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AIで論文が“量産”される時代へ:生産性は上がった、でも質は見抜ける?

AIで論文が“量産”される時代へ:生産性は上がった、でも質は見抜ける?

2025年12月23日 12:26

「AIで論文が増える」ことは、良いニュースなのか?

2025年12月、生成AI(大規模言語モデル:LLM)が学術界にもたらしている変化を、かなり大きなスケールで捉えた研究が話題になった。Phys.orgが伝えたところによると、LLM(例:ChatGPT)を使う科学者は、使わない科学者に比べて論文の生産量が目に見えて増えているという。しかも、その伸びは分野や地域で偏りがあり、特に「英語が母語ではない研究者」にとって強い追い風になっている。Phys.org


このニュースが刺さるのは、学術出版がもともと抱えていた“構造的な詰まり”と、生成AIが生む“新しい詰まり”が同時に見えてくるからだ。研究者にとっては「書く時間」が減るのは朗報。しかし査読者や編集者、そして研究成果を使う社会にとっては「読む/見抜く負荷」が跳ね上がる。効率化の恩恵が、別の場所でコストとして跳ね返ってくる構図が、ここにはある。


研究はどうやって“AI利用”を測ったのか

今回の分析の土台は、プレプリント(査読前に公開される論文)だ。Cornell大学とUC Berkeleyの研究者らは、arXiv・bioRxiv・SSRNという大規模プレプリントサーバーに投稿された200万本超の要旨(2018年1月〜2024年6月)を対象にした。Phys.org


ここで重要なのは「誰がLLMを使ったか」をどう推定したかだ。Phys.orgによれば、研究チームはGPT-3.5(GPT-3.5 Turbo-0125)に、2023年以前の要旨をもとに“AIっぽい要旨”を生成させ、人間文との違い(言い回しや統計的な癖)を学習し、以降の要旨にその“指紋”が現れるかを検出するアルゴリズムを作ったという。Phys.org


さらにEurekAlert!の紹介では、LLM導入前後の変化を追う差分の差分(difference-in-differences)で、採用後に生産性がどう変わったかを比較したとされる。EurekAlert!


つまり「本人が申告したAI利用」ではなく、「文章の特徴から推定」している。ここには限界もある(たとえば文体テンプレ化や校閲ツールの影響が混ざる可能性)。しかし、規模が大きいぶん、個別例では見えにくい“全体の傾向”は掴みやすい。


結果1:論文の“生産性”は本当に上がっていた

数字はかなり強い。Phys.orgは、分野別の伸びとして、社会科学・人文で59.8%、生物・生命科学で52.9%、物理・数学で36.2%の増加を紹介している。Phys.org


Cornell Chronicleの説明もこれに沿い、arXivで約3分の1増(≒36%)、bioRxivとSSRNでは50%以上増えたと述べる。コーネルクロニクル


ここで勘違いしやすいのは、「AIが研究アイデアを生むから増えた」というより、「書く・整える・投稿準備にかかる摩擦が減った」効果が大きそうだ、という点だ。実験や解析に同じ時間を使っていても、文章化が速くなるだけで“出せる本数”は増える。特に要旨や導入部、関連研究の整理、表現の磨き込みは、LLMが得意な領域である。


結果2:非英語圏への“格差是正”が見えてきた

今回の研究で最も象徴的なのは地域差だ。Phys.orgは「アジアの研究者で最大89%増」と伝え、英語が必須のトップジャーナル文化が、非英語圏に不利だった歴史にも触れている。Phys.org


Cornell Chronicleはさらに踏み込み、アジアの機関に所属する研究者の投稿増が43.0%〜89.3%に達した一方、英語圏機関や“Caucasian”名前の著者では23.7%〜46.2%と控えめだった、としている。コーネルクロニクル


EurekAlert!も、生産性の押し上げ幅が23.7%〜89.3%で、言語障壁が高い人ほど恩恵が大きいとまとめる。EurekAlert!


これは、学術界に長く存在してきた「英語流暢性のプレミアム」が薄まる可能性を示す。研究の中身に比べて“英語で整える力”が過剰に評価されてきたとすれば、その歪みが是正される面は確かにある。


一方で、これは“競争のルール変更”でもある。いままで英語力で勝っていた人は優位が減り、別のシグナル(所属・指導教員・ブランド)に評価が寄る恐れがある。Phys.orgは、文章による見極めが崩れると「著者の経歴や所属といったステータス指標に頼りかねない」と警鐘を鳴らしている。Phys.org


結果3:文章は“高度”になるのに、質の目安が逆転する

ここがこの研究の最も怖いポイントだ。従来、読みやすく、なおかつ専門的に筋の通った文章を書けることは、研究の質と相関しやすかった。査読者も編集者も、忙しい中での“早見”として文章の完成度を頼りにしてきた部分がある。


ところがCornell Chronicleによれば、人間が書いた論文では「文章の複雑さが高いほど採択されやすい」傾向があったのに、LLMが関与した可能性が高い論文では、その関係が逆転し、「複雑な文章ほど採択されにくい」傾向が出たという。コーネルクロニクル


TechXplore(The Conversationの再掲)も同様に、AI支援下では“複雑な言語”が弱い中身を覆う形で使われうる、と要点を整理している。テックエクスプローラー


これを平たく言うと、「文章が上手い=良い研究」というショートカットが壊れた。いや、もっと正確に言えば「文章が上手いことが、以前より安く手に入るようになった」。だから、文章だけを見て“当たり”を引く確率が下がる。


結果4:引用や探索の“多様化”という意外なプラス

暗い話ばかりではない。Cornell Chronicleは、AI活用が関連研究の探索にも影響し、AI検索(例:Bing Chat)が新しい文献や書籍にアクセスしやすく、従来の検索が拾いがちな「古くて被引用が多い定番」への偏りを相対的に弱める可能性を紹介している。コーネルクロニクル


EurekAlert!も、LLM採用者はより多様な文献(書籍、より新しい研究、被引用が少ない文献)を読む・引用する傾向がある、とまとめる。EurekAlert!


これは、研究の“発想の幅”が広がる可能性がある一方で、別の懸念も生む。引用が増え、多様化するほど、参照の正確性チェックの負担も上がる。生成AIのハルシネーション(もっともらしい誤り)が混ざれば、誤った引用連鎖の温床にもなる。


「論文洪水」と査読の未来:何が詰まるのか

ここまでを一つの図にするとこうなる。

  • 研究者:書く工程が短縮 → 投稿本数が増える

  • ジャーナル/査読者:読む本数が増える+文章の完成度で“ふるい”にくくなる

  • 研究評価(採用・昇進・助成):本数指標がさらに歪む(量が増えすぎる)

  • 社会:信頼できる知見を拾うコストが増える


Phys.orgは、対策として「より深いチェック」や「AIベースの査読支援エージェント」を提案している。Phys.org


TechXplore(The Conversation)は、論文投稿数の増加と編集負荷を踏まえ、“火には火を”でAIレビュー支援を使うしかない場面も出る、と示唆する。テックエクスプローラー


ただし、AIでAIを裁く構図は新しいリスクも孕む。検出器の偏り、誤判定、ツール競争(検出回避の文章最適化)など、“いたちごっこ”が起きる可能性がある。重要なのは「AIっぽさを取り締まる」よりも、「研究としての頑健さを検証する」方向へ評価軸を移すことだ。


SNSの反応(傾向):賛否が割れるポイントはここ

※以下は、個々の投稿を網羅的に集計したものではなく、記事化・再掲・議論で繰り返し現れる論点(=SNSで広がりやすい“反応の型”)を整理したもの。


1) 「非英語圏に希望」派:研究の民主化に期待

アジアの研究者で43.0〜89.3%増という数字は強烈で、英語の壁が研究競争を歪めてきた、という体感と結びつきやすい。コーネルクロニクル


「英語が苦手でも中身で勝負できる」「校閲コストが下がるのは正義」という文脈で、肯定的に受け取られやすい。


2) 「AIスロップ警戒」派:上手い文章が“ノイズ”を増やす

一方、TechXploreが“AI slop(低品質生成物の氾濫)”という強い言葉で論じたように、査読や編集がすでに限界なのに、磨かれた文章の投稿が雪崩れ込むのは危険だ、という反応も起きやすい。テックエクスプローラー


Cornell Chronicleも、編集者が「よく書けているが科学的価値が薄い原稿の流入」を嘆いていた、という“現場感”を伝えている。コーネルクロニクル


3) 「評価制度が壊れる」派:量のインセンティブが加速する恐れ

論文数が増えるほど、「数で評価する制度」がさらに危うくなる。Phys.orgが指摘するように、文章の巧さがシグナルにならなくなると、所属や著者のブランドに回帰する皮肉も起こりうる。Phys.org


SNSでは、ここから「助成・採用の評価指標を変えるべき」「再現性やデータ公開の比重を上げるべき」と制度論に飛びやすい。


4) 「AIを使うなら透明性」派:どこまで使ったかを明示せよ

最後に、賛成派も反対派も合流しやすい落とし所が「利用範囲の開示」だ。実験・解析・文章・引用探索など、どの工程でAIを使ったかが見えれば、読み手はリスクを織り込める。逆に曖昧なままだと、不信が増幅する。


では、私たちは何を“アップデート”すべきか

この研究が投げかける本質は、「AIを使うか使わないか」ではなく、“何をもって良い研究と見なすか”の設計だ。

  • 研究者:AIで文章を整えるほど、方法・データ・コード・限界の記述を厚くしないと、逆に疑われる時代になる

  • 査読者/編集者:文章の巧さより、手法の妥当性・再現可能性・データの透明性へチェック配分を移す

  • 大学/助成機関:本数偏重を弱め、アウトカム(再現、共有、社会実装、否定結果の価値)を評価に入れる

  • 読者(社会):派手な文章より、一次情報(データ・手法)へのリンクや検証可能性を見る


AIは「書く」を民主化した。これから必要なのは、「見抜く」を民主化する仕組み——つまり、誰でも検証に参加できる形(オープンデータ、レビューの透明化、検証研究の評価)だろう。



参考記事

AIツールを使用する科学者たちは、これまで以上に多くの論文を発表しています。
出典: https://phys.org/news/2025-12-scientists-ai-tools-publishing-papers.html

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