その“かわいい皿”、実は危険? ─ ヴィンテージ食器と重金属の話

その“かわいい皿”、実は危険? ─ ヴィンテージ食器と重金属の話

1) いま“古い食器”が人気な理由

花柄のプレート、コバルトブルーのスーピエール、金縁のサービス皿。押し入れの奥に眠っていた食器が、いまやフリマや蚤の市、リユースショップ、そしてSNSの食卓投稿で“主役”になっています。新品にはない絵柄の温度感、時代の空気をまとった質感、そして「受け継いだものを使う」ストーリー性。だからこそ、手に入れた瞬間から食卓で使いたくなる。


けれど、その“魅力”と同じくらい見落とされがちなのが、「昔の技術と素材は、現代の基準と一致しないことがある」という現実です。今回話題になったのは、まさにその境目にあるリスクでした。


2) 問題の中心は「釉薬」と「重金属」

報道によると、20世紀前半から1950年頃までに作られた一部の陶器・食器では、低温で焼成するために釉薬に重金属が使われることがあったとされています。特に指摘されたのが鉛とカドミウム。色を鮮やかに出したり、発色を安定させたり、焼き上がりを整える目的で利用されてきた歴史があります。


ここで怖いのは「入っていること」そのものより、「使い方次第で食べ物へ移ることがある」点です。食器は“容器”ですが、長い接触時間や食品の性質によっては、微量な成分が食品側へ移行(溶出)する可能性がある。つまり、食器は“ただの背景”ではなく、食卓の化学反応の舞台にもなり得るのです。


3) 酸っぱいほど溶けやすい──“料理との相性”がある

注意喚起で繰り返し出てくるキーワードが「酸性の食品」。トマトソース、柑橘、酢、ドレッシング、果汁、炭酸、ワイン、コーヒー、紅茶など、日常のメニューは意外と酸性寄りです。酸は釉薬表面から成分を引き出しやすく、同じ皿でも“何を乗せるか”でリスクが変わります。


たとえば「レモンを絞った魚」「トマト煮」「酢の物」「ベリー系デザート」。映えるほど色も味も“攻めている”料理が、溶出の観点では要注意になりやすい。料理の魅力と安全の条件が、ここでズレてしまうのがやっかいです。


4) 「欠けてないから大丈夫」ではない

SNSでよく見かけるのが、「ヒビがなければ平気では?」という反応。直感としては理解できます。欠けやヒビがあると表面が荒れて、溶け出しそうに見えるからです。


しかし、今回の注意喚起では「欠けやヒビの有無に関わらず、移行が起こり得る」という趣旨が強調されています。見た目がきれいでも、釉薬の組成や焼成条件、経年劣化、日々の洗浄・摩耗など、表面の状態は目視だけで判断しにくい。つまり「見た目チェック」には限界がある、ということです。


5) どんな健康リスクが語られているのか

鉛は、体内に蓄積し得る有害物質として広く知られ、特に子どもの健康影響が問題にされてきました。大人でも長期的な曝露は望ましくありません。カドミウムもまた、腎臓や骨などへの影響が議論され、長い半減期で体内に残りやすいとされます。


もちろん、ここで大切なのは「一度使ったら即アウト」という話にしないことです。問題は“頻度”と“条件”の掛け算。毎日のように、酸性食品を、長時間接触させる。こうした条件が重なるほど、リスクは積み上がりやすくなる。逆に言えば、付き合い方を変えることで「リスクを下げる余地」もあります。


6) 現実的な落としどころ:捨てるより“用途を分ける”

では、ヴィンテージ食器は全部処分すべきなのでしょうか。結論は、極端に振り切る必要はありません。ポイントは「食器としての用途を、食べる用途から外す」こと。


たとえば、飾り皿にする。鍵やアクセサリーのトレーにする。ドライフラワーの器にする。写真撮影の小道具にする。こうすれば“映え”の価値は残しつつ、口に入る接触を減らせます。


さらに踏み込むなら、「どうしても使いたい」人向けに“条件付き運用”があります。代表例が、果物を置くとしても「皮をむくものだけにする」といった工夫。食品が直接触れても、最終的に食べる部分が接触しにくい形にするわけです。こうした考え方は、SNSでも支持されやすい“落としどころ”になっています。


7) 「検査して決めたい」派が増えている

SNS反応を眺めると、感情は大きく3つに分かれます。


(A)不安・ショック派
「うち、普段使いが全部レトロ系…」「知らずに何年も使ってた」など、生活に直結するからこその動揺。特に子どもがいる家庭は反応が強めで、「念のため使うのをやめる」という即時対応が目立ちます。


(B)懐疑・様子見派
一方で、「どれくらい移るの?」「実害は多いの?」と“量”の話を求める声もあります。ゼロリスクではないと理解しつつ、日常の他の曝露源(住環境、食品、趣味)も含めて相対化し、「過剰に怖がりすぎない」姿勢を取る人もいます。


(C)実務・対策派
そして増えているのが、「検査して判断したい」「使い方を工夫する」「酸性の料理は避ける」という対策志向。英語圏の掲示板でも「テストキットで確認する」「酸っぱいものは避ける」といった“行動の提案”が繰り返し出てきます。極論より、手間と安全のバランスを取りに行く空気です。


この3分類は、実はとても健全です。情報が出た直後は不安が先に立ち、次に疑問が湧き、最後に具体策へ落ちる。SNSはそのプロセスを可視化します。

8) じゃあ、今日からどうする?チェックリスト

最後に、怖がるだけで終わらせないための“実務”をまとめます。

  • 年代の目安を意識する:特に20世紀前半〜1950年頃の古い陶器は注意の話題になりやすい。

  • 酸性食品を避ける:トマト、酢、柑橘、果汁、ワインなどは、古い器との相性が悪い。

  • 頻度を下げる:毎日使いではなく、飾り・撮影・小物置きへ用途転換。

  • 子どもがいる家庭はより慎重に:成長期は影響が出やすいとされるため、家庭ルールを優先。

  • “検査してから決める”も選択肢:費用はかかるが、白黒つけたい人には合理的。


ヴィンテージ食器は、暮らしを豊かにする文化でもあります。だからこそ、ロマンだけで突っ走らず、情報で上手に距離感を決める。それがいちばん大人な楽しみ方なのかもしれません。



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