イヤホン市場が足踏みする中、「耳をふさがない」が伸びる理由

イヤホン市場が足踏みする中、「耳をふさがない」が伸びる理由

イヤホン市場が足踏みする中、「耳をふさがない」が伸びる理由

音楽を聴いていて、家族に呼ばれたことに気づかなかった。仕事中、同僚に話しかけられるたびにイヤホンを外している。耳に押し込む装着感が苦手で、長く使うのをためらってしまう。

こうした日常の小さな不便からイヤホンを見直すと、「周囲の音をどれだけ消せるか」とは別の価値が浮かび上がる。音楽や音声を楽しみながら、生活の音も自然に聞いていたいという需要だ。

キプロスの英字紙Cyprus Mailが10月3日に取り上げた市場データは、その変化を映している。世界の完全ワイヤレスイヤホン市場が足踏みするなか、耳をふさがない「OWS(オープン・ワイヤレス・ステレオ)」は成長を続けた。

ただし、これを「従来型イヤホンの終わり」と読むのは早い。見えてくるのは、イヤホンの役割が細かく分かれ始めた姿だ。


全体は0.7%減、OWSは12%増

調査会社Omdiaの発表によると、2026年4〜6月の世界の完全ワイヤレスイヤホン(TWS)出荷台数は8,210万台。前年同期比0.7%減で、前年同期比の減少は2023年4〜6月以来となった。

最大市場の中国本土では9.5%減。Omdiaは、家電消費を後押ししてきた景気刺激策の効果が薄れたことに加え、買い替え需要の一部が2025年に前倒しされたことを背景に挙げている。米国とインドでも出荷が減った。

一方、OWSの出荷は12%増の1,110万台に達し、TWS全体に占める比率は13.5%になった。従来型のインイヤー・セミインイヤー製品は2%減で、同じ市場の中でも動きが分かれている。

注意したいのは、これは世界の「出荷台数」の統計だという点だ。日本の店頭販売が同じ割合で伸びたという意味でも、音響機器全般の売上高が減ったという意味でもない。また、今回の集計ではOWSはTWS全体に含まれる。別々の市場として足し合わせる数字ではない。


「聞こえない快適さ」と「聞こえる快適さ」

OWSの特徴は、耳の穴をふさがずに音を届ける装着方法にある。ここでいうオープンイヤーは装着構造の話であり、すべてが骨伝導方式という意味ではない。

たとえばBoseのUltra Open Earbudsは、耳の外側に装着し、耳の内側へ向けたスピーカーから音を届ける。メーカーは、周囲の音を聞きながら音楽を楽しめることや、音漏れを抑える設計を特徴に挙げている。

この使い方が求められる理由は想像しやすい。自宅で洗濯物を畳みながらポッドキャストを聞く。机で作業しながら、隣の人の呼びかけにも気づく。散歩中に音楽と街の音を一緒に楽しむ。そんな場面では、周囲と音を通じてつながっていること自体が使いやすさになる。

もっとも、耳をふさがない構造だから誰にでも快適とは限らない。耳の形や装着位置、挟む力との相性は残る。従来型の圧迫感が苦手な人にとって有力な選択肢になり得る、という捉え方が適切だ。


イヤリングのような形が、選び方を変える

Omdiaによると、OWS出荷の61%を占めたのはクリップ型だった。耳掛け型は39%。クリップ型は、音響機器としてだけでなく、ファッションアクセサリーとしての関心にも支えられているという。

イヤホンは顔の近くに長時間つけるものだ。仕事着に合わせやすいか、髪形になじむか、オンライン会議でどう見えるか。音質や電池持ちに加えて、こうした判断が入り込む余地は大きい。

日本の読者に引き寄せて考えるなら、眼鏡やマスク、ピアスと干渉しないかも気になるところだ。ただし、これは日本での購入動機を測定した結果ではなく、日常の装着場面から考えられる確認点である。

外見が気に入っても、少し頭を動かすとずれる、しばらくすると耳が痛くなるようでは長く使いにくい。小さな機器だからこそ、カタログだけではわからない相性がある。


SNSの本音は「ずっと使いたい。でも音漏れは?」

SNS・掲示板の投稿からは、市場統計だけでは見えない選び方が読み取れる。

 

以下は、Cyprus Mailの記事への直接の反応ではなく、Redditに投稿されたオープンイヤー型イヤホンについての相談や使用感を要約したものだ。個人の経験であり、利用者全体を代表する調査ではない。

ある購入相談では、職場で一日中つけ、通話や音楽、ポッドキャストに使いながら、周囲から助けを求められたときにも気づける製品を探していた。投稿者は耳に入れるイヤホンの不快感と、大型ヘッドホンのかさばりや蒸れを理由に挙げている。

ここで求められているのは、単に迫力のある音ではない。仕事の流れを止めず、長く身につけられる道具としての使いやすさだ。

別のスレッドでは、密閉するイヤーチップが苦手でオープンイヤー型を検討しているものの、職場や通勤中の音漏れが心配だという相談があった。

その返信には、屋外で自然の音と音楽を一緒に楽しめる点や、装着感を評価する声がある。一方、通勤の大部分では使えても、電車の特定区間で発生する鋭い走行音にイヤホンの音がかき消される、という体験も寄せられていた。

音漏れをほとんど感じないという利用者の声があっても、すべての製品や音量で同じ結果になるとは限らない。肯定的な感想と不満が共存するのは、使う場所によって評価軸が変わるからだろう。


日本では「通勤用」と「家で使う用」が分かれるか

日本での使い方を考えると、同じ一日の中でもイヤホンに求めることが変わる。

混雑した電車で音声をはっきり聞きたい時間と、家で呼びかけに気づきながら音楽を流したい時間では、好ましい聞こえ方が違う。周囲の音が入りやすいことは、前者では不便になり、後者では便利になる。

もちろん、これはOWSが日本の通勤に向かないと一律に決める話ではない。徒歩移動が中心なのか、騒がしい地下鉄に長く乗るのかでも条件は変わる。Redditで挙がった「電車の一部区間だけ聞き取りづらい」という声は、その違いをよく表している。

音漏れについても、自宅で一人のときと、静かな職場や隣席との距離が近い車内では受け止め方が異なる。メーカーが音漏れ対策を説明していても、実際の使用音量や周囲との距離まで同じではない。

こうした違いから考えると、今後は一台ですべてを済ませるだけでなく、没入して聴くためのイヤホンと、生活の中で使い続けるイヤホンを使い分ける人が増える可能性がある。これは市場データで確認された日本の動向ではなく、用途の違いから導かれる見方だ。


AIが増えても、毎日の使いやすさは変わらず重要

元記事とOmdiaの発表は、AI機能もイヤホン市場の競争軸になりつつあると指摘している。AI処理用のチップや、大規模言語モデルを利用する連携アプリなどがその例だ。

ただし、AI機能が話題になったことと、それがOWS成長の主因だったことは同じではない。今回のデータだけで、12%の伸びをAIの効果と断定することはできない。

また、発表で言及される装着感、音質、通話品質、アクティブノイズキャンセリングは、TWS市場全体の競争要素として読む必要がある。耳をふさがない製品すべてに、密閉型と同じ遮音性能があるという説明ではない。

日本の利用者にとっては、仮に高度な音声機能が加わっても、日本語で使いやすいか、手持ちのスマートフォンと自然に連携するか、操作が増えすぎないかが大切になるだろう。機能の数より、毎日の手間が減るかどうかが継続利用を左右する。


買い替える前に、「何を聞き逃したくないか」

今回の数字が示すのは、イヤホン需要の消滅ではない。成熟した市場の中で、耳をふさがない使い方が存在感を増しているという変化だ。

だから選ぶときは、「いちばん高性能なのはどれか」に加え、「自分は何を聞き逃したくないか」と考えるとわかりやすい。

楽曲の細部に集中したいのか。会議の声を聞き取りたいのか。音楽を流しつつ、家族や同僚の声にも気づきたいのか。その答えによって、必要な装着方法や機能は変わる。

OWSの成長は、音を楽しむ時間が生活のあちこちに広がったことを考える手がかりになる。耳元の小さな機器に求められているのは、音楽を届けることと、日常に無理なく収まること。その両立が、新しいイヤホン選びの焦点になりそうだ。


出典URL

  1. Cyprus Mail(2026年10月3日)
    世界のTWS市場とOWS成長、形状別動向、AI機能の競争についての報道。
    https://cyprus-mail.com/2026/10/03/open-wireless-stereo-devices-buck-trend-in-falling-global-audio-market

  2. Omdia公式発表/Business Wire(2026年9月17日)
    2026年4〜6月の世界出荷台数、地域別動向、OWSの割合、クリップ型・耳掛け型の構成、AI機能についての一次資料。数値は消費者への実売ではなくsell-in出荷。
    https://www.businesswire.com/news/home/20260917343885/en/

  3. Bose日本公式製品ページ
    Ultra Open Earbudsの装着構造、周囲の音の聞こえ方、音漏れを抑える技術に関するメーカー説明。OWS全製品の性能を保証する資料ではない。
    https://www.bose.co.jp/p/open-earbuds/bose-ultra-open-earbuds/ULT-HEADPHONEOPN-BLK-WW.html

  4. Reddit「Help deciding open ear earbud」
    職場で長時間つけ、通話や音楽を楽しみながら周囲にも気づきたいという購入相談。SNSの関心を紹介するために参照。
    https://www.reddit.com/r/Earbuds/comments/1s6546x/help_deciding_open_ear_earbud/

  5. Reddit「Best Semi-in-Ear or Open-Ear Earbuds?」
    職場・通勤時の音漏れへの懸念と、装着感、屋外での使用、電車の騒音についての利用者投稿。個人の意見・体験として参照。
    https://www.reddit.com/r/Earbuds/comments/1v587u6/best_semiinear_or_openear_earbuds/