アマゾン川の水位が121年ぶりの低下 — 干上がる大動脈：アマゾン川渇水と 100 頭のイルカが届けた悲鳴

アマゾン川が「消えた」──121年ぶりの歴史的渇水とその衝撃

10月中旬、ブラジル北部マナウスの港では水面が見当たらず、無数の船が干上がった河床に取り残されていた。公式観測が始まった1902年以来最低となる13.59 mを記録し、人々は茶色い泥の上を歩きながら“川がない”という衝撃的な光景をスマートフォンで撮影し、ハッシュタグ #AmazonDrought とともに拡散した。

数字で読む「史上最悪」

前年同月の水位17.60 mからわずか1年で4 m以上も落ち込み、流域500 km以上で航行が不可能となった。NASA Landsat 8の衛星写真（10月3日撮影）には、巨大なリオ・ネグロが砂の迷路へ変貌した姿が映し出されている。水位はさらに下がり、10月17日には13.49 mを記録した。

エルニーニョと大西洋高温の「二重パンチ」

乾季は例年7〜10月だが、今年は太平洋のエルニーニョと北大西洋の海面高温が重なり、雲の生成が抑制された。ブラジル災害監視局の統計で7〜9月の降水量は1980年以降で最低。気象学者は「乾季が10年ごとに1週間ずつ長くなっている」と警告する。

SNSが切り取った最前線

「船が家より高く積み上がっている」「川底をトラックが走っている」。X（旧Twitter）では #AmazonDrought が1日5,000件を超え、衛星写真やドローン映像が連鎖的にバズった。特に@ryderkimballの投稿は230万インプレッションを記録し「気候危機の教科書的事例だ」と共感が広がった。

生活インフラ崩壊──途切れた物流と干上がる蛇口

アマゾンは「水のハイウェイ」だ。全物流の90 %を担う船舶が座礁し、燃料・食料・医薬品が滞る。約60自治体が緊急事態を宣言し、連邦政府が空輸を開始したが、50万人が断水・食料不足に直面している。

経済的損失は20億ドル超の試算

穀物バージ運航会社は「今期売上が大幅減」と投資家に通知。材木・ゴムなど主要輸出品の搬出も滞り、地域GDPの7 %が失われるとの試算が出た。物流コストの上昇はブラジル国内の食料価格にも波及し始めている。

生態系の悲鳴──ピンクイルカ大量死

9月末、テフェ湖で100頭以上のアマゾンカワイルカが浮かんだ。水温39 °C、溶存酸素の急減が原因とみられる。研究者は「個体群の5〜10 %が失われた。絶滅の臨界点を超えかねない」と訴える。

魚の大量死と水質悪化

高水温と低水位は富栄養化を加速し、マンカードゥル湖では数千匹の魚が岸に打ち上げられた。腐敗臭は10 km先のコミュニティにも及び、呼吸器疾患や皮膚炎が急増している。

森林火災と煙害──二次災害の連鎖

干上がった河床は可燃物となり、違法焼畑と乾燥した落葉が火勢を拡大。10月第2週、マナウスはAQI300超の“Hazardous”を記録し、学校は休校となった。衛星では400 km四方に煙が広がる様子が捉えられた。

先住民族の声「水は権利だ」

リオ・ジャヴァリ流域のマツェス族は独自のドローン班を組織し、干上がった支流を空撮。「私たちの病院も市場も川の向こうにある」とチーフは動画で嘆き、世界の環境NGOが支援募金を開始した。

科学者が示す“飛行する川”の崩壊リスク

気候学者カルロス・ノブレ氏は「伐採率が20〜25 %に達し、気温が2.5 °C上がればサバンナ化が不可逆になる」と警告。「飛行する川」と呼ばれる水蒸気輸送が弱まり、南米農業全体が危機に陥ると指摘する。

国際社会の動きと足並みの乱れ

COP28前夜、EUは「グリーン・アマゾン基金」を提案し、違法伐採の取り締まりを条件に50億ドルの支援を検討。一方、ブラジル国会では鉱山開発優先法案が再浮上し、政策の一貫性が問われている。

モデル予測：2030年までに渇水頻度2倍

INPEの最新シミュレーションでは、2030年に平均河川流量が現在比15 %減、極端渇水は2年に一度発生するとの結果。研究者は「適応策が追いつかなければ輸送と発電が慢性的に不安定化する」と警鐘を鳴らす。

デジタルアクティビズムと市民科学

市民団体“MapeiaRio”はオープンソースの水位測定アプリを公開。住民がスマホで川岸にメジャーを置いて写真投稿すると自動でGISに流し込み、リアルタイム地図が生成される。公開1か月で800地点のデータが集まった。

子どもたちの教室から届くメッセージ

アマゾナス州ベンジャミン・コンスタントでは学校20校が休校。オンライン授業に切り替えた12歳のリアナさんは「将来は気候科学者になって川を救いたい」と動画で語り、200万ビューを獲得。Z世代が気候正義を訴える象徴的シーンとなった。

国際市場が見る“アマゾンリスク”

国際コーヒー先物は「輸送遅延と水質問題」を理由に3 %上昇。投資ファンドはESGリスクとしてアマゾン関連企業の評価を見直し始めた。気候影響が金融セクターを動かす具体例として注目される。

復元への道──科学と伝統知の融合

研究者と先住民族は流域50 haでマングローブ植林プロジェクトを開始。木陰が蒸発散を高め、局地的降雨を呼び戻す「小さな飛行する川」をつくる試みが進む。成果はドローンLiDARで検証され、国際ジャーナルに投稿予定だ。

「点」を「面」に──私たちにできること

リオ・ネグロの干上がった船を映す写真は、遠い世界のニュースではない。再生可能エネルギーを選び、政治家に脱炭素政策を求めること──私たちの日常的な選択が、巨大流域の未来とつながっている。