アメリカの企業家精神が復活!ChatGPTと一緒に会社をつくる時代 小規模ビジネスが米国経済を変える

アメリカの企業家精神が復活!ChatGPTと一緒に会社をつくる時代 小規模ビジネスが米国経済を変える

空白地帯で見つけた、小さなビジネスの種

大きな事業は、必ずしも壮大な技術や世界を変える発明から始まるわけではない。日常生活の中で感じた、ささやかな不便が出発点になることも多い。

米国ウィスコンシン州に住むキャシディ・ウィンクラー氏の場合、そのきっかけは「近所に通いたいと思えるピラティススタジオがない」という単純なものだった。

当時、彼女はプライベートジェットの客室乗務員として働いていた。プロスポーツ選手などを運ぶ仕事には繁閑の差があり、閑散期には時間的な余裕が生まれる。学生時代から親しんでいたピラティスを再開しようとスタジオを探したものの、自宅周辺には希望に合う施設が見当たらなかった。

それなら、自分でつくれないだろうか。

彼女はインストラクターに必要な資格、設備、料金体系、立地、ブランドづくりについて調べ始めた。そこではChatGPTをはじめとする生成AIも利用した。店名の候補、ロゴの方向性、事業計画、顧客への文章、マーケティングの案などについて、AIを壁打ち相手として活用したという。

こうして誕生した「Revel Method Pilates」は、レイク・ジェニーバ、マディソン、モノナへと店舗を広げた。従業員は約65人となり、さらに新店舗の開設も計画されている。

この事例が象徴しているのは、単にピラティスの人気ではない。アイデアを事業へ変えるために必要だった知識や作業を、少人数でも調達できる時代が到来したということだ。


米国で急増する事業開始申請

ウィンクラー氏のような起業家は、決して特殊な存在ではない。

米国では2025年、約570万件の事業開始申請が行われた。米国勢調査局が現在の方式で記録を始めて以降、年間として最も多い水準である。2023年の約550万件、2021年の約540万件を上回った。

勢いは2026年に入っても衰えていない。米国勢調査局によると、2026年6月の事業開始申請は季節調整済みで53万1423件となり、前月から1.1%増加した。

単純に12倍すれば年間600万件を超えるペースだ。月ごとの変動があるため、そのまま年間値になるわけではないが、パンデミック後の起業熱が一時的な現象で終わっていないことは確認できる。

米国では長年、新しい企業の誕生や若い企業の経済的な存在感が低下し、「ビジネス・ダイナミズムの衰退」が問題視されてきた。既存の大企業への集中が進み、新規参入企業が市場を揺さぶる力が弱まれば、競争、革新、生産性、地域の雇用にも影響する。

その長期的な停滞傾向を、2020年以降の急増が反転させつつある。


パンデミックが会社員の価値観を変えた

起業ブームの最初の引き金となったのは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。

大量解雇や休業によって、安定していると思われていた雇用が突然失われた。一方、在宅勤務が広がったことで、会社のオフィスに毎日通わなければ仕事ができないという常識も崩れた。

通勤に使っていた時間を副業に充てる人が増え、自宅から商品やサービスを提供する方法も急速に普及した。オンライン決済、電子商取引、ビデオ会議、クラウド会計、配送サービス、SNS広告といった仕組みが、個人事業を支えるインフラとなった。

何より大きかったのは、働く人々の心理的な変化だろう。

「会社に残っていても安全とは限らないのなら、自分の事業を持つ方がよいのではないか」

「収入源を勤務先ひとつに依存することこそ、リスクなのではないか」

そう考える人が増えた。

パンデミック時の起業増加には、政府の支援策を利用するための形式的な申請が含まれていた可能性もある。しかし支援制度が終了した後も、事業開始申請はパンデミック前より高い状態を保った。さらに2024年末から2025年にかけて再び増加が加速したことから、現在の動きは緊急時だけの特殊現象では説明しきれない。


生成AIが「最初の一歩」を軽くした

現在の起業ブームをさらに押し上げていると考えられるのが生成AIである。

かつて会社を立ち上げようとすれば、さまざまな専門家や協力者が必要だった。市場を調べる人、ウェブサイトをつくる人、広告文を書く人、デザインを担当する人、財務計画を作成する人、顧客対応を行う人。それぞれの能力を自分で身につけるか、外部へ依頼しなければならなかった。

生成AIは、そのすべてを完全に代替するわけではない。それでも、何もない状態から最初の案を作るまでの時間と費用を大幅に削減する。

例えば、起業家はAIに次のような作業を依頼できる。

市場の規模や競合候補を整理する。顧客像を設定する。事業名を考える。サービスの価格案を比較する。事業計画のたたき台を作る。ウェブサイトの文章や広告文を作成する。顧客から届いた問い合わせへの回答案を考える。簡単なプログラムや予約システムの試作品を作る。

以前なら数週間かかっていた初期検討を、数日、場合によっては数時間で進められる。

専門知識がないために諦めていた人でも、AIに質問しながら必要な手順を理解できる。生成AIは資金そのものを提供してくれるわけではないが、起業時に感じる「何から始めればよいか分からない」という心理的な壁を低くする。

この効果は、革新的なテクノロジー企業に限らない。美容、健康、教育、飲食、修理、コンサルティング、地域サービスなど、伝統的な小規模ビジネスでも大きい。

AIそのものを販売する会社だけでなく、AIを裏方として使う普通の事業者が増えていることが、今回の変化の特徴だ。


主役は大企業ではなく「ひとり会社」か

ただし、数字の読み方には注意が必要である。

米国勢調査局の事業開始申請は、主に雇用者識別番号の申請を基にした指標だ。申請書を提出したからといって、必ず営業を開始するわけではない。営業を始めても、売り上げが発生しない場合や、短期間で廃業する場合もある。

さらに現在増えている事業の多くは、従業員を雇う企業ではなく、創業者ひとりで運営する事業である可能性が高い。

決済企業Stripeの経済分析部門は、最近の申請増加について、従業員を雇う可能性が高い「高確率申請」が同じ勢いで増えているわけではないと指摘している。一方で、同社の決済データでは、新しい事業者が一定の取引規模へ到達する速度が上がっており、単なる休眠会社や不正な申請だけでは説明できないとも分析している。

つまり、現在のブームは「大量の新しい大企業が生まれている」というより、「個人が小規模な事業体として経済活動を始めるようになった」と理解した方がよい。

動画配信者、ニュースレター執筆者、オンライン講師、デザイナー、コンサルタント、小規模なソフトウェア開発者、地域密着型サービスの運営者など、従来はフリーランスと呼ばれていた人々が、決済、販売、顧客管理を備えた小さな会社として活動している。

AIは、こうした「ソロプレナー」と呼ばれる単独起業家に特に大きな力を与える。


若者が会社より起業を選び始める

若い世代の意識も変化している。

LendingTreeが米国の消費者2000人を対象に行った調査では、過去1年間に起業を真剣に考えた人は全体の27%だった。Z世代ではその割合が51%に達したという。

これは、若者の半数が実際に会社を立ち上げることを意味しない。調査会社による意識調査であり、回答者数や設問の影響も考慮する必要がある。

それでも、就職して昇進し、長期間同じ会社に勤めることだけが成功のモデルではなくなっていることは確かだ。

SNSを通じて小規模なブランドが急成長する様子を日常的に目にし、ウェブサイトやオンラインストアを低価格で開設できる世代にとって、起業は一部の富裕層や経営学修士だけが選べる道ではない。

一方、起業を考える人々の多くは、資金調達まで進んでいない。同調査では、アイデアを調べたり法的な要件を確認したりする人に比べ、融資を申し込んだ人や外部投資を探した人は少数だった。

起業への関心は強いが、多くはまだ「試してみる」段階にある。


伸びているのは専門サービスと生活密着型ビジネス

2025年の事業開始申請を業種別に見ると、最も大きな割合を占めたのは専門・科学・技術サービスだった。法律、会計、税務、コンサルティング、設計、IT関連などが含まれ、全体の18.8%を占めた。

次いで建設業が12.8%、修理、メンテナンス、個人向けサービスなどを含む「その他サービス」が11.9%だった。

起業ブームという言葉から、AIアプリやシリコンバレーのスタートアップを想像しがちだが、実際には地域の暮らしを支えるビジネスが大きな割合を占める。

住宅の修理、清掃、介護、フィットネス、教育、会計、飲食などは、顧客との信頼や現場でのサービスが中心になる。AIだけで完結させることはできない。

しかし、予約管理、広告、見積書、顧客対応、採用、会計準備などの間接業務をAIやクラウドサービスで効率化できれば、小さな事業者でも本業に集中できる。

ウィンクラー氏のピラティス事業も、AIがレッスンを行ったわけではない。顧客が料金を払ったのは、実際のスタジオ、設備、インストラクター、体験の質に対してである。

AIは事業そのものではなく、事業を立ち上げるための補助輪として機能した。


SNSでは「起業の民主化」を歓迎する声

 

元記事が公開されると、XやLinkedInでは前向きな反応が相次いだ。

テクノロジー企業の支援団体Techは、AIによってこれまで以上に多くの人が事業をつくりやすくなり、その結果が数字に表れ始めているとの見方を示した。

起業家や投資家の投稿でも、AIが市場調査、試作品の作成、文章作成、ソフトウェア開発などを支援し、少人数のチームが以前より大きな仕事をできるようになったことを評価する声が見られた。

LinkedInでは、米国が「新しい起業の時代の入り口にいる」と受け止め、今後さらに新規事業が増えると予測する投稿もあった。

こうした楽観論の根底には、アイデアを持っていても、資金、技術、人脈が不足して実現できなかった人々が、初めて市場へ参加できるようになるとの期待がある。

これまで事業を始めるためには、一定の資本とチームが必要だった。AIやオンラインサービスがその条件を緩和すれば、起業できる人の範囲は広がる。

これは「起業の民主化」と呼べる変化である。


「申請数は成功数ではない」と疑う声も

一方、Redditなどでは元記事の明るい見出しに対し、強い疑問も示された。

代表的な指摘は、「事業開始申請が増えたことと、持続可能な企業が増えたことは同じではない」というものだ。

雇用不安や解雇によって、生活費を得るために仕方なく個人事業を始める人もいる。それを純粋な起業家精神の復活として描くのは楽観的すぎる、という批判である。

また、AIによって試作品を作ることは簡単になっても、顧客を見つけ、代金を払ってもらい、長期間利用してもらうことは簡単にならないとの声もあった。

商品を作るコストが下がれば、競合も同時に増える。似たようなアプリ、オンラインサービス、広告、コンテンツが大量に生まれ、市場が低品質な製品であふれる可能性もある。

別の投稿では、AIが常に利用者へ肯定的な回答を返すことで、需要の乏しいアイデアを過大評価させるのではないかとの懸念も出た。

ただし懐疑的なコミュニティーの中にも、会社設立の手順、書類、基本的な税務、初期調査など、一度限りの事務作業にAIを使うことは有効だと認める意見があった。

SNS上の議論を整理すると、対立点は「AIが起業を支援できるか」ではない。

AIが起業の初期作業を助けること自体には、多くの人が一定の理解を示している。問題は、始めやすくなった事業が、良質な製品、安定した収益、従業員の雇用へつながるかどうかである。


本当の成果は「何社生まれたか」では測れない

2026年6月に提出された約53万件の申請のうち、米国勢調査局が今後4四半期以内に給与支払いを伴う事業体へ成長すると予測しているのは2万9741件である。

すべての申請を同じ価値の「新会社」とみなすべきではないことが、この数字からも分かる。

ただし、従業員を雇わない事業に経済的価値がないわけでもない。

一人で年間数十万ドルを売り上げる事業者が増えれば、働き方や所得の分配は変わる。本人が雇用される側から収益を生み出す側へ移るだけでも、経済的な意味はある。外部の会計士、デザイナー、配送会社、広告会社などへ仕事を発注することもある。

一方で、多くの小規模事業が低収入のまま競争し、社会保障や雇用の安定を失うのであれば、それは起業家精神の復活というより、雇用関係の個人への転嫁となる。

起業ブームの評価には、申請件数だけでなく、数年後の存続率、売上高、利益、賃金、雇用者数、生産性を確認する必要がある。


AI時代に最も重要になる「現実を確かめる力」

生成AIは、優秀な相談相手になり得る。しかし、最終的な意思決定者にはなれない。

AIが作った市場分析には、古い情報や誤りが含まれることがある。法律、税務、許認可、医療、安全性などに関わる情報を、そのまま信用するのは危険だ。

事業名や広告文を短時間で作れても、商標の確認や顧客への聞き取りは別に必要になる。魅力的な事業計画が完成しても、実際の顧客が料金を支払うかどうかは市場で検証しなければならない。

AI時代の起業家に必要なのは、すべてを自分で作る能力ではない。

AIが出した答えを疑い、専門家へ確認し、顧客の反応を観察し、都合の悪いデータも受け入れる能力である。

参入のハードルが低くなれば、成功のハードルまで低くなるとは限らない。むしろ誰もが簡単に商品を作れる時代には、本当に必要とされるものを見極める力が、これまで以上に重要になる。


アメリカの起業ブームが示すもの

米国で起きている変化は、単純な成功物語でも、数字だけの幻想でもない。

パンデミックによって働き方への疑問が広がり、オンラインサービスが小規模事業のインフラを整え、生成AIが知識や作業能力の不足を補うようになった。その結果、会社を始める行為は確実に身近になった。

かつて起業は、まとまった資金を持つ人、専門的な教育を受けた人、技術者や投資家とのネットワークを持つ人に有利な選択肢だった。

現在は、地域で不足しているサービスに気づいた客室乗務員が、AIと対話しながら計画を作り、数十人を雇う事業へ育てることもできる。

もちろん、すべての申請が会社になり、すべての会社が成功するわけではない。大量の試行錯誤と失敗も生まれるだろう。

それでも、挑戦の回数が増えることには意味がある。

未来を変えるのは、最初から成功が約束された一社ではない。小さな不便を見つけ、「自分で解決できるかもしれない」と考える人が増えることだ。

米国の約570万件という数字が示しているのは、完成した企業の数ではない。

それは、会社や経済の先行きが不透明な時代に、自分の収入と働き方を自分で設計しようとした人々の数なのである。


出典URL

ニューヨーク・タイムズ:キャシディ・ウィンクラー氏のピラティス事業と、パンデミック後の米国の起業増加、生成AIの影響を紹介。
https://www.nytimes.com/2026/07/17/business/economy/american-small-business-boom.html

米国勢調査局・Business Formation Statistics:2026年6月の事業開始申請53万1423件、今後4四半期以内の事業形成予測2万9741件などの公式統計。
https://www.census.gov/econ/bfs/current/index.html

米国勢調査局・調査方法:事業開始申請がEIN申請を基にしていること、高確率申請や事業形成予測の定義を確認するために使用。
https://www.census.gov/econ/bfs/technicaldocumentation/methodology.html

LendingTree:2025年の事業開始申請約570万件、業種別構成、Z世代を含む起業意識調査の数字を参照。
https://www.lendingtree.com/business/small/starting-business-study/

Stripe Economics:ソロプレナーの増加、高確率申請との違い、決済データに表れた新規事業の成長、AI利用との関係を分析。
https://www.stripeeconomics.com/p/the-age-of-the-solopreneur

Technical.ly:事業開始申請の増加に対し、従業員を雇う企業への移行や雇用創出が弱い可能性を指摘した慎重論。
https://technical.ly/entrepreneurship/entrepreneurship-boom-job-growth-problem-builders/

LinkedIn・Shep Moyle氏の投稿:AIと起業活動の拡大を、新しい事業創出時代の始まりとして歓迎する反応。
https://www.linkedin.com/posts/shep-moyle-13b37a43_americas-enterprising-spirit-is-booming-activity-7483906196798889985--e4C

X・Techの投稿:AIによって多くの人が事業を構築しやすくなり、その成果が現れ始めているとの反応。
https://x.com/TechNYC/status/2078223681092727003

Reddit・r/nytimesの議論:景気や解雇を背景にした必要に迫られた起業と、前向きな起業家精神を区別すべきだという意見などを参照。
https://www.reddit.com/r/nytimes/comments/1uz37uf/americas_enterprising_spirit_is_booming_after/

Reddit・r/BetterOfflineの議論:AIによる試作品作成の容易さ、顧客獲得の難しさ、事業の品質や継続性への懸念などを参照。
https://www.reddit.com/r/BetterOffline/comments/1uzetxa/questionable_ny_times_story_claims_that_genai_is/