登場する子ども保護団体の担当者は、子どもが話し始めたときには、耳を傾け、真剣に受け止めることが大切だと指摘する。

家庭で伝えたいのは、例えば次のような言葉だ。

「話してくれてありがとう」

「嫌なことを要求した相手に責任がある」

「もう送ってしまっていても、一緒に考えられる」

これらは取材発言の引用ではなく、相談を受け止めるための声かけの例である。

安全のために利用方法を見直す必要があっても、それを罰として伝えないことが大切だ。何が起きているのかを一緒に整理し、これ以上の接触や要求を止めるためにどうするかを説明する。

親に話しにくければ、学校の先生、スクールカウンセラー、親族、相談窓口など、ほかの頼れる相手でもよい。大切なのは、子どもが一人で抱え続けないことだ。


被害が疑われるときに取れる行動

性的な写真を要求されたり、画像を広めると脅されたりした場合は、追加の画像やお金を送らず、やり取りを続けないようにする。

そのうえで、可能な範囲で次の対応を進めたい。

  • 相手のアカウント名やID、プロフィール、要求や脅迫のメッセージ、日時を記録する。
  • やり取りを慌てて消さず、スクリーンショットなどで相談に必要な情報を残す。
  • 利用しているサービスの通報・ブロック機能を使う。
  • 保護者など信頼できる大人とともに、最寄りの警察署や専門窓口へ相談する。

証拠を残すために相手との会話を続けたり、追加の要求に応じたりする必要はない。性的な画像を友人やSNSに転送して確認してもらうことも避け、扱い方は警察などに相談したい。

記録をすでに消してしまっていても、相談を諦めなくてよい。覚えているアカウント名や出来事、相手に伝えた情報を整理することから始められる。

日本では、都道府県警察の少年相談窓口が、被害に悩む子どもや家族からの相談を受け付けている。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターには、全国共通番号「#8891」から相談できる。


安全設定と「相談できる関係」を、両方用意する

警察庁は、フィルタリングやペアレンタルコントロールの活用、家庭内のルールづくりを呼びかけている。知らない人からの連絡を制限し、プロフィールの公開範囲を見直すことは、取り組みやすい対策だ。

同時に、設定だけで子どもの判断や不安をすべて支えられるわけではない。どんな要求なら断ってよいのか、困ったときに誰に話せるのかを、普段から共有しておきたい。

「写真は送らない」という予防の言葉とともに、「送ってしまっても助ける」という言葉を伝える。その両方が必要だ。

ネット上で友人をつくり、遊び、誰かと気持ちを分かち合うことは、子どもの生活の一部になっている。その場所を安全にする責任を、子どもだけに背負わせてはいけない。家庭や学校、サービスを提供する事業者がそれぞれの役割を果たし、問題が起きたときに支援へつながれる環境を整えることが求められる。


出典・参考資料

  1. SWR:2026年10月27日の報道。 少女の相談事例、ラインラント・プファルツ州の81件の内訳、ゲーム内チャットやAI悪用への懸念、支援団体・警察担当者の説明を参照。
    https://www.swr.de/swraktuell/rheinland-pfalz/cybergrooming-so-locken-taeter-kinder-im-internet-in-die-falle-hohe-dunkelziffer-100.htmlSWR Aktuell

  2. 警察庁「令和7年の犯罪情勢」:日本の被害統計。 2025年のSNSに起因する事犯の被害児童1,566人と前年比を参照。
    https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation/r7_hanzaijyousei__.pdfnpa.go.jp

  3. 警察庁「身を守るために」:SNS・オンラインゲームの注意点。 ゲームで知り合った相手との接触、画像送信による被害、安全設定に関する案内を参照。
    https://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/prevent/self-portrait.htmlnpa.go.jp

  4. 東京都「こたエール」:画像を送った後、追加の画像を要求された相談事例。 やり取りの保存、警察への相談に関する助言を参照。
    https://www.tokyohelpdesk.metro.tokyo.lg.jp/consult/jirei/kousai_5.html東京都

  5. 東京都「こたエール」:画像の拡散を材料に金銭を要求された事例など。 支払った後も要求が続いた相談と、子どもを被害者として支える助言を参照。
    https://www.tokyohelpdesk.metro.tokyo.lg.jp/consult/jirei/kousai_1.html東京都

  6. Reddit・r/daddit:Robloxと子どもの安全についての公開議論。 利用禁止、交流相手の制限、保護者の同伴に関する投稿・返信を要約。SWR記事への直接の反応ではなく、匿名ユーザーによる意見として紹介。
    https://www.reddit.com/r/daddit/comments/1phbagb/psa_roblox_is_not_just_a_grooming_website/reddit.com

  7. 警察庁「性的な被害」:子どもや家族が利用できる相談窓口。 都道府県警察の少年相談窓口の案内を参照。
    https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/portal/search/kensaku/seihigai/index.html警察庁

  8. 内閣府男女共同参画局:性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター。 全国共通番号「#8891」と支援内容を確認。
    https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html