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新型コロナ「全変異株に効く可能性」?変異を超えるカギは“人”にあった — 理研らがTMPRSS2抗体で挑む次の一手

新型コロナ「全変異株に効く可能性」?変異を超えるカギは“人”にあった — 理研らがTMPRSS2抗体で挑む次の一手

2025年09月13日 00:47

導入——“変異に揺さぶられない”という発想

ワクチンと抗体医薬は、新型コロナ対策の主役であり続けてきた。しかし、標的をウイルス側に置く以上、変異の波に性能が揺らぐ宿命から逃れがたい。2025年9月11日、理化学研究所(理研)と東京大学医科学研究所(東大医科研)、滋賀医科大学のチームが示したのは、その発想を宿主側へ反転させる戦略——ヒトの酵素TMPRSS2を狙う抗体だ。翌12日にはPC Watch「やじうまPC Watch」がこの成果を一般向けに紹介し、SNSでは瞬く間に議論が広がった。


何が新しいのか——“酵素活性は止めない”抗体

SARS‑CoV‑2は、スパイクが受容体ACE2に結合した後、TMPRSS2によりスパイクが切断され、ウイルス膜と細胞膜の融合が起きて侵入する。従来の小分子阻害剤(例:ナファモスタット)はTMPRSS2の酵素活性を直接止めるが、今回のTMPRSS2抗体は活性部位を遮らない。代わりに、スパイク—ACE2—TMPRSS2の三者が組む“接着面”を抗体の“体”で物理的に遮り、融合までの最終段階を立体障害で妨げる。酵素としてのTMPRSS2本来機能(生理学的役割は未解明な点が多い)を温存しつつ、ウイルス利用だけを断つ選択性は、宿主標的薬の副作用懸念に対する一つの回答になり得る。


データのハイライト——細胞から霊長類まで、そして“両利き”

研究チームは多数のクローンから4種類の抗体(752/1864/2020/2228)を選抜。ヒト上皮細胞株Calu‑3やヒト肺オルガノイドでは、武漢株・デルタ株・オミクロン株の全ての検討株で感染量を大幅に低下させた。動物では、ヒトACE2/ヒトTMPRSS2ノックインマウスへの予防投与で肺内ウイルス量が約1/10に、カニクイザルへの治療投与でもウイルスレベルが約1/20に低下し、体温上昇や炎症スコアも抑制された。つまり本抗体は、感染前の予防と感染後の治療という“両利き”のポテンシャルを同時に示した格好だ。論文はiScienceオンライン版に掲載済みで、受理・改訂の経緯から審査を経た再現可能性の基礎が整いつつある。


SNSの反応——熱狂と慎重論の“臨界”

リリース直後、SNSには「マジならノーベル賞もの」といった高揚感や、「コロナをやっつける抗体!」といった素朴な歓迎が並んだ。一方で、「実証は細胞・オルガノイド・動物まで。ヒトでの安全性・有効性は未検証」「臨床に行くまでの壁は高い」とする冷静な声も目立つ。国内のネットコミュニティでは、この温度差そのものが健全な科学的態度だとして、メディアの見出しづけや“期待先行”の危うさに注意喚起する投稿も寄せられた。総じて、大きな期待と慎重な検証要求が拮抗する“臨界”の空気が広がっている。


課題とリスク——3つの問い

  1. 臨床での再現性:前臨床での効果が、ヒトの多様な背景(年齢、合併症、既感染・ワクチン履歴)下でも再現するか。投与量・投与経路(静注、吸入、局所投与など)や作用持続時間の最適化も不可欠。

  2. 代替侵入経路:ウイルスはエンドソーム経路やMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)などTMPRSS2非依存のルートを使い分け得る。病態や組織差で侵入様式が変わる可能性があり、単独での完全阻止は過大評価となり得る。

  3. 安全性と費用対効果:宿主分子を標的とする以上、長期投与時の影響は予断を許さない。抗体医薬は一般に高コストで、広域の予防的使用には製造スケールと財政負担の壁がある。


それでも“宿主標的”が持つ希望

ウイルスは変わるが宿主は変わりにくい。この非対称性を利用する宿主標的戦略は、変異株の波に追われ続けるいたちごっこから抜け出す鍵になり得る。今回のTMPRSS2抗体は、活性を止めずに相互作用だけを断つという“軽やかな介入”を提示した点で新機軸だ。さらに、予防と治療の両面を一つの分子で追求できる余地は、アウトブレイク対策ツールの柔軟性を高める。


実装に向けたロードマップ

  • フェーズ1(安全性):用量漸増試験で有害事象、免疫原性、薬物動態を確認。

  • フェーズ2(探索的有効性):曝露高リスク群(医療従事者、高齢者施設など)や早期感染者で感染率/ウイルス量/症状持続時間を主要評価項目に。

  • 製剤・投与設計:長半減期化や吸入/ネブライザー等の局所投与で用量削減と利便性向上を検討。

  • 併用戦略:エンドソーム経路阻害や抗MMP薬とのカクテル療法で侵入ルートの多重封鎖を狙う。


よくある誤解と注意

  • 「もう感染しない薬ができた」→ まだ前臨床。ヒトでの安全性・有効性はこれから。

  • 「TMPRSS2を止めれば万事解決」→ ウイルスは複数の侵入経路を持つ。状況により使い分ける可能性。

  • 「副作用は出ないはず」→ 宿主標的は理論的に副作用リスクも伴う。長期影響を見極める必要がある。


まとめ——“期待の科学”を“検証の科学”へ

TMPRSS2抗体は、ウイルス標的偏重からのパラダイム転換を体現するアイデアだ。変わらない宿主を狙うことで、変異株という“敵の進化”に追い立てられにくい治療の設計空間が広がる。一方で、臨床への距離はまだある。熱狂と慎重さのせめぎ合いを透明なデータで越えていけるか——次の報は、臨床試験の扉が開くかどうかが焦点になる。



参考リンク・資料

  • やじうまPC Watch「理研、あらゆる新型コロナ感染を阻止できる抗体」(2025年9月12日)

  • 理研プレスリリース「あらゆる新型コロナ感染を阻止できる抗体を開発—ヒトTMPRSS2抗体の新たな感染阻害薬への進展に期待—」(2025年9月11日)

  • iScience論文 “Monoclonal antibodies against human TMPRSS2 prevent infection by any SARS‑CoV‑2 variant”(オンライン公開:2025年8月末〜9月上旬)

  • 滋賀医科大学 配布資料PDF(研究概要と図表)

  • 背景知識:TMPRSS2の役割と代替侵入経路(エンドソーム/MMP関連)の近年レビュー・研究

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