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希望か、“神への挑戦”か ─ ヒトの卵子を皮膚から作る:不妊治療と「ポスト家族」時代の衝撃

希望か、“神への挑戦”か ─ ヒトの卵子を皮膚から作る:不妊治療と「ポスト家族」時代の衝撃

2025年12月03日 12:16

1. 「皮膚から卵子」のニュースが世界をざわつかせた

「人間の皮膚から卵子が作られ、胚になった」。
そんな見出しが世界を駆けめぐり、SNSのタイムラインは驚きと不安と興奮で埋め尽くされました。


米オレゴン健康科学大学(OHSU)などの国際共同研究チームは、ヒトの皮膚細胞から機能的な卵子を作り、その一部を受精させて初期胚まで育てたと報告しました。この研究は2025年9月30日付の科学誌 Nature Communications に掲載され、「不妊治療の未来を変えるかもしれない」と注目されています。Nature


子ども向け科学メディア Science News Explores もこの成果をわかりやすく紹介しており、「卵子や精子を持たない人でも、自分の細胞から生殖細胞を作れる時代へ一歩近づいた」とまとめています。Science News Explores


2. 研究チームが実際にやったこと

では、研究者たちはどのようにして「皮膚から卵子」を作ったのでしょうか。

  1. 提供されたヒト卵子を用意
    まずドナーから提供された卵子を用意し、その核(DNAが入っている部分)を取り除きます。Science News Explores

  2. 皮膚細胞の核を移植
    次に、別の人の皮膚細胞の核を、その空っぽの卵子に移します。これにより、その人のDNAを持った“再構成卵”ができあがります。皮膚細胞の核には46本の染色体があり、通常の体細胞と同じです。Science News Explores

  3. 新しい細胞分裂「ミトメイオーシス」
    問題は、卵子は本来「23本の染色体だけ」を持っていなければならないこと。そこで研究チームは、再構成した卵子に特殊な刺激と制御を加え、「染色体を半分に減らす」新しいプロセスを誘導しました。これが、**ミトシス(体細胞分裂)とメイオーシス(減数分裂)**を組み合わせたような新しい分裂様式「ミトメイオーシス」です。Nature

  4. 82個の卵子を作成、うち一部が初期胚に
    この手法で82個の卵子様細胞が作られ、そのうち一部が受精後、6日目の胚(胚盤胞)まで育ちました。ただし割合は約9%にとどまり、さらにほとんどの胚で染色体の数や組み合わせに異常が見つかっています。SMC España


研究者たちは、あくまで「まだ概念実証段階」であり、臨床応用には程遠いことを強調しています。


3. まだ「赤ちゃん」を作る技術ではない

ニュースだけを見ると「皮膚から赤ちゃんが作れるようになった」と誤解したくなりますが、現時点では妊娠や出産に使えるレベルではありません。


  • 多くの卵子や胚で、

    • 染色体が多すぎる

    • 逆に欠けている

    • 間違った組み合わせになっている
      などの異常がありました。Science News Explores

  • どの胚も実験は6日目で止められ、それ以上成長させることは法的・倫理的に許されていません。

  • アメリカでは、DNAを操作した胚を妊娠につなげるような臨床試験は法律で禁止されており、少なくとも今後10年は「人間の赤ちゃん」が生まれる段階には進まないだろうと研究者自身が見積もっています。Science News Explores


大阪大学の生殖生物学者・林克彦氏は、この研究には直接関わっていませんが、「まだ効率も安全性も低く、今すぐ人に使えるものではない」としつつ、「それでも大きなブレイクスルーであり、ここからさらに新しい技術が生まれるだろう」と評価しています。Science News Explores


4. どんな人たちに希望を与える可能性があるのか

それでも、この研究が世界中の関心を集めたのは、“誰の”希望になり得るかが非常に広いからです。

  • 卵子の数が減ったり、なくなった人

    • 加齢や早発閉経で卵子がほとんど残っていない人

    • がん治療(化学療法や放射線治療)で卵巣機能を失った人OHSU News

  • これまで自分の卵子を持てないとされてきたケース

    • 将来、男性同士のカップルが、片方の皮膚細胞から卵子を、もう片方の精子から受精卵を作る

    • 染色体の異常などで卵子を作れない人が、別の体細胞から卵子を得る


Science News Explores は、こうした「卵子や精子を持たない人でも、自分のDNAを持つ子どもを持つ可能性が見えてくる」として、ティーン世代にもこの技術の意味を考えてほしいと呼びかけています。Science News Explores


一方で、この技術はドナー卵子を必ず必要とするため、「卵子そのものをゼロから作る」他のアプローチ(iPS細胞からの完全な卵子作製など)とは性質が異なり、どちらが主流になるかはまだ見えていません。Science News Explores


5. SNSで割れた「祝福」と「恐怖」

今回のニュースに対する社会のリアクションは、論文以上にカオスでした。X(旧Twitter)、Instagram、Facebookなどでは、ざっくり次のような声が目立ちます。Facebook


(1) 大きな拍手:不妊治療の「ゲームチェンジャー」?

  • 「卵子の心配をしなくていい日が来るかもしれない。全ての不妊カップルに希望を!」

  • 「がん治療で卵巣を失った人にとって、これは本当に泣けるニュース」

といったポストが多く、特に不妊治療当事者やその周囲からは「ついにここまで来たか」という感慨と期待がにじむコメントが多く見られました。フェムテック系メディアやスタートアップのアカウントも、このニュースを「IVFを根本から変え得る」と紹介しています。FemTech World


(2) 「女性の体からの解放」か、それとも…

Facebookなどでは「女性の身体から生殖の負担が外れる“クールな日”だ」という声もあり、卵子を皮膚から作れることを「女性のライフコースの自由度を上げる技術」として歓迎するポストも目立ちました。Facebook


一方で、「もし男性だけで子どもを作れるようになったら、女性は社会的にどう扱われるのか?」というフェミニズム的な懸念も上がっています。


(3) 宗教・倫理界隈からの強い警戒

キリスト教系のポッドキャストやニュースレターでは、この話題が「ブレイブ・ニュー・ワールド(すばらしい新世界)」の象徴として、かなり強い危機感とともに語られました。AlbertMohler.com


  • 「結婚とセックスから切り離された生殖は、道徳的な崖のふちをさらに削る」

  • 「神が定めた生殖の秩序から人間が離れていく」

といった論調で、「AIによる自動IVF」など他の技術とセットで“終末感”を語る投稿もあります。


(4) 「有名人の皮膚から子どもが作られる?」というディストピア

また、記事や専門家コメントの中で繰り返し指摘されているのが、同意なく採取された皮膚細胞から卵子が作られてしまうかもしれないという懸念です。Science News Explores


「カフェのコップについた細胞から、有名俳優の子どもを勝手に作るようなことが“理論上は”できてしまうのでは?」
という想像は、多くのSNSユーザーの恐怖と好奇心を同時に刺激しました。


もちろん現実には、

  • 今の技術レベルでは成功率が極端に低い

  • 倫理審査や法規制が立ちはだかる
    ため、すぐにそんなディストピアが現れるわけではありません。それでも、「生殖における同意」「遺伝情報の所有権」というテーマは、この技術をきっかけに改めて議論の俎上に載せられています。Live Science


(5) いつものインターネット:ミームとジョーク

そして当然ながら、インターネットらしく、

  • 「これで“推しの子”を物理的に作れるじゃん」

  • 「肌荒れしたら将来の卵子も荒れるの?」
    といったネタ系ミームも量産されました。これは特定のソースに依らない一般的なネット文化の反応ですが、人類の生殖という重いテーマさえ笑いに変えてしまうのが現代のSNSらしさとも言えます。


6. 日本にとっての意味:マウス研究から人へ

日本では、すでに大阪大学の林克彦氏らが「オス同士のマウスから子どもを作る」研究で世界的な注目を集めてきました。成体オスの細胞から卵子と精子を作り、それを組み合わせて健康なマウスを生ませることに成功しており、「二人の父を持つマウス」が実際に次世代を残したという報告もあります。Science News Explores


今回のOHSUによるヒトでの成果は、そうしたマウスでの成果が「いよいよ人間に近づいてきた」ことを意味します。一方で、

  • 予測不能な染色体異常

  • 長期的な健康影響の不明さ

  • 倫理・宗教・文化の違い
    といった課題は、マウスよりはるかに複雑です。


日本でも、

  • どこまでの実験を国内で許容するのか

  • 海外で開発された技術を日本人が利用することをどう考えるか

  • 「遺伝的なつながり」をどの程度重視する社会でありたいか
    といった議論は避けて通れません。


7. 「10年後」を生きる私たちにできること

Paula Amato 医師ら研究者は、「少なくとも臨床試験までは10年スパンの話になるだろう」と慎重に見通しを語っています。Science News Explores


10年後、いまこの記事を読んでいる中高生や大学生が

  • 研究者としてこの技術を改良しているかもしれない

  • 当事者として、新しい治療の選択肢を前に悩んでいるかもしれない

  • 政策担当者・ジャーナリストとしてルール作りや情報発信を担っているかもしれない


「皮膚から卵子」という一見SFのようなニュースは、私たちに次のような問いを投げかけています。

  • 子どもを「持つ/持たない」、あるいは「どう持つか」という選択を、科学はどこまで支えるべきなのか。

  • 遺伝的なつながりは、親子や家族の価値にどれほど重要なのか。

  • 技術が可能にしたことのすべてを、本当に実行すべきなのか。


答えはまだ出ていません。ただ一つ確かなのは、このような技術が「誰にも知られないうちに」こっそり進む時代ではなくなったということ。論文と同じタイミングでSNSが盛り上がり、世界中の市民がリアルタイムで賛否をぶつけ合う――その中で、私たち自身も“当事者”として考え、議論に参加していく必要がありそうです。



参考記事

科学者たちは、皮膚細胞からヒトの卵子を作成しました。
出典: https://www.snexplores.org/article/human-eggs-from-skin-cells

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