米中関係の行方は？トランプ・習会談を前に米国が進める関税調査の背景

米国通商代表部（USTR）が10月24日、2020年の米中「フェーズワン合意」に対する中国の履行状況を調べる通商法301条の新たな調査開始を発表した。これは追加関税の法的土台となり得る動きで、10月30日（木）に予定されるトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談を目前に、米中関係の緊張が再び高まっている。発端を報じたNDTV（出所：ブルームバーグ）やロイター、USTRの一次資料を突き合わせながら、企業・市場への波及とSNS上のリアクションを読み解く。 NDTV Profit

何が起きたのか：301条調査の再始動

USTRは「フェーズワン合意」の完全履行の有無、履行不足が米国商取引に与える負担、必要な対抗措置を審査対象とすると発表。12月1日まで意見募集、12月16日に公聴会という具体的な手続きも示した。301条は、行政で関税引き上げ等を可能にする“レバー”であり、調査自体は数カ月単位で続くのが通例だ。 United States Trade Representative

なぜ今か：首脳会談とレアアースをめぐる綱引き

今週末クアラルンプールで始まる米中実務協議は、中国のレアアース輸出管理を最大争点に、来週の首脳会談（開催地は韓国・APEC関連行事と報道）を“軟着陸”させるための延命交渉だ。背景には、トランプ政権が**11月1日発効の「対中100％関税」**に言及して圧力を強めたことがある。中国側は対抗的にレアアースの輸出管理を拡大しており、EV、半導体、防衛などサプライチェーン全体が神経戦に巻き込まれている。 Reuters

フェーズワン合意の「未達」と論点整理

フェーズワン合意は2020–21年に2017年基準から2年間で+2000億ドルの米国産品・サービス購入などを柱に据えたが、実績は大幅未達に終わった。PIIEの分析では、2020年は約58–59%、**2021年は約60–65%**の達成度にとどまる。知財・技術移転・農業・金融サービスなどの制度面改革も米側は不十分とみている。今回の301条調査は、購入約束だけでなく非関税障壁の是正度合いまで射程に入れる。 PIIE

もう一つの「法の土台」

ロイターは、今回の301条が関税を追加・復活させるための別ルートとして機能し得る点を指摘。仮にIEEPA（国際緊急経済権限法）ベースの関税が最高裁審理の行方次第で揺らいでも、301条がバックアップになり得るという見立てだ。 Reuters

企業・市場への影響：3つの回路

1. 素材・部材の供給網
   　レアアース（磁石）やその加工技術への管理強化は、EV駆動モーター、風力、軍需、半導体装置などの工程リスクに直結。中国の輸出ライセンス制度は、最終製品が第三国で作られても「中国起源の希土類・技術」使用で規制対象になる可能性があるため、**原料・工程の追跡性（traceability）**コストが増す。 Reuters

2. 農産品の販売機会
   　米側は大豆の購入再開を重要な政治的・経済的指標と位置づける。9月に中国の米国産大豆購入がゼロだったとの報もあり、ここが会談の即効性KPIになり得る。 Reuters

3. 価格とインフレの二次波及
   　関税は“課税関門”でのコスト増を招き、最終消費者価格や設備投資判断に波及。55％程度まで下がっていた米側の平均関税水準が再度上振れするなら、年末商戦や2026年の資本財サイクルにデマンド・デストラクションをもたらす恐れがある。 Reuters
   
   

SNSの反応（要旨）

• 「執行の当然化」派：通商専門家の一部は「最も易しい301調査の一つ」とし、合意未達を根拠に厳格執行を歓迎。民間産業団体アカウントも「履行点検の開始」を肯定的に共有。 X (formerly Twitter)

• 「地政経リスク拡大」懸念：マーケット系アカウントは11/1の100％関税示唆と絡めて、停戦（関税減免）延長の不確実性やサプライチェーンの再混乱を警戒。 X (formerly Twitter)

• 中国側の反発：在米中国大使館は「合意は着実に履行している」「米国の虚偽の非難」と反論。中国語圏のアカウントは「301調査の政治性」を指摘。 Reuters

• 対中強硬の支持：安全保障・テック圏の論者は、産業政策・補助金を理由に「戦略的な通商防衛」の必要性を主張。 X (formerly Twitter)

いずれも断片的な投稿に基づく定性的観測だが、**「執行歓迎 vs. 経済影響懸念」**の構図が色濃い。

これからのタイムライン

• 10/31：意見提出・公聴会出席申請の受付開始（USTRポータル）

• 12/1：書面意見の締切

• 12/16：公聴会（ワシントンDC/オンライン想定）

• 日程未定：USTRが最終判断（追加関税や是正要求の提案を含み得る） United States Trade Representative
  
  

シナリオ分析（簡易）

• ベースケース（確率中）：首脳会談でレアアース限定の技術的妥協（ライセンス運用の明確化・例外）と、大豆購入の段階的再開。301条は継続しつつ限定的関税で市場は織り込み。 Reuters

• 強硬ケース（上振れリスク）：11/1の100％関税発動、報復関税・禁輸で二国間貿易の大幅縮小。インフレ・設備投資に逆風。 Reuters

• 緩和ケース（下振れリスク軽減）：301条は圧力装置として維持しつつ、停戦延長。公聴会後に**相互の「一部撤回」**が段階的に発表。 Reuters
  
  

日本・アジアへの含意

• 代替供給の案件化：豪州・東南アでのレアアース採掘／精錬や、日本の磁石・モーター企業への増産要請が再燃。

• ルール・オブ・オリジンの管理：中国起源素材/技術の混入判定が難化、企業は原材料の原産地証明・工程記録の厳格化が必要。 Reuters

• 価格と為替：部材コスト上振れが円高抑制・輸入物価の上振れに作用し得る。消費税還付や関税割当など内需支えの政策弾を検討する論点も。
  
  
  

一言まとめ

今回の301条調査は**「交渉のムチ」**であると同時に、**合法的に関税を積み増すための“回路”**を再び通電させた。首脳会談の写真映えよりも、レアアースと農産品という“足元の実利”が場を動かすだろう。 Reuters