「おすすめ」を数週間見るだけで右傾化?Xアルゴリズムの“後戻りしにくい”影響

「おすすめ」を数週間見るだけで右傾化?Xアルゴリズムの“後戻りしにくい”影響

「おすすめ」は、意見を“動かす”のか

SNSのタイムラインは、ただの投稿一覧ではない。どの投稿が目に入り、どれが埋もれるかは、私たちの関心や感情、そして政治観にまで影響しうる——そんな直感は多くの人が持っている。だが、直感を超えて「現実の大規模プラットフォームで、アルゴリズムが政治態度をどれほど変えるのか」を実験で確かめた研究は、意外なほど少ない。


今回話題になった研究は、Xのフィード機能を使った実地のランダム化実験で、「For You(推薦)」と「フォロー中(時系列)」の違いが、政治的な優先課題や国際問題の見方に影響を与える可能性を示した。注目点は、短期の“露出”だけでなく、切り替え後も影響が残り得るという点だ。


何をした研究なのか:7週間・約5,000人の実験

研究チームは米国のアクティブユーザー約5,000人を対象に、フィード表示を2条件に割り当てた。

  • 推薦フィード(For You):ユーザーがフォローしていない投稿も含め、反応を取りやすい順に並ぶ

  • 時系列フィード:フォローしているアカウントの投稿を時系列で表示


実験期間は2023年の7週間。その間、参加者の政治的態度(何を重要課題と見なすか、特定政治イベントへの評価、国際紛争への見方など)と、プラットフォーム上の行動(フォロー先の変化など)を追跡した。


結果:推薦フィードは「右寄りの優先順位」を強めた

主な結果として、時系列から推薦へ移った参加者は、共和党が重視しやすい争点(犯罪、インフレ、移民など)を優先する傾向が高まった。また、特定の政治事件(米国政治を巡る捜査など)に対する評価でも、より保守的・共和党寄りと整合する方向への変化が観測された。


さらに国際問題でも、ロシア・ウクライナ戦争に関して、ウクライナ側に対する好意が弱まり、相対的に親ロシア的な指数が上がる方向の変化が見られた、という報告がある。


ここで重要なのは、研究が「ユーザーの中身が元からそうだった」と切り捨てるのではなく、フィードの仕組みを変えるだけで平均的な態度が動くことを、ランダム割当の形で示した点だ。


なぜ起きたのか:右寄り投稿が増え、ニュースが減った

研究チームは、単に態度の変化を観測するだけでなく、フィードに流れてくる中身も比較した。すると推薦フィードでは、時系列に比べて

  • 右派寄りコンテンツの比率が増える

  • 伝統的ニュース組織の投稿が相対的に下がる

  • 政治活動家や強い主張の投稿が押し上げられる
    といった傾向が示された。


つまり「右派の投稿が露出しやすい」だけでなく、ニュース媒体が担ってきた“共通の事実の土台”が薄まり、運動体の投稿が前面に出る構造が、意見変化の土壌になっている可能性がある。


いちばん怖いポイント:「切れば戻る」とは限らない

本研究が特に注目を集めた理由は、ここだ。推薦フィードは日々の露出を変えるだけではなく、ユーザーのフォロー行動そのものを変え、しかもその変化が残りやすい、という。


推薦フィードを使っている間に、参加者はより右寄りのアカウントをフォローする方向へ誘導されやすい。いったんフォロー関係が変わると、その後に時系列へ戻しても、フォロー集合が変わったままなので、ユーザーが見る世界(情報環境)も“戻りきらない”。


研究が示したのは、アルゴリズムの影響が「その日その時の並べ替え」だけにとどまらず、ユーザーの情報環境を作り替える点にある、という視点だ。


SNSの反応:歓迎と警戒、そして反発が交錯

 

この研究をめぐるSNSの反応は、大きく分けて4つの潮流が見える。


1)研究者・科学コミュニケーター層: “当たり前”を実験で示した価値
Blueskyなどでは「直感では分かっていたが、現場の大規模実験で示された意義が大きい」「態度は変わらないという主張への反証になる」といった声が目立つ。驚きよりも、政策議論に使える証拠が増えたことへの評価が強い。


2)メディア・解説者層: “ニュースが下がる”構造への問題提起
推薦がニュース組織を相対的に沈め、活動家投稿を上げる点に注目する反応が多い。政治的バイアス以前に、情報の質と検証可能性が落ちることが態度形成を歪める、という問題意識だ。


3)一般ユーザー層: 「体感としてそう」「他のSNSも同じでは」
Redditなどでは「驚かない」「Facebookも同様に見える」といった“経験則”ベースの反応が出る一方で、「政治目的で使っていない人も多い」「政治投稿を見ない層への外挿は慎重に」という声もある。つまり、研究結果への共感と同時に、自分の利用実態との距離感も語られている。


4)プラットフォーム擁護・反発: “右傾化”の読み方をめぐる反論
「保守的になる=悪い前提ではない」「研究は米国政治の文脈であり他国に直結しない」「そもそも時系列も偏る」といった反論もある。特に、推薦フィードを“検閲”と結びつける議論や、規制強化に対する警戒も混ざり、研究の解釈が政治争点化する様子が見える。


日本語圏でも、海外報道の紹介記事をきっかけに「おすすめが議論を先鋭化させるのは体感がある」「時系列回帰は万能ではない」といった論点が広がりやすい。さらに日本では、右左の軸だけでなく、国際問題や陰謀論、炎上動員の文脈で語られがちで、**“誰が得をする設計か”**という視点が強まる傾向もある。


ここから何が言えるのか:個人の設定より「設計と透明性」

この研究が投げかける問いは、個人の使い方の工夫にとどまらない。もちろん、時系列を選ぶ、フォローを見直す、政治話題の接触を意識的に調整する——といったセルフディフェンスは可能だ。だが、本質は「個人の努力で相殺できる範囲」を超え、プラットフォーム設計が社会の情報環境を作るという点にある。


特に、アルゴリズムが

  • 何を“良い反応”とみなして学習するのか

  • どのカテゴリの投稿を押し上げ/沈めるのか

  • フォロー行動の誘導がどれほど起きているのか
    といった設計の中身が見えにくい限り、私たちは結果(分断・過激化・偏り)だけを見て右往左往することになる。


研究者や一部の解説記事は、アルゴリズムの透明性や説明責任を制度的に求めるべきだ、と主張する。公共インフラ並みに社会の意思決定を左右するなら、**“ブラックボックスのまま放置しない”**という発想が必要になる、というわけだ。


注意点:万能の結論ではない

一方で、研究を読む際にはいくつかの留保もある。たとえば、対象は米国のアクティブユーザーであり、政治文化や争点構造が異なる国にそのまま当てはまるとは限らない。また効果は平均値であり、ユーザー属性や利用目的によって影響が強い人・弱い人は分かれるだろう。


それでも、現実の大規模プラットフォーム上で「フィードの違いが態度と行動を動かす」こと、そして「切り替え後も残り得る」ことを示した意義は重い。議論はここから、「どんな推薦が、どんな条件で、どんな人に効くのか」へ進むはずだ。



出典