サツマイモのDNA解明:六倍体の迷宮を解く - サツマイモDNAが語る“モザイクな祖先”

サツマイモのDNA解明:六倍体の迷宮を解く - サツマイモDNAが語る“モザイクな祖先”

サツマイモは“やさしい”味に反して、遺伝的にはずいぶん手強い。人間が父母から一組ずつ染色体を受け取る二倍体なのに対し、サツマイモは六倍体。つまり同じ本が6セット並ぶ巨大図書館のカード目録を、混ざり合った状態から元の棚に戻す作業に等しい。研究者はこの**“ほどき作業(フェージング)”**で長年足踏みしてきた。


2025年8月、ついにこの難題に終止符が打たれた。BTIのZhangjun Fei教授らのチームが、アフリカで人気の品種「Tanzania」を材料に染色体レベルの“相同体別(フェーズド)ゲノム”を完成させ、Nature Plantsに報告したのだ。論文とプレス発表は、六倍体の全容だけでなく進化の来歴まで描き出している。 NatureBoyce Thompson Institute


何が“解けた”のか:モザイクな祖先の姿

最大の収穫は、サツマイモが異なる野生種の配列を混ぜ合わせた“寄せ木細工(モザイク)”のようなゲノムをもつと精密に示せたことだ。主要な祖先の一つとして、エクアドル沿岸に自生するIpomoea aequatoriensisの寄与が大きい。一方で、中米に分布するI. batatas 4xと近縁な、まだ特定されていない供与体の痕跡も広く認められる。驚くべきは、これらが別々の“サブゲノム”として綺麗に分かれているのではなく、同じ染色体上で入り組んで存在している点だ。研究チームは、サツマイモが**「セグメンタル異質倍数体」としてふるまうことを示唆する。要は、“ハイブリッドの過去”**を持ちながら、“一体のゲノム”として振る舞う巧妙な構造だ。 Nature


この入り組み構造は、六倍体がもつ**“予備の遺伝子コピー”**と相まって、乾燥や病害虫への強さ=適応力に寄与している可能性が高い。いわば、**部品の冗長性(バッファ)**があることで、過酷な環境でも作物としての性能を保ちやすい。 


技術的ブレークスルー:90本を6組に“仕分け”

サツマイモは90本の染色体(15本×6セット)を持つ。今回のコアは、この90本をオリジナルの6組(ハプロタイプ)完全に仕分け(phasing)した点にある。長鎖リード、Hi-C等の最新技術を組み合わせ、標本品種「Tanzania」染色体レベルの参照配列を構築した。データはSweetpotato Genomics Resourceに公開され、原データはNCBIのBioProjectにも登録されている。 Nature


この成果は、2010年代から積み上げられてきた**二倍体近縁種(I. trifida/I. triloba)**の参照ゲノムや、SweetGAINSプロジェクトの事前公開データを土台に飛躍したものでもある。“六倍体本丸”の決定版が揃ったことで、ゲノム選抜やQTL解析、eQTL解析が一気に実戦レベルで回る。 Naturesweetpotato.uga.edu


育種現場で何が変わる?

なりたい形質から逆算して遺伝子座を拾う速度が加速する。例えば乾燥耐性・病害抵抗性・でんぷん品質・カロテノイド含量(ビタミンA源)など、アフリカ・アジアで重要なターゲットは多い。六倍体では“アリルのコピー数(アリルドサージ)”が形質に効くことが知られ、何を何コピー積めば狙いの表現型が最短距離で出るかの見通しが立ちやすくなる。2024年末の研究も、六倍体特有の**“コピー数のチューニング”**が育種の鍵だと示していた。今回の参照配列は、その地図を高解像にする。 


もう一つ見逃せないのが食料安全保障だ。サツマイモは強靭・省資源・栄養豊富で、特にサブサハラ・アフリカの重要作物。耐性と収量の両立をゲノムからピンポイントに設計できれば、干ばつ多発地域での収量安定化に直結する。 Boyce Thompson Institute


“自然のGMO”としての一面も

サツマイモはAgrobacterium由来のT-DNAをゲノム内にもつ、**“自然に遺伝子導入が起きた作物”**としても有名だ。今回の成果と直接の因果は別として、ゲノムの全容が明瞭になるほど、こうした水平伝播の歴史や、形質進化の足跡もさらに精密に読めるはずだ。 PNAS


データと再現性:誰でも触れる“共通インフラ”へ

Nature Plantsの論文ページには生データ(PRJNA1138727)アセンブリ/アノテーションの所在が整理されており、Sweetpotato Genomics ResourceでブラウザやBLASTが提供されている。事前公開のSweetGAINSデータも、今回の正式発表で“競合回避”制限が解け、広く使いやすくなる見込みだ(詳細は各サイトのポリシー参照)。 Naturesweetpotato.uga.edu+1



SNSの反応(初動メモ)

本稿執筆時点(日本時間2025年8月9日の午前)では、公開から約1日のタイミング。一次情報はBTI公式のニュース投稿EurekAlert!Phys.orgの編集記事を中心に拡散が始まった段階だ。専門コミュニティでは、「完全フェーズド参照の完成は待望」「育種の実装が一気に進む」といったポジティブな受け止めが目立つ。公式ルートの周知は以下。
・BTIのニュース投稿(解説と画像つき) Boyce Thompson Institute
・EurekAlert!の配信(DOIと資金情報の明示あり) EurekAlert!
・Phys.orgの解説(編集校閲つきの要約) Phys.org

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ちょっと先読み:ここからの研究テーマ

  • 起源解析の精密化:未同定の中米由来供与体の追跡。野外個体群・保存系統の網羅ゲノム。 Nature

  • 形質展開の地図作り:タンパク質機能予測、発現(eQTL)とアリルドサージの統合モデル。 Phys.org

  • 病害抵抗と微生物叢:ウイルス・病原菌圧への多層耐性設計(NLRomeやメタゲノム資源の活用)。 BioRxiv


重要リンク(一次情報)

  • 論文:Nature Plants “Phased chromosome-level assembly … of hexaploid sweetpotato”(2025年8月8日公開) Nature

  • 解説:Phys.org(BTI提供の要約記事) Phys.org

  • プレス:BTI公式ニュース(画像クレジット等) Boyce Thompson Institute

  • データ:Sweetpotato Genomics Resource(ブラウザ/BLAST) sweetpotato.uga.edu


参考記事

サツマイモのDNAを解読:新しい研究が驚くべき祖先を明らかに
出典: https://phys.org/news/2025-08-decoding-sweet-potato-dna-reveals.html