スワイプ文化が招く未来の危機:出会いは増えたのに、なぜ結ばれない?「恋愛疲れ」から考える日本の少子化

スワイプ文化が招く未来の危機:出会いは増えたのに、なぜ結ばれない?「恋愛疲れ」から考える日本の少子化

スマートフォンを開けば、日常生活では出会わなかった相手のプロフィールが次々と現れる。写真を見て、条件を確かめ、気になれば反応する。

出会いの入口は広がった。それでも、誰かと信頼関係を築き、一緒に暮らし、将来を考えるまでの道のりが短くなったとは限らない。

英国のコラムニスト、サラ・ヴァイン氏は、2026年9月27日付のDaily Mailの論説で、この隔たりを少子化の問題と結びつけた。そこで紹介されるのが、「romance famine」という言葉だ。日本語にすれば「恋愛飢饉」。親密で継続的な関係を築くことの難しさを表現している。

ただし、これは社会の変化を論じる言葉であり、確立した統計指標ではない。「左にスワイプして相手を断る人が増え、人類の未来が危うくなる」という見立ても、因果関係を証明した研究結果ではなく、筆者の問題提起として受け止める必要がある。

日本からこの論説を読むと、問うべきなのは、若者の恋愛への積極性だけではないことが見えてくる。


出会うことと、関係を続けることは違う

ヴァイン氏が取り上げるのは、長期的な関係へのためらい、家庭生活と両立しにくい仕事、そして将来への悲観だ。

論説には、AIによる雇用の変化を扱ったポッドキャストを聞いた娘が、子どもを持つことに迷いを口にしたという個人的なエピソードも登場する。それ自体で若い世代全体を説明することはできない。それでも、仕事や社会の先行きが、家族を持つという私的な選択に入り込む様子は伝わってくる。

結婚や出産には、完全に不安がなくなる時期を待てない側面がある。しかし、そのことと、不安を本人の覚悟だけで乗り越えさせることは別だ。

来年も今の仕事を続けられるのか。住居費を払いながら生活できるのか。子どもが病気になったとき、仕事を休めるのか。

こうした問いに具体的な見通しが立たないまま、「もっと前向きに」と言われても、行動に移しにくい人はいるだろう。


日本では、結婚したい人も減っている

日本の最新調査にも、変化は表れている。

国立社会保障・人口問題研究所が2026年9月11日に公表した第17回出生動向基本調査は、2025年6月に実施されたものだ。「いずれ結婚するつもり」と答えた18~34歳の未婚者は、男性75.1%、女性77.8%。前回の男性81.4%、女性84.3%から低下した。

ここから読み取れるのは、結婚を望む人が依然として多数を占める一方、その意向が以前ほど広く共有されなくなっているということだ。

ただし、「結婚したくない」「今は結婚を考えられない」「結婚したいが相手がいない」は、それぞれ違う状態である。この違いを無視すると、必要な支援も見誤る。

結婚を望まない人に婚活を促しても、本人の幸福につながるとは限らない。反対に、望んでいるのに生活条件が整わない人を、価値観の変化だけで説明するのも不十分だ。


それでも、アプリは結婚の入口になっている

「スワイプ文化が恋愛を壊した」という説明だけでは、日本の現実を捉えきれない。

同調査では、調査時点から過去5年間に結婚した初婚同士の夫婦について、知り合ったきっかけが「ネット」だった割合は20.2%。前回の11.0%から上昇した。

ここでいうネットには、マッチングアプリだけでなく、SNSやウェブサイトなどを通じたやり取りも含まれる。「夫婦の2割がマッチングアプリ婚」と読み替えることはできないが、オンラインの出会いが重要な結婚経路になっていることは分かる。

つまり、デジタルな出会いに疲れる人がいることと、その出会いによって結婚する人がいることは、同時に成立する。

この数字も、アプリが結婚をどれだけ純増させたかを示すものではない。それでも、アプリを少子化の「犯人」と決めつける議論には、慎重さを求める材料になる。

出会いをつくる機能と、出会った後の関係を支える条件。その両方を見ていく必要がある。


SNSに見えるのは、選ぶ疲れと選ばれる疲れ

では、利用者は何に疲れているのだろうか。

 

今回確認できた海外掲示板Redditの恋愛相談コミュニティには、アプリで会話が一方通行になり、短い返答の後に相手が消えてしまうことへの不満が投稿されていた。何日もやり取りしたり、会う予定を考えたりした後で、説明なく連絡が途絶える「ゴースティング」への戸惑いも挙げられている。

同じ投稿は、プロフィールが相手を知るための入口ではなく、採用条件の一覧のようになっていると批判する。一方で、対処として、アプリをあくまで紹介の場と考えることや、嫌気が強くなる前に休むことも挙げていた。

別の投稿では、3年間アプリを使ってきたという24歳の女性が、精神的な疲れを訴えている。

これらは元のDaily Mail論説に対する直接の反応ではなく、同じテーマをめぐる個別の投稿だ。日本の利用者全体や、SNS全体の意見を代表するものでもない。

それでも、出会いの数だけでは測れない負担を考える手がかりにはなる。何度も自己紹介を繰り返し、相手の意図を探り、反応がなければ気持ちを切り替える。その作業には時間だけでなく、感情の余力も必要になる。


「理想を下げればいい」で解決するのか

恋愛疲れの話題では、相手に求める条件が厳しすぎるという説明が出てきやすい。

確かに、条件を細かく設定するほど、候補は絞られる。しかし、条件にはさまざまな意味がある。趣味の一致を望むことと、暴力を振るわない相手を求めることは同じではない。年収への関心も、ぜいたくな暮らしを望んでいる場合ばかりとは限らず、家計の不安と結びついている可能性がある。

だからこそ、「選びすぎ」という一言で片づける前に、その条件が何を守ろうとしているのかを考えたい。

一緒にいて安心できるか。意見が違ったときに話し合えるか。生活上の負担を押しつけられないか。

こうしたことは、写真や短い紹介文だけでは分からない。関係を育てるには、出会った後に相手を知る時間が要る。出会いを効率化できても、その時間まで省略できるわけではない。


少子化を考えるなら、恋愛の先にも目を向ける

もう一つ忘れてはいけないのは、パートナーが見つかっても、希望する家族生活を実現できるとは限らないことだ。

国連人口基金の2025年版『世界人口白書』は、出生率そのものだけでなく、人々が望む人数の子どもを、望む時期に持てるかという問題を重視している。報告に用いられた調査では、経済的な制約が希望する家族規模の実現に影響した、または影響すると答えた人が39%いた。

この割合を日本の状況にそのまま当てはめることはできない。しかし、出産をためらう理由を気持ちの問題だけに還元できないことを示す材料にはなる。

日本で支援を考える際も、出会いの機会と同時に、住まい、雇用、働く時間、育児を分担できる環境を検討する必要があるだろう。

例えば、婚活イベントで知り合えても、その後に会う時間が取れなければ関係は深まりにくい。結婚できても、子育てによる収入減や仕事への影響を一方だけが引き受ける見通しなら、出産には慎重になる。

これらは特定の制度だけで解決する問題ではない。だからこそ、「出会わせればよい」という発想で支援を終わらせないことが大切になる。


「人類のために産む」より、自分の未来を選べる社会へ

元記事の見出しは、人類の未来が危うくなるという強い言葉で関心を引く。だが、人口への危機感を、そのまま個人への結婚・出産の圧力に変えてしまえば、議論は別の問題を生む。

子どもを持たない人生にも、結婚しない人生にも価値がある。望んでいても実現しなかった人もいる。出生数だけで、人の人生への貢献を測ることはできない。

そのうえで、結婚したい人、子どもを育てたい人が、諦めなくて済む条件を整えることには意味がある。

「恋愛飢饉」という言葉を日本で受け止めるなら、誰が消極的なのかを責めるためではなく、関係を育てる余裕がどこで失われているのかを考える入口にしたい。

画面の向こうには、候補が大勢いる。けれど、目の前の一人と未来を考えるには、時間も信頼も生活の見通しも必要だ。

日本が向き合うべきなのは、スワイプの回数だけでは分からない、その先の難しさなのだ。



出典・参考URL

  1. Daily Mail/サラ・ヴァイン氏の論説(2026年9月27日)
    記事の出発点となった「恋愛飢饉」、長期的な関係の形成、仕事や将来不安をめぐる問題提起。
    https://www.dailymail.com/debate/article-16163047/people-swipe-left-spell-end-world-SARAH-VINE.html

  2. 国立社会保障・人口問題研究所/第17回出生動向基本調査
    2025年実施、2026年9月11日公表。18~34歳の未婚者の結婚意向について参照。ipss.go.jp
    https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou17/doukou17_gaiyo.html

  3. 同調査「結果の概要」/配偶者と知り合ったきっかけ
    本文59ページ掲載。調査時点より過去5年間に結婚した初婚同士の夫婦における、ネット経由の出会い20.2%と、その対象・定義を確認。ipss.go.jp
    https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou17/JNFS17gaiyo.pdf

  4. Reddit/アプリでのやり取りやゴースティングへの不満を述べた投稿
    会話の一方通行、条件比較、連絡途絶への疲れと、投稿者が挙げた対処を要約。元記事への直接の反応ではありません。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/dating_advice/comments/1q58y13/dating_apps_reward_the_worst_behaviors_and_its/

  5. Reddit/「dating fatigue (24 F)」
    アプリを3年間利用し、精神的な疲れを感じているという個人の投稿。検索で確認できた公開部分を参照。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/dating_advice/comments/1uiuog3/dating_fatigue_24_f/

  6. 国連人口基金/2025年版『世界人口白書』特設ページ
    希望する家族規模を実現する際の経済的制約と、出産に関する本人の選択を重視する視点を参照。aa.unfpa.org
    https://aa.unfpa.org/swp2025