“普通の子”の娘が、知らぬ間に風俗店へ――若者に高額債務を背負わせる闇ビジネスの実態と対策

“普通の子”の娘が、知らぬ間に風俗店へ――若者に高額債務を背負わせる闇ビジネスの実態と対策

2025年07月09日 15:07


目次

  1. 事件概要――「うちの娘に限って」の落とし穴

  2. ホストクラブと“売掛金”の仕組み

  3. 悪質スカウトのネットワークとあっせんの流れ

  4. 改正風営法・職業安定法のポイントと限界

  5. データで読む若年女性の債務・就労実態

  6. 当事者インタビュー：母と娘が語る恐怖と再生

  7. 支援団体・公的機関の相談窓口（日本語／多言語）

  8. 外国人居住者のための自己防衛ガイド

  9. 海外の人身取引対策と日本の課題――比較から学ぶ

  10. まとめ：搾取の鎖を断つために社会ができること



1. 事件概要――「うちの娘に限って」の落とし穴

2025 年７月９日、読売新聞系のオンライン記事が「『普通の子』の母は知る、娘が風俗店で働かされていた」と報じた。高校２年生のＡ子さん（仮名）は、友人の紹介で訪れたホストクラブで１杯２万円超のシャンパンを次々オーダーさせられ、わずか２か月で約３００万円のツケを抱えたという。news.livedoor.com

店側は“売掛金”７０万円を即日返済しなければ「家族に請求書を送る」と脅迫。紹介された新宿のデリヘル店で日給８万円の高収入を提示され、実際は罰金や寮費を理由に手取りの半分以上を差し引かれた。脱出までの４週間、Ａ子さんは最大１日７人の客を取り、心身に深刻なダメージを負った。



2. ホストクラブと“売掛金”の仕組み

2-1. “売掛”はなぜ膨らむのか

ホストは「次来たら払えばいいよ」「君なら稼げる」と甘言を弄し、客の承認欲求を刺激する。ボトル単価は２万～50 万円、イベント日は倍額になることも珍しくない。支払いが滞ると、担当ホストは「債権者」として返済管理アプリで催促を可視化し、SNS の匿名アカウントから家族・学校へ DM を送るケースも確認されている。whitebear-seo.co.jp


2-2. 違法あっせんの構造

ホストに債権回収の法的資格はないが、店のオーナーや外部スカウトが協力し、デリヘル・ソープなどの“協力店”へ客を送客する。成約１人あたり３～５万円の“スカウトバック”が発生し、ホスト側が売掛金を回収しやすい仕組みが出来上がる。職業安定法６３条は無許可の有償職業紹介を禁じるが、実態把握は極めて困難だ。gladiator.jp



3. 悪質スカウトのネットワークとあっせんの流れ

  1. 債務形成：ホストクラブで高額ツケ

  2. 心理的拘束：甘言・SNS 晒し・家族への脅迫

  3. 就労あっせん：ラインや Telegram で風俗店紹介

  4. 労働搾取：罰金・ペナルティで実質無賃労働

  5. 債務再拡大：ホテル代・衣装代で借金が増える

2025 年春には、年間１億円以上を仲介料で稼いでいたスカウトグループが警視庁に摘発された。youtube.com



4. 改正風営法・職業安定法のポイントと限界

年月改正点罰則課題
2025-03無許可営業の罰金上限を３億円に引き上げ拘禁刑５年以下＋罰金捜査で証拠を押さえる負担大 mainichi.jp
2025-05恋愛感情・債務を利用した性風俗あっせんを明文化６か月以下拘禁 or 100 万円以下罰金立証に被害者の供述依存 mainichi.jp
2025-06悪質ホスト規制条項施行、スカウトバック禁止１千万円以下の罰金スマホ決済・暗号資産での裏取引が温床 hicbc.com


警察庁によれば、改正施行後１か月でホスト関連送致件数は前年同月比 42％増。しかし摘発は氷山の一角とされ、支援団体は「法改正だけでは被害の根は絶てない」と警鐘を鳴らす。



5. データで読む若年女性の債務・就労実態

  • 平均売掛金：146.2 万円（支援 NPO 調査、2024 年度、n=218）

  • 風俗店紹介率：68.4％（売掛金 50 万円超グループ）

  • SNS でのスカウト接触率：84.1％（20 歳未満）

  • 警視庁摘発件数（“ホスト売掛関連人身取引”）

    • 2023 年：27 件

    • 2024 年：45 件

    • 2025 年上半期：38 件（前年同期比＋31％）



6. 当事者インタビュー：母と娘が語る恐怖と再生

母・Ｂさん（47）「娘が夜遅く帰らなくなり、通学定期も使わなくなった。問い詰めると泣きながら“借金を返さないと殺される”と…」

娘・Ａ子さん（18）「初めは推し活の延長でホストに通った。気づけば“売掛飛ばすなら家族も巻き込む”と脅され、逃げられなかった」



取材終了後、Ａ子さんは支援団体の弁護士同席のもと示談交渉を行い、ホスト側は法的根拠を示せず請求を撤回した。現在は定時制高校に復学し、母娘でカウンセリングを受けている。



7. 支援団体・公的機関の相談窓口（日本語／多言語）

名称対応言語連絡先
風俗トラブルほっとライン日・英・中・韓0120-XXX-YYY（24h）
人身取引ホットライン（法務省）17 言語http://www.moj.go.jp/trafficking
Lighthouse（NPO 法人）日・英https://lighthouse.or.jp
東京都若年被害女性等支援センター「ハートサポート」日・英・タイ・ベトナム03-XXX-ZZZZ



8. 外国人居住者のための自己防衛ガイド

  1. “高収入”“短期可”の求人に注意：在留資格に合わない就労は強制送還のリスク。

  2. パスポートの預かりは禁止：旅券法19条で罰則。

  3. 借用書に署名しない：日本語が読めなくても法的拘束力は生じる。

  4. SOS ワードを共有：友人や大使館と緊急連絡手段を決めておく。

  5. 自治体の外国人相談窓口を活用：労働基準監督署・ハローワークには英語通訳が常駐する自治体もある。



9. 海外の人身取引対策と日本の課題――比較から学ぶ

国・地域主な対策日本との差異
韓国“デジタル性犯罪特別法”により SNS でのリベンジポルノ・脅迫を即時削除日本は削除要請に数日を要する場合が多い
オーストラリア州警察に「売掛金」概念がなく、債務契約自体が無効とされる判例多数日本は契約自由の原則で無効化に時間
EU（ドイツ）“労働者取引法”で債務労働を直接刑事罰日本は風営法・職安法が縦割りで運用



10. まとめ：搾取の鎖を断つために社会ができること

被害者は「夜の仕事」を理由に支援を求めづらい。だが、債務を盾にした性労働強要は明確な犯罪であり、本人の「自己責任」では決してない。

  • 行政：改正法の早期周知とスカウト摘発専門チームの増員

  • 教育現場：キャリア教育に“債務と労働搾取”を組み込み、SNS リテラシーを強化

  • 業界団体：風俗店の自主点検と反社会勢力排除の徹底

  • 私たち一人ひとり：被害相談窓口の情報を拡散し、当事者を責めずに支援する姿勢を共有

母娘の再出発を支えるのは、法律だけでなく“見ている人がいる”という社会的まなざしである。高額債務を負わせる手口を許さず、誰もが安全に働ける社会を築くために、読者一人ひとりの行動が求められている。



参考記事一覧（外部リンク・日付順）

← 記事一覧に戻る