森の土が“メタン掃除機”に?24年データが示す意外な気候フィードバック

森の土が“メタン掃除機”に?24年データが示す意外な気候フィードバック

温室効果ガスの話題というと二酸化炭素が主役になりがちだが、実は“少量でも効く”厄介者がいる。メタンだ。大気中濃度はCO₂ほど多くないのに、短い時間スケールでは温暖化への影響が大きい。だからこそ「どこから出て、どこで消えるのか」は気候の将来像を左右する。


その“消える側”として注目されてきたのが森林土壌だ。森の土には、メタンをエサのように取り込んで分解する微生物がいて、空気中のメタンをじわじわ減らしている。ところが近年、気候変化がこの働きを弱めるのか強めるのかは、研究によって結論が割れていた。「乾燥すると微生物が弱るのでは」「いや、乾燥するとガスが土に入りやすい」――理屈は両方立つ。決着には、短期実験ではなく“同じ場所を長く見続けたデータ”が必要だった。


そこで今回話題になったのが、ドイツ南西部の森林で続けられてきた長期観測である。研究チームはブナ林やトウヒ林など13の森林プロットで、最大24年にわたり定期的に土の中の空気(土壌ガス)を採取し、メタン濃度の変化から「土がどれだけメタンを吸い込んだか」を見積もった。さらに一部地点では、土の表面に密閉チャンバーを置いて時間あたりの濃度変化を測る独立手法でも検証し、計算が現実に合っているかを確かめたという。地味だが、こういう“冗長な確認”が長期データの信頼性を底上げする。


結論はシンプルで、しかし意外性がある。観測対象の森林土壌では、メタン吸収が長期的に増えており、平均すると年3%ずつ増加していた。気候の変化が常に自然の働きを弱めるとは限らない、というメッセージがここにある。


なぜ増えたのか。鍵は「乾き」と「温度」だ。雨が減ると土の水分が下がる。湿った土は水が細かな隙間を埋め、ガスが移動できる“空気の通り道”が細る。一方、乾いた土は空気が入る孔隙が増え、メタンが土の奥へ拡散しやすくなる。つまり、微生物が待ち構える領域までメタンが届きやすい。加えて気温が上がると、微生物の活動が高まり、メタン酸化(分解)の速度が上がりやすい。乾燥と温暖化が同時に進むと、少なくともこの地域の条件では「メタンを吸う側」が強まった、という整理になる。


ただし、ここで安心してはいけない。今回の結果は「ある気候条件では吸収が増える」ことを示したのであって、「地球全体でそうなる」と言っているわけではない。実際、他地域の研究では、降水が増えると土が湿り、メタン吸収が大きく落ちうることが示されてきた。研究チーム自身も、既存の国際的なメタ解析(多くの研究を束ねた結論)とは逆方向の結果になった点を強調し、地域差と長期観測の重要性を訴えている。


ここで気になるのは「なぜ研究間で食い違うのか」だ。大きく3つの理由が考えられる。


1つ目は、気候条件の違い。乾燥が進む地域と、降水が増える地域では、土壌のガス拡散条件が真逆になる。今回のように雨が減る地域では吸収増が起きやすい一方、雨が増える地域では吸収減が起きやすい。気候変化は一方向ではなく、地域ごとに“違う形”で現れる。


2つ目は、土壌そのものの違い。粒径、有機物量、密度、根の張り方、地形、林床の状態などが、空気と水のバランスを変える。メタンが通る道ができやすい土もあれば、すぐに水で塞がる土もある。森林の樹種(ブナか針葉樹か)も、落ち葉の性質や土壌の酸性度、微生物群集に影響する。


3つ目は、観測の“長さ”だ。短期観測は天候の当たり外れに左右される。たまたま湿った年が続けば「吸収が落ちた」と見えるし、乾いた年が続けば「吸収が上がった」と見える。長期データはそのノイズをならし、傾向としての変化を見せてくれる。今回の研究が評価されるのは、まさにこの点にある。


では、この発見は気候対策にどう効くのか。まず言えるのは、森林土壌が“追加の追い風”になる可能性があるということだ。人為起源のメタン排出を減らす努力が前提だが、自然界側が吸収を増やしてくれれば、同じ削減でも大気中濃度の下がり方は変わりうる。


しかし、もう一段踏み込むなら、ここには落とし穴もある。乾燥が進むと、森林では別のリスク――例えば干ばつストレス、害虫被害、火災リスク、土壌炭素の損失――が増える可能性がある。メタンだけが良くても、トータルの炭素収支や生態系健全性が悪化すれば本末転倒だ。さらに、乾燥が極端になりすぎると微生物が活動できず、吸収が頭打ちになる可能性もある。つまり「ほどよく乾くと吸うが、乾きすぎると止まる」という非線形が潜んでいても不思議ではない。


もう一つの重要点は、「森林=土」だけではないことだ。近年は、樹木の幹や枝の表面でもメタンが取り込まれ得る、といった研究も出てきた。森林のメタン収支は、湿地の発生源、土壌の吸収源、樹体表面の吸収(あるいは放出)などが絡み合う。今回の研究は“土壌”に焦点を当てているが、森林全体のメタン収支を語るには、今後さらに統合が必要になる。


SNSではどんな反応?(※記事内容から見える「反応の傾向」を整理)

なお、参照元の記事ページでは閲覧時点でコメント欄は0件だった。一方で、同種の話題はSNSで拡散すると、だいたい次のような反応パターンに分かれやすい。


1)希望を見いだす層

  • 「自然が自力で温暖化を止めてくれるなら希望がある」

  • 「森の価値って、木材やCO₂だけじゃないんだな」


2)警戒する層

  • 「“良いニュース”に見えるけど地域限定でしょ。誤解が広がりそう」

  • 「乾燥が進む=山火事も増える。メタン吸収だけ見て喜べない」


3)メタンそのものへの再注目

  • 「CO₂ばかり議論されるけど、メタン対策もっと急ぐべき」

  • 「牛や化石燃料だけじゃなく、自然側の吸収もちゃんと把握しないと」


4)研究の方法に反応する層(理系SNSあるある)

  • 「24年の観測は強い。短期実験より説得力ある」

  • 「土壌ガスプロファイル+チャンバー検証、手堅い」


こうした反応が示すのは、朗報であるほど「どの条件で成り立つのか」を丁寧に伝える必要がある、ということだ。森林土壌のメタン吸収が増える可能性は確かに面白い。だがそれは、気候変化の影響が地域で異なり、しかも時間をかけて見ないと見誤る、という現実とセットで理解されるべき成果だろう。


結局のところ、この研究が突きつける核心は「長期の監視がなければ、気候変化の“本当の作用”は見えない」という一点にある。森林を守る議論は、感情論にも陰謀論にも振れやすい。だからこそ、地道な観測の積み上げが、最も強い反証であり、最も信頼できる羅針盤になる。



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