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昆虫の翼は「遺伝子回路」から生まれた?なぜ昆虫だけが空を制したのか 翼進化を支えた「ブリンカー回路」

昆虫の翼は「遺伝子回路」から生まれた?なぜ昆虫だけが空を制したのか 翼進化を支えた「ブリンカー回路」

2025年11月20日 00:15

「空を飛ぶ」という、生命史最大級のアップデート

もし地球の歴史をアプリのアップデート履歴のように並べるなら、「昆虫の翼誕生」は間違いなくメジャーバージョンアップだ。
約4億年前、まだ木々が地表を覆いはじめた頃、最初に空へ飛び立った動物は鳥でもコウモリでもなく、私たちが普段あまり気にも留めない小さな昆虫だった。Phys.org


なぜ、彼らだけがいち早く空を手に入れられたのか。その鍵の一端が、「遺伝子回路」という意外にテクノロジーっぽいメカニズムに隠れていた、というのが今回の研究だ。


イギリスのフランシス・クリック研究所のチームは、ショウジョウバエを使った解析から、Dppと呼ばれるモルフォゲン(形づくりの信号分子)と、**Brinker(ブリンカー)**という分子がつくるフィードバック回路を発見した。これが、翼のような“大きな構造”を正確に育てるうえで決定的な役割を果たしているらしい。Phys.org



モルフォゲンDpp:設計図を運ぶ「濃度のグラデーション」

発生生物学の世界では、モルフォゲンという言葉がよく出てくる。これは「どの細胞がどの部位になるか」を濃度で伝えるシグナル分子のことだ。濃度が高い場所ではAという遺伝子のスイッチが入り、少し離れた中くらいの濃度ではBが入り…という具合に、グラデーションそのものが地図になっているイメージだ。


ショウジョウバエの翼芽(幼虫期に翼になる小さな組織)では、Dppというモルフォゲンがこの役割を担う。Dppは、ヒトを含む動物に広く存在するBMPファミリーの一員で、骨や臓器の形成にも関わる重要なシグナルだ。

ただし問題がある。


翼は、幼虫の身体からすこし離れた「孤立したパッチ」のような組織として育つため、他の場所から「応援信号」をもらいにくい。にもかかわらず、翼全体にわたって細胞の位置情報を正しく伝えなければならない。


Dppは源に近い部分では強く働くが、遠く離れるとどうしても信号が弱く、ノイズも増える。にもかかわらず、実際の翼は、端っこまできれいにパターンが整っている。いったいどうやって?



逆向きのグラデーションをつくるBrinker

今回の主役、Brinkerはここで登場する。研究グループのAnqi Huang氏は、Dppの濃度が下がっていくのに伴い、Brinkerという抑制因子の濃度が逆向きに上がっていくことを見つけた。Phys.org

  • Dppが強い場所 → Brinkerはほとんど発現しない

  • Dppが弱い場所 → Brinkerが強く発現する

つまり、Dppの勾配だけではなく、その「裏返し」としてのBrinker勾配が組織全体に敷かれていることになる。


さらに、物理学者たちとの共同解析から、Brinkerは単なる受け身の反応ではなく、フィードバック回路の中心であることがわかった。DppシグナルによってBrinkerの発現が抑えられ、BrinkerはまたDppの標的遺伝子のオン・オフを制御する。こうした相互作用の結果、遠方ではDppそのものよりもBrinkerのなめらかなグラデーションが、細胞に「ここがどこなのか」を伝える主要な手がかりになっているという。Phys.org


言い換えると、

「ぼんやりした元信号(Dpp)だけでは心もとないので、それを一度噛み砕き、よりくっきりした二次信号(Brinker勾配)として再配信する回路」

が組織の中に組み込まれている、ということになる。



翼を持たない「シミ」が語る、進化前夜の姿

この回路がいつ、どのように進化したのかを探るため、研究チームは遺伝子の系統をさかのぼった。公開ゲノムデータを比較したところ、Brinker遺伝子は昆虫に特有で、近縁な甲殻類には存在しないことがわかった。Phys.org


さらに、「翼を持たない」原始的な昆虫である**シミ(firebrat)**に注目する。シミは昆虫の中でも古い系統で、現在も翅を持たない。もしBrinkerの回路が「翼とともに進化した」のだとすれば、シミではDppとの関係がまだ構築されていない可能性がある。

実際、シミのゲノムにもBrinker遺伝子は存在していたが、ショウジョウバエのような逆向きグラデーションは形成されておらず、Dppシグナルとも接続されていないことが実験から示された。Phys.org


この結果は、「Brinkerはもともと昆虫系統で生まれ、その後、翼を持つ昆虫の系統でDppと結びつき、フィードバック回路として洗練されていった」というシナリオを強く支持している。



400年前ではなく、4億年前に起きた「空へのイノベーション」

研究を率いたJean-Paul Vincent氏は、

昆虫は約4億年前、ちょうど木が現れ始めたころに最初の飛行能力を獲得した

と指摘する。Phys.org


Brinkerを組み込んだDppシグナルネットワークは、翼という新しい構造を安定して大きく成長させるうえで有利に働いたはずだ。その結果、昆虫は空中というまったく新しいニッチに進出し、地球上で最も繁栄した動物グループのひとつになった――そんな壮大な進化ストーリーが、今回の1本の論文から立ち上がってくる。



SNSはどう受け止めたか?(仮想タイムライン)

ここからは、本記事のテーマをわかりやすくするために再構成した「仮想SNSタイムライン」だ。実在の投稿ではないが、このニュースが流れたとき、タイムラインにはきっとこんな声が並ぶだろう。

@evo_bio_lab
「Brinkerが昆虫に特有で、しかも翼の進化とタイミングがかぶるって、教科書に載るレベルの話では… #進化発生学 #昆虫の翼」

@dev_fly
「Dpp勾配をそのまま読むんじゃなくて、いったんBrinkerで“再エンコード”してるの、シグナル処理として美しすぎる。」

@sci_illustrator
「シミの翼“がまだつながってない回路”って発想がエモい。進化途中の配線図を見ている感じ。」

@bio_engineer
「こういうフィードバック回路、合成生物学で人工組織つくるときにも応用できそう。細胞シートの端までパターンを引っ張るとか。」

@casual_reader
「『翼を持たない虫が、翼を持つ虫の進化の鍵を握っていた』ってコピーだけで読みたくなるやつ。」

このように、研究者コミュニティでは「進化発生学(evo-devo)の好例」として、一般層では「地味な虫がスーパーヒーロー級の役を担っていた」というストーリー性が注目されそうだ。



「遺伝子回路」という見方が変える、進化のイメージ

今回の成果が面白いのは、進化を「部品の追加」ではなく「回路設計のアップデート」として描き出している点だ。

  • Brinkerという新しい部品が昆虫系統で生まれる

  • それがDppシグナルに組み込まれ、フィードバック回路を形成

  • 結果として、翼のような大きな構造物を精密に制御できるようになる


この流れは、電子回路やソフトウェアのリファクタリングを連想させる。
古いシステムに新しいモジュールを追加し、信号の伝わり方やノイズ耐性を改善していく――そんなエンジニアリング的な視点で、生命の進化を眺めるきっかけにもなる。



これからの応用:翼から臓器、そして人工組織へ

Dppは昆虫の翼に限らず、さまざまな臓器形成に関わる基本シグナルだ。Brinkerのようなフィードバック因子や、そのネットワーク構造が他の組織でも見つかれば、次のような応用が見えてくるかもしれない。

  • 再生医療
    モルフォゲンの「届く範囲」を人工的に拡張し、立体的な臓器を均一に成長させる設計指針になる可能性。

  • 合成生物学・バイオマテリアル
    細胞からなる“生体パターン”を、自律的に大きなスケールへ広げるための遺伝子回路デザインとして応用できるかもしれない。

  • 進化の再現実験
    Brinkerのような因子を別の系統に導入し、シグナルネットワークを組み替えることで、「もしあの時代に別の進化が起きていたら」を実験室レベルで検証する、という夢のある研究も想像できる。



おわりに:小さな翼が教えてくれること

私たちの目には、ショウジョウバエの透明な翼も、台所の隅でうごめくシミも、正直あまり魅力的には映らないかもしれない。でも、その小さな構造の裏側では、モルフォゲン、遺伝子回路、フィードバック制御といった高度な情報処理がフル稼働している。


今回の研究は、その一部を鮮やかに切り取って見せてくれた。
地味な昆虫の翼を覗き込むことは、実は「生命がどうやって複雑さと多様性を手に入れたのか」を知る、最短ルートのひとつなのかもしれない。



参考記事

遺伝子回路が昆虫の羽の進化をどのように助けたか
出典: https://phys.org/news/2025-11-genetic-circuit-evolution-insect-wings.html

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