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DNA解析が切り開くアメリカンロブスター幼生の食卓 —顕微鏡観察×eDNAメタバーコーディング×ターゲットPCRがもたらす新知見—

DNA解析が切り開くアメリカンロブスター幼生の食卓 —顕微鏡観察×eDNAメタバーコーディング×ターゲットPCRがもたらす新知見—

2025年06月27日 00:05

1. はじめに——ロブスターとゴルフ・オブ・メインの経済・文化的背景

アメリカンロブスター(Homarus americanus)は、米国北東部の漁業経済を支える象徴的存在であり、特にメイン州では年間10億ドル規模の水揚げを誇る。だが漁獲統計が示す通り、資源量は気候変動や餌資源、病害の影響を受けながら長期的に変動している。幼生期はわずか数週間であるものの、その生残率が漁獲可能量を決定づけるボトルネックになっていると考えられている。phys.org




2. 幼生ロブスター研究の課題

幼生は体長約6 mm、胃の大きさはピンの頭ほどしかなく、従来の顕微鏡観察だけでは胃内容物の大部分を占める軟体プランクトンや微生物を同定できない。これが「何を食べて生き延びているのか」という基本命題を長らく未解決にしてきた。phys.orgdx.plos.org




3. 研究の概要と目的

研究チームは「見えるもの」と「見えないもの」を同時に捉える三位一体モデルを設計した。

  1. 顕微鏡観察で硬組織を確認

  2. eDNAメタバーコーディングで多種多様なDNA断片を網羅的に解析

  3. ターゲットPCRで生態学的キーストーン種とされるCalanus finmarchicusの摂餌を高感度に検出
    これにより、幼生期の食性を高解像度で描き出すことが狙いだ。phys.orgdx.plos.org




4. 手法① 従来の顕微鏡観察

112個体の胃内容物を慎重に解剖・観察した結果、節足動物の外骨格片が最も多く確認され、魚卵や軟体動物殻片もわずかに含まれていた。ただし消化過程で軟組織は溶解しやすく、分類学的同定は門レベルにとどまる場合が大半であった。dx.plos.org




5. 手法② eDNAメタバーコーディング

次に、幼生胃の内容物から抽出したDNAを「ユニバーサルプライマー」で増幅・次世代シーケンス解析を行った。独自に設計したロブスターDNAブロッカーを添加し、宿主DNAによるシグナルマスクを低減させることで、クモヒトデ、ゴカイ、珪藻、微小真菌など従来検出が難しかった軟体・単細胞生物群が多数検出された。phys.orgdx.plos.org




6. 手法③ ターゲットPCRによる種特異的検出

Calanus finmarchicus は北大西洋食物網の基盤種であり、幼生ロブスターの成長に不可欠との仮説があった。研究チームはCOVID-19検査と同様のプローブ型リアルタイムPCRを開発し、48個体中10個体(20.8%)で同種DNAを検出。これは環境中の出現頻度を上回る割合であり、選択的摂餌の可能性が示唆された。phys.orgdx.plos.org




7. 結果——多様な捕食対象と新知見

  • 硬組織由来節足動物:顕微鏡・メタバーコーディング双方で優占

  • 軟組織生物(ゴカイ・クラゲ幼生・魚卵):メタバーコーディングで高頻度検出

  • 単細胞真核生物(微細藻類・原生生物):従来法では検出困難だったが本研究で初確認


    このマルチスケール解析により、幼生ロブスターは予想以上に多彩な食卓を持つことが明らかになった。dx.plos.org




8. Calanus finmarchicus の鍵生物学的役割

カラヌスは脂質リッチで高カロリーなため、幼生の高速成長を促進する“スーパーフード”と考えられる。ゴルフ・オブ・メインでは海水温上昇によって分布域が北上する傾向が報告されており、漁業資源管理上、今後の供給量変動モニタリングが急務となる。phys.org




9. 海洋温暖化とプランクトン相変動

気候モデルによれば、表層水温のわずか1 °C上昇でもプランクトン群集の季節変動が前倒しになり、幼生ロブスターの孵化時期とのミスマッチが拡大する可能性が指摘される。餌不足は初期死亡率を高め、結果的に漁獲量減少と価格高騰リスクを招く。




10. 漁業・沿岸コミュニティへの示唆

メイン州のロブスター漁は地元経済の生命線であり、本研究は「幼生期の餌資源確保=成体資源の安定化」という因果ループを裏付けた。資源管理機関は、プランクトン観測ブイやeDNA自動解析装置の導入によってリアルタイム監視を強化すべきだろう。




11. 技術的課題と今後の研究

  • eDNAメタバーコーディングの定量性向上

  • ブロッカープライマーの汎用化とコスト削減

  • 複数ターゲットPCRによる同時検出パネル開発

  • 時系列サンプリングで餌資源変動と幼生生残率をリンクさせる長期モニタリング




12. 日本の水産研究への応用

日本近海でも伊勢エビやクルマエビなど高付加価値甲殻類の幼生食性解明は遅れている。eDNAと顕微鏡を併用する本研究のフレームワークは、奄美群島や小笠原諸島の着底前幼生調査にも転用可能であり、国産エビの種苗放流や資源評価に新たな評価軸を提供するだろう。




13. まとめ

  • 顕微鏡+eDNA+ターゲットPCRの三位一体解析で幼生ロブスターの多様な食性が初めて定量的に明らかになった

  • Calanus finmarchicus が幼生の主要餌である可能性が高い

  • 餌資源の変動は将来のロブスター漁業収益に直結する

  • 本手法は日本の水産資源管理にも応用できる普遍性を持つ



参考記事一覧

  • Phys.org「New methods complement old in revealing diet of larval lobsters」(2025年6月26日)

  • Ascher, A. et al. “Contemporary eDNA methods complement conventional microscopy in zooplankton diet studies: Case study with American lobster postlarvae.” PLOS ONE 20(6): e0325889 (2025)

  • University of Maine Press Release “UMaine-led study sheds light on larval lobster diets” (2025)

  • Wahle, R. A., & Fields, D. M. “Plankton dynamics and lobster recruitment in a warming Gulf of Maine” Journal of Crustacean Research 45(2): 101–118 (2024)

  • 新しい方法が古い方法を補完し、幼生ロブスターの食性を明らかにする

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