陰謀論者は「何を語るか」より「どう語るか」で見えてくる?5億件のReddit投稿が示した言葉の痕跡

陰謀論者は「何を語るか」より「どう語るか」で見えてくる?5億件のReddit投稿が示した言葉の痕跡

陰謀論は「話題」ではなく「語り口」に宿るのか——5億件のReddit投稿をAIが分析

陰謀論を語る人は、陰謀論について話していないときにも、どこか特徴的な言葉づかいをしているのだろうか。

そんな問いに、ミラノ工科大学を中心とする研究チームが大規模なデータ分析で迫った。対象となったのは、米国発の巨大掲示板型SNS「Reddit」に投稿された5億件を超えるコメント。研究者たちは、陰謀論関連の代表的コミュニティである「r/conspiracy」に参加したユーザーが、ニュース、科学、映画、音楽、料理、DIY、動物写真といった一般的なコミュニティでどのように発言しているのかを調べた。

研究の結論は刺激的だ。陰謀論コミュニティに参加するユーザーは、陰謀論そのものを語っていない場所でも、一定の言語的な特徴を示していた。しかも、その特徴はAIモデルによって高い精度で識別できたという。

ただし、この研究が示したのは、単純な「陰謀論者ワード一覧」ではない。むしろ重要なのは、陰謀論的な傾向がどの話題にも同じように表れるわけではなく、参加しているコミュニティの文化や会話のルールに合わせて変化する、という点だ。

つまり、陰謀論をめぐる言葉は、固定されたラベルではなく、場に応じて形を変える“語り口”として現れる。


5億件の投稿から見えた「中立的な会話」の違和感

研究チームは、Reddit上で10年にわたる活動を対象に、20以上の主流コミュニティに投稿されたコメントを分析した。比較されたのは、r/conspiracyに参加したことがあるユーザーと、そうではない一般ユーザーだ。

ポイントは、研究者たちが陰謀論そのものの投稿を見たわけではないことだ。分析対象は、あくまで主流コミュニティでの発言である。たとえば映画の感想、料理の話、音楽の好み、科学ニュースへの反応、日常のちょっとした雑談。表向きには、政治的でも陰謀論的でもない場面での言葉が調べられた。

その結果、機械学習モデルは、各コミュニティ内で平均87%の精度で、陰謀論コミュニティ参加者と非参加者を識別できたという。これは、単なる偶然や特定トピックへの偏りでは説明しにくい数字だ。

特に目立ったのは、怒りや不安を示す表現、対立や攻撃性を帯びた言葉、病気や死に関連する語彙などだった。研究チームは、心理言語学的な特徴を抽出し、それをユーザー単位で集約してモデルに学習させている。つまり、単語一つを見て判断したのではなく、発言全体に含まれる感情や認知の傾向を統計的に扱った。

たとえば、同じ「料理」の話でも、ある人は穏やかにレシピや味の工夫を語る。一方で別の人は、怒りや不信、攻撃的な表現を混ぜながら語るかもしれない。研究が捉えたのは、まさにそうした会話の温度差や、世界の見方のにじみ出方だった。


「陰謀論者の言葉」は存在しない

この研究が興味深いのは、陰謀論コミュニティ参加者に共通する特徴を見つけながらも、「万能の検出モデル」はうまく機能しないと示した点にある。

研究チームによると、すべてのコミュニティをまとめて一つの大きなモデルで識別しようとすると、コミュニティごとに作った個別モデルより性能が落ちた。その差は最大で17ポイントに達したという。

これは重要だ。

なぜなら、SNS上の言語は、投稿者の内面だけで決まるわけではないからだ。ニュース系コミュニティでは説明的な言葉が多くなり、ユーモア系コミュニティでは皮肉や冗談が増え、趣味系コミュニティでは穏やかな語彙が多くなる。それぞれの場所には、それぞれの“空気”がある。

陰謀論コミュニティに参加するユーザーも、その空気に合わせて表現を変える。研究チームはこの点を重視し、単一の「陰謀論っぽい言葉」を探すのではなく、コミュニティごとの文脈に応じた分析が必要だと指摘している。

これは、SNSのモデレーションやリスク検知にとって大きな示唆を持つ。単純なNGワード方式や、どこでも同じ基準を使う一律のAI検出では、実態を見誤る可能性がある。あるコミュニティでは自然な表現が、別のコミュニティでは強い識別シグナルになることもあるからだ。


参加する前から兆候はあったのか

さらに注目すべき点は、こうした言語的特徴が、ユーザーが陰謀論コミュニティに参加する前から観察されたという主張である。

研究では、ユーザーがr/conspiracyに明示的に参加する以前の主流コミュニティでの発言も分析された。その結果、識別に使えるパターンは、参加直前に突然生まれるというより、比較的安定して存在していたとされる。

これは、「陰謀論コミュニティに触れたから言葉が変わった」という単純な因果関係では説明しにくい。むしろ、もともと特定の不信感や感情表現の傾向を持つユーザーが、後に陰謀論コミュニティへ引き寄せられる、という自己選択の側面も考えられる。

もちろん、これだけで個人の心理や将来の行動を断定できるわけではない。SNS上の投稿は、性格、年齢、文化、政治観、生活環境、その日の気分、投稿先の空気など、多くの要素に左右される。研究チームも、文脈を無視した一般化には慎重な立場を取っている。

それでも、何気ない言葉の積み重ねが、オンライン上のコミュニティ参加や情報環境の変化と結びついている可能性を示した点で、この研究は非常に示唆的だ。


SNSの反応:拡散は限定的、だが論点は重い

 

この研究を紹介したPhys.orgの記事は公開直後の段階では大きな炎上や大規模な議論にはなっていない。記事ページ上でもシェア数は限定的で、コメントも確認時点では多くなかった。

Xでは、日本語の科学系情報アカウントが「言葉の端々からにじみ出る陰謀論者性」といった趣旨で記事を紹介していたが、検索で確認できる範囲では、反応数はまだ小さい。Mastodon系のarXiv自動投稿ボットやニュース収集サイトにも論文タイトルが流れており、現時点では「一般ユーザーの大論争」というより、研究者・科学ニュース読者・自動フィードを通じた初期拡散の段階に見える。

LinkedInでは、著者のFrancesco Pierri氏やFrancesco Corso氏が、ACL 2026での採択や関連研究としてこの論文に触れている。こちらも大衆的な炎上というより、計算社会科学、自然言語処理、オンライン安全性の研究コミュニティ内で共有されている印象が強い。

ただし、今後この研究が広く読まれれば、SNS上ではいくつかの反応が予想される。

一つは、モデレーション強化を支持する立場だ。陰謀論や過激化、医療誤情報、選挙関連の虚偽情報は、現実社会に影響を及ぼすことがある。早い段階でリスクの高いコミュニティ形成を把握し、プラットフォーム側が文脈に応じた対応を取ることには意味がある、という見方である。

一方で、表現の自由やプライバシーへの懸念も出てくるだろう。「陰謀論を語っていない投稿」から将来のコミュニティ参加を推測するという発想は、人によっては監視的に感じられる。たとえ研究目的であっても、こうした技術が実運用されれば、誤判定やレッテル貼りの問題は避けられない。

特に「怒り」や「不安」や「死」に関する言葉は、陰謀論と無関係な人も当然使う。病気の経験を語る人、悲しみを共有する人、政治への不満を述べる人、社会問題に怒る人まで、まとめて疑わしいと扱われてはならない。

この研究が示すべきなのは、「この人は陰謀論者だ」と個人を断定する道具ではなく、コミュニティ全体の言語環境やリスクの変化を慎重に捉えるための手がかりだろう。


AIによる検出は万能ではない

平均87%という数字は目を引くが、裏を返せば誤判定も残る。しかも、SNS上での誤判定は単なる統計上のミスでは済まない。アカウントの制限、投稿の削除、可視性の低下、コミュニティからの排除といった形で、ユーザーの表現機会に影響を与える可能性がある。

また、研究で高い精度が出たのは、特定の条件で設計された比較実験の中での話だ。実際のSNS運用では、新しいスラング、皮肉、ミーム、文化差、言語差、ボット、荒らし、政治的キャンペーンなどが入り混じる。ある時期に有効だった特徴が、別の時期には通用しなくなることもある。

さらに、ユーザーは検出を意識すれば言葉を変える。AIによる監視が広まれば、露骨な表現は減り、暗号化された言い回しや内輪向けの隠語が増える可能性もある。これは過激派コミュニティやスパム対策でも繰り返されてきた問題だ。

だからこそ、研究チームが強調する「文脈に応じた介入」は重要になる。コミュニティごとの規範を理解し、単純な検出ではなく、透明性、説明可能性、異議申し立ての仕組みを備えた対応が求められる。


中立的な場所は本当に中立なのか

この研究が投げかけるもう一つの問いは、「中立的なコミュニティ」とは何かという問題だ。

私たちは、政治コミュニティや陰謀論フォーラムを特別な場所として捉えがちだ。そこでは極端な言説が飛び交い、感情が高ぶり、対立が生まれる。一方、料理、音楽、映画、DIY、動物写真のようなコミュニティは、もっと穏やかで中立的な場所だと考える。

しかし、研究はそう単純ではないことを示している。ユーザーは一つのコミュニティだけに存在しているわけではない。ある場所では犬の写真にコメントし、別の場所ではニュースに怒り、さらに別の場所では陰謀論的な解釈に共感する。オンライン上の人格は、複数の空間を移動しながら形作られる。

つまり、陰謀論的な世界観は、陰謀論専用の場所だけに閉じ込められているわけではない。日常的な会話、趣味の話、ニュースへの短い反応の中にも、感情の癖や不信の構造がにじみ出ることがある。

これは、個人を疑うための話ではない。むしろ、オンライン空間がどれほど相互接続されているかを理解するための話だ。SNSでは、趣味、政治、健康、ニュース、娯楽、怒り、不安、冗談が、同じアカウントの中で混ざり合う。その混ざり合いをどう扱うかが、今後のプラットフォーム設計の課題になる。


研究が示すのは「危険人物探し」ではない

この種の研究は、扱い方を間違えると危うい方向に進む。投稿文から「陰謀論者らしさ」を見抜くという表現は、監視技術やプロファイリングのように聞こえやすい。

しかし、本来この研究が示しているのは、個人を断罪する方法ではなく、オンラインコミュニティの言語的な構造を理解するための方法である。重要なのは、陰謀論がどのような感情や語彙、コミュニティ文化と結びつきながら広がるのかを知ることだ。

研究者たちは、万能の検出器ではなく、文脈に敏感な分析と介入の必要性を強調している。これは、プラットフォーム運営者にとっても、メディアにとっても、ユーザーにとっても重要な視点である。

なぜなら、陰謀論は単に「間違った情報」ではないからだ。そこには、怒り、不安、疎外感、不信、共同体への所属感が絡んでいる。誤情報を削除するだけでは、なぜ人々がそこに引き寄せられるのかは見えてこない。


言葉は、所属先より先に変化を知らせる

SNS上の言葉は、単なる情報伝達ではない。そこには、誰を信じ、何を恐れ、どの共同体に安心を感じるのかが表れる。

今回の研究は、陰謀論コミュニティへの参加が、突然の転落ではなく、以前からの言語的・心理的傾向と関係している可能性を示した。もちろん、それは運命論ではない。ある言葉を使ったからといって、その人が陰謀論に向かうわけではない。

それでも、巨大なSNSデータを通して見ると、個々の投稿では見えないパターンが浮かび上がる。怒りや不安を帯びた言葉、病や死への言及、対立的な語り口。それらは一つひとつなら日常的な表現だが、積み重なることで、ある種のコミュニティ参加と統計的に結びつく。

今後の課題は、この知見をどう使うかだ。監視や排除に使えば、SNSはさらに不信を深める。だが、コミュニティごとの文脈を理解し、過激化や孤立を早期に見つけ、より健全な対話を設計するために使うなら、オンライン空間を改善する手がかりになるかもしれない。

陰謀論は、特定の単語だけでできているのではない。人々の不安、怒り、所属欲求、そしてコミュニティの空気が重なって生まれる。今回の研究が明らかにしたのは、その複雑な重なりが、私たちの何気ない言葉の中にも残されているということだ。



出典URL

Phys.org:ミラノ工科大学などによる研究概要、5億件超のRedditコメント分析、平均87%の識別精度、SNS上の陰謀論コミュニティ研究の位置づけを参照。
https://phys.org/news/2026-06-distinctive-language-reveals-conspiracy-community.html

arXiv論文「Among Us: Language of Conspiracy Theorists on Mainstream Reddit」:研究の原論文。500 million comments、10年分のReddit活動、20以上の主流コミュニティ、コミュニティ別モデルと全体モデルの比較、心理言語学的特徴の詳細を参照。
https://arxiv.org/abs/2506.05086
https://arxiv.org/html/2506.05086v2

EurekAlert!リリース:ミラノ工科大学による研究発表。研究者コメント、DOI、ACL 2026採択、関連するJeffrey Epstein事例研究への言及を参照。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1131478

Francesco Pierri氏のLinkedIn投稿:著者側によるACL 2026採択報告と、研究内容が「文脈依存的な言語パターン」と「コミュニティ別のモデレーション」の必要性を示すという説明を参照。
https://www.linkedin.com/posts/francesco-pierri_nice-coming-back-after-the-easter-break-with-activity-7447191919157280768-zuGL

Francesco Corso氏のLinkedIn投稿:著者による関連研究紹介。陰謀論コミュニティ参加者が主流Reddit空間でも認識可能な言語パターンを示すという研究説明を参照。
https://www.linkedin.com/posts/francesco-corso-130299132_cs2italy-activity-7463504662990630913-S7W5

X投稿(Sci佇 Bookends):日本語圏での初期的なSNS紹介例として参照。確認できる範囲では大規模な議論ではなく、記事紹介型の反応にとどまっていた。
https://x.com/endBooks/status/2064517821913292819

Gianmarco De Francisci Morales氏の研究一覧:当該論文のACL 2026掲載情報、および関連するオンライン陰謀論・QAnon・TikTok研究などの研究文脈を参照。
https://gdfm.me/research/