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「雇用」vs「搾取」vs「権利」 ― TikTokデータセンターが炙り出したブラジル社会の亀裂

「雇用」vs「搾取」vs「権利」 ― TikTokデータセンターが炙り出したブラジル社会の亀裂

2025年12月10日 00:07

ブラジルはビッグテックの“裏庭”になるのか

――TikTok超巨大データセンターと「デジタル採掘」をめぐる3つのジレンマ


「これでブラジルもAI時代の主役だ」「また資源だけ差し出す“植民地”になるだけだ」。
TikTok(バイトダンス)が発表した2,000億レアル規模の巨大データセンター投資をめぐり、ブラジルのSNSは今、歓迎と不安が入り混じった議論でざわついている。InfoMoney


北東部セアラ州ペセル(CIPP)に建設される予定のこのデータセンターは、南米最大級・30万kW級の設備とされ、2027年稼働、約4,000人の雇用創出、100%風力発電による運用をうたう“クリーン”な旗艦プロジェクトだ。El País


しかし目を凝らすと、その足元には3つの大きなジレンマが横たわっている。
ブラジルはテック大国へのジャンプ台を手にしたのか、それともビッグテックの“裏庭(quintal de big tech)”として、電力・水・土地とデータを差し出すだけの存在になってしまうのか――。



デジタル版「資源採掘」?

extrativismo digitalというキーワード

今回の議論のキーワードになっているのが、ポルトガル語で**「extrativismo digital(デジタルな採掘/掠奪)」**という言葉だ。


もともとこの表現は、

データやインフラだけをグローバル企業が吸い上げ、利益や技術は本社のある北半球に集中する
という構図を批判するために、研究者や活動家が使い始めた概念だと言われる。Agência Pública


ブラジルでは、今回のTikTok案件に加え、データセンター向けの**税制優遇制度「Redata」**をめぐる議論の中で、この言葉が一気に存在感を増した。


  • Redataは、データセンター向け設備の輸入に対し、PIS/COFINSなどの税を減免する特例制度案

  • ただし、そのまま適用すると「国内で作れる機器まで全部輸入してしまい、“デジタルな輸入依存”になるのでは」と懸念する声が産業界から上がっているConvergenciaDigital


ブラジル電機電子工業会(Abinee)の担当者は「波をうまく乗りこなせなければ、単なるextrativismo digitalになる」と警鐘を鳴らす。ConvergenciaDigital
つまり、TikTokのセンターもRedataも、「新しいチャンス」か「新しい搾取モデル」か紙一重なのだ。



ジレンマ1:クリーンエネルギーvs. 電力・水の“囲い込み”

TikTok側や政府は、今回のデータセンターを「グリーンな投資」として紹介している。

  • エネルギーは専用の風力発電パークから100%再生可能エネルギーで賄う

  • 冷却用の水も閉じた循環システムで再利用し、送電網への負荷を極力避ける設計だと説明しているEl País


一見すると、環境意識の高い模範プロジェクトに聞こえる。
だが、ここに1つめのジレンマがある。


「再エネなら何をしてもいいのか?」

AIや動画ストリーミングを支える大型データセンターは、膨大な電力と冷却のための水を消費する。世界各地で、

  • 周辺地域の電力供給ひっ迫

  • 水資源への影響

  • 送電インフラ整備のコスト負担
    が問題になっている。Agência Pública


ブラジル北東部は、風力など再エネポテンシャルの高さから「エネルギーのフロンティア」と見なされている一方、干ばつと水不足に悩まされる地域でもある。そんな場所に、数十年単位で電力・水を占有する巨大施設ができること自体が、環境正義の観点から問われている。インスタグラム


SNSではこんな声も

  • 「再エネだからOK、のロジックは危ない。“クリーン”でも地元の生活を圧迫したら意味がない」

  • 「農業や住民向けのインフラが足りていないのに、まずAI用の電力と水を確保するのか?」


再エネは必要だ。ただし「誰のための再エネか」を問わないままでは、

“グリーン”を装った資源の囲い込み
に終わってしまうのではないか――という不安が、環境系アカウントを中心に拡散している。



ジレンマ2:ブラジル産業育成vs. 「データだけ運ぶ港」

2つめのジレンマは、産業政策と雇用だ。

TikTokのプロジェクトは、

  • 建設・稼働までに4,000件規模の雇用

  • ケーブルハブや港湾設備と連動した、デジタル・ロジスティクス拠点の形成
    など、地域経済への波及効果が強調されている。NeoFeed


しかし、データセンターの構造を冷静に見れば、

建設フェーズで大量雇用 → 稼働後は高度な技術職を中心に少数
というパターンが一般的だ。


AbineeやIT企業の一部は、「本当に雇用を生むのはサーバーやネットワーク機器を作る工場や研究拠点だ」と指摘する。Clipping Abinee


Redataは“輸入天国”に? 産業界の不安

  • Redataは、データセンター向け機器の輸入税を大幅に優遇する構想

  • これにより、TikTokをはじめとしたビッグテックの設備投資を呼び込みやすくなる一方で、

    • すでに国内生産能力のあるサーバー・ストレージなどまで輸入に切り替わり

    • 地場メーカーが競争力を失う
      という懸念が出ている。ConvergenciaDigital


Dellブラジルの幹部は、**「データセンター偏重の優遇は、電力や土地を明け渡すだけの“デジタル採掘”になりかねない」**と公の場で発言している。Clipping Abinee


つまり、

  • 工場や研究所、スタートアップ支援とセットで産業エコシステムを作るのか

  • それとも、「サーバーの置き場」として土地と電力だけ提供する国になるのか


ブラジルの選択次第で、同じ投資でも意味がまったく変わってしまう。


SNSの空気:

「仕事が増えるなら歓迎」vs.「あとに残るのは空の倉庫」

X(旧Twitter)やInstagramでは、こんな対立が見える(あくまで典型的な声の例として):

  • 「北東部でこんな規模の投資はめったにない。雇用もトレーニングも増えるなら歓迎」

  • 「工場ではなくサーバー倉庫じゃん。建設が終わったら残るのは、外資のラックと月々の電気代だけ」

テック楽観派と産業政策重視派が、互いのスレッドを引用しながら応酬している。



ジレンマ3:先住民の土地と「クラウドはどこにあるのか」

3つめのジレンマは、領土と民主主義の問題だ。

TikTokデータセンターの建設予定地に近いアナセ(Anacé)先住民コミュニティは、すでに平和的な抗議行動を始めている。El País


彼らが訴えているのは、

  • 計画地が伝統的な領域として認識している土地と重なること

  • ILO169条約が定める「事前・自由・十分な情報に基づく同意(FPIC)」がなされていないこと

  • 水資源と宗教的・文化的な場所への影響

といった点だ。


あるアナセのリーダーは、インタビューで

「クラウド(雲)は空に浮かぶ何かだと思っていた。
でも今、クラウドは私たちの土地に建つ巨大な建物だと気づかされた」
と語ったという。El País


この言葉は、ブラジルのSNSでもたびたび引用され、
「クラウドはどこにあるのか?」という問いとともに拡散されている。


簡略化された許認可プロセスへの批判

報道によれば、プロジェクトの環境ライセンスは簡略プロセスでスピード承認されたとされ、一部の環境団体や法律家は「前例になれば、他のメガプロジェクトでも住民参加が形骸化する」と懸念する。El País


「国家戦略だから」と言って、手続きがショートカットされていないか

  • 先住民だけでなく、漁民・農民・都市住民を含めた**本当の意味での“社会的合意”**があるのか


ここを曖昧にしたまま建設を進めれば、

AI時代のインフラが、最初から「民主主義の赤字」を抱えたまま動き出す
ことになる。



SNSの反応:3つの“陣営”

実際のタイムラインを眺めると、ブラジルのSNS上の反応は大きく3つに分かれているように見える。


① テック楽観派:「AI時代に乗り遅れるな」

  • 「ブラジルがAI・クラウドの地図に本格的に載るチャンス」

  • 「セアラがシリコンバレーと同じ会話に出てくる日が来るなんて」

こうしたポストは、スタートアップやITエンジニア、若いビジネスパーソンたちから多く発信されている。
彼らは、「多少の環境負荷や税制優遇は、後から修正すればいい」というスタンスだ。


② 懐疑派・批判派:「また“デジタル植民地”か」

一方で、左派系アカウントや研究者、環境NGOなどからは、

  • 「データもインフラも外資に握られる。主権のないデジタル化は危険」

  • 「Redataは国内産業を空洞化させる“輸入補助金”になりかねない」

といった批判が繰り返し投稿されている。br.boell.org


彼らは、「extrativismo digital」という概念を使いながら、

かつては金・ゴム・砂糖が、
今はデータと電力が
ブラジルから世界へ“採掘”されている
という歴史的アナロジーを提示する。


③ ローカルコミュニティ派:「最前線にいるのは私たち」

そして、アナセを含む地域コミュニティに近い人たちは、別の切り口から発信している。

  • 「国や企業は“何千の雇用”と語るけれど、私たちは水と土地を失うかもしれない」

  • 「プロジェクトの説明会はあったが、選択肢のない“説明”だった」

こうした声は、必ずしも全国的なバズにはならないが、ローカルメディアやインフルエンサーによって徐々に可視化されつつある。El País



これから問われる4つのポイント

TikTokのデータセンターとRedataをめぐる議論は、単発のニュースではなく、
「AI・クラウド時代のインフラを、どう民主的かつ持続可能に設計するか」という、より大きな問いにつながっている。


今後、特に注視すべきポイントを4つに整理してみよう。

1. Redataの最終的な設計

  • 「国内で製造可能な機器には優遇を適用しない」

  • 「研究・開発・教育への投資とパッケージでインセンティブを与える」

といった産業育成の視点が組み込まれるかどうかは、extrativismo digitalを避けるうえで決定的に重要だ。ConvergenciaDigital


2. エネルギー・水の利用ルールの透明性

再エネや水再利用が本当に機能し、

  • 地域の電力料金

  • 他産業の電力・水利用
    に悪影響を与えないような仕組みをどこまで公開し、第三者が検証できるか。NeoFeed


3. 先住民・地域社会の実質的な参加

ILO169条約に沿った事前の自由意思による同意を本気で尊重するのか、それとも「説明会でOKを取った」と形式的に済ませるのか。
後者を選ぶなら、それは**デジタル版の“開発独裁”**に近い。El País


4. データ主権とガバナンス

最後に忘れてはいけないのが、データそのものの扱いだ。

  • ブラジル人ユーザーから生まれたデータでAIモデルを訓練するのであれば、どこまで国内で価値還元されるのか

  • プライバシーだけでなく、**経済的な意味での「データ主権」**をどう位置づけるのか


ここを曖昧にしたままでは、どれだけ巨大なデータセンターを誘致しても、

“AI大国ブラジル”の看板だけが残り、
価値と主導権は別の場所にある
という構図から抜け出せないだろう。blogdoloiola.com.br



まとめ:歓喜と違和感が同居する「ビッグテックの裏庭」

TikTokの巨大データセンター計画は、

  • AI時代のインフラ

  • 再生可能エネルギー

  • 産業政策

  • 先住民の権利と環境正義

といったテーマが一気に交差する象徴的な案件になっている。


SNSには、未来への期待と、どこか既視感のある違和感が同時に流れている。
ブラジルはこのチャンスを、本当に自国の技術と民主主義を強くする機会に変えられるのか。
それとも、歴史のページをめくっても、相変わらず誰かのための「資源の供給地」として書かれてしまうのか。


その分かれ目は、これから数年の政策と市民の監視の目にかかっている。



参考記事

「ビッグテックの裏庭」、デジタル採取:データセンターが直面する3つのジレンマ - UOL
出典: https://www.uol.com.br/tilt/noticias/redacao/2025/12/08/quintal-de-big-tech-extrativismo-digital-data-centers-encaram-3-dilemas.htm

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