「結婚式がしんどい人」へ — 盛大じゃなくていい。心がほどける「自分仕様の結婚式」設計図

「結婚式がしんどい人」へ — 盛大じゃなくていい。心がほどける「自分仕様の結婚式」設計図

「祝いたい」のに、身体が先に悲鳴を上げる

結婚式は幸福の象徴だ。けれど一部の人にとって、それは“嬉しいはずの地獄”になりうる。大音量のBGM、乾杯の拍手、フラッシュ、密集、知らない人との会話、予定変更の連発——刺激と社会的タスクが同時多発する。ASD(自閉スペクトラム)やADHD、感覚過敏、不安障害などを抱える人が「楽しめない」のは、気合い不足ではなく、神経系の負荷が限界を超えるからだ。


実際、海外の当事者コミュニティでは「他人の結婚式で過刺激になった」「トイレや屋外に避難してやり過ごした」といった体験談が繰り返し共有されている。ポイントは、式そのものが“悪い”のではなく、従来の標準仕様が「音・光・社交に強い人」を前提に最適化されてきたことだ。


“配慮”ではなく“設計”としてのウエディング

最近広がっているのが、感覚や認知の特性に合わせて式を組み立てる「sensory-friendly(感覚に配慮した)」「neurodivergent-friendly(ニューロダイバージェントにやさしい)」という発想だ。これは誰か一人を特別扱いするというより、会場体験を最初から“多様な神経”に開く設計思想に近い。


専門家コメントでは、感覚に配慮した結婚式を「特に自閉症のゲストが、騒音・光・混雑で圧倒されずに楽しめる環境づくり」と説明している。要は「祝う内容はそのままに、刺激の密度を下げる」こと。派手さを減らすのではなく、“回復できる余白”を組み込む。


具体策は、案外シンプルだ

SNSで共有される工夫は、豪華なオプションよりも、地味で実装可能なものが多い。


1)退避できる「静かな場所」を用意する
会場内外に、音と光が少ないスペースを確保する。ソファやクッションがあるだけでも違う。「逃げてもいい場所がある」と事前に分かっているだけで、当日の不安が下がる。


2)耳栓・ノイズ対策を“最初から”置く
耳栓、イヤーマフ、刺激の少ない席(スピーカーから遠い等)を準備する。式の途中で探し回らなくていいように、入口付近に設置するのがコツ。


3)式を短く、区切る
挙式は15分程度にして、その後に屋外で休憩する、食事は形式張らずに“慣れた食”を選ぶ——こうした「短い+回復」の設計は当事者の実例として語られている。


4)社交の圧を下げる“仕掛け”を入れる
立食パーティーは雑談の連続になりやすい。代わりにゲームや、目的が明確なアクティビティ(カード、ボードゲーム、席で完結するミニ企画)を置くと、会話が“やること”に乗ってラクになるという声がある。


5)写真・演出の刺激をコントロールする
フラッシュなし、ストロボ演出なし、強い香りの禁止(香水・スプレー)など。特に「光」と「匂い」は逃げにくい刺激なので、ルール化の効果が大きい。


面白いのは、これらが「当事者のため」だけに効くわけではない点だ。結婚式が苦手な人はニューロダイバージェントに限らない。片頭痛、慢性疲労、育児中、介護中、内向的、HSP——静かな場所や刺激の予告は、多くの人の“安心”を底上げする。

さらに難所は「計画」そのもの——結婚式準備がつらい理由

結婚式のしんどさは当日だけではない。準備段階がすでに“認知負荷の塊”だ。メールの返信、見積もり比較、締切管理、同時進行、意思決定の連続。ADHD当事者のコミュニティでは「業者に返信するだけで圧倒される」「空想と実務は別物だった」といった嘆きが並ぶ。


この流れでよく出てくる助言は、ロマンチックとは別方向に現実的だ。

  • 役割分担を徹底して「片方に丸投げしない」

  • 予算と締切を“見える化”して、意思決定回数を減らす

  • 可能ならプランナーや当日統括を入れて、脳内タスクを外注する


要するに、「頑張って普通にやる」ではなく「普通の手順を分解し、減らし、任せる」。結婚式を“自分の脳で回せるサイズ”に落とし込むことが鍵になる。

SNSの反応:共感が多い一方、「分かってもらえない」も同時に起きる

このテーマがSNSで伸びる理由は、体験が具体的で、かつ“言語化されにくい苦しさ”を救ってくれるからだ。


共感の声:

  • 「静かな部屋があるだけで救われる」

  • 「DJの音がつらい、外に出られる導線は必須」

  • 「“途中で抜けても失礼じゃない”と事前に言ってほしい」

  • 「式は好き。でも刺激が多すぎる。設計で変えられるなら希望がある」


Redditでは、音や過密で消耗するため「屋外に出られる会場を選んだ」「自分が耐えられる曲だけでプレイリストを作る」といった“生活者の工夫”が共有されている。別スレッドでは、自閉傾向の花嫁に向けて「休憩時間を予定に組み込む」「食べる時間を確保する」「決まり文句を用意して会話の負荷を下げる」といった、当日のサバイバル術が並ぶ。


拡散の加速:TikTok/Instagramの“実例動画”
当事者が工夫を動画にすると、「私も同じ」「もっと早く知りたかった」という反応が一気に集まる。ある実例では、耳栓、短い式、慣れた場所、逃げ部屋、食の工夫などを取り入れた“カジュアルで安心な式”が語られ、動画は大きく拡散した。コメントには「一番リラックスできる結婚式だった」とゲストが感じたという話も出る。


一方で、摩擦も起きる:
バズるほど、誤解や反発も混じる。「結婚式は我慢するもの」「配慮は甘え」といった声や、当事者の診断・特性を軽視するコメントが付くこともある。だからこそ、当事者側の発信では「コメントを読みすぎない」「距離を置く」などセルフケアの話までセットで語られがちだ。配慮の話題が、同時に社会の無理解を照らしてしまうからだ。

“神経にやさしい式”は、実は「これからの標準」かもしれない

ここで重要なのは、ニューロダイバーシティ対応が「ニッチな優しさ」で終わらない可能性だ。理由は3つある。


1)ストレスが少ない式は、結果的に満足度が高い
刺激が減れば、主役もゲストも“記憶”を持ち帰れる。写真映えより、体験の質が上がる。


2)説明責任が、主役ではなく“仕組み”に移る
「私は苦手です」と言い続けなくていい。退避室や耳栓が“用意されていて当然”になれば、個人の告白に依存しない。


3)多様性は、障害領域だけの話ではない
音が苦手、光が苦手、人混みが苦手、匂いが苦手——程度の差はあれ多くの人に当てはまる。だから設計のアップデートは、広い層に効く。


実際、聴覚の世界に合わせず「光・振動・触覚」を中心に結婚式を組み立てた聴覚障害のカップルの事例も報じられている。これはニューロダイバーシティとは別文脈だが、「当たり前の形式を翻訳しないで、自分たちの感覚を基準に祝う」という点で地続きだ。つまり、式は“既製品”ではなく、身体と言語に合わせて再設計できる体験なのだ。


日本で実装するなら:今日からできる3ステップ

最後に、日本でこの流れを取り入れるなら、難しく考えなくていい。大切なのは「完璧な配慮リスト」ではなく、当日の刺激と不安を“減らす順番”を決めること。


ステップ1:刺激を書き出す(音・光・匂い・社交・段取り)
つらい要素を特定するだけで、対策の9割は決まる。


ステップ2:逃げ道を確保する(場所・時間・合図)
静かな部屋、外に出られる導線、途中退席OKのアナウンス。これが最優先。


ステップ3:人に渡す(役割・連絡・当日進行)
当日統括役を立てる、連絡窓口を一本化する、決める回数を減らす。脳の負荷を下げるほど、楽しめる確率が上がる。


「結婚式はこうあるべき」を一度脇に置く。代わりに「この日を、どういう神経状態で過ごしたいか」を中心に据える。
その発想の転換こそが、ニューロダイバーシティ時代のウエディングの出発点だ。



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