アメリカの食文化に革命!?「バターも牛脂もOK」 — 米新指針が揺らす“常識の食”とSNSの大炎上

アメリカの食文化に革命!?「バターも牛脂もOK」 — 米新指針が揺らす“常識の食”とSNSの大炎上

1. 「牛脂が健康?」——“逆さま”フードピラミッドの衝撃

2026年1月、米国の新しい食生活ガイドラインが公表された。メッセージは極めてシンプルで、「Eat real food(リアルフードを食べよう)」を前面に押し出す。超加工食品を減らし、たんぱく質・乳製品・野菜果物・良質な脂質・全粒穀物を軸にする——という大枠だけ聞けば、いまどきの“わかりやすい健康論”にも見える。


だが、世間の視線を釘付けにしたのは別の一点だった。脂質の項目に、**「オリーブオイルなど必須脂肪酸を含む油を優先しつつ、バターやビーフタロー(牛脂)も選択肢に入る」**と明記されたのである。

さらにビジュアル面では、従来の“炭水化物が土台”になりがちだった象徴をひっくり返すように、たんぱく質や乳製品が上位に配置される構図が示された。こうして牛脂は、栄養の話題に留まらず、アメリカの価値観をめぐる大論争の中心へ躍り出た。



2. ビーフタローとは何か:古くて新しい“揚げ油”

ビーフタローは一言で言えば「牛の脂を精製・凝固させた調理脂」。家庭で使うラードの“牛版”と考えると近い。
近年の復権は、味のノスタルジー(「昔のフライの方がうまかった」)と、加工油脂への不信(特に“シードオイル”と呼ばれる植物油への反発)が合流したところにある。


この潮流を可視化した象徴がファストフードだ。たとえばSteak ’n Shakeは、自社サイトで「フライド製品を100%ビーフタローで調理し、シードオイルを排除した」と明言している。


“油の変更”が、単なる調理工程の話ではなく、企業のアイデンティティ表明(透明性、自然志向、反・超加工)になっている点が、今回の騒動の肝でもある。



3. 「飽和脂肪は10%以内」——ガイドラインの“ねじれ”が火種に

新指針は、飽和脂肪(バターや牛脂、脂身の多い肉などに多い)について、**「総摂取カロリーの10%を超えない」**という従来型の上限を維持した。


一方で、赤身肉や全脂乳製品を積極的に推し、調理脂として牛脂を挙げる。ここに「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」ような印象が生まれる。


実際、医療・栄養の専門家からは「赤身肉や乳製品を推しながら10%上限を守るのはほぼ不可能に近い」「メッセージが矛盾している」といった批判が出ている。

また、飽和脂肪の多い動物性脂肪を“健康的脂質”のように扱うこと自体への異論も根強い。たとえばUCLA Healthは、SNSの言説が不安を煽りがちだとした上で、牛脂は飽和脂肪が多く、摂りすぎはLDLコレステロール上昇と心血管リスクにつながり得る——

と、比較的はっきり釘を刺す。
(もちろん、脂質はゼロにすべきではなく「量と置き換え」が重要、というのが現代の栄養学の主流でもある。 )



4. “リアルフード”が支持される理由:敵は砂糖と超加工食品

一方で、新指針の「超加工食品を大幅に減らす」「加糖を強く抑える」という方向性は、医療界・世論の一部から一定の評価も受けている。ガイドライン本文でも、超加工食品が精製炭水化物・添加糖・過剰ナトリウム・添加物と結びつき、慢性疾患の背景になっているという語りが前面に出る。


この点は、SNSでも比較的“合意が取りやすい”。
「油が何であれ、ポテトはポテト」
「まず甘い飲料とスナックをどうにかしろ」

——そんな反応が出やすい土台があるからこそ、議論は次のステージ(=油脂の是非)へ移り、燃えやすくなった。



5. SNSの反応:称賛、皮肉、そして“文化戦争”化

今回の話題は、科学的な是非だけでなく、所属アイデンティティを刺激しやすい。結果、SNSでは大きく3つの反応が目立った。


(A)「シードオイル排除は正義」——歓迎と“うまさ”の物語

Steak ’n Shakeのように、牛脂への切り替えを「添加物なし」「透明性」へ結びつける語りは、支持者の拡散力が強い。企業側も“旅路(journey)”として継続発信し、運動体的な熱量を維持している。
「昔のフライの味が戻る」という感覚的メリットは、科学論争よりも刺さりやすい。


(B)「矛盾してない?」——栄養・医療系コミュニティのツッコミ

栄養学の観点からは、「動物性脂肪を推しつつ飽和脂肪10%上限を守れは無理がある」という批判が中核。STATは専門家コメントを通じて、この“ねじれ”が現場に混乱を生む可能性を詳しく伝えている。
加えて、油脂の議論が「シードオイルは毒」系の断定に寄っていくことへの警戒も強い。


(C)ミーム化・炎上:笑いが批判を加速させる

Redditでは、ピラミッド図そのものへの皮肉が目立つ。
「ピラミッドは5面あるのに、なぜ1面しか見せない? 何を隠してる?」
「“牛脂の瓶”が描かれてないのが意外」

——といった、半分ジョーク半分批評のコメントが並ぶ。


また、外食チェーンの発信が政治的文脈を帯びたとき、燃え方は一段と激しくなる。NRN(業界メディア)は、Steak ’n Shakeが牛脂フライをめぐって政治色の強い投稿を行い、書体が特定の歴史的プロパガンダを想起させるとして批判されたこと、賛否がSNSで噴出したことを報じている。


ここまで来ると、争点は油の成分ではなく、「誰がそれを言っているか」「どんな運動と結びつくか」に移っていく。ビーフタローは、栄養のトピックというより、**社会の分断を映す“記号”**になってしまう。



6. では結局、私たちはどう受け止めるべきか

この一連の騒動が示したのは、たった一つの食材(牛脂)が、

  • 行政のメッセージ設計

  • 科学的エビデンスの読み方

  • 企業のマーケティング

  • SNSの感情とミーム
    を一気に接続してしまう、2020年代らしい情報環境だ。


現時点で確実に言えるのは次の3点だろう。

  1. 新ガイドラインは「超加工食品・加糖を減らす」を強く打ち出した。

  2. その一方で、牛脂やバターに言及しつつ、飽和脂肪10%上限も維持しているため、メッセージが矛盾して見える。

  3. SNSでは“健康論争”が“文化戦争”へ転化しやすく、企業の油変更すら政治的事件になる。


ビーフタローの是非を判断する鍵は、「タローは絶対に良い/悪い」と断定することではなく、食事全体の構造(超加工食品の頻度、総カロリー、脂質の置き換え、野菜や全粒穀物の摂取)を見失わないことだ。医療機関や公衆衛生の情報源が繰り返し強調するのも、結局そこに尽きる。 



参考記事

牛脂がアメリカの食ピラミッドの頂点に躍り出る
出典: https://www.nytimes.com/2026/01/10/dining/beef-tallow-food-pyramid-rfk-jr.html