SNSは人を分断するのか?新研究が示した「争わないアルゴリズム」の可能性

SNSは人を分断するのか?新研究が示した「争わないアルゴリズム」の可能性

「いいね」のためのSNSから、「理解」のためのSNSへ――アルゴリズムを変えれば分断は減らせるのか

SNSを開くと、私たちは自分で情報を選んでいるように感じる。気になる投稿を読み、面白い動画を見て、共感した意見に「いいね」を押す。タイムラインは、自分の関心がそのまま反映された鏡のように見える。

しかし実際には、その鏡は透明ではない。何を上に出し、何を見えにくくし、どの投稿に長く滞在させるかを決めているのは、プラットフォームのアルゴリズムだ。私たちが「自分で選んでいる」と思っている情報環境は、かなりの部分が設計されている。

コペンハーゲン大学、ドレスデン工科大学、マックス・プランク人間発達研究所の研究者らによる新しい研究は、この当たり前のようで見過ごされがちな事実を、改めて強く示している。研究の結論はシンプルだ。SNSの投稿を並べる仕組みを少し変えるだけで、人々の意見の分かれ方や、現実に対する判断の正確さは変わり得る。

つまり、SNSの分断は「ユーザーがそう望んでいるから」だけで起きているわけではない。フィードの設計そのものが、社会の認識を押し広げたり、逆に狭めたりしている可能性がある。


気持ちいいフィードほど、正しいとは限らない

現在の主要SNSでは、多くの場合、エンゲージメントが重要な指標になっている。いいね、シェア、コメント、リアクション、滞在時間。ユーザーが強く反応する投稿ほど価値が高いとみなされ、さらに多くの人の目に触れやすくなる。

この仕組みは、ビジネスとしては非常に合理的だ。ユーザーが反応し、滞在し、また戻ってくるほど、プラットフォームの価値は高まる。広告モデルとも相性がいい。怒り、驚き、共感、恐怖、優越感といった強い感情を呼び起こす投稿は、画面を閉じさせにくい。

問題は、強く反応したくなる情報が、必ずしも正確な理解につながるとは限らないことだ。

研究では、エンゲージメントを重視するフィード、とくに「自分と政治的に近い人たちが好む投稿」を優先するパーソナライズ型のエンゲージメント・ランキングが、参加者の信念をより分極化させ、判断の正確性を下げる傾向を示した。

皮肉なのは、そうしたフィードが参加者からは「洞察に富んでいる」と感じられやすかった点である。自分の考えに近く、感情的に納得しやすく、反応したくなる投稿は、本人にとっては有益に見える。しかし、それが世界をより正しく理解する助けになるとは限らない。

むしろ、気持ちよく納得できる情報環境ほど、自分の見方を補強し、反対側の視点を見えにくくすることがある。SNSの危うさはここにある。ユーザーは「自分に合った情報」を受け取っているつもりでも、実際には「自分の思い込みを強化する情報」に囲まれているかもしれない。


実験はどのように行われたのか

研究チームは、SNSのアルゴリズムが分極化と正確性にどのような影響を与えるかを測るため、米国在住者を対象にした二段階のオンライン実験を行った。

第一段階では、500人の参加者が、政治や社会に関する6つのテーマについて、合計72本の短い論争的投稿を評価した。参加者はそれぞれの投稿に対して、賛成、反対、または無反応を選んだ。これにより、リベラルと保守の参加者がどのような投稿を支持し、どのような投稿を拒むのかが可視化された。

第二段階では、新たに1000人の参加者が登場する。参加者はまず各テーマについて自分の考えを示し、その後、3本の投稿からなる短いフィードを見せられ、最後に再び自分の考えを答えた。

このとき、どの投稿が表示されるかは、参加者が割り当てられた条件によって変わる。研究では、主に次のようなランキング方式が比較された。

ランダムに投稿を並べる方式。
エンゲージメントが多い投稿を優先する方式。
自分の政治的グループが好む投稿を優先するパーソナライズ型エンゲージメント方式。
リベラルと保守の双方から支持される投稿を優先するブリッジング型。
集団全体の判断の正確性を高めると期待される投稿を優先するインテリジェンス型。

研究者たちは、参加者の考えが互いに近づいたのか、それとも離れたのか、また集団としての判断がどれほど正確になったのかを測定した。さらに、参加者が投稿をどのように感じたか、たとえば礼儀正しい、感情的、洞察的といった印象も調べた。

この設計が興味深いのは、SNSの実験でありながら、巨大プラットフォームの内部データに依存していない点だ。研究者らは、既存のSNS上で大規模な介入を行ったわけではなく、比較的制御された環境の中で、投稿の並べ方だけを変えた。その結果、並べ方の違いだけでも信念形成に差が出ることが示された。


「橋渡し」するアルゴリズムとは何か

今回の研究で注目されているのが、ブリッジング型アルゴリズムである。

これは、片方の陣営だけに強く刺さる投稿ではなく、政治的立場の異なる人々の双方から一定の支持を得る投稿を優先する考え方だ。たとえば、リベラルだけが熱狂的に支持する投稿や、保守だけが強く反応する投稿ではなく、両者が「少なくとも読む価値はある」と感じるような投稿を上に出す。

この仕組みは、単に「中立っぽい投稿」を並べることとは違う。社会的な対立があるテーマでは、完全に中立な意見などほとんど存在しない。重要なのは、異なる立場の人々が同じ情報を出発点として議論できるかどうかだ。

ブリッジング型は、賛否の対立を消すものではない。むしろ、対立があることを前提にしながら、互いに相手の存在を認識できる情報を優先する。SNSが現在得意としているのは「仲間内での共感の増幅」だが、ブリッジング型が目指すのは「違う立場同士でも共有できる土台」の形成である。

研究では、このブリッジング型が、場合によってリベラルと保守の参加者の合意を高める可能性を示した。これは、SNSが必ず分断を深めるという悲観論に対する重要な反例になる。


もう一つの鍵は「集団知」

もう一つの代替案が、インテリジェンス型ランキングである。これは、参加者全体の判断の正確性を高めると期待される投稿を優先する方式だ。

ここでいう正確性とは、単に「多数派の意見に合わせる」ことではない。社会的予測や事実判断のように、ある程度、正誤や妥当性を検証できるテーマについて、集団の判断がより現実に近づくかどうかが問題になる。

SNSではしばしば、最も大きな声、最も感情的な声、最も拡散されやすい声が目立つ。しかし集団としてより良い判断をするには、必ずしも最も目立つ意見が必要とは限らない。ときには、冷静で地味だが重要な情報、極端ではないが検証可能な主張、反射的な怒りを誘わない説明が必要になる。

インテリジェンス型ランキングは、まさにそのような情報を前に出す発想だ。研究では、この方式がランダム表示やエンゲージメント重視の表示と比べて、事実判断の正確性を高める傾向を示した。

これはSNSの設計思想を大きく変える可能性がある。これまでの問いは「ユーザーがもっと反応する投稿は何か」だった。だが、別の問いもあり得る。「ユーザー集団がより正確に世界を理解するには、どの投稿を見せるべきか」である。


SNSの反応――期待、警戒、そして冷めた現実感

この研究は、公開直後のニュースとしては、記事そのものに対する大規模なSNS反応がまだ広く可視化されている段階ではない。Phys.org上でも目立ったコメント数は確認しづらく、一般ユーザーの反応は今後広がる可能性がある。一方で、研究者自身や関連分野の研究者によるLinkedIn上の投稿では、この研究が持つ実用性に注目する声が出ている。

特に強調されているのは、巨大テック企業と組まなくても、代替的なSNSアルゴリズムを実験できるという点だ。プラットフォーム内部の複雑な推薦システムに直接アクセスできなくても、投稿への反応データと基本的な属性情報を使えば、合意や正確性を重視するランキングを検証できる。これは、研究者や政策立案者にとって大きな意味を持つ。

また、「AIを使わなくても実装できる」という点にも関心が集まりやすい。近年、SNS改善の議論はAIによる有害投稿検出やファクトチェックに集中しがちだ。しかし今回の研究が示したのは、必ずしも高度な生成AIや複雑な分類モデルがなくても、投稿の並べ方を変えるだけで、社会的な影響を変えられるかもしれないということだ。

一方、SNS一般の議論を見渡すと、反応は楽観一色ではない。

まず出てくるのは、「誰が正確性を決めるのか」という疑問だ。インテリジェンス型ランキングは魅力的だが、何を正しいとみなすのか、どのテーマなら客観的な正解を設定できるのかは難しい。政治的、倫理的、文化的な価値判断が絡む話題では、正確性という言葉そのものが争点になり得る。

次に、「ブリッジング」が無難な意見ばかりを優先するのではないかという懸念もある。対立する陣営の双方から支持される投稿を選ぶ場合、極端な誤情報は抑えられるかもしれないが、同時に少数派の重要な告発や、既存の多数派に不都合な問題提起が埋もれる可能性もある。社会を変えてきた意見の多くは、最初から両陣営に受け入れられていたわけではない。

さらに、ユーザー側の感覚としては、「また誰かにタイムラインを操作されるのか」という反発も予想される。エンゲージメント重視のアルゴリズムに不満を持つ人は多いが、だからといって別の価値観で設計されたフィードを無条件に受け入れるとは限らない。SNSユーザーの間には、アルゴリズムそのものへの疲労感がある。おすすめ表示をやめて時系列表示に戻してほしい、もっと自分で選ばせてほしい、という声は根強い。

この研究が面白いのは、こうした疑問を封じるのではなく、むしろ議論の土台を提供している点だ。エンゲージメント最適化が唯一の選択肢ではないと示したことで、「では何を最適化すべきか」という問いを社会に投げかけている。


ビジネスにとって良いSNSか、民主主義にとって良いSNSか

今回の研究が突きつけている最大の論点は、SNSが何のために設計されるべきかという問題である。

企業にとって最もわかりやすい成功指標は、ユーザーの滞在時間や反応数だ。多くの人が長く使い、頻繁に反応し、広告に触れるほど、事業としては成功しやすい。しかし社会にとって望ましいSNSの指標は、それだけではないはずだ。

人々が互いを理解できるか。
誤った認識が広がりにくいか。
異なる立場の人が同じ現実について話せるか。
怒りや侮辱ではなく、検証可能な情報が届くか。
少数派の声を消さずに、極端な扇動も抑えられるか。

これらは、広告収益の指標には直接表れにくい。しかし、公共的な議論の場としてSNSが機能するには欠かせない条件である。

研究者らは、プラットフォーム自身がこうした代替アルゴリズムを積極的に採用するとは限らないとも指摘している。なぜなら、エンゲージメントを犠牲にする可能性があるからだ。ユーザーが怒って長く滞在するフィードより、冷静に理解を深めて早めに離脱するフィードの方が、社会には良くてもビジネスには不利かもしれない。

ここで政策や規制の議論が出てくる。SNSが公共空間として大きな役割を持つなら、その設計を完全に企業の収益目標だけに委ねてよいのか。透明性を求めるのか。第三者による監査を導入するのか。ユーザーに複数のアルゴリズムを選ばせるのか。あるいは、特定の社会的リスクが高いテーマでは、エンゲージメント最適化を制限するのか。

今回の研究は、そうした議論に実験的な根拠を与える。


ただし、万能薬ではない

もちろん、この研究をもって「アルゴリズムを変えれば分断は解決する」と言い切るのは早い。

実験環境は、現実のSNSよりもはるかに単純化されている。参加者が見るフィードは短く、テーマも限定されている。実際のSNSでは、友人関係、インフルエンサー、広告、ボット、ニュースメディア、動画のレコメンド、コメント欄、引用投稿、外部リンクなどが複雑に絡み合う。現実の政治的態度は、数本の投稿だけで形成されるものではない。

また、分極化にはアルゴリズム以外の要因もある。経済的不安、地域差、教育、メディア環境、政党政治、文化的アイデンティティなど、社会の構造そのものが深く関わっている。SNSはそれらを増幅する装置ではあっても、唯一の原因ではない。

それでも、今回の研究が重要なのは、「少なくともフィード設計は変えられる」という点を示したことだ。社会の分断をすぐに解決する魔法ではないが、放置してよい技術的設計でもない。


私たちはどんなタイムラインを望むのか

SNSの未来を考えるとき、よく「表現の自由か、規制か」という二択で語られる。しかし今回の研究が示しているのは、その手前にある設計の問題だ。

同じ投稿が存在していても、どの順番で、誰に、どの文脈で表示されるかによって、社会的な影響は変わる。投稿を消すか残すかだけではなく、何を目立たせるかが重要なのだ。

これまでのSNSは、反応を最大化することで成長してきた。その結果、私たちは「見たいもの」を見せられているようでいて、「反応してしまうもの」を見せられてきたのかもしれない。

しかし、別のSNSもあり得る。怒りを増幅するのではなく、理解をつなぐフィード。自分の陣営の正しさだけを強めるのではなく、異なる立場の人と共有できる現実を見つけるフィード。バズる投稿ではなく、判断を少しだけ良くする投稿を前に出すフィード。

そのようなSNSが、多くのユーザーにとって本当に魅力的かどうかはまだわからない。だが、少なくとも今回の研究は、現在のエンゲージメント至上主義が唯一の道ではないことを示した。

「いいね」が多い情報ではなく、「理解」を深める情報を届ける。
もしSNSがその方向へ進めるなら、タイムラインは単なる暇つぶしの場ではなく、社会が互いに現実を確認し直すための場所になり得る。

問題は、技術的に可能かどうかだけではない。私たちが、そしてプラットフォームが、どの価値を優先するのかである。



出典URL

Phys.org記事:研究の概要、実験設計、エンゲージメント型・ブリッジング型・インテリジェンス型アルゴリズムの説明、研究者コメントを参照。
https://phys.org/news/2026-05-alternative-algorithms-users-accurate-polarized.html

コペンハーゲン大学ニュースリリース:研究機関による発表。研究目的、主要結果、500人+1000人の二段階実験、各ランキング条件の説明を参照。
https://news.ku.dk/all_news/2026/05/alternative-social-media-algorithms-can-help-users-form-more-accurate-and-less-polarized-beliefs/

EurekAlert!ニュースリリース:AAAS運営の研究ニュース配信。DOI、研究手法、対象、発表日、実験概要を参照。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1128531

ACM Digital Library論文ページ:研究論文「Simple changes to content curation algorithms affect the beliefs people form in a collaborative filtering experiment」のDOIおよび掲載情報を参照。
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3772318.3790602

LinkedIn上の研究者投稿:著者・共著者による研究紹介。巨大プラットフォームとの連携なしに代替アルゴリズムを実験できる点、AI不要である点、合意と正確性を評価対象にした点への言及を参照。
https://www.linkedin.com/posts/stefanmherzog_ever-worried-how-social-media-affects-our-activity-7437795175004909568-gbyK