中国がドイツにゲルマニウム供給停止 - ドイツに迫る“Geショック”：中国の締め付けで浮き彫りになったドイツ産業の急所

ドイツ経済の強みは「精密・光学・通信」の裾野に支えられている。だが、その基盤に“ゲルマニウム（Ge）”という小さな要素材が刺さった。中国の輸出統制強化と対米禁輸の余波、そして密輸・迂回の取り締まり強化で世界の供給はタイト化し、欧州でも中核サプライヤーのひとつであるドイツが直撃を受けている。価格は2025年9月に1kgあたり約5,000ドルへ高騰し、入手難は「防衛光学・光ファイバー・半導体検査」などの現場で顕在化した。フィナンシャル・タイムズ

1. 何が起きているのか：じわじわ、しかし確実に締まるバルブ

中国は2023年にゲルマニウムとガリウムの輸出を包括的な許可制に移行した。2024年末には対米輸出を事実上停止、2025年に入っても強い統制が継続する中、当局は“抜け道”の取り締まりを強化。2025年6月の対外輸出は1月比でゲルマニウムが95％減と報じられた。許可審査の不透明さと罰則強化が重なり、世界の現物供給は枯渇感を強めている。Reuters

WirtschaftsWocheは「ドイツ向けのGeバルブが、遅いが確実に閉まりつつある」と問題提起した。事実、米地質調査所（USGS）の2025年要約では、2024年8月までの中国のゲルマニウム金属輸出の仕向け先としてベルギー（33％）、ドイツ（32％）、ロシア（25％）、日本（6％）が記録され、ドイツが上位受益者だったことが示される。そこへ統制強化が重なり、欧州側の調達が詰まった形だ。pubs.usgs.gov

2. どこに効くのか：ドイツの“精密”を支える小さな元素

ゲルマニウムは赤外線（IR）光学と光ファイバーで不可欠だ。IR側では熱画像カメラや監視・測距、軍用EO/IRセンサーのレンズ・ウィンドウに多用される。光通信側では**四塩化ゲルマニウム（GeCl₄）**が屈折率調整のドーパントとして使われ、幹線系の低損失ファイバー製造を支える。jenoptik.us

ドイツはフォトニクスの集積地だ。たとえばJENOPTIKなど、IR用コンポーネントや半導体検査用の高精度レンズに強みを持つ企業群は、素材の安定確保が競争力の前提となる。jenoptik.us

3. 価格の暴騰と“現物難”：市場の声

2025年9月にはゲルマニウム価格が1kg＝約5,000ドルに達したとの報道も出た。トレーダーからは「半年以上入手できない」との証言もあり、実需家は在庫を食いつぶし、見積りは“見てから対応”が増えた。フィナンシャル・タイムズ

この背景には、（1）中国の許可制・禁輸の段階的強化、（2）再輸出の取り締まり強化による迂回ルートの目詰まり、（3）ロシア制裁による副次的供給制約、（4）亜鉛・石炭の副産物としての生産特性ゆえの弾力性の低さ、が重なる。Stimson Center

4. ドイツに特有のリスク：サプライチェーンの“静脈”が細る

ドイツは輸入依存度が高い重要鉱物を複数抱える。政策文書や研究機関も、ゲルマニウムを含む要素材の対外依存を早くから指摘してきた。欧州委員会のJRC（RMIS）はゲルマニウムを欧州のクリティカル／戦略原材料に位置づける。欧州全体が危うい綱渡りをしているが、光学・防衛・機械の“重心”が国内にあるドイツでは影響が実体経済へ伝わりやすい。diw.de

5. SNSの反応：懸念、分断、そして現実的な提案

警戒と地政学: 「中国の輸出統制は独仏へのシグナルだ」とする国際政治アナリストの投稿が拡散（X）。また中国系メディアは“中国の資源優位”を強調するインフォグラフィックを発信し、依存構造を可視化した。X (formerly Twitter)

“危機”フレーミング: 一部の経済系アカウントは「ゲルマニウム危機」「価格が天井抜け」と警鐘を鳴らし、軍需・半導体・EV・光通信の広範な波及を指摘。バイラルなスレッドでは“対中依存の武器化”という文脈が目立った。X (formerly Twitter)

産業界の現場感: LinkedInでは素材・フォトニクス関係者から「資金を投じれば即解決ではない。副産物回収・精製ラインの立ち上げは年単位」という冷静な指摘が共有され、欧州の代替ソース育成とリサイクル強化を提案する投稿が支持を集めた。LinkedIn

国内紙面との呼応: ドイツ語圏ではハンデルスブラット等も不足懸念を繰り返し報じ、素材トレーダーの独自データを交えた投稿が拡散している。LinkedIn

6. 代替と緩和策：ドイツ・欧州は何を優先すべきか

(1) 都市鉱山（リサイクル）を本気に
欧州には多金属リサイクルの“重鎮”がある。大手リサイクラーはGeを含む副産物の回収・精製能力を積み上げており、設備投資のニュースも続く。国策金融・EIB資金を梃子に、ドイツ国内拠点の高度回収ラインを前倒しで拡張すべきだ。aurubis.com

(2) 供給多角化：欧・米・豪で“副産物回収”の連携
ゲルマニウムは亜鉛や石炭の副産物。鉱山サイクルや価格動向に左右されやすい。欧州系製錬大手を含め、豪州・北米での新規回収案件が検討されている。ドイツ企業は長期引取（オフテイク）や技術協力で“採算の見える化”に貢献できる。MINING.COM

(3) 光ファイバー用GeCl₄の欧州内調達
光通信のボトルネックは前駆体（GeCl₄）に出やすい。欧州の精製企業が超高純度品の供給力を拡張しており、国内回帰（リショア）・近接調達（ニアショア）を組み合わせる余地がある。eom.umicore.com

(4) 需要側の“節度”：設計代替と歩留まり改良
IR光学では材質代替（シリコン・チョコラルスキーGeの使い分け等）や設計最適化で使用量を削減できる場合がある。光ファイバーではドーパント量の最適化・工程改良でGe使用原単位を下げる余地がある。完全代替は難しいが、“1割減”が積もればマクロでも効く。

(5) 政策：備蓄＋共同購入＋許認可の迅速化
EUはゲルマニウムを戦略原材料に分類。ドイツ単独の備蓄に加え、域内共同購入・共同備蓄の枠組みを用意し、回収・精製設備の許認可を“グリーンレーン化”する。並行して、輸入監視で闇市場・再ラベルの摘発を進め、正規ルートを厚くする。RMIS - Raw Materials Information System

7. タイムラインと見通し：2025年は“調整の年”

• 2024年12月：中国が対米の対抗措置としてGe・Ga等の対米輸出を停止。欧州向けは許可制の厳格化が継続。Reuters

• 2025年上期：統制・取り締まり強化で中国のゲルマニウム輸出量が歴史的低水準。米シンクタンクは“三国経由の再輸出”に言及するが、完全な代替には至らず。Reuters

• 2025年夏〜秋：市場タイトが極まり価格は過去十数年で最高水準、欧米の防衛・光通信・赤外線機器メーカーは在庫の優先割当や仕様見直しに踏み切る。フィナンシャル・タイムズ

ベースライン・シナリオ：2026年の増産は“点”では出てくるが、Geは副産物ゆえ供給は鈍重。欧州・日本のリサイクル効率化、北米・豪州の回収投資が相次いでも、市場の完全な緩和は数年がかりだろう。逆に、地政学イベントが加われば再び“奪い合い”に振れやすい。

8. ドイツ企業への実装チェックリスト（実務向け）

1. 90日分の“運転在庫＋安全在庫”：仕掛かり工程を含めた棚卸しを見直し、価格上昇期の調達キャデンスを再設計。

2. 二重化ソーシング：金属Ge、GeCl₄、IR窓材を品目ごとに“チャネル別”に確保（中国系／欧州系／北米系）。

3. 長期オフテイク＋価格フォーミュラ：副産物回収案件と連動した“数量拘束＋スライディング価格”の契約設計。

4. 歩留まりDX：設計・研磨・成膜・エッチング各工程の歩留まり指標をKPI化し、Ge原単位を逓減。

5. 規格の代替承認リードタイム短縮：顧客認定・軍需仕様（MIL）変更の手続きを前倒しして“使える代替”を早期承認。

6. 規制トレース：EU輸入規制・デューデリ（原産地・第三国再ラベル）を監査プロセスに組込み、調達停止リスクを可視化。
   
   
   

9. 結論：小さい元素が、大きな戦略を変える

ゲルマニウムは量で語れば“微量”だ。だが、防衛の眼（IR）、情報の血管（光ファイバー）、半導体の品質（検査・レンズ）を握る。その供給が政治の力学で締まれば、ドイツ経済の“強み”が逆回転する。いま必要なのは、（1）回収・精製への投資、（2）契約設計の刷新、（3）域内連携による共同備蓄・共同購入。欧州が素材の“静脈”を太くできるかどうか——その成否が、次の10年の競争力を分ける。

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