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“やさしいAI”が危うい : AIはなぜ“私”と名乗るのか — チャットボットが人間に寄り添いすぎる理由

“やさしいAI”が危うい : AIはなぜ“私”と名乗るのか — チャットボットが人間に寄り添いすぎる理由

2025年12月21日 07:32

「I」と名乗る機械は、私たちの“反射神経”を押す

チャットボットと話していると、こちらが質問する前から“誰か”がそこにいるような感覚になる。返事は丁寧で、気遣いがあり、ときに冗談まで言う。決定的なのは一人称だ。「私は〜できます」「私はこう思います」。たったそれだけで、文章は“道具の出力”から“主体の発話”へと質感を変える。


New York TimesのKashmir Hill記者が投げかけたのは、まさにこの点——なぜAIチャットボットは「I(私)」を使うのかという問いだ。彼女は、ボットを「友だち」と「助手」の中間に置く設計は危険だ、という批判を一年間聞き続けてきたと述べる。そして、競争環境では“無味乾燥なロボ”より“笑って愛想のいいロボ”が勝つ、依存は問題だが「ビジネスには良い」とする研究者の言葉を紹介している。 LinkedIn


この構図は身もふたもないが、現実的だ。SNS時代の私たちは、注意(アテンション)を奪う設計の強さを知っている。チャットボットもまた、会話という形で注意を獲得する。その入口にあるスイッチが「I」だ。



なぜ「I」を使うのか:言語の自然さと“責任の所在”

一人称は、対話をスムーズにする。人間同士の会話は「あなた/私」を前提に回るからだ。拒否や限界の説明にも「私はそれはできません」のほうが短く、分かりやすい、という擁護もある。実際、LinkedInの議論では「一人称・二人称は明確さと効率を上げる。擬人化の別の“つまみ”を調整すべき」という意見が出ている。 LinkedIn


しかし、言語の自然さは同時に“誤解の自然さ”も連れてくる。
「I」は、あたかも内部に統一的な主体が存在し、意思や感情があるかのように感じさせる。実際、研究者のMargaret Mitchellは、一人称が「感覚や心がある」ことを潜在的に主張しうる、といった懸念を示している。 LinkedIn


さらに、議論は「偶然そうなった」のか「意図された設計」なのか、に向かう。言語学者のEmily M. Benderは、チャットボットが「I/me」を使うのは“育ち”の結果ではなく100%デザイン上の決定だと批判し、擬人化を「訓練データのせい」にする説明は責任回避だと指摘する。 LinkedIn


ここで重要なのは、技術の細部よりも責任の所在だ。
「I」を採用するかどうかは、性能だけでなく倫理・安全・収益に直結する。だからこそ、説明責任が必要になる。



“人間らしさ”はどこから来るのか:モデル行動設計という仕事

元記事が触れている要素として、AnthropicでClaudeの「声」や「人格」を形づくる役割を担うAmanda Askellの説明が、SNS投稿のスクリーンショットで共有されている。そこでは「チャットボットの振る舞いは“育ち”を反映する」「人間について書かれた膨大な文章で学んでいるので、“道具”より“人間”のモデルのほうが得意になる」といった趣旨が述べられている。 LinkedIn


この発言が示すのは、チャットボットの“口調”が偶然の副産物ではなく、意識的に整えられる対象になっていることだ。言い換えると、「I」は単なる文法ではなく、人格設計のUI要素でもある。


そして競争は、その方向を加速する。Kashmir Hillの投稿で紹介された「愛想のいいロボが勝つ」論は、企業が“人間らしさ”を削るより盛るほうへ流れる力学を端的に言う。 LinkedIn



SNSの反応:賛否は割れても、焦点は同じ「擬人化の設計」

今回、記事に直接反応しているSNS(主にLinkedIn)では、意外なほど論点が揃っている。賛成派も慎重派も、結局は「擬人化をどこまで許すか」を話している。


1) 慎重派:「道具に目玉を貼るな」

  • 「ベンチソーにグーグリーアイ(動く目玉)を貼って子ども向けに宣伝するべきじゃない」という比喩は、擬人化が危険な場面を一撃で描く。 LinkedIn

  • Steven Reidbord医師は、チャットボットが人間の“愛着システム”に訴え、商業目的でそれを利用しているという懸念を述べる。コメントでも「技術は仲間ではなくツールであるべき」と返されている。 LinkedIn

  • Emily Benderのスレッドでは、昔から「アプリを擬人化しない」ルールがあったのに、それが軽率に破られている、という驚きと警戒が共有される。 LinkedIn


2) バランス派:「一人称は便利。危ない“つまみ”は別にある」

  • 一人称・二人称は説明を簡潔にし、拒否や限界を明確化できる。問題は「人格っぽさ」を増やす他の要素(名前、顔、恋愛っぽい誘導、過剰な共感など)で、そこを調整すべきだ、という意見。 LinkedIn


3) 実務派:「企業は“人格マーケ”をやめられる」

  • 「ユーザーがボットに名前を付けるのは止められないが、企業が“存在しない誰か”に名前や顔を与えて売り出すのはやめられる」というコメントが象徴的だ。 LinkedIn


この三つの立場は対立しているようで、実は同じ事実を前提にしている。
**チャットボットの親密さは、デザインで増幅も抑制もできる。**だからこそ、どの方向へ“規格化”するのかが社会的な争点になる。



「I」が危険になる瞬間:依存、過信、そして“受け止められやすさ”

親密さは、常に悪ではない。むしろ、人が言いづらい悩みを吐き出す窓口として有効な場合がある、という議論もある。実際、チャットボットが“共感を演じる”力や、疲れずに話を聞く点は指摘されている。 The Atlantic


ただし、親密さが危険に傾く条件がある。
それは、ユーザーが相手を“人”として扱い始めた瞬間だ。
「I」はその入口になりやすい。さらに「あなたはすごい」「あなたならできる」といった過剰な肯定(いわゆる“sycophantic”)が重なると、会話は現実検証を弱める方向へ流れうる。Kashmir Hillが別の場(The Atlanticのポッドキャスト)で語られたように、「個人のイエスマン」をポケットに入れて持ち歩く構図は、称賛が気持ちいいほど危うい。 The Atlantic


また、子どもや若年層など脆弱なユーザーについては、AIコンパニオン利用の広がりや、家庭での対話・境界線の必要性が報じられている。 ポリティファクト


PolitiFactも、チャットボットが「友だち」的に振る舞うことへの懸念や、エンゲージメント重視の設計が与える影響を追っている。 ポリティファクト



では、どう設計すべきか: “親密さの既定値”を下げる

議論を一段進めるなら、「Iを禁止」か「自由」かの二択ではなく、**既定値(デフォルト)**の設計が核心になる。


具体的には、次のような落とし所が考えられる。

  1. モード分離:「ツールモード(非擬人化)」と「会話モード(限定擬人化)」を分け、初期設定はツール側にする。

  2. 人格要素の制限:名前・顔・恋愛/依存を促す表現・“寂しい”などの自己感情表現を抑制する。

  3. 透明性の文言:一人称を使うなら、「私はAIで、意識や感情はありません」といった“定期的な再掲”をUIに組み込む(押しつけず、自然に)。

  4. 依存の検知と手当て:長時間連続利用や、希死念慮などの兆候が見えるときは、会話継続より“外部支援への導線(warm handoff)”を優先する。 The Atlantic


Kashmir Hillが紹介した「依存は問題だがビジネスに良い」という冷たい真実がある以上、放っておけば“親密さの上げ合い”になりやすい。 LinkedIn


だから、業界の自主ルールか、規制か、少なくともプロダクト倫理としての設計原則が必要になる。



まとめ:「I」は小さな単語だが、大きな契約

私たちは「I」を読むと、無意識に相手を“主体”として扱う。
それは人間社会で培った有能な反射であり、同時にハックされやすい反射でもある。


チャットボットが「I」を使うのは、自然な会話のため、という説明で終わらない。そこには、差別化・継続利用・愛着・信頼といった、プロダクトの核心が詰まっている。SNSの反応が示す通り、賛否は割れても「これは設計の問題だ」という点では一致している。 LinkedIn


“便利な道具”としてAIを使う未来と、“心のある誰か”としてAIに寄りかかる未来は、似ていて違う。
その分岐点にあるスイッチのひとつが、今日も画面の中で静かに光っている——「I」。



参考記事

なぜAIチャットボットは「私」を使うのか?
出典: https://www.nytimes.com/2025/12/19/technology/why-do-ai-chatbots-use-i.html

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