「銃乱射世代」の若者たち : 「銃乱射が怖い。だから銃が必要だ」米国の若者を分ける“同じ恐怖”

「銃乱射世代」の若者たち : 「銃乱射が怖い。だから銃が必要だ」米国の若者を分ける“同じ恐怖”

学校へ行く。買い物をする。友人とコンサートに出かける。

そんな日常の場で、自分や大切な人が銃撃されるかもしれない。その不安を共有しているのに、ある人は銃規制の強化を求め、別の人は銃を持つ権利を守ろうとする。

米国の若者を対象とした研究が浮き彫りにしたのは、このねじれだった。

英紙インディペンデントが2026年10月15日に掲載した研究者による解説は、「銃乱射事件とともに育った世代なら、銃規制で一致するはずだ」という見方に疑問を投げかけている。

安全な社会を望んでいることと、その実現方法で合意できることは、同じではない。


若者の6割超が恐怖。それでも答えは一つではない

研究を行ったのは、コロラド大学ボルダー校のジリアン・トゥラノヴィッチ氏らのチームだ。学術誌「Social Science Quarterly」に発表された研究では、米国の18~29歳、1,674人の調査データを分析した。

回答者は、自分や大切な人が銃乱射事件の被害に遭うことについて、どの程度恐れているかを尋ねられた。公共のイベント、大勢が集まる場所、学校や商業施設なども質問に含まれていた。

結果は、中程度の恐怖を示す人が約44%、強い恐怖を示す人が約17%。合わせて6割を超えていた。

銃政策については、全体のおよそ3分の2が、公共の場所で銃を携帯する際の許可を必要とし、大学キャンパスへの銃の持ち込みを認めるべきではないと考えていた。また、約6割は、銃を持つことが安全につながるという考えに否定的だった。

ここまでを見ると、若者の不安は銃規制への支持を後押ししているように見える。

しかし、回答者を政治的立場や性別などで分けると、別の姿が現れた。


恐怖が強いほど、規制に反対する層もある

調査全体では、銃乱射事件を強く恐れる人ほど、銃規制を支持する傾向が見られた。ただし、その関連は大きなものではなかった。

一方、若い男性、共和党支持者、政治的に保守的な回答者では、反対方向の関連が確認された。恐怖が強い人ほど、銃への規制を支持しにくかったのである。

ここで注意したいのは、「男性は銃規制に反対する」「共和党支持の若者は全員、武装を望んでいる」という結果ではないことだ。あくまで、それぞれの集団内で見られた統計上の傾向である。

また、この調査だけで「恐怖が人を規制反対へ変えた」とまでは断定できない。もともとの政治的信念や銃に対する考え方が、恐怖の受け止め方と政策への態度の両方に関係している可能性もある。

研究が示しているのは、同じ危険を怖がっていても、そこから導かれる政策上の答えは一致しないということだ。


「危険だから減らす」と「危険だから備える」

この分かれ道を理解するには、銃が何を意味するのかに目を向ける必要がある。

規制を支持する立場では、銃へのアクセスを制限することが、事件の発生や被害を減らす手段になる。危険な道具を手にしにくくすれば、社会全体の安全を高められるという発想だ。

対して、銃を持つ権利を重視する立場では、銃は危険への備えでもある。襲撃者が現れたとき、警察が到着するまで自分や家族を守れるのか。規制によって、自衛する側だけが不利になるのではないか。そうした懸念が前面に出る。

元記事が紹介する、武装した市民が犯人を止めるという主張は、後者の考え方を象徴している。

これは両者の論理を整理したものであり、銃を持てば実際に安全になることを意味しない。「安心できると感じること」と「被害が減ること」は、別々に検証しなければならない。

だが、政治的な議論では、その二つが重なりやすい。誰かにとっての安全対策が、別の誰かには「身を守る手段を奪われること」と映ってしまう。


「約8割が恐れる」という数字には注意が必要

元記事を読む際には、見出しと本文に登場する数字を区別する必要がある。

見出しにある「約8割」に対応するのは、米国心理学会が2019年に公表した、米国の成人全体を対象とする別の調査だ。その調査では79%が、銃乱射事件が起こる可能性によってストレスを感じると答えていた。

今回取り上げられた若者の研究で、中程度以上の恐怖を示した割合は6割超である。

調査した年も、対象者も、質問の内容も異なるため、この二つの数字をそのまま比較したり、「現在の米国の若者の8割が恐怖を感じている」と言い換えたりすることはできない。

ただ、2019年の調査では、恐怖によって特定の場所やイベントを避けると答えた成人も33%いた。事件は直接の被害者だけでなく、日常の行動を変えるほど広い範囲に影響を及ぼしている。


SNSでも交錯する、訓練への期待と自衛へのこだわり

この研究をめぐる反応は、米国の掲示板型SNS「Reddit」でも確認できる。

 

以下は、今回のインディペンデント記事に寄せられた最新の反応ではなく、同じ研究を紹介した既存のスレッドに見られる意見の要約だ。投稿者の年齢や国籍は確認できず、若者全体の世論を代表するものでもない。

科学分野のコミュニティ「r/science」では、銃の教育や訓練を充実させるべきだという意見があった。武装した市民が犯人を止めるという想定についても、現実の混乱の中で複数の人が発砲すれば、危険が増すのではないかという疑問が示されていた。

その一方で、銃乱射事件だけではなく、自宅への侵入などへの備えとして銃を考える投稿も見られた。議論の対象が、無差別の襲撃から家庭の防衛へ移ると、同じ銃をめぐる評価も変わっていく。

政治系コミュニティ「r/centrist」では、政府の権力乱用への警戒から、銃を手放すことに抵抗を示す意見もあった。これに対し、子どもが学校で危険にさらされることと、銃を持つ権利をどう両立させるのか、と問い返す投稿が続いていた。

これらのやり取りから見えるのは、「銃が好きか嫌いか」だけでは説明できない対立だ。

学校の安全、家族の防衛、政府への不信、個人の自由。参加者が優先している問題が違えば、同じ事件について話していても、議論の出発点がずれてしまう。


日本から見るときに、見落としやすいこと

日本の読者には、「銃撃が怖いなら、銃を減らせばよいのではないか」と感じられるかもしれない。

しかし、米国の銃論争では、犯罪防止の効果だけでなく、権利や自立、政府との関係までが一つの議題に重なっている。

そのため、事件への恐怖を訴えるだけでは、相手の政策判断が変わるとは限らない。もともと銃を自衛の手段と考える人にとって、危険が強調されることは、銃を手元に置く理由にもなりうる。

日本からこの問題を理解する際には、米国の若者を「銃規制を進める世代」と一括りにしないことが大切だろう。

若いという共通点があっても、育った家庭、地域、政治的立場によって、安全を誰に託すかという感覚は異なる。世代交代は、有権者の顔ぶれを変えても、政策上の対立を自動的に解消してくれるわけではない。


悲劇を知る世代が、同じ未来を選ぶとは限らない

学校での封鎖訓練や繰り返される銃撃報道を身近にして育った若者たちは、銃暴力の問題から距離を置いてきた世代ではない。

2018年のフロリダ州パークランドでの学校銃撃事件の生存者らによる「March for Our Lives」のように、若者が規制を求める運動を主導してきた例もある。

それでも、今回の研究は、その姿を世代全体に重ねることの限界を示している。

「同じ悲劇を見れば、同じ教訓にたどり着くはずだ」という期待は、必ずしも現実にならない。既存の信念によって、ある人は規制の必要性を感じ、別の人は自衛の必要性を感じる。

米国の若者が共有しているのは、完成した政策の答えではなく、安心して暮らしたいという願いなのだろう。

その願いを具体的な制度につなげるには、恐怖を強調するだけでなく、どの対策が、誰の、どのような被害を減らすのかを確かめる議論が必要になる。


出典・参考資料

  1. The Independent:
    若者の銃乱射への恐怖、銃規制への態度、政治的分断を紹介。
    https://www.independent.co.uk/news/world/americas/us-politics/mass-shootings-gun-rights-young-voter-b3067778.html

  2. コロラド大学ボルダー校:研究内容の公式解説。
    若者の恐怖の程度、銃政策に関する回答、政治的立場や性別による違いを確認。University of Colorado Boulder
    https://www.colorado.edu/today/2025/10/27/young-adults-fear-mass-shootings-dont-necessarily-support-gun-control

  3. 研究論文「Fear of Mass Shootings and Gun Control Sentiment: A Study of Emerging Adults in Contemporary America」。
    対象者1,674人、分析方法、主な結果について公開抄録で確認。ideas.repec.org
    https://doi.org/10.1111/ssqu.70087

  4. 米国心理学会:2019年の銃乱射への不安に関する調査。
    成人の79%がストレスを感じ、33%が特定の場所やイベントを避けると回答した数字の出典。apa.org
    https://www.apa.org/news/press/releases/2019/08/fear-mass-shooting

  5. Reddit「r/science」:同じ研究をめぐる公開議論。
    銃の教育・訓練、武装した市民による対処、自衛などに関する投稿の要約に使用。投稿内容を実証済みの事実として扱ったものではない。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/science/comments/1ojcc6m/for_young_republicans_and_men_fear_of_mass/

  6. Reddit「r/centrist」:同じ研究を紹介した公開議論。
    政府への警戒、銃を持つ権利、子どもの安全をめぐる意見の要約に使用。reddit.com
    https://www.reddit.com/r/centrist/comments/1ok6gxr/young_adults_fear_mass_shootings_but_dont/