母子チンパンジーが教える社会的学習の真実 - パパじゃなくママから!? 霊長類に刻まれた“言語”のルーツ ─ ヒトに通じる学習の系譜

母子チンパンジーが教える社会的学習の真実 - パパじゃなくママから!? 霊長類に刻まれた“言語”のルーツ ─ ヒトに通じる学習の系譜

1. はじめに――“母語”の起源を探る

子どもが母親から言語を学ぶ――ヒト社会ではごく当たり前の光景だ。だが、ヒトと進化的に最も近縁なチンパンジーでも同じことが起きていると聞けば、あなたは驚くだろうか。2025年8月5日に公開されたPLOS Biology の論文と Phys.org の解説記事が、この問いに鮮烈な答えを提示した。


2. 研究デザインとフィールドワーク

舞台はウガンダのキバレ国立公園。研究チームはKanyawara コミュニティの野生チンパンジー22頭(すべて10歳以上)を対象に、

  • 鳴き声(グラント、バーク、ウィンパーなど)

  • 非音声的シグナル(腕の振り、姿勢、視線)
    を詳細に記録。個体ごとの「ボーカル-ビジュアル組み合わせ数」を指標に、親族間の類似性を統計解析した。結果、母親および母系親族との間で強い相関が認められ、父系との相関はほぼゼロだった※1。

3. なぜ“母系”なのか

チンパンジー社会では母親が主要な養育者で、父親は子育てに参加しない。子どもは四六時中、母親の鳴き声と身振りを観察し、模倣する機会を得る。一方で父親との接触は少なく、学習チャンネルが限られる。研究者ジョセフ・マイン氏は「家系ごとに“喋り方”がある」と述べる※1。

4. SNSの反響と科学コミュニケーション

  • Cosmos Magazine などの科学メディアも速報※3。

  • Scimex では豪州時間8月6日4:00の公開に合わせてプレスリリースが配信され、専門家コメントが続々掲載※4。

  • X(旧Twitter)では研究者や一般ユーザーが「ヒトの母語習得とそっくり」「動物行動学のゲームチェンジャー」と投稿し、ハッシュタグ #ChimpComm がトレンド入り。Phys.orgの記事は公開24時間で43シェアを記録した※2。

5. 進化学的インプリケーション

本研究は、社会的学習によるコミュニケーション様式の伝達がヒト以前に確立していた可能性を示す。これは、言語の起源を遺伝子だけでなく“文化”として捉える近年のアニマルカルチャー研究※5 と合流する成果だ。

6. 今後の課題

  1. 乳児期〜青年期の縦断追跡:学習の臨界期を特定する。

  2. オス個体の学習経路:母離れ後に仲間同士で再学習するのか。

  3. 比較種研究:ボノボやゴリラとの比較で進化的普遍性を検証。

7. 結論

「チンパンジーが母から“言葉”を学ぶ」という事実は、家族という最小単位が文化を紡ぐ原動力であることを改めて示した。ヒトの言語も、遠い森の中で交わされる柔らかなジェスチャーも、同じ社会的学習の延長線上にある――それが本研究の示唆だ。


参考記事

研究によると、野生のチンパンジーは父親ではなく母親側の親戚からコミュニケーションの方法を学ぶことが明らかになりました。
出典: https://phys.org/news/2025-08-reveals-wild-chimpanzees-communicate-mom.html