マドンナの声はなぜ「年齢不詳」なのか? 若い頃より声が高い時期も ― マドンナ研究が示す、声と年齢の意外な関係

マドンナの声はなぜ「年齢不詳」なのか? 若い頃より声が高い時期も ― マドンナ研究が示す、声と年齢の意外な関係

写真:chrisweger「Madonna - The Celebration tour live - London 15/10/2023」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 2.0

電話で話した相手に、会う前から何となく年齢のイメージを持っていた。久しぶりに昔の映像を見て、顔つき以上に声の違いに驚いた。そんな経験はないだろうか。

私たちは声の高さや響き、話し方から、その人の年齢や人柄を想像する。しかし、その手がかりは必ずしも生年月日と一致しない。

その興味深い例として、言語学者が分析したのがマドンナだ。

2026年10月6日にPhys.orgが紹介した研究によると、彼女の話し声は、女性の加齢に伴って一般的に予想される変化だけでは説明しにくいという。若い頃に低かった声が、後年には高くなる時期もある。さらに母音の発音も、世代や出身地域の特徴にきれいには収まらなかった。

衣装や音楽、ステージ演出を変え続けてきたアーティストは、声によっても、自分がどう受け取られるかを形づくってきたのだろうか。


調べたのはヒット曲ではなく、インタビューの話し声

研究を行ったのは、デンマークのオーフス大学とコペンハーゲン大学の研究者たち。論文「The Age Chameleon: Social and Biological Effects on Madonna’s Ageing Voice」は、学術誌『Nordic Journal of English Studies』に掲載された。

分析対象は、1980年代から2021年までの約40年間にわたるインタビューである。

ここは、このニュースを読むうえで押さえたい点だ。対象は、アルバムに収録された歌声でも、コンサートでの歌唱力でもない。インタビューで話す声の高さと、母音の発音の変化を調べている。

つまり、「昔と同じ高音が出る」「歌唱力が衰えていない」「音楽制作で声を加工していない」といったことを証明した研究ではない。

研究者が注目したのは、声に刻まれるはずの年齢や地域の特徴と、実際の音声との間にあるずれだった。


声は年齢とともに、一直線に低くなったわけではなかった

研究紹介では、女性の声は閉経に伴う身体の変化によって低くなる傾向があると説明されている。声帯や、その周囲の筋肉などの変化が関係するという。

ただし、これは一般的な傾向であり、誰もが同じ年齢で同じように変化するという意味ではない。

マドンナの場合、55歳だった2013年ごろには、声が低くなる変化が観察された。研究者は、その時期が一般的な閉経の時期とおおむね重なることに触れている。

ところが、その後の数年間には、声の高さが再び上がっていた。

さらに、分析期間全体を見渡すと、低い声が記録された時期の一部は、彼女がまだ若かった1980年代だった。一方、1990年代後半以降には、全体として声が高くなる傾向が見られたという。

「若い時ほど高く、年を重ねるほど低くなる」という一本の線では、その変化を描けないのである。

研究者は、彼女が声の出し方を積極的に調整してきた可能性を指摘する。ステージごとに衣装を選び、作品ごとに表現を変えるように、話し声も自己表現の一部だったのかもしれない。


「意図的に変えた」は解釈であり、確認された事実ではない

ここで、観察された結果と、その理由についての推測を分けておく必要がある。

声の高さが時期によって変化したことは、音響分析から得られた結果だ。一方、本人がどんな目的で声を変えたのかは、同じ分析だけでは確定できない。

研究紹介では、意識的な声の調整に加え、ホルモン療法の影響という可能性にも言及している。しかし、マドンナが実際にその治療を受けていたことを確認したという報告ではない。本人の閉経時期を特定したわけでもない。

したがって、この研究を「マドンナの若い声の秘密はホルモン療法だった」と読み替えることはできない。

研究チームも、挙げた可能性だけで約40年間の複雑な変化をすべて説明できるとはしていない。興味深いのは、原因が一つに決まったことではなく、身体の年齢だけでは声の変化を説明しきれなかったことだ。


母音にも見えた、出身地や世代に収まらない特徴

分析は、声の高低だけにとどまらない。

研究者は、英語の「trap」「dress」「kit」「lot」「thought」などに含まれる母音の発音も調べた。これらの母音は、英語の地域差や発音の変化を考える際の手がかりになる。

ところが、マドンナの発音は、生まれ育ったミシガンや、若い頃に暮らしたニューヨーク、あるいは同世代の話し方に見られる変化と、単純には一致しなかったという。

また、時とともに複数の母音の音響的な違いが広がり、一部の母音には前寄りの発音になる変化も見られた。

専門的には「母音空間の拡大」と表現されるが、これは口の中が物理的に広くなったという意味ではない。母音の音響的な特徴を図に配置したとき、母音同士の隔たりが広がったということだ。

研究者は、こうした発音の特徴が、若さや魅力と結びつけて受け取られる可能性を指摘する。ただし、特定の発音をすれば誰にでも魅力的に聞こえる、という万能の法則ではない。

その音をどう受け取るかには、聞き手が慣れ親しんできた言語や、社会的なイメージも関わってくる。


SNSでは「声の加工」と「女性の年齢」をめぐる議論

今回確認できた公開投稿の範囲では、この研究そのものへのSNS反応を十分に集めることはできなかった。一方、マドンナの声や加齢については、研究紹介とは別に、以前からファンの議論が続いている。

 

英語圏の掲示板型SNS「Reddit」のマドンナ関連コミュニティには、「Vocal Comparison」という投稿がある。投稿者は、「Popular」や「Vulgar」で聞かれる声を好意的に評価しながら、作品によって声の加工の印象が異なるのはなぜか、と疑問を投げかけていた。

コメントには、年齢を重ねたアーティストが表現や歌い方を調整していくことへの理解も見られる。

ただし、これらはリスナーの感想や推測だ。加工の程度や制作意図を検証した資料ではない。また、楽曲の歌声をめぐる議論を、インタビューの話し声を扱った今回の研究への反論として、そのまま使うこともできない。

もう一つ注目したいのが、マドンナが若い頃に語った年齢差別についての映像を取り上げた、Redditの別のスレッドだ。

そこでは、女性に対して「自然に、上品に年を重ねてほしい」と求めながら、同時に若い見た目を期待するのは矛盾している、という趣旨のコメントが寄せられていた。「昔と全然変わらない」という褒め言葉さえ、若さを保たなければ評価されないという圧力を強めるのではないか、と疑問を呈する声もある。

これらはSNS全体の総意ではない。それでも、彼女の加齢をめぐる話題が、声や外見の好き嫌いだけでなく、女性に何を期待する社会なのかという議論に結びついていることはうかがえる。


日本でも考えたい、「年相応の声」という期待

この研究を日本の読者が受け止めるとき、興味深いのはマドンナの特殊性だけではない。

日本語でも、「声が若いですね」「落ち着いた声ですね」といった言葉を使う。どちらも褒め言葉になり得るが、その背景には、年齢と声に一定の組み合わせを期待する感覚がある。

例えば、電話に出るとき、仕事で説明するとき、友人と雑談するとき。同じ人でも、声の高さや話す速さ、言葉の選び方は変わる。そこには相手との関係や、その場でどう振る舞いたいかが表れる。

今回の研究は、そうした声と自己表現の関係を、長い期間にわたって考える材料になる。

ただし、英語の母音についての結果を、日本語の「あいうえお」にそのまま当てはめることはできない。また、一人の著名人を分析した結果から、すべての人の声の変化を説明することもできない。

それでも、「この年齢なら、こう聞こえるはず」という聞き手側の思い込みに気づくきっかけにはなるだろう。


若く聞こえることだけが、声の価値ではない

マドンナの声が年齢から予想される特徴に収まらなかったことは、興味深い発見だ。しかし、それを「声は若いほど良い」という新しい基準にしてしまうと、話は狭くなる。

年を重ねて生まれる低い響きや落ち着きも、その人の表現になり得る。変化を受け入れることも、表現のために声を調整することも、他人が一律に正解を決めるものではない。

今回の研究が示唆するのは、人の声には身体の変化だけでなく、社会との関わり方や自己表現も重なっているということだ。

マドンナの声を「何歳らしいか」と分類しようとすると、うまく収まらない。その収まりの悪さこそ、年齢で表現の範囲を決められることに抗ってきた彼女を考える、もう一つの手がかりなのかもしれない。


出典URL

  1. Phys.org:2026年10月6日付の研究紹介。 約40年間の話し声の変化、母音の分析、研究者の解釈を紹介。
    https://phys.org/news/2026-10-linguists-madonna-voice-defies-age.html

  2. 原著論文:研究の著者、掲載誌、公開日、要旨を確認できるページ。 2026年6月29日公開。「年齢を分類しにくい声」という研究の位置づけを確認。
    https://publicera.kb.se/njes/article/view/66422Nordic Journal of English Studies

  3. コペンハーゲン大学:研究機関による公式解説。 声の高さや母音の変化と、年齢・自己表現との関係を説明。
    https://news.ku.dk/all_news/2026/10/linguists-madonnas-voice-sounds-younger-than-it-should/University of Copenhagen

  4. Reddit「Vocal Comparison」:歌声の加工や音色についてのファンの議論。 今回の研究への直接の反応ではなく、関連するSNS投稿として参照。
    https://www.reddit.com/r/Madonna/comments/1u040wf/vocal_comparison/reddit.com

  5. Reddit:マドンナの過去の年齢差別に関する発言をめぐる議論。 女性に若さと「上品な加齢」を同時に求める風潮へのコメントを参照。今回の研究への直接の反応ではない。
    https://www.reddit.com/r/popculturechat/comments/1vplwcm/madonna_turns_68_today_here_she_is_at_34_talking/