TikTokで流行→配信停止:プロも使う、でも言いたがらない — AI音楽がナッシュビルで起きている

TikTokで流行→配信停止:プロも使う、でも言いたがらない — AI音楽がナッシュビルで起きている

1. もう聴いているかもしれない——AI音楽は“すでに日常”へ

「気づかないうちに、AIで作られた(あるいは大部分がAIの)曲に出会っているはず」。The Vergecastの当該回は、そんな導入から始まる。TikTokを眺めていれば、ここ数週間で話題になった曲を耳にした可能性が高い、と番組ページは示唆する。AIツール、とりわけSunoが音楽制作プロセスに入り込み、なかでも“カントリーの首都”ナッシュビルで存在感を強めているというのだ。 The Verge


ここで重要なのは、「AI音楽=素人のお遊び」という先入観が崩れ始めている点だ。The Vergecastは、音楽ジャーナリストのCharlie Hardingを招き、彼が取材した“ナッシュビルの現場”を辿る。表向きは静かでも、水面下ではAIが制作の当たり前になりつつある——ただし、全員がそれを公言したがっているわけではない。 The Verge


2. “vibe-write”とは何か:言葉で空気を指定し、曲を量産する

番組の面白いところは、AIの是非を抽象論だけで語らず、「実際に曲を作ってみせる」点にある。紹介文によれば、Harding自身が曲を作り、番組側がプロンプトで“破壊”していく(=方向性を極端に変えてみせる)場面もあるという。要するに、曲作りが「演奏や打ち込み」だけでなく、「雰囲気(vibe)を言語化して投げる」行為へと寄っていく。 The Verge


Hardingの別記事(同番組内で参照されるレポート)では、実務的な使われ方がさらに具体的だ。たとえば、Sunoに対して“温かい現代カントリー”“スモーキーな女性ボーカル”“ペダルスティールでエモさを足す”といった、サウンドの設計図を言葉で細かく指定し、リミックスやデモ生成に使っている例が出てくる。完璧ではなくとも「完成形のイメージを掴む」用途として成立している、という感覚だ。 The Verge


3. なぜカントリーが“最前線”になるのか——ナッシュビルの分業とスピード

ナッシュビルの制作現場は、ソングライター、プロデューサー、スタジオ・ミュージシャン、いわゆる“トラックガイ”など、分業で回る。Hardingの記事では、Sunoがデモ制作やアイデア出しの速度を一気に引き上げ、プロデューサーが“半分できたネタ”を入れるだけで複数案を出せる、といった使い方が紹介される。 The Verge


しかも、出力の荒さは「車で流すデモなら十分」と割り切れる場面がある、という証言もある。交通ノイズで粗が紛れる、という生々しい話は、AIが“現場の実用”に到達しつつあることを示している。 The Verge


4. “便利”の裏で削られる仕事:デモ職人と将来の人材供給

一方で、AIの効率化はそのまま「人の仕事」を削る。Hardingの記事では、かつてデモ演奏だけで高収入を得られた世界があったこと、そしてSunoの普及がその収入源を脅かし得ることへの懸念が語られる。デモ演奏の“ファームチーム”が消えれば、将来の人材供給に穴が空く——これは短期のコスト削減が、長期の創作基盤を壊す典型例でもある。 The Verge


5. 権利・倫理・“声が似すぎる”問題:混ざり合うほど揉めやすい

さらに厄介なのが、権利と倫理だ。Hardingの記事には「AIが出したリードラインをアーティストが使ったら、プロトコルは?」という疑問が出てくる。加えて、AI単体の成果物は保護が難しく、ハイブリッド作品の帰属が曖昧になりやすい。そもそも学習元への補償が十分か、という不満も示される。 The Verge


そして“いちばん揉めやすい地雷”が、ボーカルの似姿だ。Harding記事では「友人そっくりの声が出るのが嫌だ」という反応も紹介される。AIの精度が上がるほど、模倣・誤認・なりすましの問題は尖っていく。 The Verge


6. “I Run”騒動が象徴する、SNS時代のAIボーカル炎上

The Vergecastの紹介文が触れている「TikTokでよく流れていた曲」をめぐっては、別報道でより具体的な輪郭が見える。Washington Postによれば、TikTokで拡散した「I Run」は、特定アーティストの声に似ているのではないかと疑われ、結果として配信プラットフォーム側の“なりすまし”方針に抵触したとして削除された経緯がある。 The Verge


興味深いのは、受け手の心理が「曲の良し悪し」だけで決まらない点だ。記事内では、最初はハマったのにAIだと知って一気に拒否感が出た、という反応も紹介されている。AIの是非は、聴感上の品質だけでなく「作者への信頼」「だまされた感覚」「応援したい相手がいるか」と強く結びつく。 The Washington Post


7. SNSの反応:盛り上がり方は“二極化”ではなく“多層化”

ここからは、SNS(主にReddit等)で観測できる反応を、論点ごとに整理してみる。


(A)「カントリーはAIが得意」派:様式美と“それっぽさ”の相性
Sunoコミュニティでは「Sunoはカントリーが特に得意」「意図しない南部訛りが出るのでネガティブ指定に“country”を入れる」など、半ば“あるある”として語られている。カントリーの定型(コード進行、語り口、音色)が、生成の再現性と噛み合いやすい、という見方だ。 Reddit


(B)「もう全部同じに聴こえる」派:AI以前の“定型化”への皮肉
別スレでは、AIカントリーがチャートで話題になったニュースに対し、「そもそも(現代の)ポップ・カントリーは定型で、AIが要るのか?」といった皮肉も見られる。AI批判というより、ジャンルの工業製品化への不満が、AIをきっかけに噴き出している。 Reddit


(C)「AIと知った瞬間に冷める」派:体験価値=物語
先の「I Run」のように、聴いている最中は気に入っても、AIと知った途端に評価が反転するケースがある。これは“音の問題”というより、“その曲を誰の努力として受け取るか”が体験価値を左右している証拠でもある。 The Washington Post


(D)「線引きは不可能」派:制作現場はすでに“AIまみれ”
Sunoのスレッドでは「プロデューサーが言わないだけで、AIはもっと前から使われているはず」「ミキシングやマスタリングのツールにもAI的要素がある」など、白黒では語れないという意見が目立つ。生成AIの“作曲”だけを特別視するのは現実的ではない、という主張だ。 Reddit


(E)「公開したら叩かれる?でも救われた」派:創作の民主化とコミュニティ摩擦
「Sunoで作った曲をリリースしたら炎上する?」という問いかけに対し、「努力してユニークにすれば受け入れられる」「大量投下の“テンプレAI曲”は反発を招く」といった実務的な助言が返る一方、強い拒絶(“あなたはアーティストじゃない”)も同時に出る。
ただし、創作経験のない書き手が「自分の言葉を曲にできた」と感じるカタルシスも語られており、AIが“新しい参加者”を増やす側面も無視できない。 Reddit


8. 業界は“敵視”から“制度化”へ?——提携が示す次のフェーズ

混乱の中で、業界が次に向かう道は大きく2つある。「締め出す」か「管理して取り込む」かだ。The Vergeは、Warner Music GroupがSunoとライセンス契約を結び、参加アーティストの声や名前等を“オプトイン”で使える形を示したと伝える。訴訟から提携へ、という流れは、AI音楽が“なくならない前提”で制度化に向かい始めたサインでもある。 The Verge


9. じゃあ私たちはどう聴き、どう作る?——“AIカントリー時代”の作法

The Vergecastが突きつけるのは、「AIは是か非か」より先に、「AIが混ざった音楽とどう付き合うか」という問いだ。 The Verge


現実的な落としどころとしては、たとえばこんな“作法”が考えられる。

  • 制作側:デモ用途(作曲メモ、アレンジ案出し、仮歌のニュアンス確認)として使うなら、現場の時間を買える。 The Verge

  • 公開側:ボーカルの“誰かに似せる”方向は特に火種。誤認の可能性があるなら、最初から避ける設計が安全。 The Washington Post

  • 聴き手側:AIかどうかより、(1)誤認させる意図がないか、(2)権利とクレジットがどう扱われているか、(3)作品として何を面白がるか、を分けて考えると議論が前に進む。


AIが“ナッシュビルの空気”を学習し、言葉からそれっぽい曲を吐き出せるようになったいま、カントリーは最初に揺れるジャンルになった。でも同時に、それは「音楽の価値はどこに宿るのか」を、いちばん分かりやすく可視化してしまうジャンルでもある。次にラジオで流れる“新曲”が、どこまで人間で、どこから機械なのか——たぶん私たちは、気づかないまま当たり前に聴き分けていくのだろう。 The Verge



参考記事

カントリーヒットを生み出すためのバイブライティングの方法
出典: https://www.theverge.com/podcast/843447/ai-music-country-suno-vergecast